↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砦のエリシア ―辺境砦で紡ぐ、医療士たちの日々―  作者: 灯影
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/37

プロローグ

初回は二日続けて投稿となります。

それ以降は一話ずつの更新です。


エリシアをよろしくお願いします。


「……あ〜、お腹空いた」


 タブレットを見ながらふと呟いた自分の声に、部屋も外もいつの間にか静かになっていた事に気づいた。


 カーテンの隙間から覗く空は、ついさっきまで綺麗な水色で子供の声も響いていた筈なのに、今はもう真っ暗で音も闇の中に消えている。


「え、怖。そんなに時間経ってんの?」


 デジタルの壁掛け時計は、あと数分で日付が変わる時間を煌々と表示している。

 休みがあっという間に終わってしまう虚しさが一気に押し寄せてきて、元々高くもなかった気分が更に下降した。


「明日のシフトはナイター勤務だっけ……なら、コンビニでも行くかぁ」


 頭の中でバイトのシフトを確認する。


 チラリと視界に入った冷蔵庫は、冷凍庫も空っぽで今を我慢したところで明日の朝ごはんもない。

 ……面倒くさいけど、しょうがない。

 スマホだけを手に持ち立ち上がる。

 最近は現金を持ち歩く事の方が少なくなっていた。

 美味しそうな惣菜屋ほど『現金のみ』の札が出ていて、見るたび少しがっかりする。

 ベランダの窓に映った、ヨレヨレのパーカーとショートパンツの自分に少し引きながらも、まぁすぐそこだし大丈夫だろうと、ワンルームの部屋に鍵を掛けた。

 ガチャりと、無機質な音が響いてロックが掛かる。

 こうやって部屋に鍵を掛けるたび、何とも言えない気持ちになる。


 私の親はいわゆる“放置親”で、高校へ進学時、この部屋を入学祝いだと称して何処かへ消えた。


『もう自分の家があるの? 良いな、贅沢〜』

『住む所、困らないじゃん! 家賃もいらないんでしょ?』


 うんざりする。


 手放すこともままならない部屋。

 引っ越しも簡単に出来ない。

 どこにも行けない。


 ワンルームなんて、ずっと一人で生きろって言われてるみたいで――


 縛りつけるようなこの部屋が、私は大嫌いだった。


 五分もしないうちにコンビニに着き、お菓子や惣菜、お弁当にパンをカゴに放り込む。

 この時間でもコンビニはちらほらと人が出入りしていて、世界に私以外の人もいる事に心底ホッとした。


 いつもの女の人がレジを開けて呼んでくれた。

 お弁当を温めながら手早く商品を詰めてくれる。


「ありがとうございます」


 袋を受け取り、いつものようにお礼を言うと、「さっき変なお客さんいたから気を付けて下さいね?」と、いつもは笑顔だけの店員さんが、こっそり教えてくれた。


 驚きながら頷いて、周りを気にしながらコンビニを出た。


 コンビニが見えなくなってすぐに、後ろに人の気配を感じた。


 過敏になってるのかもしれない。


 そう思いながらも、万が一のことを考えて交番のある道へと迂回した。


 交番が見えてそっちに足を進めると、いつの間にか後ろにあった気配がなくなっていた。

 そこでようやく後ろを振り向いて、人が居ない事に安心して大きく息を吐いた。


 気のせいだったのかな。


「……帰ろ」


 でもやっぱり交番の前までは行こうと、足を進めた時。


 ぐにゃり――と世界が、自分が、全てが歪んだ。

 目を開けることも出来ないほどの閃光が辺りを包んでいる感覚に、声が出ない。


 恐怖と混乱で心拍数が跳ね上がって、心臓を吐きそうになった。


 何これ、何これ、怖い!


 立っているのかも分からない無の空間に放り出されたようで、でも体がぐにゃぐにゃと歪んでいる様な、そんな言葉にならない感覚に、当然のように死が頭をよぎった。


 ――何とか、抵抗しないと!


 そう思ったはずなのに、次の瞬間には別の考えが頭をよぎった。


 ――抵抗?


 どうしてそんな事する必要があんの?

 やっと解放されるのに。

 別に何となく生きてただけ。

 後悔もないし、あとに残して困るものもない。

 きっと私が居なくなってもしばらく誰も気付かない。

 ……バイト先には申し訳ないけど。

 適当に生きてたツケが回ってきたのかも。

 ――それとも、ご褒美か。


 本格的に身体が混ぜられるような、もう説明できない感じになってる。


 ああ、このまま消えるのかぁ。

 ……もう、終わりでよくない?


 そうだよ。

 私はこんなんだったけど、もし次。


 私の魂が生まれ変われる時が来たら、その時は――


 そこで私の意識は消えていった。


 ――そしてこの日、私は“菜々”ではなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。