第27話 初恋幼馴染は占いたい
「やっと着いたな。ヒメ、大丈夫か?」
「あ、うん。平気……」
涼太は姫奈の手を離さないようにしっかりと握り、一歩前に出た自分が盾の役割を担って人混みを掻き分けて、本殿に置かれた賽銭箱の前に辿り着いた。
ここまで来られればもう心配はないので、涼太の手は自然と姫奈の手から離れた。
姫奈はどこか名残惜しそうに視線を落として、まだ涼太の体温が残ったままの自分の手を見詰めた。
「こういうとき、何円入れれば良いのか地味に悩むんだよなぁ」
姫奈の様子に気付く素振りもなく、涼太は財布を取り出していた。
それを見た姫奈は、自分だけが変に意識してしまっていたのかと恥ずかしくなると同時に、これも涼太のせいだと不満げに唇を尖らせながら財布を取り出す。
「有り金全部入れてどうぞ」
心なしか拗ねたような口調になっていた姫奈だが、涼太は気付かないまま苦笑を湛える。
「冗談キツイって」
「神社は大助かりだね」
「な、生々しい内部事情は考えたくないな……」
そんなことを話しながら、涼太は財布から五十円玉を取り出した。
「五重に縁がありますように」
「なら、五百円にしたら? もっと御利益あるかも」
「いやぁ、なんかさ。五百円ってちょっと奮発しすぎな感じしないか? かと言って五円だとケチってる感じあるし……だから、間取って五十円」
涼太がそう独自の理論を展開すると、姫奈が横から冷めた視線を向けてきた。
「もうその考え方がケチってことに気付いてる?」
「う、うっせ。そう言うヒメはどうなんだよ?」
「えぇ、私? そうだなぁ……」
姫奈は財布を覗き込んでから、小銭を一枚二枚三枚……とどんどん取り出していった。
「え、そんなに入れるのか!?」
「と見せ掛けて~」
「……っておい、ヒメ。お前この機会に溜まった小銭使って、財布軽くする気だろ……?」
涼太が半目御向けると、姫奈は「正解」と答えて笑う。
右手に握られているのは、一円玉や五円玉、十円玉といった、まぁ確かに財布に溜めがちな面々だった。
「そんな邪な気持ちでお賽銭して良いのかよ……」
「合計金額はリョウ君より多いし、オッケー、オッケー」
そういう問題か? と涼太が納得出来ずにいる間に、姫奈が早々に賽銭箱へチャリンチャリン……と小銭を緩やかに放り投げた。
涼太もそれに続いて五十円玉を入れる。
「えぇ~と、どうするんだっけリョウ君?」
「特に何も書かれてなければ、二礼二拍手一礼だな」
神社によっては作法が異なったりする場合があるが、特にこの神社にはそういったものはなさそうだった。
涼太と姫奈は一緒に本坪鈴をシャランシャランと鳴らし、姿勢を正してからまず二回お辞儀。続けて二回手を叩き合わせてから、最後に一礼した。
「リョウ君こういとき何かお願い事する人?」
「ん~、特にしないな」
「あはは、やっぱり? 私も」
姫奈は小さく笑ってから「でも――」と続けた。
「流石に五千円とか五万円とか入れたら、神様も一つくらいお願い事叶えてくれたりしないかなぁ?」
「そりゃどうだろうな。五百円以上入れても、あんまり意味ないんじゃないか?」
涼太の言葉の意味がわからず、姫奈が「何で?」と不思議そうに首を傾げた。
涼太はそんな姫奈に得意気な笑みを見せる。
「だって、それ以上の硬貨(効果)はないだろ?」
「……あぁ! ホントだぁ~」
「そんな驚かれると、何かこっちが恥ずいわ」
このつまらないギャグを他の人に聞かれていないだろうかと居たたまれない涼太と、可笑しそうに目を細める姫奈は、賽銭箱の前をあとにした――――
◇◆◇
「あっ、リョウ君。おみくじおみくじ」
「えぇ、今年もやるのかぁ?」
お賽銭をしたあとは、親が来るまで人混みから離れたところで静かに待つつもりでいた涼太だったが、姫奈がおみくじが引ける場所へと小走りに駆けていってしまった。
「俺、何故か毎年末吉なんだよなぁ……」
おみくじ運に恵まれない涼太はあまり気乗りしないながらも、姫奈が引く気満々なので付き合うことにする。
ミニお賽銭箱とでも言うべきデザインの箱に百円を入れてから、筒を持ち上げて中身をかき混ぜるように振り、ひっくり返す。
すると、二十三番という番号が書かれた棒が出てきたので、それを筒に戻してから、同じ番号の棚の引き出しを開ける。
そこには裏返しにされたおみくじの紙が重ねて入れられており、その一番上のものをサッと取り出す。
「さてさて、どうせ今年も末吉……って、お?」
涼太の視界に映ったのは“中吉”だった。
なんと、上から大吉、吉と続いて三番目に良い結果。
「二階級特進かぁ~、ってちょっとそれは素直に喜べないな。まだ死にたくないぞ俺……」
まだ成し遂げてないことがある……、と思いながら、涼太は隣で引いたおみくじを見詰めている姫奈の方を見た。
何やら少し、顔が赤らんでいるようにも見える。
「ヒメ、どうだった?」
「えっ……あぁ、大吉だったよ」
「マジか、見せて見せて」
涼太自身、おみくじで運勢が決まるなんて思ってはいない。
それでも、やはり大吉と聞けば見てみたい衝動に駆られる。
涼太が興味深そうに顔を近付けると――――
「す、ストップストップ。ちょっと見せられないかな」
「え、何でだよ?」
姫奈がおみくじを胸に抱えるようにして隠した。
先程より、表情に差す赤みが少し増している様子。
「えっと……ほら、願い事って口にしたら叶わないみたいに言うじゃないですか。だから、おみくじも人に見せたら運命変わっちゃいそう……みたいな?」
あはは、と姫奈は曖昧に笑って誤魔化す。
「えぇ、そんなことあるかぁ?」
「あるかもしれない。コレ重要」
「ヒメ、占いとか運勢とか信じるタイプだっけ?」
「ん~、都合の良い結果だけ信じるタイプですね」
「なんて奴だ……」
とはいえ、涼太も姫奈が隠そうとしているものを無理に見ようとは思わない。
正直気になるところではあったが、今日のところは諦めておく。
その様子に、姫奈はホッとした。
涼太が何気なく自分の中吉のおみくじを読んでいる間に、姫奈も再度確認する。
結果は大吉。
しかし、やはりそれ以上に目を引いたのが――――
○待ち人:来たる。
○恋愛 :良い人倖せあり。慢心は禁物。
○縁談 :我が心次第。
読めば読むほど、姫奈はじわりと顔に熱が溜まっていくのを感じた。
胸の奥が忙しない。
(別に、リョウ君のことって決まったワケじゃないけど……)
姫奈がチラリと涼太を盗み見る。
本人はよくわからなさそうに自分のおみくじを読んでいた。
(それでも……やっぱりリョウ君にだけは、見せられないよ)
ひゅう、と吹く冬の風は冷たいが、気付かぬ間に火照っていた姫奈の身体には、丁度心地が良かった――――




