三日目・12
お待たせいたしました
巨人の体に染み付いた戦闘技巧のおかげで不意打ちを躱した邪霊だが、随分とビビったようで攻めて来ない、かと言って地面に同化し逃げるわけでもないのがこの邪霊の中途半端さか。
「ざっ残念だったな! おっ俺にびっビビって逃げたくっくせに……」
大斧を構える姿は堂に入ってるんだけど、この状況でやることが不意打ちを何とかしたことの自慢かよ、いやまぁ痛みを感じないのをいい事に果敢に攻めてこられるよりマシだけどさ。
邪霊のセリフを聞いてやる義理はないので、油断せずに間合いを詰める、と、同時に上空で待機してるカハちゃんに身体能力強化の魔術で援護してもらう。
射程距離に入った時点で、強化された四肢で地面をしっかり踏み締める、空を飛んでる時と比べてこの方が尻尾に力が伝わるからね、そして……
―――ボッ!―――
メイスを放して全身の力を尻尾の駆動に使うと、先端は軽く音速を超える、長く自在に動く竜の尾は、鉄よりも硬く、革よりの柔軟な音速の鞭、巨人といえどもマトモに叩き付けられれば即死しかねない破壊力。
……が、戦士の直感は視界の外からの攻撃を凌いでみせた、斧の腹で受け止め、その際の衝撃も受け流す、が、尻尾をしならせ足を強打!
感触からして折れてはいない、屍人だから痛みもないんだろうけど、流石にバランスを崩し転倒した、斧を持ってない右手側から連続で追撃する。
しかし、敵も甘くない、転倒と同時に転がって間合いの外に逃れるが、寝転がった状態からなら追撃の方が圧倒的に速い、俺の尻尾が転がる巨人を捉える。
倒れながら頭部だけは保護してるようだが、問題ない、肩を腹を足を背を、尻尾を叩きつけ腕のガードが緩んだところで宝物庫から再びメイスを取り出し、振りかぶって頭部に振り落とす……
―――ゴシャッ―――
ちっ! 振りかぶった瞬間に地面に逃げやがった、巨人の倒れていた場所は俺のメイスで作ったクレーターだけが残っていた。
見えてきたぞ、地面と同化する固有技能も無敵じゃない、『足の裏』だ『足の裏が地面に接してないとこの能力は使えない』さっき倒れた時すぐに地面に逃げなかったのは、うつ伏せだったからだ。
多分本物の巨人戦士だったら、多少の被弾覚悟で鞭の弾幕を切り込み、あっさりと間合いを詰められるだろう、俺程度は簡単に真っ二つなんだろうけど、体を動かすのが邪霊ならなんてことはない、巨人戦士の身体能力は驚異だけど行動パターンが単調、かつ行き当たりばったりで簡単に対応できる。
「にっ逃げた雑魚が……」
地面からグチグチと聞こえるがまだ雑魚扱いなんだな、この状況の見えなさが邪霊なんだろうな、痛みがないから片腕無くしても頓着できないんだろう。
「ギャギャギャ!(はっ! その雑魚相手に無様にボコられて何言ってんだゴミ野郎が、なぁどんな気持ちだ? ここで死んで迷惑な雑魚だったと思われて、しばらくすれば忘れられる程度のただのゴミクズとして死んでく気分はよぉ?)」
我ながら幼稚な悪口だとは思うけど、コイツ煽り耐性ゼロどころか過剰反応するタイプだからなぁ……
「こっ殺してやる! ぶっ殺す! ぶっぶっぶっ殺す!」
はい地面から再び生えてきました、出現と同時にカハちゃんの杖が周囲を白く照らす、ゾンビの動きを拘束し浄化する広域魔法らしいけど、魔法防御力の高さのせいか動きは阻害できてない、けど体中が浄化の光に炙られるように焦げ、全身から煙が立っている。
どうやらマジギレしてるみたいで、上空からのカハちゃんの攻撃魔法にも気付いてないっぽい。
痛みを感じてないからか、相性的に効果抜群な白い閃光を浴びて、継続ダメージを負ってるのに見事に俺しか見てない。
