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7.そうだ、あなたが稼いできなさい

 キャロルとレイブンはこの上なくイラついていた。

 というもの、昨日デイビッドに呼び出されたと思ったらお金の使い方にケチをつけられたのだ。


「君たちには管理費を渡しているだろう。その中でならどれだけでも使っていいから。侯爵家の財産から支出を増やすのはやめてくれないか?」


 キャロルはキィィィと歯噛みしたくなる。誰が好き好んであんなお金しかない男と一緒になったと思っているのだ。たしかにアークライト侯爵は見目麗しい男性だ。50歳と言う歳を考えても若い顔立ちと言える。若い頃はモテただろう。若い頃は。だが、

「私は若い男が好きなのよ!!!!」

 

「おい、オバさん。どういうつもりだよ。俺があんたの養子になったら侯爵家をすぐにでも乗っ取れるっつー話じゃなかったのか?」

 隣を歩くレイブンがイラついてキャロルに話しかけてくる。

「そのつもりだったのよ。…誤算だわ。あんた、きちんと依頼したんじゃなかったの?」

 爪を噛みながらキャロルが忌々し気に吐き捨てる。


「したさ。スラム街でも一番成功率の高いやつらだ。…まさか侯爵が生き延びて帰ってくるとは思わなかった」

「…っはーーーーー。使えない」

「で?これからどうすんだよ。本来なら侯爵が死んで、俺が侯爵になる予定だった。で、あのお嬢様はどっか他国にでも嫁がせるつもりだったんだろ?」

「そうよ!!!ああっ!本当あの女忌々しい!!…でも、侯爵が記憶をなくしてたのは不幸中の幸いだったわ。…侯爵の記憶がないうちに、あの女、どうにか使えないかしら」


 キャロルの言葉にレイブンが頷く。

「ほんっと、貴族の令嬢ってくそくらえだな。箱入りもいいところだ。なんだよ、お名前を御伺いしても?馬鹿か?なんでそんなバカ丁寧で偉そうなんだよ」

 今度はレイブンの言葉にキャロルが頷いた。

「そうそう、わざとらしくこっちが出来ないようなカーテシーまで披露しちゃってさ。嫌味か」


「…ああ、いらつくなぁほんと」

「…ねえ、レイブン?」

「なんだよ、気持ち悪い声出すなよ。言っとくけど俺あんたには興味ねーからな」

「わかってるわよ。私だって恋人の一人や二人いるし。不足してないわよ。そういうことじゃなくてさ。…なんかあんた探してきてよ。あの娘を追い出して、尚且つうちらに金が入るような職なりなんなりさ」


「へえ…」

 レイブンの目が怪しく光り、じゅる、と舌なめずりをした。

「いいなそれ、全力で探してやるよ」


――――――

 なかなか職探しが難航していたらしい。数ヶ月後レイブンが持ってきたのは。


「フェイ辺境伯家のメイド?」

 キャロルは耳を疑った。レイブンが探してくるなら娼館とか奴隷とかそっち方面とばかり思っていたのだ。

「ああ、見てみろよ。この求人」

 そう言ってレイブンはキャロルに一枚の紙を差し出す。

「…ひと月にこんなに!?!?」

 その額を見て、キャロルは目を見開いた。一介のメイドが一月にもらうお金ではない。

「ああ、娼館や市場に売って一時の金を儲けるより、コンスタントに入ったほうがいいだろ???」

「だけどこんなにもらえるんなら、応募が殺到するんじゃないの?」

 

 キャロルの問いにレイブンはニヤリ、とする。

「このフェイ辺境伯だけどな。六十過ぎた剥げたデブのキモおっさん。尚且つ、人使いは馬鹿みたいに荒くて、こんな高い給金出してももう人間が集まらないんだと。しかも、この辺境地、本当に辺境も辺境だ。そんなとこにいくら貧しくても応募するメイドもいないのが現状らしいぜ」

「へえ…」

 キャロルの目が怪しく光る。それならアンジェラを放り込んでしまえばいい。あのお人好し馬鹿令嬢のことだ。デイビッドの記憶を取り戻すための治療費が足りないなどと囁けば、一も二もなくいくというだろう。


「…たまには役立つじゃない。レイブン」


 欲望にまみれた愚かな二人の笑い声が部屋に響いた。


―――――

 ―ー―さて、本陣。アンジェラ。


 私は、それはそれは充実した毎日を送っていた。

 畑に数か月前に植えた植物は余っていた種を植えただけだったのだけれど、春菊、ホウレンソウ、ジャガイモ、玉ねぎ、さくさくえんどう豆、白菜など、多種多様なお野菜だった。

 しかも無農薬。虫は最初どうしても枝や葉っぱで取り除いていたけど、数ヵ月も立てば慣れたもので、ひょいひょいと取ってはぶしっとつぶす。

 その野菜たちがまた、信じられないくらい美味しいのだ。肉などいらないほどに。


 野菜、適度なお酒と睡眠、ノンストレスの生活で作り上げられた肌は、以前よりつやつやで血色も良い気がする。るんるんと今日も雑草取りにいそしんでいる時だった。


「おい、お前」

 久しぶりのこの声!!私は嬉しくなってがばりと背後を振り向く。

「レイブンお義兄さま!!!来てくださったのですね」

 使用人も立ち寄るなと言われているエリアに来てくださるだなんて!なんてお優しいのかしら。


 するとレイブン義兄さまは一瞬眉を顰められて、唐突に言葉を発した。

「…アーク…ちち、うえのな。記憶を取り戻すために、ちょっと金が必要なんだ」

 私はその言葉に首を傾げる。

「…我がアークライト侯爵家は、そこまで財政難ではなかったと思いますけれど?」

「…あ、ああ。いや、極々私的なことに領民からの税を使うのは申し訳ない…とちち、うえが言っていてな」

「まぁ!我が侯爵邸は領民の税金だけで成り立ってはいませんわ。それはすべて治水工事などで領民に還元していますもの。ほとんどの財産がお父さまの事業や投資などで得たお金でしてよ?」

「う」

「う?」


「…義兄からの一生のお願いだと思って聞いてくれねー…ないか?」


 義兄からの一生のお願い…!?!?!?!なななななんですのその嬉しすぎるお言葉!!!!!


「もももももちろんですわ!!!なんでも!なんでも私にできることなら全力でお引き受けいたしますわ!」

「…働きに出て、お金を稼いできてくれねー…ないか?そのお金で、ちち、うえにもっといい医者を紹介してやりてー…たいんだ」

 お兄さまの歯切れが悪い少し丁寧な言葉にほっこりしてしまう。


「…承知いたしました。お父さまのお役に立てるのでしたら、喜んで馳せ参じます」

 私はにこやかに返事をする。

 レイブンお義兄さまがにや、と笑う。あら妖艶。


「なら、一週間後に出立だ。行先はフェイ辺境伯家。メイドとして働いてこ…くれ。ああ、侯爵家令嬢を働かせなきゃならないほど困窮してると思われるとナメられるからな。ファミリーネームは伏せておけ」



「かしこまりました!行ってまいりますわね!」

 私は朗らかに返事をした。

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