20.お酒は危険
更新遅くなりました(-_-;)すみません~~~
「ルーカスから聞いてたんだけど、アークライト家、今大変なことになってるんだって?」
アーサー様から問われ、私は苦笑しながら頷いた。
「そうかぁ…まぁ、…うん、大変だね」
アーサー様の歯切れ悪い物言いに苦笑してしまった。
「良いんですよ殿下。気を遣っていただかなくても。アークライト家は良くも悪くも中立を保っていますし、政治的なことには加担していませんから、特に感想がないというのは正しいご感想ですわ」
「ごめんね…?」
ううん!!あざとかわいいですこの王太子。私よりも6歳も年上なのに…!
ルーカス様とさすが同じ血が流れている、というだけあって我が国の王太子殿下もものすごくお顔が美しい。ルーカス様と同じシルバーの髪に、アイスブルーの瞳。ルーカス様も甘いお顔だけれどその中にほんの少しだけ野性味が溢れている。視線の鋭さというのかしら。辺境という土地で領主を務めているが故の、数々の修羅場を潜り抜けてきた面構えの鋭さが見え隠れしている。
王太子殿下はもう、生粋の王子というお顔立ち。ただただ甘いお顔立ち。だけど優しさの中にあふれ出る気品がある。穏やかさの中ににじみ出る威厳がある。王になるべくして産まれたのだと否が応でも思わせるほどの素質がある。
「あのね、ルーカスの話聞いてて1つだけ確認したいことがあるんだけど」
「なんでしょう?」
ほんの少しアーサー様の顔つきが変わる。真面目な視線にちり、と背筋が伸びた。
「…アークライト侯爵って、人間を見る目ってどうなのかな?観察眼、というか…」
「父、ですか?…そうですね。娘の私から見ても、その方の才には秀でていたように思います。現に今アークライト邸にいる人間は揃いも揃って有能なものばかりですもの」
「やっぱりそうか…」
むむぅ…と考えだす殿下に私は首を傾げる。
「どうなさいました?」
「…ええとね。これはまだまだ憶測の域を出ないし、君に変に期待させたくないからあんまり話さないほうがいいとは思ってたんだけど…」
むむう、と殿下が逡巡している。歯切れが悪い。どうしたのかしら。
「…ルーカスがね、君の耳には1つの情報として入れていたほうがいいのでは?っていうから、今日来たってのもあるんだ」
要領を得ない。何を仰りたいのかしら?
「…今、下町で1つの薬が流行っているんだ。依存してしまう、薬、というのかな?薬をくれた相手に恋をしているような感覚に陥らせる…という、厄介なものなんだよね。実際にはその薬がもたらす効能が忘れられず、薬を欲している状態になるのを恋だと勘違いしてしまうらしい。使った人間は、これ以上ないほど気分が高まるらしいんだ。当主が、そのキャロルという後妻にそういう薬を盛られた可能性は、ない…かな?その…女性に対してこういう物言いは失礼なんだけどキャロルという女性を選ぶような人間には思えないんだ」
伺うように聞いてくださる所に王太子殿下の育ちの良さが見え隠れして、私はほっこりしてしまう。
でもまあ、ほっこりの前に私はその問に解を返さなければならない。
「そうですね、そういうお薬があるのだとしたら可能性はゼロではないと思いますが…でも、良いのです。それはそれで」
「「んん!?」」
「薬の力があるにせよ、無いにせよ、久しぶりだったのです。お父さまの幸せな顔を見られたのが。…本当に、お母さまを亡くされてからのお父さまは見ていられないほどでしたから。あのお顔をキャロルお義母さまが再び引き出してくれた。そのことだけで私は感謝しているんです。…ちなみにその薬、廃人になるとかそういった末路を辿ってしまいますか?」
「長期間、使われてたら、もしかしたら。というのも、なんせデータがないんだよね。まだ出回ったばかりで出所もわからない。薬学に詳しい人間に調査を依頼しているところだけれど…」
「そう…ですか。確かに中毒性がひどいものだったら困ってしまいますわね」
「君のお父さまのところに、医学の権威が診療に行くんだろう?それとなくお父上がそういった薬を服用していないかどうか調べてもらおうか?」
「まぁ、王太子殿下のお手をそこまで煩わせるわけには…」
「いいんだよー。大事な友人の大事な人だもの」
「…まあ!…感謝いたします。お言葉に甘えさせていただいてもよろしいのですか?」
