16.勇者たちはガサ入れをする
最寄りのセンターまでは徒歩二時間。T8まで何日も歩いてきた私たちからすれば、ちょっとそこまでといった距離でしかない。
思えば、運動嫌いで帰宅部の私がここまでたくさん歩くことになるなんて、ちょっと前までは思ってもみなかった。おかげであちこち筋肉がついて引き締まってきた気がする。
異世界ダイエット、ありかもしれない。難点は元の世界に戻れるか分からないことだけど。
しかしその二時間の間にまたビショップ・アルファが出た。一体どうなってるんだ。日に日にマーキノイドが強くなってる気がする。マサキたちに聞いても、こんなものこの辺では見たことないっていってるし、大丈夫なのかこれ?
ちなみに新入り四人の戦い方は、シロカさんとレンは後方で待機し、マーキノイドが近づいてきた場合に備えて武器を構えている。マサキは中距離からの狙撃、ヨウは前に出てひたすら刀で斬りつけるスタイルだ。
私は前回と同様におとりをこなすべく前に出た。しかし、私のハンドガンは精度を上げまくってスナイプカスタムに進化している。これなら、おとりをこなしながらでもビショップ・アルファの弱点である額を狙い打てるかもしれない。
ついでにショウの改造弾丸も試すことにした私は、至近距離から改造弾丸で額を狙い撃ちした。さすがに動きが速すぎて少し狙いがそれ、顔面のど真ん中に命中した。
けれどどうやら中々いい感じにダメージが通ったらしく、ビショップ・アルファの動きがややぎこちなくなっている。おかげでおとりをやるのもかなり楽になっている。
それからしばらく、私たちは寄ってたかってビショップ・アルファの機動力を削ぐことに専念した。弱点の位置が高くて狙いにくいし、弱点の狙撃はレイトやマサキに任せよう。
そのまま戦っていると後方で一発の銃声が鳴り響き、ビショップ・アルファが倒れた。今回も、レイトの狙撃が見事に決まったらしい。
ビショップ・アルファの残骸を片付けながら、私は改めてみんなの方をこっそりと見た。人数も増えたし、誰がどこら辺で戦っているかもう一度おさらいしておいた方がいいかもしれない。でないと戦闘中に混乱しそうだ。
えーっと、刃物で戦ってて一番前にいるのがカイ、サクヤ、それとヨウだ。それよりほんの少しだけ後ろにいるのが私とヒマリ。私はおとり兼狙撃で、ヒマリは二丁拳銃で弾幕を張る役だ。
さらに後ろ、中距離にいるのがミヅキとマサキ。ミヅキは隙を見て前進し、ショットガンで一撃を加えてはまた下がる、ヒットアンドアウェイ型だ。マサキはほとんど動かずに狙撃している。物陰に隠れて撃つのではなく、攻撃されないぎりぎりの距離から狙い撃ちしている。
最も後ろにいるのはレイト、シロカさん、それとレンだ。レイトは物陰に隠れて必殺の一発を撃つ。攻撃頻度は最も低いけど、一撃の威力は一番大きい。あとの二人は非戦闘員扱いでいいだろう。
こうして見ると、カイとレイト、ミヅキとヒマリ、マサキとヨウはそれぞれペアを組んで戦うのに慣れているなあと思う。そこに私たちが混ざってる感じだ。
まあ、これだけいればちょっとくらい強いのが出ても大丈夫でしょ、と安心した私はみんなと一緒にまた歩き始めた。
そしてたどり着いたセンターは、私が登録したセンターと全く同じ作りをしていた。少なくとも記憶にある限りでは前のとそっくりだ。
サクヤが率先してシロカさんを中央に案内している。マサキが登録用の機械を操作し、レンはやや興奮しながら担いできた何かの機械を置いた。どうやら録画機らしい。
彼は私たちの話を聞いて、「できることなら映像を記録したい」と言っていたのだ。他の者は邪魔にならないように正面のモニターが見える壁際に立っている。
そうしてシロカさんが金属板に手を置いた。私の時と同じ流れだ。
息を飲む私たちの前で、正面のモニターに映像が映し出された。
「……本当に、パルフェット博士でした……」
一部始終の録画に成功したらしいレンが、感極まったような顔でつぶやいた。目を潤ませて、心なしかうっとりしている。彼も研究者の端くれらしいし、稀代の天才博士の姿と肉声を見られて嬉しいんだろう。うっとりし過ぎてて若干引くけど。
私とサクヤはシロカさんの登録印を確認していた。彼女の登録印も私たちと同じ金色だ。ただ、よく見ると三人とも少しずつデザインが違っている。
「で、これでシロカも兵器持ちになったんだよな? こっからどうすんの? 具体的なこと何にも言わなかったな、あの博士」
