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黒銀の魔眼剣士  作者: 神名一葉
第1章:学院2年生
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ゴブリンロード

sideレイア


「これで良しっと。もう良いわよ」


「わかった。気を付けて降りろよ」


木の上と下、草の中岩の裏洞窟の中など、様々な場所に罠を仕掛けた。とは言えそんなに広範囲に渡って罠を張った訳ではない。

事前に決めた場所を中心に生肉とそこそこの量の血液をばら撒き、更に半径10m前後に罠を張り、どれか一つ掛かったら糸が振動して俺たちに伝えてくれる仕組みだ。


作戦はクラリスが事前に決めた場所で罠の様子を見ながら囮をし、魔物が来たらエッジに付けた紐を引っ張って合図し、魔物を狩る。

エッジは木の上からクラリスの死角から寄ってきた魔物を奇襲。

俺は別行動で遠くから魔物を仕留めつつ、エッジから【念話】で連絡を受けてフォロー、若しくは罠に掛かった魔物の回収に行く。

これが作戦だ。


「エッジ、クラリス、気を付けろよ。エッジがしっかりしないとクラリスは殺られるし、

クラリスが合図しないとエッジも援護出来ないからな」


「任せとけって‼」


「だいじょーぶ、昨日早めに寝たから‼」


・・・・大丈夫だろうか?






「【縮地突き】!!」


「グルァアアアア!!?」


これで4匹目か。

エッジ達と別れてから俺は既に4匹の魔物を狩っていた。

ウルフ、ゴブリン、アース・ラビット、ウォーター・スネイク。それぞれD、E、E、Dランクな為、ポイントは70ポイント。

エッジ達の罠に魔物が掛かったと言う連絡は受けていないが、せめて何か狩ってくれてる事を祈ろう。


ーいーーーーたーーけーーー


「ん?気のせいか、声が聞こえたような・・・・」


ーーーれかーーーすーーーけて


やっぱり聞こえる。女子の声だ。叫んでるのか?

剣を構え、警戒しつつ声のする方へ近付いていく。


ーーだーかーーーーすけてーーーーーたすけて!!


