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「悠里ちゃんは、悪くないよ」
「…え…?」
怒ってくれないの?
違う、慰めてほしいんじゃない。それは嬉しいけど、それだけじゃ私はますます駄目なやつになってしまう。
「悠里ちゃんはちゃんと考えて返事したんでしょ? 断って、恨まれても嫌われても仕方ないって覚悟して決めたんでしょ? 君の人生だ。君の青春だ。君が好きに選べばいい」
まさに言って欲しい言葉で、自己中な私が求める答えそのもので、泣きそうだった。
「ただ、悠里ちゃんは少し勇気がなかったね。意気地無しだ」
「…え?」
涙がひっこんだ。腕の力を抜いて顔をあげる。顔だけ振り向いた、苦笑するみたいに眉尻をさげて微笑むお兄ちゃんと目があう。
「最初ははっきり断ってたんでしょ?」
「う、うん」
「でも強く言われたから考えなおした。悠里ちゃんは本当は結論を出してたんだ。でも悠里ちゃんはその時にまだその子を傷つける覚悟がないから、頼まれて断れなくなってずるずる引き延ばしたんでしょ」
「…うん」
「誰かを傷つけたら、特に大切な人が相手なら、同時に自分も傷つく。悠里ちゃんはそれが恐くて、勇気がなくて、言われるまま付き合おうとしたんだね」
「…そう、なのかな」
押しに弱い自覚はある。
葉子ちゃんと付き合ったら楽しいかも、とは思ったけど、それでも最初は断るつもりだった。そういう理由なのかはわからない。
でも…そういえば武君の時も付き合おうかな、と思ったしさらに前は言われるまま付き合った過去もある。
「悠里ちゃんに勇気がないから、その子は余計に傷ついたかも知れないね。そこは反省しようか」
「…うん、そう、だね」
話は聞いていたけど、殆ど頭を素通りした。注意された、ということがたまらなく嬉しかった。
私を気遣って何もかも許すのでなく、私の改善点を言ってくれた方がずっと気が楽になる。だって自分ではどうすればいいのかわからない。
それに、注意されたということは、されなかったところは慰めでなく本当に問題がないとお兄ちゃんが思ってるということだ。
決断が遅れて葉子ちゃんを振り回したことは本当に申し訳ないけど、私の決定は間違ってなかった。遅くなったけどちゃんと正しい選択をしたんだ。
「っ、口」
涙がまた出た。でも今度は悲しみや混乱や自己嫌悪からじゃない。安心して、安堵から涙がでたんだ。
「悠里ちゃん、泣かないで。その子は悠里ちゃんを許してくれなかった? 酷いって詰った?」
私は首を横にふる。
「よ、こ…葉子、ちゃんは…私に優しいって、言って、許して、くれた。友達、って」
「じゃあそれでよかったんだよ。傷ついたかも知れないけど、その子はちゃんと納得してくれたんでしょ?」
「ん…うん」
「なら悠里ちゃんも納得して自分を許さないと。その葉子ちゃんも、悠里ちゃんが自分を責めるのは望んでないよ。それにそんなんじゃ、友達として振る舞えないでしょ? 悪いと思うなら、その子が求める友達の悠里ちゃんとして自然に接するのも一つの謝罪になると思うな」
「…うん、わがった」
もしかしたらすぐには葉子ちゃんも切り替えられないかも知れない。でも葉子ちゃんも私と友達でいたいと言ってくれた。
ならちゃんと友達として、やり直さないと。それが私にできる一番誠実な答えだ。
自分には自信がないけど、お兄ちゃんが言ってくれるなら大丈夫だ。お兄ちゃんが言うなら素直に信じられる。
「ありがとう、お兄ちゃん」
ぎゅうってまた抱き着いて、ほお擦りする。ちょっとだけちくちくする。
「ヒゲ痛い…」
「あー、朝ちょっと慌ててたから。本当は毎朝しなきゃいけないんだけど、たまに忘れるんだよね」
ぱっと見はわからないから私の中のお兄ちゃん像にヒゲはない。だからちょっと違和感だけど、ちょっと楽しい。
「んーふふ」
「ゆ、悠里ちゃん。女の子なんだからそういうことしないの」
「やーね、お兄ちゃんじゃなきゃしないわよ。ねぇお兄ちゃん」
「…なに?」
「ん? うん、あのねぇ…えへへ、大好きよ。本当にありがとうね。私、お兄ちゃんがいてくれていつも助かってるし、楽しいわ。いつも付き合ってくれてありがとう」
優しいからついつい図々しくなってしまうけど、お兄ちゃんは本当の私のお兄ちゃんじゃない。なのに遊んでくれてゲームくれてお菓子くれて、いつだって困ってる時は相談にのってくれて、いつも私の心配をしてくれる。
本当に、感謝してる。ちょっと女癖が悪いっぽいけど、私にはとにかく優しいから本当に大好きだ。
「…うん。僕も悠里ちゃんが大好きだよ。愛してる」
「……ん、ありがとう」
何と言うか、真顔でこんな至近距離で言われるとお兄ちゃんが相手でもちょっとドキドキしちゃうな。近づいてるのは私だけど。
ん? ていうかお兄ちゃんでドキドキする? …ということは、葉子ちゃんや武君のことはほんっとうに私、全然全く恋愛対象に入れてなかったんだなぁ。
あれだ。三歳くらいの幼児にお姉ちゃんと結婚するーって言われたら大きくなったらねって了承するし、恋人になってって言われたらキスくらいしてデートごっこも付き合うけど、全く数に数えないし本気にはしない、みたいな感じか。
同い年なのに。物心つく前ならともかくちゃんと自我も意思もしっかりしてる相手をそんな風に扱うなんて、かなり私何様って感じだよね。
でも悪意があるわけじゃないし、これは意識しても変えられないからなぁ。年をとるしかないよね。というか…私、死ぬまでに恋愛できるのかな。
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今回の更新はここまでです。たまっていたので一気に5話でした。
次は高文視点で、82と83に対応してるので2話にわけてますが、更新は一度にしておきます。
明後日からはまた一話ずつ更新です。




