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20/27

リオノツキ

理緒:

京都から関東へ帰ってきて、

就職もしただめ女。

元、だめ女と言い張りたい今日この頃。


奏:

かなで。

残念なイケメン。

理緒の彼氏で1個下。

残念?な理由は2つほど見えてきた。

仕事で忙しく、

あまり会えない日が続くこともある。


おきちゃん、沖:

理緒の姉の元彼、

中学時代の先輩、

奏の同期。

院卒のため理緒とは2つ、

奏とは3つ歳が離れている。

リオノツキ


時に淡く時に強く

照らされてこそ光る

それなのに、ねえ

何も見えない日もあるんだ


「トレーナーになったんだよね」

奏に言われて、私は首を傾げた。

「トレーナーって、じゃあ下に新人つくの?」

「うん…普通はまだ先なんだー。先輩2人すっ飛ばして俺につけるんだってー。そんでずーっとペアで仕事する」

「すごーい!それって飛び級的な感じなんじゃないー?」

「うーん…もしかしてさー、引継いだら、俺飛ばされるのかも」

「ええ」

「上に行くためには一回は地方見ておけとは言われんだけどね」

「そうなんだぁ…」

何処でも構わない。

私も一緒に行くよ。

そう伝えたらプレッシャーかな、と思う。

だけど私は、あえて笑った。

「何処にいても、私は会いに行っちゃうけどね!京都いたときみたいに!」

「…うん。海外は無いから大丈夫」

…今日は奏と夕飯を一緒に食べていた。

帰り時間が合ったので、奏の家のある駅で食べることにしたのだ。

ちなみに私はひとつ隣の駅なので、歩くことも出来るのが良い。

お味噌汁を飲み一息ついてから、奏は続けた。

「邪魔しないでくれたらそれでいいけどね」

「うーん、奏のレベルについていけるといいね」

「どんないい大学出たって、所詮新人は何も出来ないよ。それなのに自分は出来ると勘違いしてる奴が多すぎ」

「……あー、意味はわかる。私はやれるって天狗になっちゃうのね」

「だから、もっといい仕事やらせろとか言ってきちゃうんだよねー。けどさ、責任取れないじゃん?俺の部の仕事が何億持ってると思ってんの。一個ミスしたら首飛ぶよ。…まぁだからプランもそれなりに組まないとなんだけどさー余裕無いからなー」

「うん。あのね、奏はすごいって知ってるよー!それに、なんだかんだいい先輩なんだよね」

「……むー、理緒は今日もかわいい」

「な、なんで!」

「ま、頑張るか」

奏はよしよしと私を撫でて少しだけ笑った。


……それから少しした日のこと。


「沖縄出張に行く」

「ほあ?いつ?」

「再来週」

「また急だねえ」

「新人来るからさ、そういう楽しみもあるって教えておこうかと」

「そうなんだ、優しいね」

「でしょでしょ?…来週来るから、とりあえずは簡単なのから。お昼も最初くらいは出さないとな…」

「あは、いい先輩ー!」

「……いやー、女の子なんだけど、多少こじゃれたお店にすべきか悩んでて」

「……えっ?女の子?」

「言ってなかった?」

「聞いてない」

「…あ、そう?まぁそんななんだ。俺人見知りだし仕事じゃクールだからねー」

「……」

沖縄出張?女の子と?

……ずーっとペアで仕事…。

「理緒?」

「あっ、あ、ごめんぼーっとしてた」

いやいや、仕事ですから。

私は何を思ってるの……。

……。

「ええと!いいんじゃないかな、多少こじゃれたとこでも!最初はお給料も余裕無いだろうし!」

「だよねー」

…そう。

それでいい。

にこにこと笑いながら、過去を思い出す。


…最初の彼は、バイトを始めて。

トレーナーになって。

その子が好きになって。

それで遊びたい、と…言われて、

…振られたことを。


奏はもてる。

だから、奏にその気が無くても、オファーする女の子が多いと聞いた。

それを知っているから、だから、不安になった。

奏の心配はしてない。

でも、好きな人に擦り寄る女の子を許容できる度量は、私には無かった。

「仕事だからさ」

「えっ?」

「面倒でもやらなきゃって」

「…うん、わかってる」

「心配しなくてよろしい」

「奏の心配はしてない」

「うむ」

そうして、日は過ぎて行く。


「年末にさ。結婚するんだって、松本さん」

次の週。

帰りが合った火曜。

奏はいきなり切り出した。

誰だ、松本さんて…もしかして下についた女の子…?

