二十四夜「探索」
久遠たちは、扉を開けて部屋からでた。
周囲に敵の気配は感じない。
ひょこひょこと、二つの顔が飛び出す。
「どう?日比野さん」
久遠は、周囲を警戒する。
警戒するといっても、所詮素人のものだ。
どんな場所に敵がいて、どんなところに潜んでいるのか。
全く久遠にはそれがわからなかった。
ともかく索敵には、現状日比野頼りだ。
「ちょっと待ってね」
日比野が能力を発動する。
周囲近辺のマップを開いた。
「うん……敵はいないかな」
「よし」
安全はある程度保証できたようだ。
少し心の中が緩まる感覚があった。
「でも一つ問題があるんだ……」
「……なに?」
今更なんだろうか。
ここにきて、問題が起きたというのか。
「私の能力は、あくまでなんとなくなの……敵の居場所はわかっても。詳しいその空間の広さや、距離なんかは実際に歩いてみないとわからない……の……」
彼女の言葉には、やけにつまりがあった。
なにか嘘をついてしまった。
そういったことに対して、恥ずかしさを感じているような。
「……それでもすごくない……?」
自分にはよくわからないけど、敵がいないという情報だけでもすごいことではないのだろうか。
正直、日比野の戸惑いがわからなかった。
能力なんてお互いよくわかっていないのだから、
「あっ……そうだよね!やっぱりマッピングあってこそのゲームだよね!」
「ごめん、それはよくわからないや……」
「……そう……」
元気になったようでなによりだ。
彼女にはなにやら拘りがあるようだ。
「つまり僕はどうすればいい?」
「敵の居場所はなんとなくわかるよ、移動するかなって位置も。だけどその部屋に入るまで」
「その部屋の形はまでわからないってことか……」
一度思考する。
だが、これに関しては誤差で済むだろう。
正直彼女一人の能力で、この空間の全てがわかるとは思っていなかった。
便利すぎる能力だなと思っていたが、今でもその認識は変わらない。
「怒ってる……?」
黙った久遠に対して、日比野が顔色をうかがう。
久遠はそれを優しく否定した。
「ううん、そんなことは全くないよ。むしろ頼りにしてるから大丈夫」
「本当!?よかったぁ……」
その言葉を聞いて安堵しているようだった。
「ともかく敵に気をつけながら歩くしかないってことだよね?」
「うん」
やるべきことが随分と単調になってしまった。
扉をしめて、息を吐く。
「緊張するね……」
「うん……」
ココから先は、未知の領域。
ラブがどれだけ自分たちのために罠を仕掛けているか全くわからない。
そう考えると、臆する気持ちがある。
だが、もう前に進むと決めた。
拳に力をいれ、脚を進める。
「天谷たちと合流しよう。そうすれば、多分うまくいく」
「わかったよっ」
日比野もそれには反論はなかった。
むしろ人が増えることを喜ばしいと感じていただろう。
天谷と日比野はそれほど関係はないが、氷月ならなんとかまとめてくれるか。
いや、そんなことはあとでもいい。
「今この状態で、天谷達の居場所はわかる?」
場所さえわかれば、猶更合流はしやすい。
明確な地点さえわかれば有難いのだが。
久遠の問いに、日比野は悔しそうな顔をしていた。
「いやーそれなんだけどね……なんかここじゃ……外の様子がわからないみたいなんだ。多分、ラブちゃんに妨害されているんだと思う」
「……そうか。仕方ないよ。気にせずいこう」
何でも都合よくうまくはずもないか。
久遠はそう納得した。
通路を歩く。
その通路は無機質なものだった。
むしろ見慣れているような風景だった。
「なんだろう……駅の通路みたいだね」
「うん……」
そう、その風景は駅の通路そのものだった。
だからこその違和感が凄い。
普段聞こえるべき雑踏がない。
人の気配がない。
それだけで、自分たちは異世界に存在しているのだと嫌でも理解できた。
「日比野さんは、よくこんな場所で何日も耐えられたね」
日比野は、現在学校にまで失踪が共有されている状態だ。
一週間以上か。
少なくともここ数日の話ではないだろう。
「えっと……能力を得るまではひたすら隠れていたかな。幸い、引きこもりでゲームをやるために買っておいた食料があったからそれで何とか持ちこたえてた」
そういって、日比野は鞄のなかからいくつかの携帯食料をみせる。
少し気になる文言があったが、無視しよう。
「へぇっ……!そのあとは?」
「能力を持てたのは、この世界に入ってからしばらくだったかな。いきなり普段やっているゲームみたいに変わったからびっくりしたよ。でもあの怪物の位置がみえるようになったから隠れるのは一気に楽になった」
再び彼女の眼が、円状に発光する。
「使いこなせるまでは、苦労はなかったかな。やっぱり慣れ親しんだ光景っていうのかな。いつもやっているゲームみたいにできる」
「そうなんだ……」
そうきくと落ち込んでしまう。
自分とはまるで違う。
天谷のように、感性と能力が一致していたのだろうか。