「ーっ!!急がないと!!」


聞こえてきたのは助けを求める声だった。

俺は全力で声のする方へ走る。少しすると木の少ない開けた場所に出た。

そこに居たのは・・・・


「グギャギャギャ!!!」


「ギギ、ギャグギ!!」


「ギギギ!!」


「嫌、だれか、や、いやあぁぁぁ!!!」


4匹のゴブリンの死体、2人の男子生徒の死体、そして7匹のゴブリンに囲まれ、今まさに犯されようとしていた女子生徒だった。

それを見た瞬間、俺は激怒した。俺はこう言う「人の死」と言うものが嫌いで、殺した奴をひたすら憎む。

魔物なら殺す、しかし犯人が人なら殺さず騎士に引き渡す。いくら悪人だからって人殺しは良くない。


だからこれを見てキレた俺は、最も側に居たゴブリンを背中から貫き、その横に居たゴブリンを殴り飛ばした。

突然の事に呆然としているゴブリンの横をすり抜け、女子生徒の方へ向かう。


「君!!大丈夫か!?」


「え・・・・あぁ・・・・・・レイア・・・くん?・・・う、うぅ、うああああ!!」


俺を見て安心したのか、泣いてしまった。

出来るだけ凝視せず、この子の状態を見るが、軽い打撲程度で特に傷はない。勿論犯されてもいない。

けど俺は泣いてしまったこの子を見て、更に怒りが爆発する。


「お前ら、ただで済むと思うなよ!!【水晶眼】、【二段突き】!!」


俺はゴブリン2匹をスキルで殺し、3匹目を剣で貫く。


「ギギギャ!!?」


ここで漸くゴブリン達が反応し始めた。

奥に居た1匹は逃げたが、残り2匹は棍棒片手に襲いかかってくる。


「【縮地突き】!!」


「ギギギッ!!」


「グギギ、ギーギギャ!!」


「ごほぉっ!?」


【縮地突き】はゴブリンの首に当たらず、棍棒に突き刺さった。その間にもう1匹が棍棒で殴ってきた。


「グギャギャ!!」


「ギギャギャギャ!!」


1匹は素手で、もう1匹は棍棒で殴ってくる。剣の刺さった棍棒ははゴブリンが投げ捨てたため、取れない。


「ぐっ、があっ!?・・・くっ、そっ・・・・【フラッシュボール】!!」


魔法は苦手だが、仕方ない。

俺は【光魔法】の魔法で牽制する。威力は高くないが、光でできてるから目眩ましにもなる。

実際俺は脱出出来たしな。


「逃げるぞ!!」


「えぐっ、ぐずっ・・・はいぃ」


俺は女子生徒の手を掴み、もう片手で剣を抜き、走る。






「はあっはあっはあっ、ここまで、くれ、ば、良いだろっ」


「ぜえっぜえっぜえっ、ゴホッゴホッ・・・そう、で、すねっ」


あれから数分間、俺達は全力で走った。

それはもう面白いくらい走った。ゴブリン2匹相手にどんだけ走ってたんだよ俺等。


「取り合えず、緊急、事態だ・・・・一回先生の所へ行こう。っとその前に」


「は、はひっ!」


流石にほぼボロ雑巾並みの服で走らせる訳にはいかない。だからアイテムウインドウに仕舞ってた予備の服を着せる。

俺の身長が172で、この子は恐らく155~160位だからコートが限界だな。

よくよく見てみると蒼い髪に優しげな顔、泣き腫らした目で台無しだが綺麗な金の目も相まって不思議な雰囲気を醸し出している。

成る程、ゴブリンが襲う訳だ、と思うくらいにはかわいい。


「君、名前は?」


「あ、私、エルスって言います。一応、レイア君と同じS組です」


どうやら同じクラスだったようだ。

取り合えず俺はエルスを連れて、ゴブリンから逃げた方と反対、つまり東を目指して移動を始める。


二人も死んだんだ。もしかしたら中止になるかもしれないけど、人命には変えられない。


「グガァァアァァ‼‼」


「ーっ‼?ゴブリンキング・・・いや、なんだこれ?」


そこに居たのはゴブリンキングの様な外見をしているが、キングが2mなのに対してこいつは3m以上ある。

しかも武器は棍棒じゃなくて槌だ。

そして・・・・


「両目に傷・・・・っ‼︎あの時のゴブリンキングか!?」


両目に抉られた様な傷跡。断定は出来ないがあの時のゴブリンキングだ。

ならさっきのゴブリンもこいつの新しい群れ・・・・?


「まぁ良い。ここで叩き斬って「ひっゴ、ゴブリンキング!?」・・・・しまった」


ここで倒しておきたいけどエルスが居るからな、諦めよう。

せめて情報だけでも取っていくか。


「【分析】」





名前:

