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23.他人の恋バナは蜜の味

 クイーン・デルタと戦ってから数日後。私たち異世界組が一か所にとどまり続けるのは危険かもしれないので、一度T21に戻ろうということになった。全員で。




 私としてはT21所属の私とカイ、レイトの三人で戻るつもりだった。別の拠点にいても通信機を使えば話せるし、その気になればT8にも数日で行ける距離だ。


 ところが案の定シロカさんが私たちについていくと言い出し、そうするとマサキとレンもついてくると言い出した。マサキは「シロカと離れたくないからさ」とか言ってるし、レンは「君たちの存在は技術班としては大変興味深いんだよ」と言っていた。そしてヨウは自分の意見を言うことすら許されずに彼らの道連れにされていた。


 そしてシロカさんが来るとなったらもちろんサクヤもついてくる。やつの所属元であるT19はT21に一日で行けるところにあるんだから、大人しくT19に戻れと説得したのだがやつは聞く耳持たなかった。そうなるとヒマリも当然のように来るし、ミヅキも「サクヤから目を離すと危ないから」と言ってT21行きを決めてきた。


 妙にごきげんなミヅキとマサキが私を訪ねてきたのは、明日にでもT8を発とうかといったそんなある日のことだった。




「よ、アイラちゃん。ちょーっと今時間ある?」


「私たち、ちょっとあなたと話したいことがあるのよ」


 不思議な取り合わせだ。イケメンだけどチャラいマサキと、クールモデル系のミヅキとではあまり接点がなさそうに見えるんだけどなあ。しかも二人して私に話ってなんだろう。


 私が首を縦に振ると、二人はにっこりと笑って私の両腕を捕まえ、あっという間に空き部屋に連行していった。なんだ、この妙に息の合った動きは。


 そうして二人は私を椅子に座らせると、自分たちも椅子を引き寄せ、私のすぐ前に座った。やけに距離が近い。そして気のせいか二人とも前のめりだ。


「アイラ、単刀直入に聞くわ。サクヤが言っていた『兵器を完成させるのに必要な特定の相手』のことだけど、あなたもそれが誰なのか分かってるのよね?」


「マザーを倒すためには大切な情報だし、こっそり俺らに話してもらえないかな?」


 あ、これ尋問だ。二人とも顔は笑ってるけど目が真剣だ。白状するまで解放してもらえないやつだ。……ただ、なんか裏がありそうな気がしないでもないけど。


 それでもやっぱり恥ずかしい私は最後の抵抗を試みた。目線をそらし二人の方を見ないようにしながら小声で答える。


「……サクヤの相手はあの場にいた女性四人です。シロカさんの相手はあの場にいたT8の人たちと、あとはサクヤです」


「そうすると、あなたの相手はカイとレイトは確定で、それとたぶんサクヤも含まれるわね」


 くうう。色々とぼかして発言&自分のぶんは最後に回す、のコンボを決めたのにあっさりとストレートに言われてしまった。


 恥ずかしさでぷるぷるしている私にはお構いなしで、ミヅキとマサキは楽しそうに話し始めてしまった。


「そう、やっぱりヒマリはサクヤの相手の一人なのね、良かったわ。頑張って欲しいわね」


「でもさ、見たところサクヤはシロカ狙いだろ? ヒマリちゃんは分が悪いんじゃないか?」


「そこは押しの一手かしら。あれでヒマリは強引なところがあるから」


「ああー分かる分かる。俺としてもシロカをサクヤにとられるのは嫌だしなあ。どうにかしてヒマリちゃんがサクヤを落とせるよう手伝おっかな」


「サクヤにとられる以前に、どう見てもシロカはカイを狙ってるわよね」


「見え見えだよな。まあそんなところもかわいいんだけど」


「今のところカイはシロカを相手にしてないけどね」


「まあ、カイのやつ異様に鈍いからな」


「相手にしてないって言えばシロカはサクヤを相手にしてないわよね」


「そこは素直にざまーみろって思う」


 ……盛り上がっている。めっちゃ盛り上がっているぞ、この二人。他人の恋バナで盛り上がっている。そしてものすっごく嫌な予感がする。


「で、アイラちゃんはどうなのさ?」


 来た。矛先がこっち向いた。二人とも私の返事をわくわくしながら待っている。


「ど、どうって」


