表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/42

14.美少女が投げる愛の爆弾

 そこからも旅は順調だった。朝早くT33を発った私たちは、前日と同様にマーキノイドを倒しながら進み、夕方にはT12にたどり着いた。


 ここも初めての拠点ではあったけど、拠点はどこも似たような見た目をしていることもあって、特に違和感を覚えることなくぐっすりとよく眠った。


 さらに次の日も同じように歩き続け、その日の午後に私たちは目的のT8に到着したのだった。






「ここに、俺たちの仲間が……」


「異世界組と決まったわけじゃないし、異世界組だったとしても仲間だと決まったわけじゃない。古文の山下みたいな口うるさいおっさんが来てるかもしれない」


「夢のないやつだな、お前」


 一人感動にひたるサクヤに突っ込みをいれる。ちなみに古文の山下というのは、うちの高校で一番口やかましい教師だ。自分で「趣味は説教」とか言っちゃうやばめのおっさんだった。自分で言っておいてなんだが、そんなやつがこっちに来ていないことを祈る。


 私たちはここで二手に分かれることにした。サクヤたち三人はT8の上層部に会いに行き、探している人物の情報を聞き出す。私たち三人はT8の技術班に手土産を渡しに行く。そのついでに、探している人物についての情報を集める。


「じゃあ、後でここに集合な」


 手を振ってビルの中に消えていく三人を見送りながら、私たちは手土産の入った段ボールと狩ったマーキノイドの残骸を担いで、技術班がいるだろう方角を目指した。






 T8でも、T21と同じように技術班はプレハブで仕事をしていた。増築のしやすさとか、爆発事故が起きた時のこととかを考えてこうなっているらしい。


 私たちが手土産と来訪理由を伝えると、応対してくれた技術班の人はああ、とすぐに理解した顔になった。


「ああ、シロカのことかな。彼女なら、物資管理班の手伝いをやっていますよ。今なら奥の倉庫にいるんじゃないかな」


 その足で教えられた建物に入ると、そこは天井の高い工場のようなところで、たくさんの人たちが忙しく動き回っていた。私たちは作業の邪魔にならないよう、壁際に移動して中を眺める。


 先ほどの人は「シロカ」と言っていた。しかしここは女性も多いので、誰がそのシロカなのか分からない。


 誰か適当に捕まえて聞いてみようと思い、私たちが声をかけられそうな人を探していると向こうから一人の少女が近づいてきた。ものすごい美少女だ。あれ、この顔には見覚えがあるような。


 彼女は私たちを順に見回すと、私をまっすぐに見て言った。か細くて弱い、いかにも守ってあげたくなるような声だ。声まで美人だなんて、うらやましい。


「あなた……もしかして、C組の部友ぶゆうさん?」


 その瞬間、私は思い出した。彼女も同じ高校の同級生だ。




 彼女は高峰たかみね白花しろか。D組が誇る我が校一の美少女だ。おまけに文武両道。儚げなたたずまいと物憂げな表情を崩さないこともあってめちゃくちゃもてるし、彼女のファンクラブには男子ばかりでなく女子もかなりの数がいるという噂だ。


