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三日目・13

遅れまして申し訳ございません

とあるやる夫スレで気になったキャラクターの原作ゲームをやってみた結果面白くて、自分でも似たようなキャラを使いたくなったのです。

それで新キャラの性格を一新させておりました。

(倒したのか?)


 全力でぶっぱなした氷のブレスが直撃しピクリとも動かない巨人を前に、ヘルヴェルさんに聞いてみる、この辺は彼女に聞けば間違いないだろう。


「ふむ……邪霊は未だ巨人の亡骸の中に存在しております、ですがいつでも討てる脆弱なモノだと断言するデス」


 邪霊というのは基本何にでも憑依できるし、巨人の例を見て分かるように寄り代しだいでは恐ろしく危険な魔物だ、だけどその反面何かに取り憑いてないとそれだけで弱って消えてしまう程に存在が脆弱でもある。


 で、氷漬けの巨人から抜け出して逃げたとしても戦乙女から逃げられるはずも無く、邪霊はもう無視してもいいし、巨人のゾンビそのものも既に死に体だそうだ、まぁ元から死体なんだけど。


 どうも俺のブレスは霧状の冷凍ガスのようなもので、体内で熱を生み出せないゾンビは抵抗の間も無く体組織、細胞そのものが凍りついてしまったらしく、もはや脅威ではない。


「す、凄いですご主人様! 氷と雲の属性を持つご主人様らしいブレスですね、体温の無い屍人はおろか、呼吸する生き物にとって致命的な殺傷力かと」


 カハちゃんが褒めてくれるけど、褒める部分を間違ってないかな? 殺傷力の高さを褒められてもあんまり嬉しくないよ? あ、戦乙女的に攻撃力は正義ですね、知ってた。


 自分の事ながら、危ねぇなコレ、俺のブレスって軽く吸い込んだだけで、普通の人間だったら肺が凍る、魔法抵抗力が高かろうが、体温を急激に下げるんでどっちみち致命的だ。


 まぁ検証は後にするとして、先にするべきは目の前の巨人だ、体が完全に凍ってるから尻尾のひと振りで粉々になるだろうし、素材としてダンジョンに送っても良いんだけど……


「如何なされましたか?」


「ご主人様の手で幕を引くのでは?」


 彼女たち的に俺を差し置いて敵に止めを刺すってのは、ありえないということか、どうすっかな?


 案1、あの王子さん達からすればこの巨人は兵士の仇だし、糸を引いてる奴の思惑を潰すという意味で、ここに残しておく、勿論邪霊だけは確実に消してゾンビは放置する。


 そうして、王子さんの手柄ということにしてしまえば彼の名声は急上昇、黒幕の意図とは全く真逆の結果になり、貸しにもなる。


 案2、素材とか全取りでさっさと帰る、凍った手足の一本も残しておけば倒されたことは分かるだろう、後腐れもないし文句を言う奴は何処にもいないと思う。


 うーん、どうすっかな、ダンジョンに人を呼び込む為には、王子さんの手を借りるのが現状一番楽で効果も確実だろう、でもA級魔物の巨人の素材も捨て難い、魔石だけ取って死骸は放置するか? でもなぁ骨とか使えば強力な秘宝が創れるだろうしなぁ。


 俺が考え込んでると、ヘルヴェルさんが軍隊が近寄ってくると言ってきた。


「どうも正規の兵という感じはしないデス、装備も練度もバラバラ、その割に全員馬に乗ってるのデス」


(ヘルヴェルさん王都の人達に、巨人ゾンビが来るって伝えましたか?)


 彼女は首を振る、パニックになると思い、何も言わずに屍人を通さない結界だけ構築したそうだ。


(黒にギリギリ触れてるグレーだなぁ、馬に乗ってあの町目指せば、丁度予想した交戦時間に到着しそうだし)


 手柄のマッチポンプはあると思ったんだけど当たりか? そうなると、巨人ゾンビになんか仕掛けがある可能性が高いな、体内に爆弾とか……いいやもう宝物庫に送ったれ、邪霊が取り残されたので尻尾のひと振りで消した、消えると同時にその場に魔石が落ちたのでこれも送る。


(ま、犯人探してもどうこうする気もなかったし、調べるのは王子さんに任せて帰るか)


