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エピローグ

 

「ここが王都か……さすがにでっけえなぁ」


 乗合馬車を降りた俺は、王都の大きさと人の多さに圧倒された。

 俺の故郷はひどい田舎村で、町って言えば隣町の、村がちょっとでかくなった程度の大きさだった。けど、ここでビビってちゃ話にならない。俺は荷物を背負い直すと、目的地に向かって歩き出した。

「しっかしいろんな店があるもんだな。ちょっと腹が減ったけどどこに入っていいものやら、さっぱりわかんねえや」

 ぶっちゃけ、手持ちの金は多いとはいえない。

 表通りの立派なレストランなんかにうっかり入ったらえらいことだ。俺は路地裏に場末の店でもないかと足を踏み入れようとした。

 そのとき、女の子の声が耳に飛び込んで来た。


「ちょっと、何すんのよあんたたち! 返しなさいよそれ!」

「なんだあ、俺たちゃ貴族だぞ? 庶民のガキが逆らうんじゃねえよ」

 見ると、俺と同い年くらいの少年が三人、一人の女の子を囲んでいる。一人が手にしているバスケットは、その娘のものだろう。

(貴族の子弟、ってやつか。着てるものでわかるな)

 少年たちと違い、女の子の方はなるほどこざっぱりはしてるけど、庶民って感じの服装だ。

 それに、あの連中も女の子のものを取りあげるというよりは、困らせてからかっているって感じに俺には見えた。あんなふうに絡まれたら、普通なら竦み上がって泣きだすところだけど、その少女はなかなか気が強く、憤慨して必死にバスケットを取り返そうとしている。

 その姿は、俺にある人のことを思い出させ、少し笑いそうになった。

(おっと、悠長に見物してる場合じゃねえな)


「おい、その辺で返してやれよ。みっともないぜ、貴族の坊っちゃん」

「あぁ?」

 三人の貴族たちが一斉にぎろりとこちらを睨む。

 一人が顎をくいっとしゃくりあげ、腰の辺りを示して見せる。ふん、いっちょ前に腰から剣なんか下げてらあ。どうやら俺を脅してるつもりらしい。

「そのなりはお前も庶民みたいだが、こいつの知り合いか?」

「いぃや、ただの通りすがりだよ」

「貴族に対する礼儀がなってないようだな、よっぽどのド田舎から出てきたおのぼりさんか?」

「この王都で暮らすつもりなら、それなりの礼儀ってものを知っておかないとな……」

 そう言うとバスケットを持っていた奴が女の子に押し付けるようにバスケットを渡すと、すらりと剣を抜き放つ。それを見て、女の子の顔がさすがに青ざめる。

「ちょ……や、やめて! その人は何の関係もないわ、だから」

「うるせえ! これはな、無礼な庶民に対する教育ってヤツだよ……!」


 ぶうんっ。


 空を裂く刃を、俺は避けなかった。

 そいつが本気で斬りかかる気がないのは丸わかりだったからだ。

 鼻面を掠めていく剣先を見送ると、やつらはせせら笑った。俺がビビって立ちすくんでいるとでも思ったんだろう。

「おい、その腰にさげてるのは木剣か? 貧乏人は剣も持てなくて大変だなぁ」

 げらげらと腹を押さえて笑う貴族どもに、俺はさてどうしたものかと少し考える。

 まあ貧乏人ってのは間違いじゃあない。

 王都までの馬車代も隣町で必死に働いて溜めたもんだし、木剣は手製だからな。

 けど、こいつはただの木剣じゃない。村の近くの森じゃあいっとう硬いウズラガシから削り出したものだ。硬い上に軽く、そんじょそこらの剣なんかよりもよほど剣呑な武器だということを、こいつらは知らない。


「に、逃げなさいあなた! こいつらここいらでいつも威張り腐って、みんなを困らせてるんだから、ホントに怪我させられちゃうわ!」

 懸命に訴える少女は、本気で俺のことを心配してるみたいだ。

 ああやって人のことばっかり心配する辺りも、俺の知ってるあの人によく似てる。

「こいつはますますほっとけない、か」

 俺は背負った荷物を地面に下ろすと、腰の木剣を抜いて半身で構える。

「おいおい本気かこいつ?」

「木剣とはいえ貴族に剣を向けたんだ、覚悟はできてるだろうな!」

 三人のぼんくらは剣を抜くと、さっと左右に広がって俺を取り囲もうとする。

 3対1だってのにえらくまた慎重なこった。

 こいつら、剣の立ち合いも本気の喧嘩もしたことないんじゃないか? それが証拠に、落ち着き払った俺の態度におどおどし始めている。

「あ、謝るんなら今のうちだぞ。今なら土下座で許してやってもいいぜ」

「そ、そうだ、スミマセンもう二度と貴族さまには歯向かいませんって誓え!」

「そうだそうだ!」

 ば~か、やなこった。


「そっちがこないんなら、こっちからいくぜ」


「す、すごい……」

 勝負はあっけないほど簡単についた。

 俺の木剣がぼんぼんどもの手を次々と打ち据え、気がつけば剣を取り落とした馬鹿どもが手を抑えて呻いていた。手加減はしたつもりだけど、ウズラガシの一撃はさぞ痛かっただろう。