好都合だ、確かに近寄られると危険だが、距離をとって尻尾で打ち据えればほぼ完封できる、失った右手側は防御が甘く簡単に転倒させられる。
またさっきの焼き直しだ、振るわれる音速の尻尾に為す術なく叩きのめされ、ダメージを蓄積していき、みるみる斧を振るう速度が落ちていく。
邪霊が何か言ってるが無視無視、どうせ大したことは言ってない、それよりもそろそろだ。
―――ベキッ―――
同じ箇所だけを何度も叩き、とうとう負荷に耐え切れず、左足の膝から鈍い音が聞こえた、ったくどんだけ頑丈なんだよ巨人族の骨ってのは、大岩を簡単に粉々にする俺の尻尾攻撃を何十発と叩きつけて、しかも戦乙女の援護を受けた上で漸くだ。
これがA級か、中身がアホだから助かったけど、本能のままに襲われたら逃げるのすら危ねぇよ、今後大物の縄張りには入らないように気を付けよう。
それはともかく、左足をへし折られ、倒れた巨人は憎悪の目で俺を睨むが、流石の巨人も立つことはできない。
(なぁどんな気持ちだ? 単なる通りすがりにやられてどんな気持ちだ? なぁなぁ?)
文字通り死体に鞭打つ感じで気分は良くないけど、地面に逃げられたら拙いからもう一回挑発しとく、カハちゃんの光に灼かれ、口を動かし罵声を出してるつもりだろうけど、もう既に声も出ないようだ、せめてひと思いに頭を潰して引導を渡すか、俺はメイスを取り出し大きく振りかぶり……
(がっ!? な、なんだ体が動かない!)
不意に体中が拘束されるような息苦しさに動けなくなる、拙い! 止めを早く止めを刺さないと!
(な、なんだ? まさか巨人の魔法なのか? カハちゃん回復魔法!)
「は、はいお待ちくださいご主人様」
巨人への攻撃を一時止め、彼女は俺の傍に降り立って杖を構え……しかし巨人戦士の本能はその隙を見逃さなかった、一瞬で態勢を変え地面へと溶ける、しまったと思った瞬間、地面から切り上げられた大斧が俺の体を捉えた。
~~~~~
「にっ逃げたくせに! 俺にやられてぶっ無様に逃げたくせに!」
眼前の白竜は恐ろしく狡猾だ、視界の外から高速攻撃は片手を失った今の我には致命傷を防ぐので精一杯、しかも被弾覚悟で突貫しても、斧が届く前に空へ逃げられるだろう、縦横に振るわれる長い尾は、攻撃だけでなくいざという時の退避も可能とするだろう。
勝てない、相変わらず周囲は曖昧であるが、今の我が『狩られる』状況なのは直観で分かった、竜を『狩る』には相応しい環境でなくてはならない、これは退くべきだ、地面と同化すれば竜に我を攻撃する手立てはない、退くことは決して恥ではなく、進退の決める事のできる決断力は戦士に必要な資質の一つなのだ。
「こっ今度はかっ確実に真っ二つにしてやる! ゲッゲヘ! お前の首の前でおっ女を……」
何やら意味のわからない言葉が我の口から出た? いや、近くに誰かいるのか? 竜を斬るのは分かるが女とは誰だ? 退こうとしても体が勝手に前に出てしまい、捌ききれなかった攻撃で転倒してしまう。
転んだ拍子に地面に逃れようとしても、体は勝手に竜に近づこうとする、何故だ? 退け、早く逃げなければ。
斧の間合いに入る事もできず、ただ打ち据えられる、白竜には一切の油断も容赦もない、一瞬でも隙を見せれば頭部を粉々に砕かれることだろう。
雨のように我が身を打ち据える竜の攻撃、反射的に頭だけは守るが、所詮左腕だけ、体中を打たれ肉が剥がれ落ち骨が悲鳴を上げるのをどこか他人事のように見ていた、己の身であるというのに。
「ひっ! 体がぁぁぁ! おっ俺の体がぁぁ!」
この情けない悲鳴は誰だ? 奴隷のオーガ共であっても悲鳴など上げるはずがないのに?
