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あの星を守れ(4)

「諸君の任務は種子島宇宙センターから準天頂衛星QZSSを搭載したH-5ロケットの打ち上げを守ることである。現在準天頂衛星は本来の3機から1基中国軍の撃墜によって損耗し2基となり、QZSSによる精密測位ができない時間が生じ、それに依存していた民間の物流ネットワークが混乱をきたしている。その解消のために代替機を打ち上げることになった。しかし中国空軍がそれを阻止に飛来するとの情報がある。諸君はそれを撃退撃滅するのが任務である」

 百里基地ブリーフィングルームのスクリーンに状況図が表示される。

「中国空軍はアーセナルバード、空中無人機母機を投入してくるだろう。また中国海軍は現在空母を2隻運用していて、うち1隻が種子島方面に出動することが想定される。海自も〈いずも〉機動群と潜水艦で迎え撃つ。すでに哨戒機が展開し、中国海軍の動静を探っている。諸君は他の基地航空隊とともに任務を完遂せよ」

 作戦説明が行われた。

「H-5の打ち上げ予定時刻は1005時。JAXAとの申し合わせで通常時の飛行制限空域への侵入を想定し、今回は制限空域は打ち上げ軌道周辺を除き設定されない。中国空軍もそれを知って肉薄してくるだろう。なんとしても阻止してくれ」

 それにどよめきが起きる。

「H-5が切り離した使用済みロケットの落下に巻き込まれる危険はどうするんですか」

 説明する幕僚が一瞬言いよどんだ。

「そうなる前に決着させてほしい」

「なんですかそれは」

 どよめきが高まる。

「まあ」

 飛行隊長が口を開いた。

「危険は承知なのが我々戦闘機パイロット稼業だろ? 今更公務員みたいなことはいいっこなしだ」

 どよめきが苦笑に変わった。当然彼ら空自戦闘機パイロットも特別職国家公務員である。それで緊張が一旦ほぐれた。さすが隊長らしい人心掌握である。AIやステルスの時代でもこういう現場を支えるのは人と人なのだ。

 しかし、それが強みでもあり、弱みにもなる。そのことを皆、予感もしていた。



 種子島周辺は晴れているようだったがその途中に寒冷前線があり、大気状態の悪い中を彼らFー3戦闘隊は進撃することになる。パワフルなエンジンを持っているとはいえ飛行機は飛行機、大自然には勝てずに少し揺さぶられる。それに飛行姿勢制御システムが目まぐるしく動翼を動かして少しでも振動を減らそうと働く。もし生きた神経があれば疲れてしまいそうだが、フライバイライトで働くシステムには疲れはない。

 そしてF-3の編隊のように見えるのだが、なんとバイパーゼロと呼ばれたF-2がその前に先行している。しかしそれにはQF-2という名が与えられていて、そのとおりにそのコックピットは無人化されている。そう、F-2はこの時代、F-3やF-4が搭載しきれない武装を搭載する無人戦闘機となったのだった。当然それもAIに制御されている。

 民生品でもAIの活用は言われてきた。そして多くのアシスタントシステムとして導入され、人間の職を奪っていた。だが人間が仕事をせずに暮らせる世の中は訪れなかった。AIにできない創造的な職場にではなく、AIを組むまでに至らない職場に人間が追いやられただけだった。そしてそこまで小説でディストピアしか描けない時代が続いていた。現実がひどい有様だったのでそれは仕方がなかった。多くの人間が異世界転生ストーリーを書いたのだが、それに食傷した頃に現れたのがAIの執筆する小説だった。著作権法を改正してAIなどの開発を加速するはずが、その抜け穴をついてAIが創造するのではなく適応する性質を使い、人々にとんでもないバリエーションをもったストーリーを提示するようになった。アニメや映画にならないテキストベースの物語はほとんどそうなり、読む人が少ないのに呆れるほど多くのストーリーが供給されてしまった。それによって多くの書き手が生活できなくなり、趣味道楽で書く人々ですら絶望するほどの時代になった。特に著作権法ではアイディアは保護されない。そしてアイディアをストーリーにする能力は人間よりもAIが勝るようになってしまい、ストーリーのアイディアの価値も下がったのだった。それでも書く人がこの時代にいるのはもう虚しさと戦っているというより、一種の病というか業としか言いようのないものなのだった。

 逆に言えばそういった安全な仕事から人間が駆逐され、こういう戦闘機パイロットのような命がけの仕事、もっといえば一種の肉体労働に人間がまだいるのが皮肉な話である。無人機同士の戦いで済みそうなものなのに有人戦闘機があるのは、公式な理由は最後に人間が判断する必要があるとなっていたが、よく考えれば高性能センサーでそれも足りる時代にそれなのは、戦争がどうやっても人間同士の殺し合いであることを反映しているのかもしれない。パイロットにとってはそんな無駄に深く考えることは全くどうでもいい話なのだが。


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