 三人は「お、覚えてろよ!」と芸のない捨て台詞を残して逃げていった。

「あなた、何者? 本当は流浪の剣士とか、そう言うの?」

「なんだそりゃ……田舎から出てきた、ただの貧乏人だよ。なあ、それよりこの辺に安くてうまい飯屋はないか?」

 余計な運動をしたおかげで、俺の腹がぐぐぅと鳴った。

 それを聞いた少女は一瞬きょとんとしてから、くつくつ笑いだした。

「助けてくれたお礼に、とっておきのお店を教えてあげる。こっちよ!」


「うん、こいつは旨いや。こっちのパンも柔らかくてうめえ」

 そこはいかにも一般大衆向けのレストランで、豚モツ煮込みがボリューム満点だった。どこか懐かしい味で値段も手ごろ、俺の懐でも大丈夫そうなので安心した。

「まさか王都で豚モツが食えるとは思ってなかったよ」

「ふふふ、そのモツ煮込みはね、昔ここの二階に下宿していたある方が得意だった料理なのよ。その方のレシピを再現して名物になったの」

「へえー。そういやそのバスケット、何が入ってるんだ? えらく大事そうにしてたけど」

 ああ、と少女はバスケットを開いて中を見せてくれた。そこには色とりどりの糸と縫いかけの刺繍が入っていた。へえ、と俺が感心すると、少女は得意げになる。

「これは私の尊敬する方が趣味にしていたの。私、少しでもその人に近づきたくて、一生懸命刺繍の練習をしているの。腕はまだまだだけどね」

「俺の身内にも、刺繍の好きな人がいるよ。妹に花柄のハンカチとかプレゼントしてくれたっけ。俺は花柄とかちょっと苦手で持て余してたけどな」

「その方、あなたのお姉さん?」

「いや……うん、まあ似たようなもんかな」


「あっ、自己紹介がまだだったわね。私はセリーナ・ビゾン、十三歳よ。この春からマナースクールに通っているの。本当は、勇者アカデミーに入学したかったんだけど、まだ入学できる年齢じゃないって……」

 少女の言葉に俺は驚いた。

「勇者アカデミーがおん……女性にも門戸を開いてるってのは聞いてたけど、キミみたいな女の子でも入学したがるんだな」

 もちろんよ、と女の子は胸をそっくりかえらせた。

「なんてったって勇者アカデミーは、あの! 勇者マリアさまが在籍されていたのよ! それに王国連合で初めて女騎士の称号を得た、エリザベスさまも通っていらしたのよ」

 エリザベス……その名前は聞いたことがある。

 初めて騎士の称号を得た女性、ってだけじゃなく個人的にある人から「大親友」のことをいろいろ聞かされたものだ。

「それで、あなたは?」

 少女の話を聞かされたあとじゃ、ちょっと言いづらい。

 けど、これも何かの縁だ。まだ入学試験に通ったわけでもないけど、俺は自分の夢を諦める気はなかった。


「俺の名前はガズ、十六歳だ。俺は勇者アカデミーに入って、一人前の騎士になるために王都に来た」


 ぽかーんと口を開けたまんまの少女に、俺はふふっと笑いがこみ上げる。

 けど俺は本気でアカデミーに入学して、騎士になるために王都に来たんだ。そのためにブルー師匠から剣の手ほどきも受けたし、鍛錬も重ねてきた。

 まあ座学はどうにも苦手で苦労したけどな。

「本気……なのね。けど、さっきの剣さばきを見れば納得できるわ。でもアカデミーで庶民がやっていくのは大変よ、きっと」

「なあに、それこそ無用の心配さ」

 俺は、飯屋の壁にかかっている額縁をふと見上げた。

 そこに描かれているのは、ここロートヴァルド王国の新国王となった元勇者王子レオナルドさまと、そのお妃さまの婚礼パレードの様子。

 新国王の隣で幸せそうに微笑んでいるのは、俺にとっちゃ懐かしい顔だ。


「なんたってこの国のお妃さまは、ただの田舎村の村長の娘だったんだからな」


おわり

 

 

 終わった、いや~終わりましたね。こんなに引っ張るとは自分でも思ってなかった……

 前作を読んでいただいた方から「俺たちの戦いはまだこれからだ!」エンドですね、と言われたのがちょっと頭の隅に残っていて、自分じゃあそれでもいいかなとも思っていたのですが。

 さて、それじゃ魔王を倒しゃそれですむのかしらん?

 と考え始めて、なんとなく見切り発車で続編に手をつけてしまいました(いいかげん)

 しかし事はそう容易でもなく、魔王の正体とかなんだかんだ色々悩みだして、途中ずいぶん間が空いてしまったことを、あらためてここにお詫びいたします。

 出来に関しても、すべて満足というわけでもありませんし、マリアと王子たちとの恋愛展開もものっそいナゲヤリーヌな点も多々あったとは思いますが!

 けど! まああれですよ、恋はいつだって男女の不器用なドラマなのさ(なにそれ

 てな訳で「村長の娘ですが勇者アカデミーに入学することになりました つぅ~!」ここに完結いたしました。

 読んで下さった方、本当にありがとうございます。


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