眉を寄せていたのか、奏は笑った。

「ごめん、名前言ってなかったね。下についた新人で、でも同い年だった松本さん。年末にスペインの人と国際結婚。住むのは日本とは言ってるけど…」

「え…ええー??」

そ、それって、だって…。

結婚するとなると、色々あるだろうに…。

「俺の先輩2人、女の人でさー。どっちも独身なの。何でそこすっ飛ばして俺がトレーナーになったかって、結局は結婚なり子供出来たりがあるから、対応出来るようにってことー」

うん…そうだね…そう思う…。

「それはあるだろうね…。でも奏だから任されたのは絶対あると思うよ」

言うと、奏はまぁねーと相槌を打った。

…というか。

そうか、その松本さん?に彼氏がいるという想定を全くしてなかった…。

私はちょっと恥ずかしくなった。

やだ…奏に何か思うかもって、そればっかり思っちゃった…。

うう、ごめんなさい松本さん。

心の中で謝る。

「…理緒、俺ね」

「うん」

「しばらく土日無くなるくらい仕事忙しいから。…何て言うか、オンになったままだと思う」

「…うん」

「だからあんまり構えないかも、いや、ゼロではなくて、出来るだけ構うけど……」

「クールな奏くんのままってこと?」

「うん」

「ふふ、いいよ、どんな奏でもー。私のこと気にかけてくれるもの」

「うむ、よろしい」

笑って見せる。

私は大丈夫と。


けれど急に、暗雲が立ち込めた。


仕事で会えないのは、仕方ない。

そこはわかっていた。

けれど、私との時間は無いのに、奏は友達の相談に乗るとか、新人の歓迎会だとか、そう言って飲みに行っていた。

正直、友達と言うより…松本さんや同期の女の子と飲んでいるのはわかっている。

奏、男友達の時は言うのに、女の子がいる時は同期、とか、友達って説明するのだ。

気付いてないと思ってるのかなぁ。

まぁ、何かあるわけじゃないし、私に心配かけたくないとかいろいろ理由はあるのだろう。

ただ…羨ましくないわけないじゃない…。

土日もしかり。

そんな時に沖縄に飛び、この時期に出張とか間違ってたなー忙しいと言っていて。

…それでも、送られてきた写メには、楽しそうに観光する松本さんが映っていた。

…その奥に、50代の部長様(男性)もいらっしゃいましたけど。

…はあ。

知らずため息。

LINEも殆ど無い。

そんで何より…奏は好きと言わなくなった気がして…1度気になったらだめだった。

あ、だめだ。

沈んでいく…。

いや、大事にはされてるんだ。

でも私は好きと言ってしまうから、それが重いのでは?と勘ぐってしまう。

恐い。

重いと言われて振られるのは、だからと他の女の子に行かれるのは、もう2度と…。


最初の恋愛を思い出し、恋心なんてのはもう全く無いのに、あの「重たい」「遊びたい」と言われた時の苦味と痛みだけは込み上げてくる。


考えては首を振る。

今はだめだ、気持ちが落ちてるから。

これを奏に見せてはだめだ。


日に日に、奏は疲れた、忙しい、としか言わなくなった。

電話のトーンも、宣言通りクール奏くんのままだから、常に気を張ってるのはわかる。

…私じゃ、癒しにもならない…。

恐くてたまらない。

<松本さんは仕事は出来る。まだ新人のやれる仕事しかさせてないけど、その中でもそこそこ>

<そう、よかったね!>

<ただ、松本さんより先輩なんだけど、松本さんより年下がいてさ。接し方わからないとか言って敬語なんだよねー。松本さんはタメ語。これはマズイ>

<あぁ、うん>

<先輩を敬えとは言った>

<そだね…>

<あと、産休はいつ取るのがいいか聞かれた>

<え?ええと…仕事してたいからってこと、だよね>

…それ、奏に聞いちゃうんだ…。

女性の先輩ならまだしも。

<何て答えたらいいんだろう>

<奏も上司に振るのがいいと思う。もしくは既婚子持ちの人…>

<いや、でも相談されたの俺だし。それに松本さんのタイミングであって、誰かがじゃあいつ作れとか言うのはどうかと思うから、様子見たい>

<……>

結論出てるならなんで私に聞くの。

私は言葉を飲み込んだ。

仕事してたいと思うなら、やっぱり時期って気になるよなぁ。

いつ抜けたって迷惑はかけるけど、奏達の仕事の場合は数年を見越すこともある。

それなら、タイミングを教えるのもある意味選択肢なんじゃないかなぁと…私は思った。

けど、いつもならそれとなく伝えてみるのに、今回は出来なかった。

…だめだ…。

<まぁ奏の好きにしたら?最後は松本さんが決めることなんだし>

だめだ。

嫌味にしか聞こえない…。

私、だめだめ女だ!