ルーカス様の大事な人、と言われて私は思わず嬉しくなってしまう。ぽ、っと赤面してしまったので両手で頬を覆った。
「ははっ、ピンクの花びらが頬に咲いたようだね。可愛い」
「…随分と、楽しそうだな。2人とも」
地を這うような声が聞こえ、私は声の主に視線を変えた。そこには非常~~~~~~に面白くなさそうな顔をしたルーカス様が。
「ちょっとちょっと。なんでそこでその反応なのルーカス。君が説明してって言ってきたんじゃん?」
「俺は薬の説明の部分だけを頼んだだけで、そこから先は説明は俺でもいいはず…だろ?」
「いや、だろ?って言われても」
殿下が思いっきり苦笑している。
「なんだよー会話を取られたくらいで拗ねるなよ~」
「いや、それだけじゃなく、ピンクの花びらが咲いたみたいだとか…んなこっぱずかしいことまでよく言えるな!?」
「なんだよー、令嬢の美しい肌に朱が差したことを褒めて何が悪いんだよ。初々しくて可愛いことこの上ないじゃないか」
「いや、確かにアンジェラは可愛い。いやー本当に可愛いんだ」
「「んんっ!?」」
今そういう流れだったかしら!?突然のデレに殿下と私の声がハモった。
「る、ルーカス様?」
「あちゃーこれは…」
アーサー様が床に転がっている空瓶を持ち上げて苦笑いをされた。当のルーカス様はというと、焦点の合わない目を私に向けて首を傾げたりアーサー様に向けたり、なんだか普段のルーカス様からは想像もつかないようなかわいらしさを見せておられる。
「え!?それ一本全部飲んでしまわれたんですの!?」
「僕らがルーカスそっちのけで話してるのが相当面白くなかったんだろうなぁ。こうなるとルーカスは面白いよ~ちょっと遊んじゃおうか?」
にやり、とアーサー様が笑う。あら、さわやか王太子はいずこへ。ちょっと腹黒い顔もなさるのね。興味深い。
「ねえルーカスさ、アンジェラ嬢のどこが好き?」
「アンジェラ~?そうだな…まず顔が可愛い。あと頭もいい。絶世の美女だというのにそれを鼻にも掛けないし変に俺にコナをかけてこないしそういうとこも本当猫みたいで可愛いしかと思えば俺ですら習得してない言語を理解しているし仕事は丁寧で完璧だしこんなの一介の令嬢の知識じゃないしなんていってもとにかく可愛い甘やかしたいのにあんまり甘えてこないし色々無自覚だしあとどうしても可愛い」
「ぶっふぉぉ!る、ルーカス、今何回可愛いって言った!?」
アーサー様が大爆笑されている。当の私もあまりにも褒められて頬が熱くなってしまった。こんなに手放しでほめてくれるのはカリンくらいだったわ…あぁ、カリン、元気にしているかしら。会いたいわ。
「これだけ言っても多分俺が言いたいことの十分の一も伝わってないんだろうなぁ」
「伝わってますわよ、ルーカス様。ふふ、とっても嬉しいです。ありがとうございます」
「ほらそういうとこ!!」
「どういうとこですか」
あらいけない。おもわず突っ込んでしまったわ。
でも、なるほど。酔っぱらったルーカス様はこういった遊びができるのね。
「ふふ、それならルーカス様?アーサー様のどこが好きですの?」
「わー!アンジェラ嬢…!それは…!」
アーサー様が慌てて止められようとするけれど、ルーカス様はぼんやりとした視線のまま、首をアーサー様に向けられた。
「アーサーは…顔がいいだけじゃなくて男として本当に格好いい。あとアンジェラに負けず劣らず頭もいい。こんな綺麗な顔してるのに実は策士だしめちゃくちゃ真剣に国のことを考えてるし愛妻家だし家族のことも大事にしてるのに俺のことも必ず気にかけてくれてこうやってちょくちょく顔見に来てくれるし困ったことあったら一番に駆けつけてくれるし格好いいしもう何でもいいから格好いい」
「ふふふっ!ルーカス様今何回格好いいって言われました?」
「もうやめて…これ恥ずかしい…」
アーサー様が真っ赤になって頭を抱えてらっしゃる。ええ、ええ、わかりますとも。私も先ほど嬉し恥ずかしでしたから。忌憚のない褒め言葉というのは心に響くものです。
「可愛い令嬢と格好いい友が今傍にいるんだなぁ俺…」
ふとルーカス様が呟かれた。と思ったら。
「…幸せだな」
そう言ってまるで少年のように照れくさそうに笑われて。
それを見た私の胸の奥がドクン、と謎の脈を打った。