種族:ゴブリンロード

年齢:6

性別:男

称号:雷魔に作られし者

レベル:27

HP:1750/1750

魔力:415/415

攻撃:2100

魔攻:245

防御:840

魔防:320

俊敏:550


スキル:【棍棒LV7】【槌術LV7】【扇動LV8】


加護:【雷魔の加護】





「ゴブリンロード!!?それに【雷魔の加護】って・・・・」


ステータス、特に攻撃力が手に負えない。さらに言うならゴブリンロードなんて聞いたことない種族だし、【雷魔の加護】に至ってはものによってはもっと危険だ。

撤退しよう


「エルス、音を立てずにそっと、そっと逃げよう」


「・・・は、はいぃ・・・・」


俺たちは未だ見つかってないからこっそり、木の間を縫って後退して行くが・・・


ーパキッ


「〜〜〜〜〜っ‼‼‼?」


エルスが木の枝を踏んでしまった。

恐る恐るゴブリンロードの方を見ると・・・


「グルゥゥゥ、グガァァア‼!!」


見つかったみたいだ




ゴブリンロードに見つかった後の俺の行動は迅速だった。

襲い掛かってきたゴブリンロードを剣で牽制し、距離を取り、エルスに指示する。


「俺がこいつを足止めする。エルスは早く先生を呼んできてくれ。

俺はここから少し移動するからここに戻っても意味無いからな」


「え・・・・か、勝てるの?」


「別に無理に勝つ必要は無い。足止め出来れば良いんだ。俺のチームでこの辺りに罠を張った。そこまで誘導する。

運が良ければ動きを止められるだろう」


「でも・・・・き、気を付けてね!!」


納得はしなかったようだが、効率的な手段を考え、実行してくれたようだ。エルスは魔力で体を強化して走っていった。


俺は覚えてる罠の場所へ逃げる。ゴブリンロードもキング同様、大した知能も無い様ですぐついてきた


「こっちだ悪臭野郎‼︎」


「グガァァ、ギギャアァァ‼︎‼︎」


挑発するとただでさえ凄かった形相がより鬼の様になって追いかけてくる。

魔物は高ランクになると言葉を理解するらしいけど、こいつもそうなのか!?


「ちょっと予想外‼︎【縮地】‼︎」


【縮地】で少し遠めの木との間合いを詰め、ゴブリンロードから距離を取る。

普通のゴブリンやゴブリンナイトならこれで見失って帰るけど、


「グガァァ‼︎!」


「やっぱダメか。なら次は【水晶眼】‼︎」


俺の切り札の【水晶眼】これなら足止めくらい出来るはずだ。

現にゴブリンロードの足が段々下から水晶に包まれていく。


「グガァ⁉︎グゥゥゥゥ」


「今のうちに距離を取るか・・・・っ‼︎?」


嫌な予感がし、上に跳ぶと俺の居た場所に槌が飛んできた。

槌の大きさは柄を入れて1m50cm位ある。当然質量も普通じゃない。


「危なかった・・・・」


ほっとしていた俺の耳にさらなる驚愕をもたらす音が聞こえた


ーバキバキバキィィィ‼︎


「・・・・おいおいおいおい、それはねぇよ」


俺が見たのは、拳で水晶を砕くゴブリンロード、では無く、強引に一歩歩き、水晶から抜け出したゴブリンロードだった。


お父様も昔は騎士をしていて、一度模擬戦で【水晶眼】を使ったが、その時ですら剣で砕いていた。

にも関わらずゴブリンロードは歩くだけで砕いた。お父様にも勝てなかった俺がこいつに勝てる道理は無い。


俺の中を、圧倒的な死の恐怖が支配する。


恐怖で動けない俺にゴブリンロードが腕を振るう。


ーバキッ‼︎


「ガハッ・・・・‼︎」


殴られた時、肋骨にヒビが入った様で呼吸すらまともに出来ない。


「カヒュッ・・・・カフッ・・・ぁぁぁ」


ゴブリンロードがさっき投げた槌を手に俺を殺そうとしているのが見える。


「(こ、こで・・・死ぬ、のか・・・・?

死んだらもう、皆には・・・会えないな・・・・)」


皆に会えなくなる。皆を悲しませる。

エルス、クラリス、エッジ、お父様、お母様、ソフィ、アリシアを泣かせてしまう。

そこまで考えて、アリシアの泣き顔が浮かび上がる。


「・・・・それは、それ、だけは・・・・・・ダメ、だ‼︎」


俺はまだ、死ねない。


けど俺の体はボロボロ、切り札は無効化され、ゴブリンロードは今まさに槌を振り下ろそうとしているのが見える。


「ちく・・・しょ、う・・・・‼︎」


もう俺の中には恐怖は無い。むしろ生への渇望がある程だ。けど俺は目の前の危機に対抗できる力が無い。

俺にはもう、俺に加護を与えてくれた神様に祈るしか出来なかった。


そんな時だ。


ー助けてあげようか?ー


声が聞こえた。



「ーっ!?誰、だ?」


ー良いから答えて。助けて欲しい?死なせて欲しい?ー


声が何処からともなく聞こえてくる。

男にしては高く、女と言う方が似合うような高い声。

聞き覚えなんて無い筈なのに、とても安心する声。


俺はその『声』に答えた。


「生き・・・たい、生きたい‼︎」


そこで俺の意識は闇に包まれた。


ー良いよ。助けてあげるー


『声』の返事が聞こえた気がした。









side???


