No.20
No.20
引き続き家の中を歩き。誰かしら居ないかを確認して回る。
そしてひとつの部屋へとたどり着く。
「執務室か……」
ノックはせずにそぉーっと扉を開けーーーようとしたら扉が勝手に開いた。
「どうかされましたか? デュオさま」
「シェルティ……」
どうやらウチの万能メイドシェルティが、俺が扉の前に居ることに気がつき。扉を開けたようだ。
こっそり観察が駄目になってしまった。仕方がない。ならば作戦変更だ。堂々と観察すれば良い。
「今日はちょっと暇だから、みんなの様子を見て回ってるんだよ」
「そうでした。ここには私とご主人しか居ませんが、それでもよろしいですか?」
「……うん。仕事の邪魔はしないよ」
相変わらずナチュラルにユーリ父さんをディスるな……。そんな二人が一緒の部屋で仕事……。見たいような見たくないような心境だよ。
「お邪魔しまーす」
「やあデュオ。珍しいね、この部屋を訪ねるのは、どうかしたのかい?」
「うん……今日はなにもすることがないから、散歩も兼ねてみんなの様子を見て回ってるの……」
「そうなのかい? あははは。パパは見ての通りちょっと書類仕事が多くてね。手が離せないんだ。ごめんよ」
「ううん。いいよ。お仕事頑張って」
「ありがとう」
部屋に入った途端にユーリ父さんに声を掛けられる。
俺はその声のする方を見て唖然とする。
なにしろ机の上には山と書類が乗せられていた。
あんな書類の束。フィクションの世界にしかお目にかからないぞ!?
それにあれがちょっと!? ちょっとって言うレベルじゃないぞ!?
「これいつもなの?」
「いつもじゃないよ。今回は秋の収穫の見込みと。そこから冬に備えての必要な備品などの算出もしなくちゃいけないからね」
なるほど。両方いっぺんに来たと言うことか。
「……あとデュオが作った料理や遊具などの利益計算もしなくちゃいけないかな」
「……ありがとうございます」
事務方は苦手なので助かります。
「お礼を言うのはこっちの方だよ。今回はデュオのお陰で領地が黒字経営でいけそうだからね。村の人達にも楽をさせてあげられるよ」
けっこうやらかした感は自覚してるんだが、それでもみんなの役に立ったんならよかった。
で、あっちの万能メイドさんはなにあれ?
シェルティの方にも書類は在るのだが、その捌きが凄い。
シュバババババッ! と両手を使って書類を瞬時に分けているのだ。
なんかああ言う宇宙人がいたな。黒い男達のやつに。
「こちらは終わりました。こちらは今回不要と判断したものです。そしてこちらが領主である、あなたの最終判断の採決が必要なものです」
「ありがとうシェルティ。いつも助かるよ」
ユーリ父さんの爽やかイケメンスマイルでシェルティを労うが、当のシェルティは物凄く嫌そう表情を見せる。
うわぁ……あんな嫌そうな顔はじめて見たよ。
「礼は不要です。これは職務です。ではこれで他の業務へと移らせて貰います」
シェルティは一秒でもここに居たくないと言うように部屋を出ていった。
「……なんでシェルティはユーリ父さんの事をあんなに嫌うのかな?」
まあ理由はノイッシュ母さんなんだろうけど。それにしてはと言うのがある。
シェルティならどんなに嫌いな相手でもそうした態度は見せないと思うんだけど?
「シェルティからママをパパが取っちゃったからね。それでも態度は大分軟化してくれたんだよ」
あれで!? 気の弱い子ならトラウマもんだよ!?