悲鳴と同時に体勢を変える好機に恵まれ、間一髪地面と同化する能力が発動し、ギリギリで頭部を潰そうと振るわれたメイスを躱した、が、次の瞬間……
「グルォォォォ!(はっ! その雑魚相手に無様にボコられて何言ってんだゴミ野郎が、なぁどんな気持ちだ? ここで死んで迷惑な雑魚だったと思われて、しばらくすれば忘れられる程度のただのゴミクズとして死んでく気分はよぉ?)」
下手な挑発だ、どうにも相手は慣れてなさそうだ、それでも多少は腹が立つが、こんな言葉で退き際を誤る戦士がいるはずが……なんと我が身は再び竜に突進を始めてしまった。
「こっ殺してやる! ぶっ殺す! ぶっぶっぶっ殺すぞ! げはっぶへへへっ!」
無策に突進しても待ち構えた竜の猛攻に再び倒れ伏す、どうやら足の骨が砕かれたようだ、これまでか……もはや竜に近寄ることすら叶うまい。
相変わらずどこからともなく醜い罵る蛮声が聞こえるが、もう良い、考えもまとまらず、体を動かす感覚も曖昧だ、まぁ竜と戦い敗れたならば……我は捉えたのだ、竜がなにやら意識を逸らし動きを止めている、対峙して初めて見せた竜の隙!
我は全ての力を振り絞り動く、地面と同化し竜の真下へ、そして白い竜を両断した。
両断したのだ、白い鱗は飛散……鱗だけ飛散……血は? 肉は? 骨は? どんなに曖昧でも敵を斬った手応えを誤る事はありえない! 無い! 手応えがない! ああ何処だ?! 鱗の中身は何処だ。
「かっ勝った! ぐっぐへへ! 勝ったぞ! やっやっぱり雑魚じゃないか」
違う、逃げねば、早くこの場から逃げ……られない! 退け退け退け退けぇぇぇぇ
「おっ俺の女をつっ連れ去りやがって! こっコイツの首を持ってたらおっ驚くだろうな! フヘッフヘヘヘゲヒャヒャヒャヒャ!」
早く地面と同化してこの場から離れなければ、離れなければ離れなければ……動かない、なぜ耳障りな声が聞こえるだけで動けない動け動け動けぇぇぇぇぇ!!
「泣くだろうなぁビビるだろうなぁ! ふっ震えて命乞いしてきたらどっどうしてやろ……ゲヘ?」
早く逃げなければ手遅れになるぞ! 手遅れに……ておく……れ……
白く染まる……曖昧であった意識が更に真っ白の世界に放り込まれる……
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目の前が真っ白になったと思ったら、いつの間に空を飛んでた、ヒェェ危なかった、今マジで命の危機だったぞ。
なんかキツいと思ったら、強制的に脱皮の状態になってしまったようで、強力な魔物相手だとダメージを与えるだけで経験値が手に入るそうで、戦ってるうちにレベル50に到達してしまったせいだ。
脱ぎ捨てた鱗は意外と綺麗な形で残ったみたいだけど、巨人の斧でバラバラだ、ああ記念に頭部だけでも残して置きたかったのに、俺の鱗は頑丈だから防具の素材に良いと思ったのに。
「ご、ご主人様ぁぁふえぇぇん死んじゃったのかと思いましたよォォ」
今の危機一髪の脱出が相当堪えたのかカハちゃんがマジ泣きしてる、よーしよしよし良い子だから泣かないで……なんか縮んでないカハちゃん?
