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番外編 なの(130㎝)と妹(165㎝)

 とある長閑な平日。夕食を終えた夜七時半、ごく普通の家庭でごく普通の団欒が繰り広げられていた。

 強いて特異な点を挙げるとするならば。


「あはは! ドッキリ大成功だって! 凄いびっくりしてるー! ところでドッキリってなーに?」


 マシュマロをオレンジジュースで流し込む、おバカな言動の少女くらいだ。

 彼女の名前は小和水なの。

 そしてここは――ごく普通の家庭、小和水家である。


「なのちゃんは本当に変わらないわねー。赤ちゃんみたい」

「赤ちゃんみたいにもちもちほっぺってこと? えっへん!」

「変わらないわー」


 おっとりとした、垂れ目がチャーミングな母親に溜息を吐かれても、なのはあっけらかんとしている。他者からもたらされる言葉の大半を、自動でポジティブに変換する性質を持っているためだ。

 なのにクリティカルヒットするとすれば、オブラートに一切包まない抜き身の言葉だけ。


 だが家庭内でそんな凶悪な刃が飛んでくるわけが、

「ねーねー、食べる? マシュマロ美味しいよ?」

「いらない。つーか……夜ご飯の後にお菓子食べたら太るよ? ただでさえチビなのに、デブ属性まで追加? チビデブバカの三重苦じゃん……キモッ」

「がーん」

 あった。グサグサグサリと心を刻まれ、なのは一撃ノックアウト。


「キッモ」

 追い打ちをかけて去っていくのは、なのとは比べ物にならない程長身の少女だ。その背中を見上げて、なのは手を伸ばす。


「ま、待って……お姉ちゃんと、話を……ぴこちゃん……」

「アンタと話したら脳が腐る。近寄らないで……姉貴」

「ががーん」


 一瞥すらせずなのにとどめを刺したのは、実の妹である小和水ぴこ。

 サイドテールが良く似合う、厳しい優等生、といった外見の少女である。

 顔立ちはなのに似て童顔なのだが、体型は似ても似つかない。


 百六十五センチという女性としては長身の部類に入る背丈に、程よく実ったバスト。くびれもあり、モデルのスカウトをされた経験も何度かある。

 そんな彼女だが、街で声を掛けられる度こう返す。


『無理です。私……小学五年生なので』


 そう、長身の美少女小和水ぴこは、小学生。見た目小学生実年齢高校生の姉と見事に対になる、将来有望小学生なのだ。


「ぴこちゃん……前はお姉ちゃんお姉ちゃんって可愛かったのに、どうして」

「知らない。自分の胸に手を当てて考えなよ」

「うぅ……」


 見た所、姉妹仲は良好とはいえない。というよりも、ぴこが一方的になのを毛嫌いしている構図だ。

 

「胸に手を当てて……ぴとっ。胸に手を当てて、考える……んー、胸が小っちゃい……」

「……」

「ああ、ぴこちゃん!」


 無理もないか。年上とは思えない幼い言動に、ほとほと愛想が尽きたのだろう。


 リビングを出る際、

「ねえお母さん。もう姉貴と洗濯物一緒にしないで。トイレの水で洗濯するより無理」

 そんな捨て台詞を残した。もうなのの残りHPは、ゼロどころかマイナスに振り切っている。

「う、う……ぴこ、ちゃ……ばたっ」

 とうとう力尽きて、なのは床に倒れ伏した。


「……バカじゃないの」

 すっかり慣れているぴこは、なのの心配をせず、自分の部屋に戻っていった。それはそれは、逃げるような早足で。


 +++++


「……」

 

 バタン、と自室の扉を閉めれば、それでぴこだけの空間が出来上がる。

 昨年まではなのと相部屋だったが、それでは限界だということで、今年から各自に自室が与えられている。


 そう、何もかも限界なのだ。堪忍袋? 違う。そんなチャチな物では断じてない。ぴこは靴下だけ脱いで、自分のベッドに倒れ込むと。

 枕を抱きしめて、

「うー、うぅぅぅ」

 うーうー唸り始めた。サイレンの物真似ではない。悶々とした心情が口から漏れているのだ。


 そう、限界を迎えたのは堪忍袋ではなくて。

「お姉ちゃんが可愛すぎるよぉぉぉ……!!」

 膨れ上がり過ぎた、姉への愛情だった。


「何あの生物……! ドッキリ知らないって何? 夜ご飯の後にマシュマロとか、悪魔的なのにお姉ちゃんがしたら天使的(?)だよぉ……。うぅぅ、それで仮に太っちゃっても、絶対お姉ちゃん可愛いじゃん……どう転んでも天使じゃん。七転び八起き形無しじゃん。もー、もー!」


 ベッドの上でゴロゴロ転がり、包み隠していた姉への想いを吐露しまくるぴこ。ぴこは、なのの事が好きすぎて性格も日常生活も崩壊してしまうため、鋼の自尊心で姉にツンケンした態度を取る系女子だったのだ!


