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チビ陛下と私の味噌汁ウォーズ  作者: 佐田祐美子
おまけ的な時々追加するもの
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執務室今昔

はい、お知らせ回です(なんですかそれ)

後ろにつけまーす。





「お邪魔しまーす」


 私が執務室に入ると、レンは机にペンを置いた。昔は小柄なレンにはなにもかも大きすぎると思ったいたのに、今はもうレンが部屋のものを全て支配しているような、そんな感覚が馴染んでいる。


「なんだ、もうそんな時間か」


「うん。休憩だよ」


 レンは仕事大好きさんなので、食事も忘れることも珍しくない。なので、私を休憩アラーム代わりにしているフシがある。別にいいけど。

 いつも通り軽食をローテーブルに置こうとして、おやと思った。休憩に使うローテーブルは万が一にも書類に染みなど作ってはいけないので、書類は乗せない決まりになっているのだが。


「年度末はやっぱり忙しいよねぇ」


「あ、すまない」


 レンが気づいてローテーブルの上の書類を片づけてくれた。そのままソファーに座ったので、私もトレイを置いたらその隣に座ることにする。ぐったりしているレンの手を取って、マッサージを始めると「あー」とか「うー」とか言う。


「やっぱり、蒸気で暖めたタオルも持ってこよっか?」


「いや……いい。昔はもっと大変だった……」


「昔が大変だったからって、今無理して働く理由にはなりません」


「……次の休憩で使う」


「はいはい。……そういえば、一番大変だった時ってどんな感じなの?」


 ちょっとした興味で訊いてみたら、レンはまず部屋の隅を指差した。


「あそこから、あそこまで。マリサが埋もれるくらいの書類の山があった」


 レンが示したのは、いわゆる部屋全体ってやつだった。それに私の身長は百六十五センチくらい。だから私はハハハと笑った。


「またまたご冗談を。それじゃ机のとこにも行けないじゃないですかー」


「即位した時は十歳だったからな。書類の山の間を崩さないように通り抜けるのは得意だったんだ」


「はあ……」


 真顔だった。冗談ではなかったらしい。


「ディー殿が初めて執務室に来た時に怒られた。ドアを開閉しただけで書類の山が崩れる有様でな。見かねたのか仕事を手伝うと言い出して……客人なのに仕事をさせてしまった」


「珍しいね。レンだったら全部自分でやるとか言っただろうに」


 それにディーさんはディグリース小魔法王国の宰相さんだ。他国の人間を執務室に入れるなんてかなりの珍事。指摘するとレンは苦笑した。


「言ったさ。が、特にあの頃は七賢もいなければエレーヌも言うことを聞かなかったからてんてこ舞いだった。……味噌汁もなかったからなぁ」


「味噌汁やっぱり重要なんだ」


 さりげなく入り込んで来た味噌汁に笑ってしまった。レンが肩を竦める。


「お前がそれを言うのか? ……とにかく、面倒がりな癖に面倒見がいいディー殿は、ぼくにあれこれ叩き込んださ。数字の見方や仕事の振り方、法案の詰め方……あの宰相、自分に面倒なことが回って来ないようにそれとなく仕事を捌くくらい能力が高い」


「なんだそりゃ」


「それとだな、ディー殿の隣でいつもニコニコしている奥方がいるだろう。カフカ殿。あの人もかなり頭が切れる。ディー殿の指示を受けてあっという間に仕事をこなしていくんだ。あれにはびっくりした」


「へ、へぇー……」


 私はカフカさんを思い浮かべた。美人だが言動が可愛らしい人で、『えへへー、あのねー、今日ディーがねー?』と惚気話に事欠かない人だ。言っちゃなんだけど頭弱そうなのに……ちょっとショックだ。


「私もなにか手伝えたらよかったのにねぇ」


「マリサはよくやってるさ。社交外交っていう公務だけじゃない。城内を見回って兵の悩み相談に乗っているそうじゃないか。マリサが気づいたお陰で、女性寮の食事内容とか色々変わって評判も上々だ」


「あー、ヘルシーメニュー……そんなことしかしてないけど」


「まあ、他国の王妃とは少し違っているかもしれないが、別に真似なくていい。マリサが好きに行動していると、なにかといい方向に物事が転がるんだ」


「それはようございました」


 つんと澄まして茶を淹れにかかるが、若干照れたのはお見通しらしい。くすくす笑われた。もう。話題を変えようかと周囲に目を走らせると、執務室にもうひとつ気になるところを見つけた。


「そういえば、あそこの壁だけ新しいよね。なんで?」


 ドアから入って左側、本棚が並ぶ辺りだけ壁が一部新しいのだ。レンはふっと笑った。


「あれか。あそこは奥に隠し部屋があるのだが」


「えっ」


「開け方がわからなかったディグリースの女王陛下が本棚を壁ごとはっ倒した」


「……………」


 知れば知るほどよくわからない、ディグリース小魔法王国の王族達だった。レンがすたすた歩いて行って本を数冊引き抜くと、本棚がスライドして奥に部屋が現れた。私もレンに続いて中に入ってみたが、割と広いというか青みがかった石の内装で、小さな滝までじゃーじゃー流れている。ただっ広いだけでなにもない。神殿の一室みたいだ。


「有事の際に王が隠れたり、秘密のなにかを隠しておく場所だったらしいな」


「え、愛人とか?」


 発言が不用意すぎた。空気がカチンと凍った。あ、やべっと思ったがもう遅い。くるりと踵を返して執務室に戻ろうとしたが、目の前で本棚が閉まった。開け方を私は知らない。


「ぼくは別に、マリサをここに閉じ込めておいてもいいのだが」


 恐る恐る振り返ると、レンは怖い笑顔になっていた。ちょっと怒ってる。視線だけで眉間に穴が空きそうだ。


「えと……ごめんなさい?」


「マリサ。ここは防音魔法がかかっていて、例え叫んだとしても外には全く聞こえないんだ」


 知らぬ間にじりじり後退していたらしい。背中が壁についた。


「し、仕事が……」


「大丈夫。隠し部屋のことを知っている人間はいないから誰も来ない」


「えーとえーと」


「観念しようか?」


 ゆっくり、顔の横に手を突かれた。ひどい、ひどいぞ。こういうゆっくりなのが苦手だって知っててやってるんだ。さっきの愛人発言のお仕置きに違いない。というか最近仕事が忙しくてなかなか二人の時間が取れなかったからそれもあるかもしれないヤバい。


「またなにか余計なことを考えているな?」


 バレバレだった。

 もう言われた通り、観念して目を閉じることにする。結局、当分ここから出られそうにもないなと半ば覚悟しながら。






宣言通り、ちょっとしたお知らせです。


『知識の箱の最高傑作』を「うわぁぁあ」と悲痛な叫びと共に書いていた訳なのですが、やっとカルロヒューレンの戴冠式のとこまで来ました。

はい。

マリサが来る以前のオーラリネリア王国は、レンは、どんなだったのかな~っていうのがチラチラ窺えます。主役じゃないので毎回出てくる訳ではありませんのでご了承ください。

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