「サシュリカ様が大きくなっただけデス、現在体高が8メートルはありますよ?」
(あ、ヘルヴェルさん、ポーションも持たずに飛んで行かないでくださいよ、心配しましたよ)
まったく、宝物庫からポーション入りの魔法のポケット渡そうとしたら、もう居ないのだから焦りましたよホントに。
「うぐっ! い、妹の前で言う事無いじゃないデスか」
(後でヴィーラントさんにも叱ってもらいますよ)
「そ、それより今は巨人デス! 進行方向にあった大きな街に侵入できないように術を施してましたからもう安心デスよ」
それは何より、心配してた事態にはなりそうにないから一安心だ。
「あ、あのお姉さまがいらっしゃると、巨人は逃げてしまうのでは?」
上空にいる俺たちに気付いてないのか、なんか嬉しそうに俺の脱皮した皮を斧で切り裂いてる、嬉しそうに雑魚呼ばわりがなんかムカつく。
「地面を見てみなさい、もう同化して逃れられないデスよ」
なんだか分からないけど、脱皮した際『なにか』が溢れ出てね、目の前が真っ白ってのも比喩じゃなくて物理的に真っ白なんだよね。
「あわわ……巨人の周囲全部『凍って』ます! 厚い氷の層に覆われてれば地面と同化は出来ないですね!」
そう、俺が脱皮した周辺は真っ白な氷に覆われており、巨人の腰から下は完全に凍結している、凍りついてるのに奴は気がついていないのだ。
「竜は卵の頃から自然の力を吸収し蓄えるのデス、その吸収した自然の力が竜の属性となります」
それは俺も聞いた、卵の頃の環境で竜の属性が決まるって。
「例えば溶岩の近くで孵化したドラゴンは『炎』と『大地』の属性を帯び、深海で孵化したドラゴンは『水』と『闇』の属性を得るのデス」
基本的に単一の自然の力だけを吸収することは滅多にない、そもそもそういう環境はほぼ存在しない、よって殆どの竜は複数の属性を持つことになるそうだ、そこで俺が生まれた場所から考えると。
この距離でもダンジョンの魔法の部屋は使えるので『真実の鏡』で確認したら……
個体名:サシュリカ
属性:氷/雲
種族:仔竜(レベル1)
基礎技能:仔竜基本セット(レベル1)/幼竜基本セット(レベルMAX)
肉体技能:巨体/属性耐性
精神技能:思念会話/竜語魔法・氷/竜語魔法・雲
固有技能:迷宮の主
※幼竜基本セット:鱗防御/爪攻撃/尻尾攻撃/牙攻撃/状態異常耐性/自己治癒/飛行・翼/鋭敏感覚
※仔竜基本セット:属性ブレス/属性魔法
進化したら、実にロマンに溢れる技能が追加されていた、属性とかそれに付随する耐性とかも良いけど……来たよブレス! おまけに魔法まで使えるなんて最高じゃん!
「竜語魔法と言うのは寡聞にして存じませんが、ダンジョンで試してみると良いデス、それよりもサシュリカ様、終わらせましょう」
そうだね、魔法を使えることに興奮して目の前の問題を疎かにしちゃ駄目だよな、邪霊はどうでもいいけど、巨人の戦士さんアンタは本当に強かったよ……
分かる、本能で使い方が分かった、俺は未だ狂喜の叫び声をあげながら、脱皮した皮を切り裂く巨人の上空から、全力で氷のブレスを放った。
体温のない屍人では、高い魔法抵抗力を以てしても凍結を防ぐことは出来なかった、俺がブレス―――白い霧状の冷凍ガスっぽい―――の余波で周囲には煌くダイアモンドダストが飛び交いしばらくの、間巨人は白い霧に包まれる、そして晴れたあとには。
大斧を振るおうとしたまま凍り付いた、巨人の氷像がポツンと、立っていた。
読んでくれた皆様ありがとうございました
ジョジョ第四部の某シーンイメージの展開はやってみたかったんですが
いざ書いてみるとあの緊迫感とワクワク感を描写するのホント難しいですね。