 俺の思念に頷いた二人と共に、空へと羽ばたいた。




   ~~~~~




 ミリス王国王都、その城壁の外側には田畑が広がっており、小規模な集落が点在していた、その集落の外れには、繁忙期に農夫たちが寝泊まりする建物―――普段は倉庫として使われている―――で俺たちは静かに『その時』を待っていた。


「そろそろエトナシーカーに屍人の群れが着く頃か」


「はい、手の者の報告では相当慌てて準備を進めた模様です」


 遠距離で会話を可能とする魔法道具は高価な上に持続時間が短い、今の俺の立場では十数秒の報告を数時間に一回だけ送れる程度の物しか用意できない、高性能の物は王室や有力貴族、軍が独占してるからな。


 だが十分だ、今のところ予定通りに進んでる、軍は確かに練度が高いし、優秀な冒険者が多数拠点とするエトナシーカーの町だ、ただの屍人の群れじゃ一蹴されて終わりだろう、しかしその群れに巨人が居るとなれば話は別だ、急拵えの防備では耐えられまい。


「出るぞ」


 言う言葉はただそれだけ、それだけで部下には通じる。


 俺の名はシャガール・ヴェルウッド、多くの側室を抱えた現国王の第九男で既に臣籍に降りた兄貴達を除き現王位継承権五位、しかも母の身分は城の侍女、後ろ盾があるはずも無く、言ってしまえば飼い殺し確定の穀潰しだ。


 俺はそんな未来を何とかしたかった、単なる持て余される第九王子の身分に甘んじていてはいたくなかった、政略の駒でどこぞに婿入り? 僻地で分家? 他国へのいつでも切れる人質? 論外だ、俺はそんな未来を認めない。


 酷い事をやってる自覚はある、軽く思いつくだけで首を斬られる罪状の数は10は越すだろう、だが止まらない、破滅はすぐ傍に、命をチップにした分の悪い賭けをしている大馬鹿なんだろう。


 安穏と周囲の都合だけで振り回される人生を何とかしたかった、だから密かに仲間を集めた、意外と俺に共感する奴は多く、世継ぎの芽が無い者、婿入りのアテが無い者、任せて貰える仕事がない者、そんな連中が集まって現状をなんとかしようと足掻いたんだ。


 そうだ俺たちは足掻いた、学問に励んだ、武芸を磨いた、新しい事業を考えた、失敗を重ねても協力して立て直し……


「素晴らしぃぃぃぃ! その身を焦がす野心! 野望! あぁ! シャガール様今貴方は輝いてます! 即ち勇者! 貴方様のような勇者こそヒトをヒト足らしめ、いと高き場所へと導く灯火でございます!」


 胡散臭い、自らを『スライム研究家アムドス』などよく分からない肩書きを堂々と名乗る魔人(バカ)と出会った。


 一見背の高い痩身の男だが、その身に宿す魔力は、まさしく魔人と呼ぶのに相応しい膨大なもの、俺たちは出会った当初最上の敬意を払っていたのだが……頓珍漢な言動に全員ドン引きした。


 魔人(バカ)の芝居のかかった言動は何時ものことなので、部下たちは迷惑そうにしつつ、ほぼ無視している。


 魔法の発達したミリス王国において魔人とは、魔術を究めヒトの一段階上へと昇華した尊き賢者に贈られる称号、故に俺のような実権のない王族などよりも尊敬されて然るべきなのだが……この胡散臭さにより誰もが腫れ物扱いしている。


「さぁさぁ皆様、良い顔をしておられます、高みへと登りたいのでしょう? 賞賛を受けたいのでしょう? 己の道を自らの足で定めたいのでしょう? その心! 即ち野心!」


 誰もが魔人には強くは言えない、彼がいなければここまで準備を整える事など不可能であったのは誰もが分かっていた、分かってはいるのだが……どこからともなく流れてくる音楽に合わせて踊るのはやめてほしい、狭いんだから邪魔なんだよ。


「皆様の野心! 高みを求める反骨精神こそヒトの魂が最も美しき輝きを放ちます、輝く魂! 即ち英雄! さぁ私に英雄の誕生を見せてください」


 彼の演説は止まる気配がない、一応トップの俺が止めるべきだろう……嫌だなぁ。


「アムドス殿、我々はそろそろ出発する、貴方の協力には感謝の念が絶えない、後は我々の手で栄光を掴んでみせる」


 魔人(バカ)がまた芝居じみたセリフを並べてるようだが無視して、倉庫を出る、どうやら仲間たちは既に馬に乗り準備万端のようだ。


「行くぞ! 手柄を立てるチャンスだ」


 目指すはエトナシーカーの町。




   ~~~~~