 そのくせ彼女はガードが異様に固く、ついた異名が「難攻不落の高嶺の花」。


 私は同じ高校ながら彼女と話す機会はほとんどなく、ぱっと顔を見ただけでは気づかなかった。むしろなんで彼女が私の顔を覚えていたのか。




「あ、うん。こっちではアイラって名乗ってる。A組の田後たご君もここに来てるよ。あなたのことを探してたんだ」

「私、を……?」

「そうなの、いろいろ話したいこともあるし、よかったら一緒に来てくれないかな」


 そこで彼女はなぜかカイとレイトを見た。不自然な間が開く。一体どうしたのかな。


「ええ、そうするわ。……こんなところに独りぼっちで、困っていたの」


 彼女はほんの少し表情を動かして微笑む。そんな様もとても絵になる。


 私は彼女を連れて、サクヤとの合流地点に向かうことにした。その間も違和感が消えない。本当に何なんだろう、これ。






「おい、探してるやつの名前が分かったぞ! これはもしかすると、だぞ!」


 合流地点には既にサクヤがいて、しかも妙にテンションが高かった。うざい。しかもやつは私が口を挟む隙も無くしゃべり続けている。


「シロカ、だってよ! 俺たちの学年にいるよな、白花って子が。もしかしてあの子じゃないかな、あの子だといいな! 俺、ずっとあの子に憧れてたんだよ!」


 あーあ。言っちゃったよ。本人は私の後ろにいるんだよ。絶対これ聞かれちゃったよ。


 そう思いながら振り向くと、私の後ろにはレイトが立っていて、高峰さんはその後ろにいた。位置的にサクヤからは見えない。


 そして耳を澄ませると、どうやら彼女はカイに何事か話しかけているようだった。声が小さいのでサクヤの大声にかき消されてしまい、話している内容までは聞こえない。


 私がレイトに目で合図すると、彼が一歩横に動いた。隠れていた高峰さんの姿がサクヤの視界に入る。サクヤが固まった。


「え、高峰、さん……?」


「あ、田後君」


 それきりサクヤが何も言わない。頬をかすかに赤めたまま、気を付けの姿勢で硬直している。まあ憧れの人がいきなり目の前に現れたらねえ。このまま放っておいたらいつまでもフリーズしてそうなので、とりあえず流れを変えることにした。


「ねえ高峰さん、どこか人のいない場所でゆっくり話したいんだけど、空き部屋借りられないかな?」


「ええ、心当たりは……あるわ。でもその前に、お連れの方たちを紹介してもらえないかしら」


 そして私たちは手短に自己紹介を済ませると、まだ固まったままのサクヤを引きずって空き部屋に向かったのだった。






 空き部屋の一室で私たち三人は話し合うことになった。俺たちがいては話しにくいこともあるだろう、とカイたちは気を利かせて建物の外で待ってくれている。


 そして高峰さんから聞き出したところによると、この世界に飛ばされてきた経緯は私たちと同じ、そこで二人組に助けられたのも同じ。しかし彼女はそれ以降戦いには出ず、未登録のまま拠点内で物資管理の手伝いをして過ごしていたのだそうだ。


 だからレベルはまだ1、スキルも初期所持の『世界を救う愛』『辞書』『気配察知』の三つだけ。しかしこの『辞書』というスキル、どうやら「ステータス画面等の詳しい解説が見られる」というものらしく、彼女はそれを使って色々なことをある程度推測していた。


 まず「世界を救う愛」、この解説は「世界を救う兵器、アムーレテルネルを完成させられる者であることを示す資格にして、兵器を完成に導く鍵の一つ」となっているとのことだった。「鍵の一つ」ということは他にも鍵があるんだろうか。


 そんな疑問に答えてくれたのもまた高峰さんだった。彼女によれば、あの謎のステータス「LOVE度」の解説にその答えがあるとのことだった。


『LOVE度:対象から自身に向けられた愛情の度合いを表す値。世界を救う兵器、アムーレテルネルを完成に導くもう一つの鍵』


 兵器の完成に「世界を救う愛」と「LOVE度」が関係あるという私の推測は当たっていたようだ。けど具体的に何をどうすればいいのかはやっぱり分からない。


 シロカさんにそう言うと、彼女は「その答えも書いてあったわ」と教えてくれた。


『アムーレテルネル:世界を救う兵器。LOVE度が100となった者に対して「世界を救う愛」を発動することにより完成する』


 でも、とシロカさんが付け加える。


「私には、『世界を救う愛』の発動条件が分からないの。この説明によると、他の人に対して発動するものみたいだけど」


「あ、俺も分からないや」


 どうやら二人は「世界を救う愛」の発動中ウィンドウを見たことがないらしい。私は何回か見たことがある、というかほんの一瞬の発動なら割とよくある。よくありすぎて最近ではいちいち気にしなくなっている。


「っていうか、アイラは発動させたことがあったって言ってなかったか? どういう時に発動したんだ?」


 そんなこと忘れててもいいんだけど、なんでこういうことだけよく覚えてるかな、サクヤのやつは。


 ごまかそうか正直に言おうかしばらく悩んだ末、私は素直に白状することにした。この情報は三人で共有しておいたほうがいいと思ったからだ。


「………………相手にときめいた時。たぶんときめいた度合いに応じて発動時間が変わる。私もほんの一瞬の発動しか見たことない」


 うあー恥ずかしい。元の平和な世界ですらやったことのない恋バナを、なんで殺伐とした異世界でやらなきゃいけないんだ。


 ところが私のこの説明を聞くと、今までどこかぎこちない様子だったサクヤがいきなりいつもの調子で騒ぎ始めた。


「つまりさ、LOVE度を100にするってことが相手から愛されるってことで、世界を救う愛を発動させることが自分から愛するってことなんだよな? ってことは愛し合う恋人たちが愛の力で兵器を完成させて世界を救うってことだよな!?」


