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【連載版】冴えない妹に転生したので  作者: 時宮珈琲店


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01 冴えない妹に転生したので



 おねえさまは可憐なビスクドール。私は布の切れ端でできた粗末な人形。


 いつかだれかが私たち姉妹を指してそう言ったことがあった。それはあたっていると思う。


 黄金色に輝く麦のような金髪に瑞々しい果実のような桃色の瞳を持つ、美しいおねえさま。鴉の羽みたいな真っ黒い髪に黒に近い青紫色の瞳を持つ、地味な私。


 おねえさまはだれもが見惚れずにはいられない輝きを持っているのに私はどこまでもくすんでいた。姉妹だと聞くとだれもが驚いた。


 男爵令嬢ながらおねえさまの美しさは社交界で評判で、おねえさまは毎日のようにパーティに招待されていた。


 私は。

 十六歳になったばかりの私は。

 まるでいないものみたいに、無視されていたけれど。


「ルルリちゃんはこんなに魅力的なのに」


 おねえさまはそれについて毎回本気で怒ってくれる。──でも、私は自分にだけ招待状が来ないことに傷つきながらもほっとしていた。

 美しく手入れされたビスクドール(おねえさま)と並んだら私の惨めさが際立つだけだから。


 それは両親も同じ考えのようだった。ふたりとも私に招待状が来ないことに安心していた。

 私みたいな妹がいるとわかったら──おねえさまへの婚約の申しこみが減るかもしれないから。


「モモラの邪魔はするなよ」これがおとうさまの口癖で、


「なんであなたはこんななのかしら……」これがおかあさまの口癖。


 私だってこんな自分に生まれたくなかった。

 でも外見は変えられないし、性格だって、私ががんばって明るく振るまおうとするとおとうさまが嫌な顔をするからできなかった。おとうさまはほんとうなら私に一生しゃべらないでいてほしいから。


 布の人形はどうがんばっても陶器の人形にはなれない。


 このまま私は、冴えない妹として人生の幕を閉じるのだろう。



 ──そう、思っていたけれど。



「い、いったぁ……」


 自分のドレスの裾を踏んで転んで壁に頭をぶつけた、その直後だった。私の頭に前世の記憶が流れこんできた。


 ──え?

 ──私、前世はふつうの会社員だった……?


 しかも。いま自分がいるこの世界と、学生時代に夢中になって読んだ小説の中の世界が重なった。


 それは「恋の行方は蝶しか知らない~男爵令嬢の私が第一王子に求婚されるなんて~」というタイトルの恋愛ファンタジー小説。

 男爵令嬢のモモラ・アイスフィアが第一王子のクレールさまに見初められて様々な障害を乗りこえながら愛を育む話だ。


 ……モモラ・アイスフィア。

 私の姉だ。


 そういえば作中のモモラにもルルリという名前の妹がいた。冒頭にちょこっとでただけのネームドモブみたいなキャラだったけど。


 ──私、小説の世界に転生してたの……?


 それも、ヒロインのモモラじゃなくてその妹のルルリとして。


「ちぇ……チェンジで」


 思わずつぶやいたけれどそんなものだれも聞いてくれない。

 そんな。王子さまとの恋愛はともかく、せっかく転生したなら私だってフリフリのドレスを着たりプリンセスって感じのティアラをつけたりしたかったよ……!


「…………」


 ……私だって。

 こんな地味で卑屈な自分(いもうと)じゃなくて、容姿も心もきれいなおねえさまになりたかったよ。


 私は自分のベッドで泣いた。半日くらい泣いた。そして決意する。


 ──こんな地味な妹に転生したってことは、もう恋愛のごたごたに巻きこまれなくて済むんじゃない?


 前世の記憶が色々とフラッシュバックする。

 わたし××くんが好きなんだーと世間話風に牽制されたり、恋バナに参加しなくちゃグループに入れてもらえなかったり、隣の席の男子とちょっと話してたら〇〇ちゃんの好きな子を取ったと吹聴されて仲間外れにされたり。


 どうしてか私の周りには恋愛体質の子が多かった。正直言って私は恋愛なんてどうでもよかったのにきらわれないよう興味あるふりをして、悲劇のヒロインぶりたい子に振りまわされて、──とにかく疲れた。