「お姉ちゃん、好き……」


 といっても、恋愛的な好きではない。限りなくグレーではあるが、家族愛の範疇である。家族愛と言っても、結婚可能な四親等以降の愛に近いが。

 ざっくり言うと、結婚できるならしたい程度の家族愛。


「ぅぅぅ、いつ結婚してくれるのっ? 私はオールウェイズ婚姻届ウェルカムなのに! 同性婚の壁くらい、ぶっ壊すのに!」


 同性云々以前に、小学生は結婚できない。姉の事になると知性が無に帰すのは、ぴこの悪い癖だ。

 そう、なのに向かって吐いた『アンタと話したら脳が腐る』という暴言は、

『好きすぎて何も考えられない間抜けになっちゃう、だから喋れないよぉ……』という意味だったのだ!


 そんなぴこは外でも、家族の前ですら大人びた言動をしている反動か、一人になると途端に幼い振る舞いをし出す、困った少女である。


「お姉ちゃん好き好き、結婚しようね~……ん~……」


 エスカレートした挙句、姉と丁度同じサイズに特注した枕へキスしようとするぴこ。傍から見れば滑稽だが、今ここには誰もいない。

 思う存分キスしても、誰も文句は言わない。密室トリックは成立している!

 さあ、キスを!


「お姉ちゃ――」


 唇が触れる刹那。


 バァァァアン! と勢いよく、部屋の扉が開かれた!

「ひゃわうぇぇぇ!!?」

 ぴこは突然の出来事に、ベッドからひっくり返ってしまう。頭に枕を載せた状態で、入り口に目を向けると。


「おね……姉貴!?」

 愛しい愛しい、姉が立っていた。


「やっほー、ぴこちゃん。あのねあのね、たまにはどーかなーって」

「な、何がでござるますかっ」


 頓珍漢な口調だが、幸いなのには気づかれていない。

 普段通り人好きのする笑顔で、なのは。

「たまには、お姉ちゃんと……一緒にお風呂、入らない?」

「――――!??!」

「最近ぴこちゃん、なのとお話してくれないから……お風呂で二人だけなら、楽しくおしゃべりできるかなって。だから、どう?」

「どうって、そ、そんなの、そんなの」


 ぴこの口元が笑みの形に吊り上がったりと、苦々し気に歪んだりと百面相の如く変化していく。理性と本能のせめぎ合いで、身体が異常反応を起こしているのだ。

 結果、シーソーゲームを制したのは。


「そ、そんなの入るわけないでしょ!? バカヘンタイ! つーかノックくらいしてよバカお姉ちゃん!!」

「がががーん!」

 理性だった。昔のように面と向かって『お姉ちゃん』と呼んでしまったが、些細な問題だ。

 

「じゃあね! おやすみ!」

「ぴこちゃ、ぅぅ、おやすみぃ……」

 ぴこは長風呂の後のようにのぼせた顔で、なのを部屋の外に押しやった。


 再び自分だけの空間に戻ったことを確認して、

「ふぅぅぅ~~~~」

 肺全ての空気を吐き出した。


 それから、なのと同じサイズの枕を潰す勢いで抱きしめて、喉を嗄らして叫んだ。

「お風呂……勿体ないことしたよぉぉぉ!!」

 あの時理性が負けていれば、今頃姉とキャッキャウフフな入浴タイムだったのに。禁断の恋心故に、スキンシップ一つままならない。

 実妹とは、なんてそんな役回りなのか。

 

「本当はお姉ちゃんと、二人でお出かけしたりしたいのにぃぃ~~」


 どこまでも不器用で不憫な小学五年生、小和水ぴこであった。


 そして、幼馴染やクラスメイトだけでは飽き足らず、実妹まで誑かすなのは、どこまでも……罪な女である。

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