「……ま、それで合ってるんじゃない? 言い方がくさいけど。自分で言ってて恥ずかしくないの?」


「かっこいいじゃん! つまりさ、ここに名前があるやつが俺の運命の恋人になるかもってことで」


「人の話を聞け。あと気持ち悪い。そこには私の名前もあるのを忘れたか」


「覚えてるよ! でさ、お前の名前があるのなら、もしかして……」


 はしゃぎ始めたサクヤが、今度は突然絶望の表情になって頭を抱えた。地面に突っ伏している。どうしたの、と聞いたら「お前、俺を『鑑定』してみろ。たぶんそれで分かる。三ページ目だ」と小声でささやいてきた。


 鑑定しろとはどういうことだと思ったが、とりあえず素直に使ってみる。知恵が5しかないけど大丈夫か。いけない脱線した、三ページ目ということは、LOVE度のとこだな。


『PAGE 3』

(LOVE度)

 ミヅキ 42/100(UP!)

 ヒマリ 58/100(UP!)

 アイラ 21/100(UP!)

 シロカ 2/100(NEW!)


 ……憧れの人から向けられた好意がこれだと確かに落ち込むな……初対面同然っていうんだよこれは。そしてヒマリちゃんが頑張ってます。


 サクヤ的には高峰さんを狙いたいんだろうが、その前にヒマリちゃんが上がりきってしまえばそっちとカップル成立しちゃう可能性が出てくると。わー大変だね。モテる男はつらいね。


「うん、あんたが何でへこんでるか分かった。頑張ってねー」


「ひどいなお前、そんな他人事みたいに」


「他人事だもの」


 そしてふと私も自分のステータスをチェックしてみる。LOVE度って上がり方がいまいち読めないから、気づくとどかんと上がってたり、逆に全然上がってなかったりするんだよね。


『PAGE 3』

(LOVE度)

 カイ 41/100(UP!)

 レイト 51/100(UP!)

 サクヤ 38/100(UP!)


 あれ、意外と順調に上がってるな。私最近戦闘ばかりしてた気がするのに。それにサクヤまでしっかり上がってやがる。まあサクヤの方に書かれてた私の数値はあんまり上がってないから大丈夫だろう。あいつとカップルなんてごめんこうむる。


 そうして二人でステータスをチェックしてると、横から「ちっ」と小さな舌打ちが聞こえた。そっちって高峰さんしかいないんですけど。彼女が舌打ちとか信じられないんですけど。


 私は内心の疑惑をかき消すように、とっさに彼女に話を振ってみた。


「ね、ねえ高峰さんはLOVE度のところ、どうなってるの? やっぱりこの世界に来て最初に会った二人が記載されてた?」


「……ええ。あと、技術班の人も一人。それと今、田後君も登録されたわ」


「あ、あのさ!」


 高峰さんの攻略対象に自分が追加されたという朗報を聞いたことでようやく絶望のポーズから立ち直ってきたサクヤが、ここで勢いよく手を挙げた。


「高峰さん、その……サクヤって呼んでくれないかな。俺もこいつも、下の名前だけ登録してるし、そう呼ばれる方がしっくりくるんだ」


「わかったわ。……サクヤ君と、アイラさん、ね。だったら私のこともシロカと呼んで」


「う、うん! シロカ、さん」


 サクヤが異様にきょどってて大変に気持ちが悪い。いつものモテ男オーラはどこにやったんだよ。憧れの人から名前呼びされて嬉しいのは分かるけどさ。




 そうしてスキルやらなんやらの三人だけの内緒話もだいたい終わり、そろそろみんなのところに戻ろうかという時に、サクヤのやつが唐突にとんでもないことを言い出した。


「あ、あのさシロカさん。……俺たちと一緒に来ないか。そして俺たちと一緒に世界を救わないか」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