「……ルージュが生まれる前は、毎日パパはシェルティに殺されるかと思ったよ……」
すげぇな。そこまでしてノイッシュ母さんと一緒に居ようって気になったユーリ父さんが。
「それでもママと、今はルージュやアルやデュオ。それにテリアやコリーにバルガス。勿論シェルティ達と一緒に居られることが何よりも嬉しいことだけどね」
何やら恥ずかしい台詞を平気で言うユーリ父さんに背筋が痒くなってきた。
「さて、これで今日の事務処理はお仕舞いっと」
ユーリ父さんも何気に仕事が早い。
シェルティが仕分けた書類を即読みで確認して、問題なければサインをしていた。
「体が少し固くなったかな。パパはこれから外で軽く体を動かしに行くけど、デュオはどうする?」
「うーんと、今日は暇だから見に行く」
まだ見ぬ人のところへ行くのも良いが、ユーリ父さんを労うためにも一緒に行くか。
なにしろ良く見たら、殆どが俺のやらかした件の書類ばかりだったからな……。親子のスキンシップをはかり。労いはしておこう。
「デュオ。パパ。二人ともどうしたの?」
庭に出るとルー姉が木剣を持って素振りをしていた。
この姉さま……朝は朝でユーリ父さんの訓練受けて、その足で村の自警団の訓練にも参加しているのに、まだ鍛え足りないのか? あんまり鍛えすぎると、ただでさえ脳筋に成り掛けてるのに、嫁の貰い手すらなくなるぞ?
「なにか言いたそうね」
「……よくそんなに動いてられるね」
「フフン。これくらい動けなきゃ魔法騎士には成れないわよ」
何かを察知したように俺に疑惑の目を向けてきたので、無難な答えを言うと、ルー姉は何を当然な事をと言うように胸を反らし言ったのだった。
そして一人で訓練していたルー姉は、体を動かしに来たユーリ父さんと共に、剣の打ち合いを始めた。
俺はそれを黙って見学している。
だって剣のことなんてさっぱりだもの。
しかし見学していると素人考えではあるが、ふと考えが過ることある。
「……場所によっての訓練とかしたりしないのかな?」
そんなポツリと呟いた俺の一言にユーリ父さんが反応した。
「どう言う事だい?」
ずげぇ! ルー姉の猛攻の剣を往なしながら聞きに来たよ!? 流石魔法は下手だけど剣の腕はそれなりに持ってるって言ってただけはあるな。俺ならあの猛攻に一合も持たないよ。
「戦う場所って常に自分に有利な場所とは限らないでしょう? だからそうした場所に行っての訓練はしないのかなって」
「行軍遠征のことかい? 騎士ではそうしたことがあるって聞くよ。ルージュ。攻撃が通らないからって無闇に打たない。それで好転することは少ない」
「そう言うのもあるだろうけど、ボクが言ってるのは平地だけじゃなくて山林や岩場と言った場所での戦い方はしないのかなって」
「デュオは冒険者のような考え方をするね」
「そうなの?」
少数で行動する場合もある冒険者は、そう言った場所を探索した時に戦闘を行ったりする場合もから、その場所にあった動きを身に付ける必要があるそうだ。
だから冒険者によってはその場所のエキスパートな人もいたりするって話だ。
「はあ、はぁ、つ、強くなれるならなんでもやりたいわ!」
「ダメだよ。そうした場所での戦い方は一朝一夕には身に付かないからね。最低でも一ヶ月、二ヶ月は集中してやらなきゃいけないからね」
「むぅ……」
貪欲に求めるなぁ。
「別に行かなくてもここでやれば良いんじゃない」
「どう言うことよ?」
一旦休憩に入ったため、ルー姉も会話に参加してきた。
俺はルー姉の疑問を解消するため魔法を使う。
使う魔法は土属性魔法【土塊】と鋼属性魔法【変形】の二つ。
この二つを使い。ジオラマみたいにしてアスレチックな遊具が立ち並ぶ。SINOBEみたいなものを作ると。
「こんな小さくてどうやって訓練するのよ?」
