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40.自分の戦闘慣れに驚いている

 キング、それは身長3mはあるかというような機械の巨人で、片手剣と大型盾のようなパーツがついていた。そいつはその片手剣をものすごい勢いで振り回しながら、私たちに襲い掛かってくる。


 私たちはてんでに逃げながら、キングの動きを把握しようとした。やたらとすばしっこくてろくに隙が無い。どうするんだ、こんなもの。


「アイラ、あいつの弱点は!?」


 逃げながらカイが尋ねてくる。私はさっき鑑定した結果を答えた。


「胸部の中心、心臓にあたる場所です!」


 キングの胸部は割と細っこいので、刃渡りがそこまで大きくないカイのナイフでも十分に急所を狙えるだろう。問題は、どうやって当てるか、だ。


 前方は片手剣と盾できっちり守られている。となると後ろから狙うしかないんだろうけど、動きが速すぎて背後に回るのすら難しそうだ。だったら、ここは。


「挟み撃ちにするぞ」


「はい」


 お互い同じことを考えていたようで、私たちはキングの攻撃を避けながら少しずつ立ち位置を変え、なんとか挟み撃ちの陣形に持ち込むことができた。


 しかしそこからはさらに大変だった。前後に敵がいるなら両方攻撃すればいいよね、とやつが考えたかどうかは知らないけど、ぐるぐる回りながら私とカイを交互に攻撃し始めたのだ。ほんとにどうしろというんだ、こんなもの。


 私は覚悟を決め、『オフェンシブ・デコイ』を発動させた。とたんにキングが回るのをやめ、こちらに向かって猛突進し始めた。


 攻撃の勢いが激しすぎて、かわすだけで手いっぱいだ。というか、これを長時間よけ続けるのは無理だ。そこまで集中力が持たない。


 カイもそれを感じ取っていたらしく、急いでキングの胸部を狙おうと苦戦していた。キングの攻撃は私に集中しているけれど、片手剣を振り回すたびに姿勢が大きく変わるので、狙いがつけにくいのだろう。




 しばらくそうして逃げ回っているうちに、足がもつれて転びそうになった。ぎりぎりのところで後ろに転がってかわし、オフェンシブ・デコイのスキルをいったん止めた。キングはまたぐるぐる回り始める。


「大丈夫か、アイラ!」


「はい、今のところは。でも、長時間おとりをやるのは無理みたいです」


「分かった、できる範囲であいつの気を引いてくれ。俺が何とかしてみせる」




「仲がいいのね、妬けてしまうわ。……ねえカイさん、あなたが私とここに残ってくれるのなら、アイラは無事に返してあげるけど、どうするの?」


 少し離れて私たちの戦いを眺めていたシロカさんが、けだるげにそう言った。カイの動きが一瞬止まる。けれど、彼はすぐに鋭く言い返した。


「断る。俺がその提案に乗れば、アイラはずっと悔やむことになる」


「でも、あなたたちはその子に苦戦しているでしょう? 勝ち目なんてないのに」


「いいや、俺たちが力を合わせれば、こいつだって倒せる。俺とアイラなら」


 カイにそれだけの信頼を寄せられていることが、とても嬉しかった。今まで必死に戦ってきたことを認めてもらえたと思えた。


 だったらその信頼に応えたい。なんとしても私たちでこいつを倒すんだ。






 改めてキングを観察する。動きは大体把握した。一撃で弱点を突くのは無理そうだ。だったら、他に攻撃できそうな場所はないか。腕を使えなくするとか、足を狙って動きを止めるとか。


 腕も足も頑丈な分厚い鋼板に覆われているし、細い胴体とは不釣り合いなほどがっしりとして太い。関節部以外はとても攻撃が通りそうにない。


 それ以上にあの大型盾が邪魔だ。どう見ても私の身長より大きいし、ひ弱な胴体をあれできっちり守っている。盾は一枚板ではなくあちこちに継ぎ目があるから、そこをしつこく狙い続ければ壊せるかもしれないけど、それもかなり時間がかかりそうだ。




 なおも執拗に攻撃してくるキングをあしらいながら、胴体を観察した。胸部の中央、前側にパーツの継ぎ目がある。あそこを狙えれば。


 ためしにハンドガンを構えて、キングの正面から胸部を狙ってみた。駄目だ、動きが速すぎて私の腕では上手く狙えないし、この立ち位置だと流れ弾がカイに当たってしまうかもしれない。うう、狙撃の名手であるレイトがいれば何とかなったかもしれないのになあ。


