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それから数日後。

待ちに待った(?)アルビス公爵一行が村に入ったとの報せが走った。村長や主要な農家の人たちが慌ただしく動き出し、通りに花を飾ったり、出迎えの準備を進めたりしている。

「ほらほら、リリエさんも来て! 領主様にご挨拶しないと!」

マーサが元気よく声をかけてくるが、私は内心気が重かった。


「どうしよう、正直あんまり会いたくないわ……」

「でもさ、村人みんな揃って挨拶するから逃げられないよ? ルナちゃんが自分だけ行きたいって言ってるし」

「そ、それは……」


確かにルナは「公爵様ってどんな人? キラキラしてるの?」と興味津々だ。こんな小さい子の好奇心を無理やり抑え込むのも可哀想だし、私が拒否する理由を説明するのも難しい。

(はあ……仕方ない。できるだけ目立たないようにして、さっさと終わらせましょ)


そんな決意を固めていると、村の広場に何台かの馬車が到着するのが見えた。

中から降り立ったのは、淡い金髪を持つ――まだ三十代前半くらいの、見るからに柔和な雰囲気の男性。これがアルビス公爵、カイル・アルビス本人か。

カイル公爵は周囲を見回し、にこやかな笑みを浮かべた。


「こんにちは、みなさん。はるばる辺境まで来させてもらったけど、ここは自然が豊かで素敵な場所ですね」

その軽やかな挨拶に、村人たちからも「おお、気さくな方だ……」と囁く声が。よくある高圧的な貴族のイメージとは違う。私も思わず拍子抜けする。


「そちらが村長さんかな? どんな様子か詳しく聞かせてほしいんだ。領地の治安や産業を見て回るのが目的だからね」

「こ、こちらこそお迎えできて光栄です! ダリヤ村長と申します。どうぞうちの村を見ていってくださいませ」


村長が頭を下げると、カイル公爵は「そんなに畏まらなくていいよ」と柔らかく手を振る。

――伯爵家とは違う、なんともゆるい雰囲気。周囲も微笑ましく見つめているが、その後ろでゲルハルト騎士が厳つい顔で控えているのが気になった。

(あれ……騎士さん、村で見かけたときよりもさらに警戒してるような……?)


「さて、では早速村を案内していただきましょうか」

カイル公爵がそんな調子で話を切り出す。私たち母娘もマーサに促されるまま、おずおずと広場に近づいた。

すると、子ども好きなのか、公爵がルナに興味を示して話しかけてくる。


「やあ、君はここの子かな? 名前はなんていうんだい?」

「……ル、ルナ、です。ママと住んでます」

ルナは少し緊張しながらも、目をきらきらさせている。

「そうか、ルナちゃんか。なんだか賢そうな子だね。これからこの村のいろんなところを見せてもらうけど……ルナちゃんも一緒に来るかい?」

「え、いいの!? 行く行く!」


思わずガッツポーズする娘。――やめて、母としては遠慮したいのに!

「え、えっと、公爵様、ルナがご迷惑をおかけしてはいけませんから……」

「あはは、大丈夫。うちにも小さい子がいるから慣れているよ。――よかったら、あなたも一緒に案内してもらえると助かるな。村長さんだけじゃ話しづらいこともあるだろうし」


穏やかな笑顔。でも私は知っている。貴族というのは、どんな柔和な顔をしていても“本心が見えない”のだ。

(この人は本当にただのフレンドリーな領主? それとも何か別の意図が……?)


同時に、カイル公爵の傍らに立つゲルハルト騎士の視線が、ルナをちらりと捉えたのを見逃さなかった。

(ああ……どうなるの、これ)

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