リオノキズ
時系列はあったり無かったりなので、
順番にお読みすることをお勧めしますが、
基本的に1話読切の恋愛譚です。
理緒:
京都から関東へ帰ってきて、
就職もしただめ女。
元、だめ女と言い張りたい今日この頃。
仕事では女の子扱いはされない。
奏:
かなで。
残念なイケメン。
理緒の彼氏で1個下。
残念?な理由は2つほど見えてきた。
仕事で忙しく、
あまり会えない日が続くこともある。
疲れていると考え無しに言葉を発することがある。
リオノキズ
痛みは鈍く重い。
胸は潰れそうに苦しい。
キズは…きっとずっと痕になる。
<頑張るってさ…>
帰り道、電車のはずの奏からのLINE。
不意に奏が語り出す時は、大概疲れている時だった。
しかも、追い詰められてる時。
私は、奏が語る時、自分自身で気持ちの整理をしていると思ってる。
<1段下なんだよね>
<うん?>
<頑張らないのがいいんだよ。仕事も生きるためにする、当たり前。終わらないからやる、当たり前。頑張るってのは、それ以上にすることなんだから、頑張る必要など無い>
<うん>
<だから、頑張った、すごい、やった、俺はえらいって言ってる奴はさ、まだ頑張るの1段下にいる>
<……うん>
<だから俺は頑張れって言葉あんま使わない。ほどほどにねって返す。偉いことなど何もない、当たり前をやることが偉いわけない>
…ふむー。
重症な気がするなぁ…。
奏の頑張るって、基準が高い。
だから、奏から見たら頑張ってなくても、周りからしたら頑張ってるねって思うことがあるっていうのが私の分析なの。
…私からしたら、たとえやらないとダメなことでも、当たり前でも、やってる人はえらいと思うことがある。
例えば…友達で共働きの奥さん。
仕事の他に子供も見て、家事もする。
それは当たり前だからする。
でもね、ねぇ、それは頑張ってるうちに入らないのかな?
えらくないのかな。
旦那さんは家事を手伝う。
当たり前で、でもえらいと思う。
それでいいんじゃないのかな。
<私は…当たり前だとしても、奏は頑張ってると思うのー。普通じゃ出来ないことしてるんだもの>
<頑張ってるわけではない>
<うーん、じゃあ…そうだな、奏の頑張るって他より上だから…だから奏の当たり前ってすごいことだと思う>
<人より上を基準にしてる自覚はある。出来てないから意味がない、すごくもない、だからすごいとかプレッシャーにしかならない>
<…そんな…>
<理緒には同じ基準を求めない。俺はそうってだけで、理緒は理緒の基準を貫けばよい。否定はしない>
……えぇ、そんな、プレッシャーなんて…。
それに、私の基準てそんな低いと思われてるのかな…。
混乱しかけた私に、奏は追い打ちをかけた。
<理緒は頑張っててえらいよ、理緒は理緒でやればよい>
っ!!
目を見開いたかもしれない。
頑張ってるって言うのは、1段下なんでしょう?
それなのに…。
<…何それ……馬鹿にしてるの?>
悔しかった。悲しかった。
奏は、私を対等に見ていない。
いや、そもそもこの発言のひどさに気付いてないだろう。
<そんなことはない>
……。
はあー、と、溜息。
わかってないのだ、自分の矛盾に。
私を頑張ったね、えらいねって褒めてくれるのは…私が当たり前以上をやってると思ってたのだろうか。
私の基準はそこまで低くない。
奏はこうやって、言葉を間違うことがある。
人を下に見積もるというか…突き放すというか…。
ぼんやりと…返信もせずベッドで考えた。
まぁ奏のことだから…その言い回しが人を突き落とすとは思わないだろう。
だから馬鹿にはしてないんだと思う。
それでも、さすがにこれは指摘するべきかなと思った。
つまりは、こう。
やることは当たり前なのだから、それを頑張ってまでやる必要は無い。
そもそも頑張るのは嫌いである。
だから、頑張ったねと言われると、1段下に見積もられたようである。
…それを、そのまま、私にやってるのである。
それを矛盾と言わずしてなんと言うのか。
…はぁー。
もう一回溜息をつくと、携帯が音をたてた。
…奏からの電話だった。
「…もしもし」
「…馬鹿にしてないよ」
風の音がごうごうしていて聞き取りにくい。
電車を降りて、歩きながらかけているらしい。
奏は、馬鹿にしてない、と繰り返した。
「…風の音でよく聞こえないから、帰ったらもう一回かけてね」
「馬鹿にしてない…」
…それしか言わないつもりなのかなぁ。
思わず笑ってしまう。
「いいよ、馬鹿にしてないのはわかってる。でも話の流れ的に、失礼だったよ?」
「…うん…ごめんなさい」
「ん。掛け直してね、待ってる」
掛け直しはすぐにきた。
家に着いたようだ。
奏は開口一番、ごめんなさいと言った。
謝る人にもっと怒るのは、私の性格ではあり得ない。
「もういいの!でも、あの流れであの台詞はひどいんだからねー?」
もう一度笑ってみせると、奏は、
「ごめん何も考えてない…いや、あれ、変だな?とは思ったんだけど…」
「疲れてたのよね」
「…うん、疲れてる」
「お疲れ様」
「うん」
奏は電話越しにふーと息をついた。
「人の基準はとやかく言わないけど」
「うん」
「…別に、誰かに合わせなくていいんだって言いたかった」
「うん」
「理緒が無理してそうだから、無理するほどやらなくていいんだよーって……」
「そか」
「…頑張りたくなどない」
「そうね、頑張らないでやれるならその方がいいね」
「…疲れた」
「うん、いつもお疲れ様。…私、語彙力無いからさー…他に励まし方がわからないの。頑張っても、すごいも、えらいも…言葉より、応援したい気持ちと思ってほしい」
「…理緒のね」
「ん?」
「理緒のいいとこだと思う。人を…まっすぐに褒めること」
「ふふ、そうかな?…けど奏…ごめんね、私は奏にかける言葉が無くなっちゃった」
「…別に直してほしいとは…」
「奏がプレッシャーに感じるのに、わざわざ言う必要もないよ。…何か考えておくね!」
「……うん」
…ちょっとぎくしゃくした雰囲気でも、嫌われる気はしなかった。
安心感すら感じる。
ちゃんと話が出来るって思う。
それだけで、私は満足だ。
痛みは鈍く重い。
胸は潰れそうに苦しい。
キズは…きっとずっと痕になる。
でもそれは勲章。
私達が成長する軌跡。
連続更新です。
もう少しなので、
エピソードを幾つか語れればと。
お付き合い頂ければ嬉しいです。
今回もあんまりきゅん要素が無いです。