 けれど、ここにいるのは私たち二人だけだ。カイは正面切って戦うのは得意だけど、その分正面の守りが固い相手には苦戦を強いられる。この事態を打開するには、たぶん私の方が向いている。




 その時、ふとある考えが頭をよぎった。考えるより先に体が動く。ハンドガンを腰のホルダーにしまい、刺突ナイフに持ち替える。


 一歩進み出て、オフェンシブ・デコイをまた発動した。キングが回転をやめ、こちらに向かってくる。


 十分に引き付けたところで、刺突ナイフをお腹の前に構え、しっかりと両手で握った。そのままキングに突進すると、予想通りあちらは大型盾をこちらに突き出して防御の体勢に入っている。


 私はさらに加速し、大型盾のど真ん中めがけて突進し続けた。


 攻撃が当たった、そう感じた瞬間にオフェンシブ・デコイを解除し、目の前の大型盾にしがみつく。チャンスは一瞬しかなかったけれど、どうにか盾の継ぎ目のくぼみをつかみ、ぶら下がることに成功した。


 もとより私はかなり非力だし、さっきの一撃でまともにダメージが通るとは思っていない。単に、こちらに大型盾を向けるように攻撃の真似事をしただけだ。


 そうして大型盾に張り付くようにして身を潜めた私は、そのままスキルを発動した。「ハイディング」。物陰に隠れて発動することで、一時的に気配を消せるスキルだ。


 思惑通りキングは私を見失ったらしく、一瞬動きをぴたりと止めた。そして私が張り付いたままの大型盾をゆっくりと掲げながら、カイの方に向き直ろうとした。


 キングが回転する時の遠心力で吹っ飛ばされそうになりながらも、必死でキングの隙をうかがう。やつの意識が完全にカイに向いた、その時。


 私は大型盾の陰から飛び出し、キングの懐に入り込むと胸部の継ぎ目めがけて、全力で刺突ナイフを突き立てた。






 確かな手ごたえを感じた。けれど次の瞬間、私は失敗したことを悟った。


 私が突き出した刺突ナイフが刺さっていたのは、弱点である胸部の中心ではなく、そこから少し上、首の継ぎ目だった。ああ、何でこんな重要なとこでピンポイントにしくじるかな、私!


 私はキングの肩にしがみつきながら、何とか刺突ナイフを抜こうとした。けれど私の全体重を乗せて刺さったそれは、ちょっとやそっとでは抜けそうになかった。


 そうやってあがいていると、刺突ナイフが刺さったままの首をゆっくりと動かして、キングがこっちを見た。まずい、さすがに気づかれた。大型盾の陰から飛び出した時点でハイディングは無効になっている。


 いったん離れるべきだろうか。また同じ要領で組み付いて、今度はハンドガンで密着して撃つしかないか。


 私がこれ以上の攻撃をあきらめてキングから離れようとした時、キングがいきなり崩れ落ちた。その肩に乗っていた私は、バランスを崩して地面に落ちる。


 見上げたキングの向こう側に、その弱点にナイフを突き立てているカイの姿が逆光で黒く浮かび上がっていた。






 私が彼の姿に見惚れていたのもほんの一瞬のことで、カイは動かなくなったキングの残骸からナイフを引っこ抜くと、私のすぐ横に降り立った。ひざまずいて手を差し伸べてくる。


「……あいつの気を引いてくれて、助かった。立てるか?」


 地面に落ちた時にあちこち打って痛むけど、動かせないところはないし、どうやらどこも折れてはいないようだった。けれど彼の手を取って立とうとしたら、足首に鋭い痛みが走った。あちゃあ、ひねっちゃったか。


 彼もそれに気づいたようで、左腕で私の肩を抱いて支えてくれている。こういう時は肩を貸すのが定番なんだろうけど、私たちの身長差は割とあるので、必然的にこうなってしまった。


 思いっきり抱き寄せられた形になってしまったけれど、片足で立っていると不安定なので、仕方なく私は右腕をカイの腰に回した。そう、仕方なく。


 そんな私たちを見ていたシロカさんは、不機嫌さを隠そうともしていない。


「……あなたの言う通りになってしまったわね。でも、これからどうするの? 私にはあなたたちを元の世界に戻す気なんて、これっぽっちもないのよ」


 そう、彼女の言う通りだ。彼女は説得に応じる気はないらしい。だったらどうするか、答えは簡単だ。


「私たちはここで、マザーを倒す。そうすればマザーの力で作られたこの世界は消滅するはずだから」


 カイに支えられながら、私はそう宣言した。



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