「これで訓練する訳じゃないよ。こうしたものを作ったらどうかと言う模型だよルー姉」
「へぇーずいぶん変わったものがあるね。これは何だい?」
「これはねーーー」
俺はそうしてユーリ父さんやルー姉に、この模型の概要を説明した。そして。
「デュオ! すぐ作りなさい!」
「いや無理だから。このサイズだからパッと作れるけど、実寸の大きさにしたらすぐには無理だよ」
ルー姉が大変ご興味を持たれ。俺に作れと言ってきた。
こんなの一人で作っていたら、いったいどれくらい掛かるやら分からないじゃないか。それをルー姉は一瞬て作れると思って無茶を言うんだから。
しかし俺がルー姉に逆らえるわけはないので、なんとか打拠点を見つけ。林に見立てた、支柱が多く立ち並ぶものを作り上げた。
「……すいません。これで勘弁してください」
「その見本の一部だけじゃない。……まあいいわ。これでどうするの?」
「支柱は足幅の広さがあって、端が低く真ん中が高くなってるから、足場の悪い場所での足運びの練習をするのも言いと思うよ。それと地面の方では支柱同士が乱雑に立ち並んでいるからその間で剣を振るなんて言うのも良いんじゃないかな?」
言うが早い。と言うか半分くらい説明を聞いたらルー姉は飛んでいくように支柱へと向かっていった。
「山なりにできた支柱の林か……。これは自然ではない形だけど良い訓練にはなりそうだね」
「そう? なら良かったけど」
「ルージュ。不安定な足場での歩き方を今度教えるから今は止めなさい。今日は取り合えず、支柱の中でどれだけ自分の剣が振れるか試してみなさい」
ユーリ父さんに言われ。ルー姉は剣を振るう。
それはユーリ父さんに教えて貰った剣の型であるが、剣を振るおうとする。体を動かそうとすると支柱に邪魔され思うように動かせなくなる。
何度も何度も試している内にルー姉の動きはコンパクトになっていく。
動きが小さくなった。と言うよりはより洗練された動きと言うように感じる。
「障害物がある時はより小さく。より鋭く動くこと。それを突き詰めれば最小の動きで最短の動きが取れるようになる」
ルー姉はコツを掴んだのだろう。今度は支柱の中を動きながら剣を振り始めた。
剣の才能に関しては天才的な人だなぁ。もう支柱の林の中で剣を振り回せるんだから。
俺はルー姉の剣の才能に驚き。自分にはそうした才能をきっと持っていないであろうと少し嫉妬し。ユーリ父さんとのスキンシップはそれほどなかったが、俺はそろそろ別の場所へと向かうことに決めた。
「じゃあボクはそろそろ家の中に戻るよ」
「面白い訓練施設を考えてくれてありがとう。でもあとで元に戻しておいてくれるかな。シェルティが怒るからね」
「わかったよ」
そうして俺が立ち去ろうとすると。
「デュオ!」
ルー姉に呼び止められる。
まだ何かご注文でもあるのかと少し嫌そうな顔で振り向くと。
「また少し強くなれた感じがするわ。ありがとう」
人を魅了するような天真爛漫とした笑顔でお礼を言ってきた。
俺はルー姉のその笑顔に魅せられ一瞬思考が真っ白になる。
「デュオ?」
「え? ああうん。どういたしまして」
「またこう言うのを思い付いたら作りなさいよね」
「許可が出たらね」
「じゃあ許可をもらうから作りなさいよね」
「はいはい。わかりました」
そう言ってなんでもないようにして立ち去る。
……たまにああ言う顔を見せるんだから女と言うのは怖い。
姉であり。少女であったとしても、人を魅了させるだけの破壊力ある表情を見せるのだから。
まったく仕方ないな。暇がある時にどこか人の迷惑の掛からない場所を見つけ。コツコツ作っていこう。
因みに残り一人のテリアを観察して見たが、なんの面白味も見つからなかったので、ここでは割愛させて貰った。
次回の更新は2月3日となります。