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13.そういう気分の日もある

 サクヤたちがT21に来てから四日後、やっと私たちはT8へ向けての遠征に出発することになった。




 それまでの数日間いろいろなことがあった。まず私はカイとレイトを捕まえてT8に向かいたい旨とその理由を説明し、二人の承諾を得たところで旅の準備を始めることになった。


 上層部にはミヅキが責任もってしっかりと話をつけていてくれた。何も言わずに勝手に飛び出しても後で怒られるくらいで済むらしいけど、その場合物資を持ち出すのが難しくなる。長旅になるから、弾薬なんかはしっかりと持ち出しておきたい。


 それに、途中T33とT12でも一泊しないといけないから、そっちにも話を通しておいたほうがいいし。こちらも一応アポなしでも泊めてもらえるらしいけど、まあそこは礼儀ってやつだ。




 遠出になるからどうしても大荷物になるし、手分けして持たないと大変だなあとカイたちと言っていたのだが、これについてはサクヤがあっさり「全部俺が持つけど?」と言い切ったことで解決してしまった。


 忘れていたがサクヤは「アイテムボックス」というスキルを持っていたのだった。どんなスキルなのか聞くと、「適当な袋を一個持っておけば、その中にこれでもかってくらい物が入れられる」という雑な答えが返ってきた。


 一見便利なスキルに思えるが、袋の口を通らない大きさのものはしまえないし、中に何を入れたか忘れると取り出すのが難しくなるという恐ろしい制約があるとのことだった。


 なので私たちはいくつかの段ボールとそれが入りそうな大きめの袋を用意して、段ボールに「食料」「弾薬」などと書くことにした。アイテムボックスへの出し入れは段ボール単位でしてもらう。これならサクヤの残念な記憶力でもなんとかなるだろう。


 用意した袋は大きめのごみ袋くらいのものだったが、サクヤはその中に次々と一抱えもある段ボールを入れていく。そして全ての段ボールを入れた筈の袋は、まだ何も入っていないかのようにぺったんこのままだった。サクヤはその袋をくるくるとたたんで背負ったカバンにしまい込んだ。


 スキル名である程度見当はついていたとはいえ、実際に目にするとすごいな、これ。カイも無言で目を見開き、レイトは感嘆の声を漏らしていた。




 そして私のハンドガンも改造を終えて戻ってきた。今は「ハンドガン(S)・スナイプカスタム」に名前が変わっている。


 さらにショウは言っていた通りに改造弾丸や試作武器も用意してくれていた。私たち六人全員がそれぞれ手に取って品定めをする。


 私がもらったのは改造弾丸、「弾丸・威力強化」だ。弾数は少ないけど、私の戦い方ならそこまで弾丸は浪費しないから大丈夫だろう。


 そしてもう一つ、アイスピックにつばをつけたような形をした刃物? ももらった。どうやら刺突ナイフというらしい。


 私は悲しくなるくらい力がないので近接攻撃はあきらめていたのだが、それを聞いたショウが「だったらこういうのはどうです? 少ない力でも効率良くダメージを与えられますし、攻撃を受けることもできますよ」と勧めてくれたのだ。


 刺突ナイフをどこに装備するか少し悩んだけれど、結局腰に吊るすことにした。「太ももにホルダーの方がセクシーでいいんじゃね」とサクヤがいらんことを言っているのは全力で無視した。


 他のみんなもそれぞれ新しい武器を身に着けている。カイは二振り目のナイフを試作品に持ち替えたし、レイトはスナイパーライフルの照準器を取り換えた。サクヤは調子に乗ってナイフを計三振り装備し、ミヅキとヒマリは改造弾丸を受け取った。前にレイトが言っていたようにT21はT19より武器の製造に優れているらしく、サクヤたちは試作品に目を輝かせていた。




 そうして私たちは、技術班とサクヤファンのおばちゃんたちに見送られながら、T21を出発したのだった。






 まず半日歩いてT33へ向かい、今日はそこに泊めてもらう。手ぶらというのも悪いので、手土産代わりにT21製の武器を段ボールに詰めてある。アイテムボックスさまさまだ。