そうして一ヶ月弱。

週に一回は顔だけでも見たくて、私は帰りを合わせたりした。

殆ど終電ギリギリになる最近の奏と帰れる回数は、雀の涙ほどだ。

奏は電車の中、言葉を発しない時もあった。

疲れた顔。

だるそうな動作。

私はこんな時、支えてあげなきゃならないのに。


…好きだよ。

言って、ぎゅってしたら…。

奏は腕を回してもくれなくて。


泣きたくなった。


「…ねぇ私、好きって言い過ぎかな?奏言わなくなったー。重かったらやめるよー?」

「…いや、言ってくれるのは嬉しいよ…なんだ、バランス?」

「私が言いすぎる分言わないってこと?」

「うん、バランス」

「じゃあずっとこのままだね、あはは…」


……やらかした、と思った。

言ってはいけなかったはずだ。

奏は困った顔をした。

泣きそう。

その日、結局私達はあまり言葉を発しないまま帰った。


次の日、夜に電話する機会があって。

「ねぇ奏…ごめん昨日」

「いいよ、理緒、大丈夫だよ」

なにが。

「大丈夫だから、大丈夫なんだよ理緒ー」

なにが、大丈夫?

「…うん」

貴方が大丈夫でも、私は…。

「大丈夫だよ…奏」

大丈夫に見えますか?

…ただ一言、好きだよと言ってくれたら。

行動だけじゃ足りないの…わがままだって知ってるの。

「…奏が重いのは嫌だ」

わかってるのに、言葉を聞きたい時もあるんだよ。

「…うん。ごめん、落ち着いたらちゃんと話そう。だから、今は…ごめん、この話はしたくない」

この話はしたくない。

…えぐられるような痛みが、胸に走る。

私は、きっと困ったように、自嘲の笑みをこぼしたはずだ。

奏は、それ以上話さなかった。


歯車が噛み合わなくて。

私の気持ちは変わらないのに、奏の気持ちは変わった。

それは燃えるような恋心から、内側でじっくり熱を蓄えるような、そんな恋心に、なのだろう。

それはわかる。

わかるのに、感情のコントロールがついてこない。

これ以上は、本当に奏のためにならない。

私が我慢すればいい…そうだよね?

そうだ、今までだってそうしてきたんだ。


その2日後くらいだろうか。

「お熱ですね」

久々に会ったおきちゃんに言われて、机に突っ伏した。

ファミレスで落ち合って、相談をしたのである。

「まあ、うん、まあね…」

「そんだけ奏が好きなんだろ」

「……わかんない。あ、いや、好きだよ?…けど…何だろ…私じゃダメなのかなぁって」

「ばーか。奏が好き勝手してんじゃん。お前に甘えてんだよ。あいつ子供だし。ほっときゃいーんだよ」

「うん…。あーーー。たった一言でいいのに」

「……まぁ、そうだよな」

「行動だけじゃ足りない…いや、本当に構ってくれてるとは思う…。ここ2日、連絡あんま無いけど」

「重症だな」

「……まぁねぇ」

もやもやしたまま突っ伏している私に、おきちゃんは笑った。

「けどいいなあ、恋愛してるって感じ」

「ええ〜。こんなしんどそうな私にそれ言うー?」

「ははっ、たまには怒ればいいんじゃん?構えって」

私は、奏との距離感を図り兼ねて気を遣っている自分に、ちょっと寂しくなった。

…そうだな…こんな気を遣う仲なんて…きっと良くない。

けど今は…奏の邪魔もしたくなかった。


…そのまま3日が過ぎて、私はだんだんと自分らしさについて考えるようになった。

…そもそも。

クール奏くんとやらが、仕事しているからって、私が気を遣いすぎる意味ある??

思い立ったら即行動の私が、何をこんなうじうじする必要があるのか。

…それで終わるなら、奏の気持ちはそれまでなんじゃない?

