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愚者の野望と、地下牢を満たす星屑の祝福


「ぐ、がぁぁっ……! は、離せ! 離せ化け物め!!」


巨大な木の根に全身を絡め取られ、宙吊りにされたバルバス副院長が、無様に手足をバタつかせて叫ぶ。


大理石を突き破って現れた大自然の拘束は、彼がどれだけ魔力を練り上げようとも、ビクともしなかった。


「神だの精霊だの、そんな不確かな存在の気まぐれに人類の命運を委ねる時代はもう終わったのだ!」


バルバスは血走った目で、アッシュたちを見下ろして喚き散らした。


「我ら『蝕の教団』が掲げる黒き太陽こそが、人類を真の独立へと導く! 大自然の理から魔力を搾取し、人間のための永久機関を創り出す……それが我々エリートに課せられた崇高なる使命だ!」


「精霊を機械の動力源にして苦しめることが、崇高な使命ですって?」


シルヴィが怒りに満ちた声で吐き捨てる。


「魔導とは、大自然への敬意の上に成り立つものよ。あなたたちのやっていることは、ただの傲慢な破壊活動に過ぎないわ」


「黙れ小娘が! 貴様のような、才能だけでふんぞり返っている温室育ちに……!」


「……もう、静かにして」


アッシュの静かな声が、バルバスの喚き声を遮った。


アッシュは宙吊りになっているエリート魔導師にはもう見向きもせず、真っ直ぐに、実験施設の最奥に鎮座する巨大な魔力炉へと歩み寄っていった。


そこには、無数のガラス管がパイプで繋がれており、赤黒く濁った培養液の中で、小さな光の粒――無数の精霊たちが閉じ込められ、力を吸い上げられていた。


「アッシュ殿……」


エリスが痛ましそうに目を伏せる。セフィラは両手で顔を覆い、涙を流していた。妖精眼を持つ彼女には、ガラス管の中から聞こえる精霊たちの悲痛な泣き声が、耳を塞いでも聞こえてくるのだ。


「フハハハッ! 無駄だ! その魔力炉は超硬度の結界で守られている! 鍵となる術式を知らない貴様らに、それを壊すことなど……!」


バルバスが嘲笑う中。


アッシュは、巨大な魔力炉の分厚いガラス面に、そっと両手を当てた。


「ごめんね。暗くて、冷たかったね。……もう大丈夫だよ」


アッシュが優しく囁いた。


その瞬間。

ピキッ……。


絶対に破壊不可能とされていた超硬度のガラスと結界に、小さな亀裂が走った。


「なっ!?」とバルバスが目を見開く。


――パァァァァァァァァァンッ!!!


美しく、澄み切った破砕音が地下施設に響き渡った。


巨大な魔力炉と、それに連なる無数のガラス管が、一斉に弾け飛んだのだ。


しかし、飛び散ったガラスの破片がアッシュたちを傷つけることはなかった。


破片は空中でキラキラと輝く光の粒子へと変わり、赤黒く濁っていた培養液は、アッシュの足元から吹き抜けた清浄な風によって、瞬く間に透き通った清らかな水へと浄化されていく。


「ああっ……!」


セフィラが感嘆の声を漏らした。


水飛沫と共に解き放たれたのは、数千、数万にも及ぶ精霊たちだった。


彼らは歓喜の歌を歌いながら、アッシュの周囲をくるくると飛び回り、その頬に、髪に、優しいキスを落としていく。


冷たく無機質だった地下の実験施設は、今や淡い光の粒に満たされ、まるで満天の星空のような、神々しいまでの美しさに包まれていた。


「綺麗……!」


リリィが目を輝かせて光の粒を追いかける。


「ば、バカな……。私の、私の生涯をかけた研究が……完璧な魔導機関が、こんな、こんなおとぎ話のような光景で……!!」


宙吊りにされたバルバスは、己の積み上げてきた常識と論理が、圧倒的な『奇跡』の前に塵芥のごとく消え去った現実を前に、ついに白目を剥いて気絶してしまった。


「ありがとう、アッシュさん」


セフィラが涙を拭い、満面の笑みでアッシュを見つめる。


精霊たちはアッシュに深い感謝の念を伝えると、天井の岩盤をすり抜け、次々と外の空へと帰っていった。


「さて、と」


シルヴィが杖を軽く振り、気絶したバルバスの体を魔力で拘束する。


「この大バカ者は、魔導院の地下牢に放り込んで、教団の情報を徹底的に吐かせるわ。……でも、一つだけ気がかりなものを見つけちゃった」


シルヴィは、バルバスが落とした羊皮紙の束を拾い上げ、険しい顔でエリスに手渡した。


「これは……『蝕の教団』の作戦計画書?」


エリスが羊皮紙に目を通し、ハッと息を呑んだ。


「教団は、この都市の地下で集めた穢れを使って、さらに大規模な『神降ろし』の兵器を作ろうとしているようです。そして、その次の標的は……西の果て、エルフの森にそびえる『世界樹』」


「世界樹……! 大地の魔力の源泉とも言える大精霊の住処じゃない!」


シルヴィが驚愕の声を上げる。あんなものを穢れで汚染されれば、大陸の半分が死の土地と化してしまう。


「アッシュ殿。これはもはや、一都市の事件ではありません。世界そのものの危機です」


エリスが緊迫した面持ちでアッシュを振り返る。


アッシュは、足元に咲いた小さな花を撫でながら、静かに立ち上がった。


「エリスたちがそう言うなら、放ってはおけないね。大きな木が泣くのは、森のみんなが悲しむから」


アッシュの瞳には、一切の迷いがなかった。


「よし! なら決まりね!」


シルヴィがポンッと手を打ち鳴らす。


「バルバスの尋問と都市の復旧は、信頼できる部下に丸投げ……コホン、一任するわ! 私は院長として、そして何よりアッシュ師匠の一番弟子として、世界樹の危機を救う旅に同行します!」


「ちょっと! 一番弟子って何よこのボサボサ! アッシュの一番は私なんだからね!」


「あら竜の姫君、魔導の知識を熟知する私の方が、旅の役には立つわよ?」


「むっきー!! 燃やす!!」


リリィとシルヴィがギャーギャーと騒ぎ始め、セフィラが困ったように笑う。


エリスは深いため息をつきながら、そっと胃の辺りを押さえた。


「……大精霊様。どうか西の旅路で、私の胃薬が尽きませんように」


魔導都市の闇を暴き、天才魔導師を仲間に加えた規格外のパーティは。


次なる目的地『世界樹』へと向けて、新たな一歩を踏み出すのであった。

お読みいただきありがとうございます。


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