 それに道中倒したマーキノイドの残骸もアイテムボックスにぶちこんで、私たちは楽々と進んでいく。今回はさすがにビショップは出なかったが、ナイト・アルファがまた出た。年に一匹出るか出ないかのこいつが、この短期間で三匹だ。珍しいこともあったものだ。これもさっくり倒して手土産に加える。


 余裕をもってT33についた私たちはビルの空き部屋を二部屋貸してもらい、そこで男女分かれて眠りについた。






「うわー、きれい……」


 深夜にトイレに起きた私は、なんとなく泊まっているビルの外に出てみた。ただの気まぐれだった。


 そうして何の気なしに上を見上げると、そこには一面の星空が広がっていた。拠点は夜でもそれなりに明かりが灯っているのに、その明かりを圧倒するほどの力強い星空だった。


 知っている星座がないか探してみる。けれど星が多すぎてよく分からない。そもそもここは異世界だし、きっと星の並びも元の世界のそれとは違っているのだろう。


 そう思った瞬間、なぜか泣きそうになった。視界がぐにゃりとゆがむ。


 その時、いきなり目の前が真っ暗になった。何が起こったのかと一瞬あせるが、すぐに顔の上に誰かの手の感触があることに気づく。誰かが私に手で目隠しをしているのだ。


 え、誰、不審者!? と私が声を上げるより早く、すぐ後ろから声がした。


「一人で泣くなんて寂しすぎるからね、少しだけこうしていようか」


 レイトの声だった。とすると私の顔の上にあるのはレイトの手なのか。というか泣きそうなのがばれてたんだ、うわ恥ずかしい。穴があったら入りたい。


 すぐに振り払おうかとも思ったけど、レイトの手から伝わる温かさが心地よくて、ついそのまま立ち止まってしまった。


 私が落ち着いたのを気配で察したのか、レイトの手がゆっくりと離れた。くるりと振り返ると、笑顔のレイトが立っている。


「君が外にいるのが見えたから、気になって追いかけてきたんだ。来て良かったよ」


 そう言って彼は上を見る。私もつられてもう一度星空を見上げた。


「君は他の世界から来たんだよね。きっとそこの星空は、君の知っている星空とは違うんだろうね」


「……はい。星が多すぎて分からないんですけど……きっと、違う空です」


「そうなんだ。それで寂しくなっちゃったのかな」


 レイトはいつも通り柔らかく優しく話している。そんな声で図星を突かれて、不本意ながらまた泣きそうになってしまった。ぎりぎりのところで踏みとどまる。


「泣きたいなら我慢しなくてもいいと僕は思うけど、君はそう言っても聞かないよね。でも辛くなったらいつでも言ってね、力になるから」


「……ありがとう、ございます」


「僕だけじゃない。カイもいる。彼は口下手だから分かりにくいけど、良いやつだよ」


 彼の優しい声がふんわりと心にしみてくる。暗くて顔があまりよく見えないせいなのか、いつもより素直な気持ちになれる。


「サクヤ君は君と同じ世界から来たんだろう? 思い出話がしたくなったら彼を頼ればいい。それに君はリカさんやショウ君ともすっかり親しくなったようだし、ミヅキさんやヒマリちゃんともきっといい友達になれるよ」


 そこまで言うと彼は言葉を切り、そっと抱きしめてきた。普段からスキンシップ過多な彼にしたら別に珍しくもない動作だが、この時の彼の動きはいつもよりもずっと優しかった。


「君は一人じゃない。それだけは覚えていて」


 目の前がまた真っ暗になる。その暗さに惑わされたのか、私は普段の自分なら絶対に言わないであろう言葉をつぶやいていた。


「……この世界に来て、最初に知り合えたのがあなたたちでよかった」


 レイトが軽く笑ったのが体の動きから伝わってくる。彼は少しの間そのままでいた後、そっと体を離した。


「さあ、そろそろ戻って休もう。明日も一日歩きだから、もう寝ないとね」




 そして女性陣が寝ている部屋に戻って寝床に横になった後、うっかり正気に戻ってしまった私はミヅキとヒマリを起こさないように毛布を頭まできっちりかぶってぐるぐる巻きになりながら、一人恥ずかしさにのたうち回ることになった。あ、ああいうのは私のキャラじゃないのよー!



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