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「あら、あなたがエリーゼ様ですの? ジェイムズ殿下からお話は伺っていますわ。まあ、本当に珍しい髪色。ぼんやりとした色ですけれど、よく見たら水色でしたのね。わたくしはレティシア・グリント。どうぞお見知りおきくださいませ 」
「お初にお目にかかります。わたくしはエリーゼ・マルベールと申します」
しかし、次の瞬間には レティシアの関心は完璧にグレンヴィルに移っていた。
「グレン様。一昨日の歌劇、来てくださいませんでしたわね。わたくしが約束を破られるのは、もうこれで何度目でしょう? いくらなんでも酷いと思いますわ」
「約束なんてしてないだろ? レティシアがチケットを持ってきた時、俺は行けないって断ったよね」
「でも、わたくしは『いらっしゃるまでお待ちしています』と申し上げたではありませんか」
「だから、その前に行けないって言っただろ?」
「それでも、わたくしが待っていることはご存じだったでしょう? レディをずっと待たせるなんて……デリカシーに欠けますわ」
しばらく不毛な押し問答が続いたところで、グレンヴィルはため息をついて立ち上がった。
「話にならないな……俺は忙しいんだよ。ちょっと倉庫に行ってくる」
そう言い残すと、レティシアの返事も待たずに研究室を出ていった。
「また逃げられたわ」
閉じられた扉を不満げに見つめていたレティシアだったが、ふとエリーゼへ視線を移した。そして何かを思いついたように、にっこりと微笑む。
「……ところで、エリーゼ様はポワブール王国のフランシス王太子殿下のご婚約者でいらしたとか。それなのに、この研究所にいらっしゃるということは、よほどご事情がおありなのでしょう? よろしければ、お聞かせいただけませんこと?」
「えっ? お話しするようなことは、なにもございませんわ」
「ふふっ。無理に隠さなくてもよろしくてよ」
レティシアはにこやかな笑みを崩さない。
「わたくし、少しポワブール王国について調べてみましたのよ。そうしたら、フランシス殿下が血眼になってエリーゼ様の行方を捜していることがわかりましたの。ご実家のマルベール公爵家も総出で捜索しているとか。友好国でもありますし、初めはエリーゼ様がこちらにいらっしゃることをお知らせしたほうがいいかと思ったのですけれど――」
「……まさか、知らせたのですか?」
エリーゼの顔から血の気が引いた。
居場所を知られてしまえば、せっかく逃げ延びたというのに、ポワブール王国へ連れ戻されてしまうかもしれない。
「いいえ。もちろん、そんなことはしておりませんわ」
レティシアは、エリーゼを安心させるように微笑んだ。
「きっとエリーゼ様には、お辛い事情がおありなのでしょう? だからこっそりと国を出られた。そんな方を無理に連れ戻すのはお気の毒ですもの。ですから、エリーゼ様がここにいらっしゃることは、誰にも申し上げておりませんわ」
「まあ……ありがとうございます」
「いいえ。お気になさらないで」
レティシアはにっこりと微笑んだまま、続けた。
「ですから、エリーゼ様も少しくらい、わたくしに協力してくださいますわよね?」
「協力……ですか?」
「ええ。なかなかわたくしとの時間を作ってくださらないグレン様との仲を、エリーゼ様に取り持っていただきたいのですわ」
「えっ、わたくしが……? グレンヴィル殿下とレティシア様の仲を取り持つ?」
エリーゼは小さく首を傾げたのだった。




