高文5
お試しで付き合い始めた、と聞いた時は悠里ちゃんを諦めた方がいいのかな、と思った。
悠里ちゃんは割と単純だから、お試しでも付き合うということは殆どOKしているようなものだ。悠里ちゃんがレズビアンなら、さすがに僕の気持ちは報われなさすぎる。
とは言え、すでに一年ほど考えて悩んだり他の女の子のことを考えてみても自覚した以上悠里ちゃんのことしか見えなくなっているので、すぐには諦められそうにない。
悠里ちゃんなんて、冷静に考えたらまだ子供でそう女性的魅力があるわけでもないのに、どうしてか肩が触れ合うだけでドキドキする。手を繋ぐのなんて昔散々していたのに、今更ときめいてしまう。
手を繋ぐのなんて今までの恋人だってくすぐったいくらいで、特別に意識はしなかったのに。まあ常に恋人より悠里ちゃんを優先してたわけだし、悠里ちゃんだから特別なんだろうけど。
というか僕、悠里ちゃん好きすぎるだろう。落ち着いて考えたらちょっとキモいレベルだぞ。結構昔から悠里ちゃんを優先してるし。
子供とはいえ、去年よりずっと、ぐっと女の子っぽくなった気がする悠里ちゃんがいつもと変わらず部屋にいる。
それはとても、蠱惑的な事実だ。隣で彼女が笑うだけで抱きしめたくなるのを我慢するので、僕はいつもいっぱいいっぱいだ。
夏休み最後の日、と言っても僕は何だかんだでお盆以外は仕事があるので悠里ちゃんみたいに遊びまわることはないけど。頻繁に悠里ちゃんが遊びにくるので、それだけで夏休みが終わることは残念に思ってしまう。
「ん……え!?」
部屋に入って電気をつけて鞄を小学生の時から使ってる勉強机に置いて、違和感を感じて振り向くと悠里ちゃんがいた。
ベッドの隅っこで掛け布団のタオルケットにくるまって体育座りをしてる悠里ちゃんに驚いたし、小さなその姿は何だか見ていて悲しくなる。
「え…なんで、っていうか、電気くらいつけなよ」
何かあったんだろう。悠里ちゃんには無理矢理聞き出しても意味はないから、ネクタイだけ外して片付けをするふりをして悠里ちゃんから話し出すのを待つ。
「ねぇ」
「ん?」
「今日も、お仕事だったの?」
「うん。そうだよ。明日から始まるからね、学校で準備とかしてた」
「ふーん…まだ、お仕事ある? 私、邪魔じゃない?」
「仕事はないよ。それに、僕が悠里ちゃんを邪魔に思うことはないよ」
「……」
仕事があったとして、悠里ちゃんより優先するほど大事なことじゃない。こんな風に他の全てより優先したいと思うのは悠里ちゃんだけど、本当に昔から僕は当たり前に悠里ちゃんが好きだなぁと自覚する。
「ゆ、悠里ちゃん?」
「……」
そんなことを考えていると後ろから悠里ちゃんが僕に抱き着いた。あまりに強く抱き着くから一瞬、その柔らかい体に目眩がしそうだったけど、彼女が苦しんでるのがわかったのですぐにやましい気持ちは何処かに行った。
僕は悠里ちゃんに恋をしているけど、同時に彼女のお兄ちゃんだからこんな時には変な気持ちにはなりようがない。
「悠里ちゃん? どうしたの?」
「……ちょっとだけ、甘えていい?」
「…いくらでもどうぞ。とりあえず移動しようか」
「…ん」
できるだけ優しく声をかけると、悠里ちゃんがそんな珍しいことを言う。
とりあえず落ち着いて話ができるよう、いつもの位置に移動する。でも悠里ちゃんは僕の背中から離れず、後ろから覆いかぶさるように抱き着いてくる。
顔を見られたくないのだろうけど、ちょっとドキドキする。僕、結構汗をかいたけど臭くないかな。
「はぁ…」
「悠里ちゃん…何があったの?」
気をとりなおして尋ねる。
悠里ちゃんは弱気でため息混じりに、呟くように答える。
「酷いこと言っても、嫌いにならないでね」
そんなことは、ありえないよ。
悠里ちゃんは以前に言っていた、友人からの告白を改めて断ったこと。それについて語った。
それにとても罪悪感を持っていて、苦しんでいて、酷いことを考えていて、そんな自分に自己嫌悪していることが悠里ちゃんの言葉から伝わってくる。
悪くないと言いながら、悠里ちゃんはますます僕に強く抱き着く。
きっと怒って欲しいんだろうな。怒って、どこが悪いか、どうすればいいのか、教えてほしいんだろう。
僕には彼女の気持ちがよくわかった。
「悠里ちゃんは、悪くないよ」
「…え…?」
それでもまず口から出て来たのは肯定の言葉だった。悠里ちゃんなりに頑張って考えたのは事実だから、否定したくなかった。
だから彼女の好きにすればいいんだよと言ってから
「ただ、悠里ちゃんは少し勇気がなかったね。意気地無しだ」
「…え?」
と、一つだけ思い当たる叱る要素を言った。
腕をさげて顔をあげた悠里ちゃんと目があう。涙にぬれてキョトンとした顔の悠里ちゃんの姿は珍しくて微笑ましいような気にさえなった。
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