「実際に見てもよく分からないな。一体どんな兵器なんだ、それは」
初めてパルフェット博士の言葉を聞いたマサキとヨウの二人は、もっともな疑問を口にしている。その時、先ほどから何か考えていたらしいミヅキがためらいがちに言った。
「ねえ、ここに兵器が隠されてたのなら、他にもまだ何か隠されているんじゃないかしら? ここ、私たちがサクヤの登録に来たセンターとそっくりなのよ。これだけそっくりにしてあるのって、何か訳がありそうじゃない?」
言われてみればごもっともだ。自分の時は兵器を貰うわ登録印が金色だわと考えることが多すぎて、そこまで考えが回らなかった。サクヤの方を見ると、彼らも似たような感じだったらしい。
私たちは手分けしてセンターの中を探すことにした。といっても何を探せばいいのかさっぱり分からない。手当たり次第に探そうにも、辺りは謎の機械だらけだ。
意外にも、ここで役に立ったのが私とシロカさんだった。怪しいものを見つけるとまず私が「鑑定」し、その結果をさらにシロカさんが「辞書」で調べて詳細な解説を付け加えていく。なんでも「辞書」は単語や文章など、言葉に対してのみ使えるスキルなのだそうだ。そのせいで、こんな連携プレーになっていた。
しばらく探し回っていると、どこに潜んでいたのかヒマリがいきなり目の前に現れた。彼女は無言でそっと私の袖を引き、物陰に連れて行こうとしている。どうやら何か見つけたらしい。
彼女は複数の機械の隙間をすり抜けると中二階になっている足場の下をくぐり、さらに狭い隙間を次々と通り抜けていく。明らかに人間が通ることを想定してないコースだ。私たちの中で一番小柄なヒマリだからこそ、こんな道を見つけられたのかもしれない。
そうやってたどり着いたのは、さっき映像が流れたモニターのちょうど裏側に広がる空間だった。ここだけ少し広くなっていて、拠点にある通信機と似たようなものがぽつんと置いてある。
鑑定してみると『ロシェ博士のデータベース:アクセスするには資格が必要』と出てきた。資格については置いといて、まずは「辞書」をお願いしないと。
来た道を戻るのが面倒になった私は、大きな声で叫んだ。
「シロカさーん、ロシェ博士って誰―!?」
その声に全員が黙り込んだ。と思った次の瞬間、レンが叫び返してきた。
「ロシェ博士はパルフェット博士と同時代の天才物理学者だよー!! どうしたんだい、何かあったのかいー!!」
レンの返事を聞いて、私とヒマリは顔を見合わせた。
「……ヒマリちゃん、これって」
「一度みなさんを呼んだ方がよさそうですね……」
仕方なく私たちは来た道を戻り、ロシェ博士のデータベースのところにみんなを案内しようとした。が、ここで問題が発生した。私とヒマリは機械の隙間を楽々すり抜けられたのだが、隙間が狭すぎて男性陣のほとんどはそこを通れなかったのだ。
ちなみに男性陣の中でも小柄で細身のヨウは普通に通れたし、サクヤもぎりぎり抜けられた。サクヤ自身は「俺が小さいんじゃない、あいつらが大きすぎるんだ」と少し腑に落ちない顔をしていたが。
通れるメンバーだけでデータベースをいじってみようかと提案したら、レンが全力で異を唱えてきた。激しく横に首を振っているので眼鏡が吹っ飛びそうだ。
「頼む、私に直接そのデータベースを見せて欲しいんだ!」
放っておいたら土下座ぐらいしかねない勢いだ。仕方ないのでみんなで通り道の機械を少しずつ動かして道を広げることにした。動かしてもよさそうな機械を私の鑑定とレンとで見極め、私たち全員が通れるぎりぎりの幅まで動かすのを繰り返した。
ちなみに私たちの中で一番身長があるのがレイトで、一番厚みがあるのがマサキだ。サクヤは「まだ俺成長期だから」と誰にともなく言い訳をしていた。
地味な作業を続け、ようやく全員がデータベースの前に集まることができた。レンが喜び勇んで録画機を設置している。
「これ、私の鑑定だと『アクセスするには資格が必要』って出てきたのよね」
「その資格ってやっぱあれかな」
「「「……『世界を救う愛』」」」
私たち異世界組の意見はきれいに一致していた。このデータベースは拠点の通信機と同じように登録印の読み取り機がついているし、試しにこれで私たちの登録印を読み取ってみることにした。こういう時は前に出たがるサクヤが、例にもれず読み取り機を手にして首の登録印に当てる。
その時、ピッという音と共にモニターが明るくなり、初老の男性が映し出された。