 ルルリに転生したのはもうしょうがない。だったら自分のいいところをすこしでも多く見つけたい。

 モモラとルルリのどっちになりたい? って聞いたらだれも絶対に選ばないようなルルリ。その子に転生した私だけは、この人生を肯定したい。


 ──ルルリのいいところ。

 それは、地味な容姿と性格ゆえに異性にまったくアプローチされないこと。


「…………」


 ……いや、悪口じゃなくて。長所だから。

 ルルリは恋愛そっちのけで自分のやりたいことを突きつめることができる。


 ルルリに転生した私が極めたいこと。それは錬金術。

『こいだん』の世界には錬金術が存在していて、アカデミーを卒業して国家試験に受かれば国家錬金術師として仕事ができる。

 恋愛そっちのけで修行すれば自分の工房を持つことだって夢じゃないのでは?


 片腕と片足が義手義足の少年が活躍する某少年漫画や、調合したり冒険したりタル爆弾を投げつけたりする某RPGにかつて夢中になった私にとって『錬金術』の三文字は特別な響きを持っている。


 なりたい。錬金術師に……!


 そうと決まったら──





「おとうさま、おかあさま。今日は折りいってお話がございます」


 話があると私が言っても両親は時間を作ってくれないにちがいない。なのでその日の夕食中に私は話を切りだすことにした。


「なにかしら」とサラダを口に運びながらおかあさまが問いかけてくる。おとうさまは聞こえなかったかのように私を無視した。

 おねえさまはフォークを置き、ちょっと不思議そうな顔で私を見てくる。


 私は息を吸ってから言った。


「私、錬金術師になります」


 おかあさまがフォークを落とした。

「……なんですって?」とそこで初めて私の顔を見る。


「まず錬金アカデミーに入ります。ここからだと一番近いのはカミラのアカデミーですね。一年勉強して、来年の入学試験を受けようと思います」

「ルルリ、あなたは男爵家の娘ですよ。そんなものになる必要はありません」

「あら、研究に身をやつす貴族なんてめずらしくありませんわ」

「女が錬金術なんてやめなさいな。ただでさえ遠い縁談が遠のきますよ」


「べつにかまいませんわ」私はゆったりと微笑む。「それくらいで遠のく縁談なんて、こちらから願い下げですもの」


 いつものルルリ──前世を思いだす前の私だったらおかあさまにこんなふうに言いかえすことなんて絶対にない。

 おかあさまは気分を害したようだった。


「おかあさまの言うことが聞けないの?」

「ご忠告してくださる気持ちはありがたく思います。ですが、おかあさまのおっしゃることはさして合理的ではございません」

「な……」

「貴族だから働くな? 女だから研究職なんてやめろ? そんなもの、聞く必要がどこに?」

「ルルリッ!」


 おかあさまが甲高い声で叫ぶ。そして私に投げつけようとしたのかナイフを取りあげたけれど、「やめなさい」とおとうさまに言われておかあさまは彼をにらみつけた。


「でもあなた……!」

「あれの好きにさせなさい」

「────」

「入学試験を受けてみればわかる。どうせ、」



「あいつには、なにもできやしないんだ」



 ……味方になってくれるのかと思ったらちがった。おとうさまは、私になんの期待もしていないだけだった。


 テーブルに置いてある心臓の薬はある高名な錬金術師が作りだしたもの。安価で出回っているこれがなくてはおとうさまは日常生活を満足に送ることができない。彼は錬金術の恩恵を受けている。


 ふつう、自分の娘が目指すとなったら誇らしいだろうに。

 こう宣言したのがおねえさまなら、満面の笑みで喜んだだろうに……。


「おとうさま! そんな言い方……!」


 おねえさまがかっとなったように言いかえす。

「おねえさま、いいの」と私は彼女を優しくいさめた。


「でも……! いまのはひどすぎます。おとうさま、発言を取り消してください!」

「いいだろう。それが無事に合格できたらな」

「……あれだのそれだの。先程から、あなたは実の娘をなんだと思って──」

「おねえさま。私はほんとうに平気だから」

「ルルリちゃん……」


 私はおとうさまを見つめる。背筋を伸ばして、まっすぐに。


「その言葉、たしかにお聞きいたしましたわ。私が無事にアカデミーに合格いたしましたら発言を撤回していただきましょう。それとせっかくですから──」



「もし私が首席で入学できたら。

 いままでの私への発言や態度すべてひっくるめて、謝罪していただきます」

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