彼女は平然と能力を使いこなしていた。
「久遠君の話を聞いていい?」
「うん、いいよ」
最初に話すなら何がいいだろうか。
やはり氷月のことだろう。
「最初は、いいんちょ……氷月を追って。この場所に入ったんだ。そしたら天谷と一緒にあの怪物と出会って……食べられてー」
「食べられたの!!?あれに!?」
あれそうだな。
初っ端から死にかけているな僕。
「よく生きてたね……久遠君」
「……本当そうだよね」
よかった。
氷月と天谷が助けてくれて本当によかったよ。
「最終的には、不動さんと百合さんって人に助けられたんだ。その二人は両方ともこの場所についてよく知っている薄暮探偵社ってとこに所属していて。僕らもそこにいまいるんだ」
「薄暮探偵社……なんかかっこいいね!」
「やっぱりそうだよね!」
やはり日比野さんには、このロマンがわかるようだ。
天谷にも教えてやろう。
氷月は……いやきっと嫌な顔をするだろう。
彼女にこの情熱はわからない。
日比野には、しっかり薄暮探偵社の外見をみせてやろう。
もっとテンションがあがることだろう。
「ってことは……久遠君はこの場所二回目!?なんで!?どうして」
「あー」
そりゃそうなるよな。
死にかける思いをして、二回この場所にはいるというのは狂人に近しい。
何かしらの目的があると考えて当然だ。
本人を目の前にして説明するのは、気まずいがしっかり伝えるべきなのだろう。
「今回は、日比野さんを探しにこの場所に入ったんだ。もう君がいなくなって一週間以上はたってる」
「……えっ……」
その言葉をきいて、日比野が動揺する。
明らかに目が揺れ動いていた。
その言葉を信じられていない様子だった。
「日比野……さん。一応聞くけど、この場所にはいって何日たった?」
「えっ……三日とか……四日くらいじゃ……」
「違う」
やはり時間の流れが根本的に違うようだ。
最初あったときに思った。
あまりに消耗しなさすぎている。
彼女とは何かズレているような感覚があったのだ。
「君の両親は、探偵社に依頼を出しているし。その事実を学校にも伝えている。多分警察にも届けは出されていると思うんだ」
「……そう……」
やはり伝えるのが、早かっただろうか。
でもこればかりは、しっかり伝えなくては。
本人が知るべきことだ。
「なら!絶対帰らないとね!」
「……えっ」
「ん!」
凄いポジティブだ。
自分とは違う性質だということが理解できる。
自分が同じ境遇だと考えて、どうあがいてもこんなポテンシャルは持てないだろう。
「凄いね……日比野さんは」
「そんなことないよ。おかあさん、お父さんに心配かけちゃったから帰らないと。みんなが待ってる」
「うん、そうだよな」
この彼女の強さは尊敬もできるし、信頼できる。
心のなかで、本当に仲間になってほしいなと思う自分がいる。
ヒグレのクニを探索するなかで、彼女の強さは心から頼りにできるだろう。
「……もしもしっ!!!ぐみんども!!!!!」
そんな話をしていると、またラブの声が聞こえた。
「バレた!!?」
焦りが一気に募る。
あの部屋を脱出したことがばれたのか。
そうだとしたら、かなりまずい。
ラブが事前にいっていた怪物の群れがここに一気に迫ることになる。
「いや違う……」
だが、日比野がそれを否定した。
能力で周囲を確認する。
そしてその画面にも、視線を向けた。
「広告なんだ……これは」
「私の配信は、夕方五時から深夜まで!!ぐみん共待ってるぞ!!!」
「ほんと……だ」
緊張が一気に緩まる。
その場に倒れこみたい気持ちになった。
駅にある大型の液晶モニター。
そこにラブは映っていた。
周囲には、周年ポスター。
等身大フィギュア。
広告にまつわるあらゆるものが並んでいた。
「周年って書いてあるけど、ラブって現実でも配信とかしていたのかな?」
少なくとも久遠は一度もラブのことをみたことはなかった。
配信者としても、似たような声は一度も聞いたことはない。
活動をしていたのかすら怪しい。
「うーん、私もネットはかなり見るけど。ラブちゃんと似た子を思い出せないんだよね」
「そうか……」
やはり日比野もわからない様子だ。
猶更考え込む。
ラブは明らかに配信が関わった人物だ。
それなのに、一度もネット上で見たことがないというのはどういうことなのだろう。
おまけに泥の怪物を『ぐみん』と呼ぶ。
そしてその能力は、住民を操る能力。
頭のなかでなにかがつながりそうでつながらない。
ラブの正体は一体なんなのだろうか。
日比野につんつんと肩をつつかれる。
「ねぇ……ねぇ……久遠君」
「ん?」
「あ。あれ……」
「あたしねー!るーちゃんっていうの」
「え?」
後ろを振り返ると、少女が立っていた。
ラブやコグマ―のような気配ではない。
かといって泥の怪物のような圧迫感でもない。
幼いただの少女がそこにたっていた。
「お父さんいなくなっちゃったから探しにきたんだ」




