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ヒグレのクニ  作者: L
二章 らぶきゅんのときめきワールド
29/34

二十五夜「乖離」


「えっと……お父さんを探しにきたの?」


日比野が、少女の身長に合わせるように身をかがめた。


「うん!!るーちゃんのパパしらない?」

「んー」


迷子か。

このヒグレのクニで?

それも、ここはラブの領域の中でもかなりの深部だ。

こんな幼い子が、怪物と出会うことなくここまでこれることはあるのか。


「ごめんねぇ……私たち、君のパパには会ってないかなぁ」

「そう……」


るーちゃんは、落ち込んでいた。

自分の求めている人物は、ここにはいないという落胆があったのだろう。

涙することはないが、少し困っていた。

人と出会えた。

求める答えはなかった。

そんな感情は、幼少の彼女にとっては複雑すぎた。


「日比野さんどう思う?」


日比野に対して小声ではなしかける。

久遠に敵かそうでないかの判別などできない。

だが、日比野の力であれば簡易的な判別はできるはず。


「泥の怪物じゃないね……人間だと思うよ」

「そうか……なら……」


猶更不思議だ。

どうやってここまで来たのだろう。

ヒグレのクニには、入口が多数できるのか。

だが、ラブが閉じ込めた対象を入口の近場に放置するとは思えないし。


「一緒にパパさがそ!るーちゃん」

「いいの!?」


日比野のその申し出に、少女は戸惑っていた。

うん、それが一番だろうと久遠は感じた。

少なくとも目の前に困っている少女がいるのは事実だ。

それを放置するのは、心が痛むどころの話ではない。

人間として何か欠如している気がする。


「ごめんね?久遠君、こんなこと言って」


日比野は、謝罪した。

自分たちは、そんな余裕のある状況ではない。

そんな中勝手に探すと言い出したのだ。

日比野は、自身の唐突な発言を恥じていた。

そして久遠をそれに巻き込んだことも。


「ううん、こんなことを無視するなんて無理だよ。とても立派だと思う。僕にはできない」

「……!へへっ……有難う。やっぱり優しいね、君は」

「……そんなことないよ」

「そう?君は君が思うよりずっと優しいと思うけどねー」


久遠のその言葉に、日比野は顔を赤くした。

そんな久遠を日比野は優しいという。

だが、久遠にとっては複雑だ。

自分はそんな人間ではないというのに。


「有難う、おねぇちゃん!」

「ううん、手を繋ごっか!るーちゃん!!」

「うん!!!」


二人は姉妹のように、仲良く手を繋いでいた。

凄いな。

自分にはあんなことはできない。

久遠はそう感じる。

彼女本来の性質なのだろう。

人を見て、それを助けることができる。

彼女が、あの能力を得たのもなんとなくわかる気がする。

彼女ならあのマップの力もうまく使いこなせるのだろう。


駅の広告がしばらく続く。

その中に、ずっとラブはいた。


「このおねぇちゃん!かわいい!!」

「やっぱり女の子だねぇ」


るーちゃんは、写真のラブを指さして興奮していた。

日比野は、そんな様子ほほえましそうにみている。


「久遠君はアイドルとかみるの?配信者とかでも別にいいけど」


日比野は問いかけた。

久遠がどのようなものに興味を持つのか素直に気になっていた。


「あんまりそういうものに興味を持ったことがないんだよな」


天谷は、グラドルとかアイドルのチェキをよく集めていた気がする。

なにやら眺めているだけでも幸せだと言っていた。

やはり自分にはよくわからない。

触れ合えることができなければ、何の意味がないじゃないか。


「えー?まぁ、そういうものなのかな?でもでも私の友達は大体好きだよ?どんな子がタイプぐらいあるじゃん?」

「んーーーー」

「はよはよ」


日比野の普段の友達を思い返す。

彼女の男友達は大体陽キャだしな。

タイプといっても、思いつかない。

うるさくなければ、それでいいかな。

あ、でも氷月みたいなタイプは怖くて無理かもしれない。


「優しい子が好きかな……やっぱり心が一番大事だと思う」


うん、これだな。

無難にいこう。

ガチで答えてドン引かれたら僕には耐えきれそうにない。


「ふーん」


日比野が黙ってしまった。

え、怖い。


「るーちゃんは?どんな子が好き?最近の子は早いからなぁ」

「クラスにね!!!足早い子いるよ!!!顔もかっこいい!!!」

「小学生はそうだよねぇ。おませさんだなぁ」


そんなことを話していると、周囲の風景が変わった。


「!!!」

「どこだここっ!」


ひたすらにテレビが並ぶ。

壁一面にテレビが並んでいた。

全ての画面が点滅する。

声が聞こえる。


「おかあさんだって!!!外にでたいの!!!!!」

「きみかわいいーーーー!!どこすみ?」

「君ならオーディションにだってとおるよ」

「オマエ!!!ぶりっこしやがって!!!!!きもいんだよ!!!!」

「なんでこうなって……」

「わたしじゃないわたしじゃないわたしじゃない!!!!」


ひたすらに情報が流れ込む。

頭痛が酷い。

みみがさんざめく。


「久遠く……」


日比野が、少女を守るように覆いかぶさる。

だが、その音量にくるんでいた。