うん。

会いに行こう。

どんなに遅くても、私には関係ない。



<疲れた、帰る>

<私、迎えに行くよー>

<無理しない、もう時間遅い>

<私が会いたいの!悪いけど今日はわがまま聞いて?時間教えてね>



駅で奏を待っていると、思ったより元気そうな奏がやってきた。

スーツの奏はやっぱりかっこよくて、思わず微笑む。

うんー、好きだ。

そう、この気持ち。

突き動かされるような、この…。

「ただいま…おひめ」

「おひめちがう!……おかえり奏、今日もおつかれ、あとありがと」

にこりと笑えば、奏は一瞬私を見つめて、頷いた。

「…うん」

…奏の家はマンションで、一階は可動式の立体駐車場。

そこまで歩く間、私はたくさん笑った。

どんな小さな一言でも、奏が話せば全部笑顔で答えた。

あー、久しぶり。

きっとこれが私らしいところだ。

楽しいなって思う。

「折角来てもらったから車出す、どこか行こ」

「いいよ、疲れてるなら休みなさい。じゃあ帰るね」

「車、しばらく動かしてないし…」

…。

奏はそれ以上何も言わず、駐車場のキーを挿して車を自分の前に移動させた。

行きたいなら、そう言えばいいのに。

本当にプライドがあるっていうか…子供だと思った。

私は助手席に乗って、夜のみなとみらいまでのドライブと相成った。


2人で並んで座った静かな海辺の公園。

ここで奏が「誰にも渡したくない程度には好き」と悩む言い回しをした頃はまだ寒い時期だった。

今はちょうどいい風が吹き抜けて行く。

それだけ、一緒にいたんだな…。

思わず微笑んで、言葉を紡ぐ。

「気持ちいいね」

「……理緒」

「ん?…っん…」

いきなりだった。

キスがおちる……。

全身が、きゅっと強張る。

奏は私の腰を抱き寄せて、優しいキスを続けた。

やがて力が抜けて、私は泣きたくなるくらいの嬉しい気持ちがこぼれるのを感じた。

「…ん、…は」

離れる頃には、熱くて。

奏は私を覗き込んで、少し笑った。

「やっぱ外出ないとダメだ…」

「うん…?」

「デートっぽい」

「あは…うん、そだね。…奏」

「うん」

「私、楽しいよ」

「……うん」

そうだ。

こうやって、奏はいつも私を幸せな気持ちにしてくれてた。

やっぱりダメなんだ、うじうじしてたら。

私達は何度かキスをして、たくさんたくさん会話した。

ここしばらく、ろくに話してなかったのは…奏も距離を感じてたんだろうって、すごく思う。

めずらしくいっぱい仕事のことを話す奏に、私も一生懸命耳を傾ける。

波の音が、優しい音色で、私達を包んでくれた。


そう、悟った、っていうのかな。


私は漠然と思った。

私は愛されてる。

だからもう、平気だって。


駐車場へ戻りながら、腕をくんで歩いていたら。

奏が急に立ち止まった。

「?…どうし…ひゃ!」

引き寄せられて、抱きしめられる。

大きな柱の裏側で、周りに人はいなかった。

「理緒…不安にさせてごめん。忙しくて構ってなくてごめん。…俺…」

突然の、謝罪。

泣きそうなほど、切実な声で…奏は言った。

「…ううん、いいんだよ。ごめんね、もう言わない。私、もう平気なの」

「……仕事ばっかりでかまってなくて」

「いいのよ、奏の邪魔したくないって、そう思ってた」

胸に顔をうずめたまま、回された腕の強さにぎゅっと胸が詰まる。

私、ちゃんと愛されてる。

「……だから、いつも気にかけてくれてありがとう理緒」

「ううん。奏のほうが私のこと気にかけてくれてる。…ありがとう、一緒にいてくれて。もう気を遣いすぎないで私らしくいく。平気だってわかったのよ」

微笑むと。

奏は私を泣きそうな顔で見つめて、もう1度、深いキスをした。


甘い香り。

柔らかくて暖かい感触。

腕から伝わる優しさと、燃えるような熱。

好き…この人じゃないと、もうだめなんだ。


「ん…」

奏が離れる。

顔を見上げたら、優しい笑顔で見つめられた。

「…俺のかわいいお姫様…理緒、かわいいよ」

「……照れます…」

またくっついて顔を埋めると、奏は髪を撫でてくれた。

どきどきが止まらない。

きゅんとする、切ないほどの感情。

私は奏が好きだ…。


時に淡く時に強く

照らされてこそ光る

それなのに、ねえ

何も見えない日もあるんだ


けれど、また、私達を照らすんだ。


不安のループに陥り、

私のこと好き?と、

聞きたくなることもあるでしょう。


喧嘩らしい喧嘩ではなかったけど、

2人には苦しい期間だったのでした。


お読みくださった方、

続けて読んでくださってる方、

ありがとうございます!

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