王都守護隊の騒がしい一日
青空に黄金の光が煌めいた。
それが段々形をなし、ドラゴンだと分かった。
「ドラゴンだ!、ドラゴンの来襲だぁ!!」
私は王都守護隊隊長ローレル。
王都を囲う城壁の守護櫓の中で定時報告を聞いている時にその叫び声が聞こえてきた。
ドラゴンだと?
私は櫓の見張り台に上り、先刻の声を上げた兵に声をかける。
「どっちだ?」
「あそこです。」
兵の指差す方向を見ると確かにそこには黄金色に輝くドラゴンの姿が上空にあった。
それがグングン近づいてきている。
確かにドラゴンだ。
しかし、なんて美しいドラゴンだ。
あれは、無骨なウロコではなく、煌めく黄金色の毛に覆われているのだろうか?、柔らかな印象を受ける。
「隊長?」
はっ、しまった思わず見惚れてしまった。
「城壁に兵を集めろ。バリスタの用意だ。」
ドラゴンは王都上空に達し、旋回を始めた。
「隊長、バリスタで射撃しますか?、」
「いや、待て。」
あのドラゴンは敵ではない。何故かそんな確信が私にはあった。いや、あんなに美しいドラゴンが敵であって欲しくない希望だったのかもしれない。
やがてドラゴンは西門の前に着陸態勢に入った。
「西門に兵を集めろ。私も行く。」
私が現場に到着した時、ドラゴンは既に着陸していた。
良く見るとドラゴンの上に人影が見える。
『我は、白金ランク冒険者、アキラ様の従魔ゴールドである。』
ドラゴンが大声で叫んだ。
なんと、このドラゴンは人の言葉を喋ることができるらしい。
知性ある黄金色のドラゴン、まさか、カイザードラゴンなのか?、しかし、カイザードラゴンは山をも凌ぐ巨体だったはずだが、こいつはせいぜい30メートルくらいだ。
ドラゴンの上にいた人影がヒラリと飛び降りて着地した。
全身に真っ黒の服を着ている。
「ドラゴンマスターだ!」
「ドラゴンマスターの冒険者が来訪したぞぉ!」
誰かが叫んだのを皮切りに歓声が辺りを支配した。
私は兵を掻き分けて前に出て、黒い服の男の前に進み出た。
「私は王都守護隊隊長ローレル、ようこそ王都へ、歓迎しますぞ、ドラゴンマスター殿。」
「白金ランク冒険者のアキラです。」
私が差し出した右手をがっちりと握ってアキラ殿は答えてくれた。
「すみません。考えなしに王都の上空を飛んでしまって、驚かせてしまったようですね。」
アキラ殿は西門に集まった兵たちを見て言った。
「そうですな、もう少し手前で着陸してもらえると良かったと思いますが・・・でも次からは大丈夫でしょう。こんな美しいドラゴンは初めてみた。このドラゴンを一度見たものは二度と忘れますまい。」
そう言って私がドラゴンを見上げていると。
ドラゴンは光に包まれ、その姿が小さくなっていった。
なんだ?、なにが起きている?
光が収まると、そこには8歳くらいに見える。金髪赤目の幼女がいた。白いワンピースのシャツだけを身に着けている。
「そんなに褒めても我はご主人様だけのものだからな!」
そう言うと幼女はアキラ殿に抱きついた。
「これは・・・人化ですか?、なんとも驚かされてばかりですな。」
「すみません。ほら、ゴールド、これからお世話になるんだから、ローレルさんにちゃんと挨拶しなさい。」
「うう、我はゴールド。よろしくたのむのじゃ。」
幼女はしぶしぶ私に頭を下げた。
「はい、ゴールド殿。よろしくです。」
アキラ殿は馬車で途中まで、旅をしていたそうだが、ゴールド殿が退屈だと言い出し、2人で先に飛んで王都まで来たそうだ。
王都では数日前からお祭り騒ぎが続いている。この国で初めてドラゴンダンジョンが発見されたからだ。
その発見者がアキラ殿で、その功績が認められこの国初の黒ランク冒険者になるそうだ。
しかし、我が国初の黒ランク冒険者がドラゴンマスターとは、これは後世に語り継がれる伝説に私は立ち会えたのかもしれないな。
アキラ殿たちがもともとのっていた冒険者ギルドの箱馬車が追いついてきた。
私は兵に指示する。
「先触れを出せ。ドラゴンマスターの英雄が王都を訪れた。迎賓館までの道を交通規制せよ。」
「「はっ!!」」
「ちょっと、ローレルさん、そんな大騒ぎにしないでくださいよ。」
「はは、まぁまぁ、アキラ殿、先ほどゴールド殿が王都上空を飛行したのは王都中の人間が見ていますぞ。今更こっそりと街に入ることはできませんよ。」
「はぁ、身から出たさびですか・・・しかたありませんね。」
「では、我々が騎馬で迎賓館まで先導します。」
「はい、よろしくお願いします。」
西門を潜る先の通りは交通規制がされ、中央には他の馬車や人の通りはなかったが、道路脇には多くの人がドラゴンマスターの英雄を一目見ようと詰め掛けていた。
我々が先導して箱馬車が登場すると、割れんばかりの歓声が巻き起こった。アキラ殿が馬車の窓から手を振ってくれている。ゴールド殿も反対側から体を乗り出して手を振っている。しかし、この幼女が先ほど上空を飛んでいたドラゴンだとは誰も思わんだろうな。
やがて箱馬車は迎賓館に到着した。
「では、アキラ殿、我々はこれで失礼します。」
「はい、お世話になりました。ローレルさん。」
もともとドラゴンダンジョンの発見にお祭り騒ぎになっていた王都だったが、ドラゴンマスターの登場で騒ぎに拍車がかかり、それは半月にも及んだ。