「ひび……の」


だが、耳の痛みが止まらない。

どうすればいい。

壊すしかないのか。

でもこわしたら、ラブに気づかれる。

どうするべき。

そう考えているうちに、全ての画面が暗転した。

音も止まっていた。


「とま……っ?」

「なんだ?そこにいたの?」


画面のすべてに、眼が真っ黒にそまったラブが映りこむ。


「ひっ……!!!」


全身の毛が逆立つ感覚。

恐怖心が全身を掴むような。

そんな恐れ。

だが、そんなものを感じたときにはテレビは全て消えていた。


「……あれ?」

「元の場所に戻った?」


テレビは跡形もなく。

その場所は、もとに戻っていた。

誰もいない駅構内。

さっきとはうってかわって静寂だけが響く。


「おとうさん?」


一人の男性がそこにたっていた。

茫然となにも思考することなくたっていた。


「パパだ!!!」


少女は、喜び。

素直に父親の背中を追いかけた。

でも久遠と氷月はその違和感に気が付く。


「っ!!!!!」

「だめっ、るーちゃん」


るーちゃんの父親は既に住民へと変化していた。


眼から、黒い液体が零れ落ちる。

泥が、彼の体を包み込もうとしていた。

日比野が、るーちゃんの眼を隠す。

そうだ。

日比野、ありがとう。

こんな光景、まだこの子にみせちゃいけない。


「ぶぶううぅうあああああ」


結晶化した体が、崩れそしてまた再形成されていく。

彼の顔は苦痛に満ちていた。

それは、激痛なのだろう。

だが、彼にもう意識はない。

ただその痛みのまま暴れるだけだ。



「るーちゃん!」

「うぇ……」


日比野とルーちゃんを狙って結晶が飛来する。

まずい。

この距離では間に合わない。

どうすればいい?


「思い出しなよ。氷月ちゃんの技を」

「えっ」


また【彼女】の声が聞こえた。

そうすると同時に、技が放たれていた。


「これは氷月のっ……」


氷の蕾と、怪物の結晶がぶつかりあい弾かれる。

地面に結晶は転がった。


「ありがとう!久遠くん!」

「……なんだ……」


空中に、氷のつぼみが三つほど咲く。

【イツツの花】ではない。

劣化したなにか。

でも。


「これで充分だ」


腕を振り下ろし、放出する。


「ならあれもできるはずっ」


右腕に力を収束させる。

天谷は、右腕にガントレットを纏っていた。

氷月の能力を模倣できたなら、あれもできるはず。


「集まれ!!!」


黒い液が、右こぶしに集まった。

それは、固定化され石のように固くなっていく。

右こぶしを思いっきりブチ当てた。


「っ!!!!」


衝撃が、頭上まで伝わる。

だが、それは相手も同じだ。

泥の怪物の結晶が崩壊していく。

泥の体は四散し、崩れていった。


「……ありが……と」


消滅するなかで、彼は消えていった。

だが、久遠はそれに違う感触を覚えていた。

自分がいま殴ったのは、なんだ。


「日比野?」

「……ううん、大丈夫だよ。間違ってない」


日比野が、るーちゃんの眼から手を放す。

るーちゃんは、周囲を見渡した。

先ほどまでいたはずの父親がいないことを不思議に感じていた。


「あれ?お父さんは?」

「……」


どのような言葉を出すべきか。

こんなときに最適な言葉をだせるような、理性を久遠は持っていない。


「るーちゃん。お父さんは、さきに出口にむかっていったよ」


日比野は、優しい言葉でるーちゃんにかたりかける。


「ほんと!!?」


出口ときいて、るーちゃんは明るい顔をする。

久遠は、それは嘘じゃないのかと日比野の顔をみる。


「出口自体はそこにあるよ。多分倒したことと連動している」

「え?」


先ほどまでなかった駅の階段がそこにはあった。

確かになかったはず。

ルーちゃんの父親を倒したことでできたのだろうか。


「そうだ!るーちゃんね!!将来アイドルになるの!お父さんが褒めてくれたからっ!」


るーちゃんは、がさごそとポーチを漁る。

そこからだしたのは、二枚の紙切れだった。

ただ、やけに書き込みがある。


「これあげる!」

「なにこれ?」

「わーーーっ!」


そこには、「すーぱーあいどる るーのすてーし」と書かれた紙だった。


「かわいいい!!」

「るーちゃんね!!!アイドルになったらふたりのこと呼ぶね!!!最前列に案内するんだから!!!!」


自信満々に、るーちゃんは二人に手渡す。


「ありがとう」

「大事にするね」


これは、捨てられないな。

大事にしよう。

るーちゃんは、渡したことにとても興奮していた。

その興奮のまま、勢いよく二人と手を繋ぐ。


「いこっ!!」

「……うん」

「?」


日比野のその様子に、久遠は不思議に思う。

手を繋ぎ、階段を上る。

その階段はやけに長く感じた。

すぐそばなのに。

儚く、ぼんやりと感じた。

やがて外にでる。

手の中にあった、小さな感触はなくなっていた。


「え?」


後ろを振り返る。

前を見た。

彼女はどこにもいなかった。


「日比野?」

「………」

「気が付いていたのか?」

「うん……」


るーちゃんはきえていた。

彼女は、既に人間ではなかった。


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