 さて、私はアムドス、スライムの研究を生業とする魔法使いで、趣味は努力する若者を応援することでございます。


 趣味(スライム研究)に没頭してたところ、何故か魔人などという存在に進化しました、まぁ人間であった頃よりも睡眠も食事も少なくて済むのは研究者として大変助かっております、いやはやたったの5日程度寝ずに研究を続けた程度で意識を失い、研究経過を台無しにするような事はもう無いのが素晴らしい。


 最近はご自身の境遇に嘆く第9王子様がより良い境遇を目指し、ご友人たちと様々な取り組みに挑戦する姿に、心を打たれついついお節介を焼いてしまいました。


 かの王子は同世代の若者達の中では人望もあり、ご本人の資質も優れたものをお持ちですが、お立場故に出る杭となっては打たれてしまうのが目に見えていて、窮屈な思いをしておられたのです。


 あぁ、このような才気ある若者を腐らせては、この国は衰退してしまうでしょう、魂を燃え上がらせる若者の光は、国家と言う大木を育む陽光に等しいのだから、私の研究でわずかでもお役に立てれば本望でございます。










 だから武勲を立てる機会を用意してあげましょう、邪霊が近くにいたので捕え、精神構造そのものを再構築、なんか女性に対する執着は消せませんでしたが大した問題は無いでしょう。


 ふふふ、屍人の群れに襲われれば活躍の機会は沢山あるでしょう、躍進の第一歩ですよ頑張ってください、でも単なる群れでは軍に蹴散らされますね……国中の対不死者用の武器を買い占めた後で壊してしまいましょう、そうですね町を守る兵士の皆さんもあまり有利では鈍ってしまう一方です、適度な刺激がなくてはヒトは堕落してしまうのです。


 危機に立ち向かう姿は、残された人々の心に強く焼き付くことでしょう、即ち勇気となり、次代の者たちに受け継がれてゆくのです。


 そうだ! 武勲には強力な敵が必要ですね、丁度良く近くに巨人の死骸が置いてある街があるので利用しましょう、王子が相対したら直ぐ始末できる仕掛けをしておけば安全ですからね。


 襲い来る強大な巨人に立ち向かう兵士たち、苦しい戦場で仲間たちを引き連れ大活躍する彼らの姿を想像するだけで頬が緩んでしまいますね。


 そして大森林近くの村に戦場跡から拾ってきた遺体を集めて、幻覚で誘導すれば終わりです、おっと運良くはぐれオーガが居たので始末して利用することにしました、彼らを奮い立たせる良いスパイスになることでしょう。


 準備は万端、後は王子たちと時期を合わせるための、簡単な打ち合わせだけです、皆やる気に満ちており結構なことです、私も年甲斐もなくワクワクしてまいりました。


 気分が良いので図書館で読書と洒落込みましょう……そこで私は見てしまったのです。


 女性にしては背の高い方で、朝日に煌く彼女の金の髪は情緒のないと言われる私ですら美しいと感じました、そして何よりもその身に宿す、あまりにも特異な魔力の資質。


 魔法とは基本的に魔力の資質によって、習得できるものが決まります、個人の属性と言い換えても良いでしょうか? 例えば火を扱う事に長けた術者は氷の術を一切習得できないのです。


 この資質はある程度体系化され、少し調べれば己の習得可能な系統が分かるのですが、彼女の資質はこれまでに一切前例のないものでした。










 危機的状況に追い込んで覚醒を促すことにしました、名前も知りませんが、そうですね屍人の群れに放り込めば丁度いいでしょう。


 魔法とは精神の力、無駄なものを削ぎとって、ギリギリまで追い詰められた状況でこそ最大の力を発揮するのです。


 彼女の発揮する魔法は恐らく、これまで概念の無かった属性でしょう、あぁ研究者の血が騒ぎます、最低限命は守るプロテクトを施しましたから死にはしないでしょう、王都とでの準備があって付いていてあげられませんが、頑張るのですよ少女よ。

読んでくれた皆様ありがとうございました

アムドスさんには狂った人間賛歌を謳って貰いたいものです。

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