読み切り5
すっかり夜だ。村人たちがランプを手に、裏山を心配そうに眺めていると、キャタピラ音と赤い光が近づいてくる。「おい、帰って来たぞ!」
大きな恐竜を引っ張りながら、村に戦車がやって来たのだ。
戦車の頭に乗る子猿が松明を振って、彼らに無事を知らせる。
「おーい、ティラノを討ち取ったぜい! 今夜はステーキだぜい!」
その夜、猿飛金之助と子猿のコウは教会で事件の真相を話した。
魔術師を名乗ったジャレッド・マーティン、彼の正体はギャングのメンバーで、手口は魔術で恐竜を操り、その恐竜に村を襲わせ、その恐竜退治をする救世主のよう登場して代わりに資産を奪うものだ。
「――いわゆる『ヒーローショー事件』というもので、北の方で流行っている特殊詐欺だよ」
翌日、恐竜来襲した通報を受けて荷車を従えて戦車で遅れてやって来た、自由維持軍傘下第11州警察署の憲兵が事件屋に告げる。手錠で縛られた魔術師を荷車に乗せたあとだ。
「救世主と思わせて実は悪党でした、か。人を騙せる演技力があるなら、ミュージカル役者でもやればいいのにな」
顔なじみの憲兵が答える。
「その通りだね。人を騙す才能はエンターテインメントだけにしてほしいものだね」
「あの、サムライニンジャ」
生き残った兄が話しかけた。彼は右腕を骨折しており、首から包帯を提げている。
「なんだ?」
「俺もサムライになりたい。どうしたらいいんだ?」
「サムライ? ニンジャになれよ! ニンジャの方がカッコいいぞ」
「いーや、サムライになるべきだ。サムライのほうがカッコいいし、強いぞ!」
「嘘つけ! オイラが《仮面融合》しなければ、恐竜の首を取れなかっただろ!」
「あれは……本気を出していないだけだ」
「じゃあ、とっとと本気になれよ! オメェのサムライ、沖田より弱っちいから」
「沖田より弱いって言うな! てか、あいつの名を出すな!」
「え、その沖田ってサムライニンジャよりも強いの?」
「強い強い! めちゃくちゃ強いぞ!」
「そうなんだ……会ってみたいな……」
「いや、会わない方がいい。生意気だし、女にモテるし」
「キンスケよりもカッコいいし、強いし、イケメンだし」
「さっきからずいぶんとケンカを売ってくるじゃねーか」
「そら、そうだろ! 昨日のうちに帰る予定だったのに、翌朝じゃねーか! オイラ、ヒゲゴリに怒られたくねーもん! またおやつ抜きにされちまうもん!」
「俺……大和国に行ってみたい。どうすれば行けるんだ?」
「大和国は遠いからお金がかかるぞ」
「やっぱり、金か」
軍人が助言をする。
「だけど、君は若いだろ? 軍の養護施設に行って、勉強を頑張って、就職してお金を貯めれば旅行に行けると思うよ」
「軍の養護施設……」
両親、弟を失った彼は迷っていた。このまま村に残るか、軍の養護施設に行くか。
「サムライになる夢があるなら、強くなったほうがいいんじゃねーか。軍の養護施設なら、戦闘訓練で剣術ぐらい教えてくれるだろ?」
「ああ、基礎訓練で剣術は教わるよ。僕は苦手だけど」
「夢か……キンスケにはあるの?」
「俺はあるぞ、スーパーカラクリランドを作るんだ」
「……なにそれ?」
「ポンズみたいな親を亡くした子供たちが腹いっぱいメシを食えて、たくさん遊べて、住めるスーパーな遊園地だよ」
「なにそれ、楽しそう!」
少年の目が輝く。金之助が少年の頭を撫でる。
「だろ? だからよ、夢を持て! 血生臭い殺し合いより幸せに生きられるからよ」
「わかった! 絶対、俺、サムライになるよ! そのために大和国に行くよ!」
「おうよ!」
「それで、沖田って人に会うんだ!」
「いや、会わなくていいから」
「そろそろ村を出るよ」
軍人が声をかけた。戦車に乗った少年が旅立っていく。村人たちが手を振って別れを惜しむ。
道すがら、軍人と少年は談笑していた。
「大和国に行くって大変なんだ」
「今は内戦中だからね。あのサムライニンジャは出稼ぎにきたんじゃないかな。仲間を殺すのがイヤでフリーダムに来たと言っていたからさ」
「そうなんだ」
「しっかし、この国は本当に金、金、金だよな。どこが自由なんだよ」
「自由を得るには金が必要なだけだろ?」
「にしてもよ、ガキのおむつ代が高くなってんだよ」
「ガイア共和国が大和国に戦争支援しているから、その煽りだって新聞に書いてあったよ」
「マジかよ……もっと値上げするってことか?」
「かもね」
「あー、金欲しいわ。そう思わないか?」
「うん……欲しい。いい墓を建てたいし」
「だよな。いい親孝行だな。腹減っているだろ、これ食えよ」
憲兵はアップルパイを差し出した。保護した子供が食べると、五分もしないうちに眠った。
「おい、コール、何をしたんだよ!」
「何って、眠らせただけだろ?」
「眠らせたって」
「売ろうぜ、恐竜マニアにさ」
「おいおい、冗談だろ?」
「本気だよ。ポール、噂で聞いたぞ。キャバ嬢に貢いで金ないんだろ?」
「な! どうしてそれを」
「人の噂は止まらないって言うだろ? なぁ、ネックレスでも買ってプレゼントしたいだろ? 彼女の喜ぶ顔が見たいだろ?」
戦車が横道に逸れていく。憲兵はダイヤルを変えて、無線をどこかにつなげた。
「もしもし、モーリーさん? オスガキ一匹売りますけど、どうですか? 可愛い恐竜ちゃんのエサですよ……え、そんなに頂けるんですか、あっざーす!」
荷車のドアが開く。軍人が囚われのギャングに問いかける。
「いくら払いますか、魔術師さん?」
この国は金が全て、金を稼ぐものが正義、金を稼ぐ方法は自由、それが自由民主国、フリーダムだ。