「アイラは三人全員と仲がいいでしょう? 兵器とかそういうのは置いておいて、誰のことが好きなの?」


「それは置いといていいものなんですか」


「いいのよ。ね、誰なの? みんなには内緒にしてあげるから。こっそり教えて、ね?」


 ミヅキがこういう話が好きだとは意外だった。ものすごく楽しそうだ。


「わ、私のことより、ミヅキさんはどうなんですか。あなたもサクヤの相手の一人なんですよ」


「サクヤは手のかかる弟って感じなのよ。だからサクヤとヒマリがくっついたら嬉しいわね。ヒマリも妹みたいなものだから。私はあの二人の保護者ってわけよ」


「ほらほらアイラちゃん、白状しちゃいなよ」


 二人の顔がどんどん迫ってくる。仕方ない、思うままを話してみるしかないか。


「……えっと、まずサクヤはないです。あれはただの悪友です。腐れ縁です」


「うわー、言うねえ」


「まあ気持ちは分かるわ。じゃあ次、レイトはどうなの?」


「レイトさんは……優しいです。とても」


 そこで言葉を切った。どういったら上手くこの気持ちを表せるのかなあ。二人が私の言葉の続きを待っている。


「優しくて……温かい人で……甘やかしてくれる人で、一緒にのんびりしていたくなるような……」


 おいこら今『発動中:世界を救う愛』ウィンドウが長めに出たぞ。こんなんでいいのか。


 一方で、私の答えを聞いた二人は顔を寄せ合い、何事か話し合っている。「ふわふわした感想だな」「癒し系扱いかしら?」「これはこれで脈ありかも?」とか言ってるのがこっちにも聞こえてるんですが。


 私の目線に気づくと、二人はひそひそ話をやめて「最後、カイはどうなの?」と聞いてきた。


「カイさんは……カイさんも、優しいです。言葉は少ないですけど、私のことを気遣ってくれてるんだなって分かります。真面目でちょっと不器用な人、だと思います。カイさんに認めてもらえると嬉しいです」


 はいまた出た例のウィンドウー! やっぱりちょっと出てる時間長いし。


 サクヤもシロカさんもこのウィンドウは見たことがないって言ってるし、私にだけ判定甘いんじゃなかろうな、世界を救う愛。


 そして二人はまたひそひそしている。「こんどはまた具体的だよな」「信頼は伝わってくるんだけど」「むしろ戦友っぽい?」とか言っている。二人はさらに小声で話していたが、ふとこちらに向き直った。


「アイラちゃん、あんたいけない子だな」


「はあ?」


 マサキが突然訳の分からないことを言い出したので、つい素の声が出てしまった。けれどマサキは全く気にしていない様子で続ける。


「だってさ、あんたカイとレイト、両方ともキープしてんじゃん。二股っていうんだぜ、それ」


 まともに恋愛経験もないのにいきなり二股とか言われたー!


「ヒマリはサクヤが好き。サクヤはシロカが好き。シロカはカイが好き。ほら、みんな一途でしょ。あなただけよ二人捕まえてるのは」


「ミヅキ、そこに『マサキはシロカが好き』も足しといて」


「……みんな一途ではあるけど誰一人報われてない気がする……」


 ミヅキの言葉に思わず突っ込んでしまった。見事に三角関係になっている……のか?


「そうよ。だからあなたの動向もはっきりさせておいた方がいいかなって思ったの」


「アイラちゃんが誰を選ぶかで、誰と誰がくっつくかの組み合わせも変わってきそうだもんな」


「わ、私が誰を選ぶかって……そもそもカイさんもレイトさんも私のことそういう目で見てないですってば」


 私が全力で主張すると、二人は脱力した様子で天を仰いだ。


「アイラちゃんってにぶい子なのかなーとは思ってたけどさ、ここまでいくともう問題だよな」


「そうね。というか全員があと一押しっていう絶妙なバランスを保ってるのね、そこの三人」


「むしろそのバランス壊したほうがよくね?」


「一歩間違うと友情ごとぶっ壊れるでしょうけど」


 二人が何の話をしているのか分かるけど分かりたくない。私は「だいたい白状しましたしもういいですよね!」と叫んで全力ダッシュでその場を逃げ出した。


 シロカさんにも言われたけど、いい加減逃げ回るのにも限界があるのかなあ。



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