第111話 語られる未来
「碌なもてなしも出来無くて申し訳ありません中佐」
「いや十分……ですよ」
老婆は呆然とするユーリを基地内の会議室に通すと、自らお茶を入れ対面の椅子に座る。
何人かが同席を願い出たが、彼女は断り広い会議室に二人切りであった。
そしてユーリは出された苦みの強いお茶を啜りながらも、目の前の女性が未だイレーナである事を受け入れられないでいた。
歳は未来という話を信じれば納得できる部分もあるが、初めて出会った時の意思の強そうな顔は穏やかで全てを受け入れているようなモノへと変わっていたからだ。
「気を抜いてもらって構いませんよ。……とは言ってもそう簡単に我々を信じては貰えないでしょうが」
「それは……まあ」
ユーリからすれば未来だの何だのと言われても頭が追い付かないというのが本音である。
この場にエリカが居ればまた違うかも知れないと考えるが、無い物ねだりだと言う事も十分理解していた。
だがイレーナは疑われてると分かっても、優し気な表情を崩す事なく会話を続ける。
「当然でしょう。ですが中佐を元の時代に戻すまで時間が掛かります。それまでにはこちらの事情も理解してもらえると」
「まず戻れるのか?」
「ええ戻れます。その為に急ピッチで準備を整えてる所です」
ハッキリと断言するイレーナにどこか違和感を感じるユーリ。
だが気にしても仕方ないと別の疑問を口にしようとしたタイミングで、急に彼女が頭を下げてきた。
「……頭を下げられるような事をした覚えは」
「いえ。本当は出会った時にこうすべきだったのです。何せ中佐をこの時代に連れて来たのは、他でもない我々なのですから」
沈黙が会議室を支配する。
何も言わないイレーナに対し、ユーリは何と言っていいか分からないといった様相であるが。
だが何時までも黙っている訳にはいかないため、ユーリが珍しく慎重に言葉を選びながら口を開く。
「あー。俺はそんなに理解がいい方じゃないから、頭を上げて最初から聞かせてくれないか?」
「……ええ。その方が良いかも知れませんね」
イレーナは頭をようやく上げると、少しばかり表情を引き締め説明を開始した。
「事の始まりは六十年ほど前。中佐も戦った奴らが現れました」
「ああ」
あの兵器と生物が混じったような姿をしたビーストの姿を思い出し、表情が暗くなるユーリ。
実体兵器を持って無かったとは言え、結局一匹たりとも倒しては無いのだから。
「知っての通り質量兵器しか通りませんでした。そして雑食である奴らは人だろうと建物だろうと関係なく、根こそぎ食い荒らしました」
「その結果がこの未来、という訳か」
「ええ」
草木一本も生えないような荒野が続く世界。
地獄と変わらないような風景な未来だと、ユーリは心の内で思っていた。
「結果エデンを含めた国家は瞬く間に壊滅。生き残った我々は反撃の機会を伺っていい今まで生きてきました」
「成程」
「そして我々は奴らが目に見えないエネルギーを霧散させる膜を張っている事を突き止めました。……それまでにかなりの犠牲を出してしまいましたが」
「……」
表情を一転暗くするイレーナに対し、ユーリは何も言わないし言えなかった。
どれだけの犠牲がありどれだけの苦悩があったかなど、口出しする権利などないと理解していたからだ。
「……そこから更に数年。その膜は一定の周波数を当てると無効化する事が分かりました」
「なら万々歳じゃないか? わざわざ過去から俺を呼び出す必要なんて」
「いえ、あるのです。何故ならこの答えを出すのに、我々は犠牲を出し過ぎたのです。いまテルモ基地にいるMTパイロットは五十人ほど。非戦闘員を入れても二千人がやっとなのです」
「……二千人」
それがテルモ基地の、いや人類の総数だと知り愕然と呟くユーリ。
イレーナは頷きを返すと、改めて頭を下げる。
「だからこそ我々は最強のMT乗りを求めました。そして私の知る限り、それに当てはまるのは中佐であると判断したのです」
「……事情は分かった。だが俺にどうしろと?」
「それは直接見てもらった方が早いでしょう。……格納庫にいきましょう」
杖を持ち椅子から立ち上がり、イレーナはさっさと会議室を出て行こうとする。
その後ろ姿を追いかけながら、ユーリは慌てた様子で声をかけた。
「見てもらうって。何をだ?」
「叡智の結晶。過去に対抗する術を伝えるためのオンリーワン。それを我々はこう呼んでいます」
イレーナは振り向き、その名を伝える。
その目にはハッキリとした意思が宿っていたと、ユーリは後に語っていた。
「『プロメテウス』と」
GW真っ最中ですが、無事に更新する事が出来て何よりです。
さて次回はついに章題になっているプロメテウスとは何かが判明する……予定。
基本その場のテンションで書いてるので予定とずれる可能性がありますが、ともかくお楽しみに!