『ぼく』は傷付いた体で目覚めた。

最初に『ぼく』が見たものはゴブリンに似た嫌悪感漂う顔と臭い、そして振り下ろされる槌だった。

このままなら槌は頭部に直撃し、『ぼく』の頭は赤い花火と化すだろう。


「ま、普通ならだけど」


生憎と『ぼく』は普通じゃない。


ーバゴォォォン‼︎‼︎


槌が降りおりされるが、降りおろされた『ぼく』の感想は、


「痛くも痒くも無いな。あえて言うなら懐かしい、かな?」


「グガァ‼︎?」


『ぼく』の鼓膜を酷く不快な音が揺さぶる。

本来ならこの感覚さえ歓喜出来るはずなのにゴブリンの声ってだけで台無しだ。


「まったく、不愉快極まりない。

なぜ11年降りに目覚めて最初に見たものがゴブリンなんだ」


『ぼく』は抑えていた魔力を解放し、威圧する


「ギギャア‼︎?」


汚物が細かく振動しているけど、気にならない。


「いや、『俺』の要望は汚物の消毒だったな。なら見逃せないな、時間も無いことだし」


『ぼく』は時間が無いのを再確認した後、アイテムボックスから剣を取り出す。


「さあ、ゴブリンっぽい何か、処刑の時間だぞ。幸い手元に良い剣があるし」


「ギギィ‼︎?」


なにやら懐かしい魔力を纏うゴブリンっぽい何かに、片手で《・・・》もった両手剣の形状をした聖剣を振り下ろす。

さっきまでの『俺』ならこの程度じゃダメージなんて与えられないが、『ぼく』ならこれで十分だ。

聖剣が威圧感に耐えられなくなり、膝をついているゴブリンっぽい何かの首に当たる。

勢いなんてまるで無い。料理でもするかの様な軽い勢いだが、『ぼく』はその結果に満足だった。

何故なら・・・・


ービシャァァ‼︎


たったそれだけで、ゴブリンっぽい何かの首は体から落ち、血をまき散らしたからだ。


「これで『俺』の要望はおしまい。

残りの時間は『ぼく』の好きにさせて貰うぜ」


ゴブリンっぽい何かを殺した事で、こいつの『創造主』も全てを理解しただろうからな。


『ぼく』は『俺』が逃した女の子の向かった方へ移動する。


「・・・・見つけた」


暫くすると、その女の子と武装集団を見つけた。

『ぼく』はその集団に近付く。


「ーっ!!君、この辺りに大きなゴブリンが居なかったか?」


武装した騎士っぽい人が話し掛けてくる。


「そのゴブリンって、ひょっとしてこんな顔じゃないですか?」


『ぼく』は回収したゴブリンっぽい何かの首を差し出す。


「ーっ⁉︎わ、我々はそれがそうなのか知らない。知っている者を呼ぶ為少し待ってくれ。

エルス・クリスフィア‼︎このゴブリンの首で間違い無いか?」


騎士がエルスと言う少女に首を見せる。


「ーっ‼︎そ、そうです‼︎一体誰が・・・・っ‼︎?レ、レイアくん⁉︎

もしかしてレイアくんがゴブリンロードを倒したの⁉︎」


少女、エルスが『ぼく』によってくる


「そうだよ。『ぼく』が倒した」


「そう・・・レイアくん、その髪と声、どうしたの?」


髪と声?・・・・・あぁ、『ぼく』の髪は『銀髪』で声は高いからね。気になるのも無理はない。


「エルス、この後気絶しちゃうから体をよろしくね」


「え、レイアくん、どういう事?」


「ふふふ、『ぼく』はレイアじゃないよ。『ぼく』は『ぼく』で『レイア』は『俺』、だから『ぼく』はレイアじゃないんだよ」


「???どういう事?」


不思議がっている。『ぼく』は少し難しく説明しただけなんだけどね。


「・・・・そろそろ時間だ。

エルス、『ぼく』は寝るから体をよろしくね」


『ぼく』は意識を手放し、体の支配権を戻す


「え、ちょ、レイアくん!?レイアくん⁉︎」


『ぼく』は再び眠りについた

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