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扉の魔法使い  作者: 黒金カズナ
第一部 あの空が、すべての始まりだった

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第五章 裁判

「キイル、助けて。」


数百の目が俺を見た。困惑、疑惑、囁き。俺はパンを口に含んだまま、その場に固まった。

この女、誰だ? 面識は——

片方の目に、青い魔法陣が浮かんでいた。


……解析魔法を使いやがった。


「そこのお前、来い。」


人混みをかき分けて進む。肩がぶつかる、押される。

……王国じゃなければ全員ぶん殴っていた。

押しが強くなり、体が波に揉まれるように運ばれた。歩かずとも広場の中央に辿り着いていた。


「さっきの泥棒を捕まえたのはお前か?」


衛兵長が剣を俺の顔の前に突き立て、立っていた。


「はい。班長も見ていましたよね——」


「私たちは喧嘩をしていた。だから私をここに差し出したのよ、盗んだ本物の品は彼が隠してる」


「はぁ!? 仲間を売って自分だけ逃げるか。」


「女を使って盗みをやらせる情けない男め、唾でも吐きかけてやれ」


誰かの唾が俺の手に当たった。深呼吸する。この場を水浸しにする衝動を抑えた。

重い足音が近づいてきた。門番が大きな声で衛兵長に報告する。


「昨日入城の際、この男は風魔法に吹き飛ばされて城壁の外に出たと話していました。喧嘩中に外へ弾き飛ばされたということでしょう」


市民がざわめき、石が飛んできた。顔に当たりそうなものだけを手で受け止めた。


「その通りです衛兵さん。喧嘩して、私が彼を城壁の外へ弾き飛ばしたんです」


……自業自得だ。

自分で作った嘘が、自分の首を絞めた。


「拘束しろ。」


息を吐いて、大人しく枷をはめさせた。裁判がどこへ向かうか、まず見極める。

女の小さな笑い声が聞こえた。


「さて、ここから逃がしてくれないと、二人とも死ぬわよ。」


「死ぬのはお前だけだ。——実際に何を盗んだ。」


女がにやりと笑い、首をこちらへ向けた。


「気になる? 逃がしてくれると約束したら話してあげる」

「きっと気に入るわよ、クロカゲ・キイル。勇者の息子」


危うく呪文を唱えるところだった。堪えた。ここで動けば後の判決が重くなる。


「……わかった、約束する。早く言え」

女は笑い、囁いた。


「この城に悪魔が潜んでいる。三つの闇の魔法兵器が用意されていて、私はそのうちの二つを盗んだ——」


俺は足元と女の下に大きなポータルを開いた。出口は王国から三百メートル離れた場所。

枷を砕いて広げた手で、女の襟首を掴んだ。


「続けろ、早く」


女の目が大きく開いた。


「今……何をしたの?」


顔が近くなるまで引き寄せた。


「城壁の中に送り返される前に話せ」


「わ、わかった、わかった……でも先にこの枷を——」


「今すぐ話せ」


「……は、はい」


「私の名前は——」


「どうでもいい、悪魔と兵器の話だけしろ」


女は唾を飲み込んで口を開いた。


「悪魔が変装している。第一王子が戦場で死んで以来、悪魔が王子に成り代わり、内側から王国を操ってる。」


「どこでそれを知った」


「悪魔と闇の魔法具を感知できる道具を持ってる」


そんな道具があるのか。聞いたことがない。手が襟から首へ移動した。


「なぜ王国は悪魔の変装に気づかない」


「闇の兵器の一つに支配効果があるから。でもそれはもう盗んで壊した」


「二つ盗んだと言ったな、もう一つは?」


「使用者の望む言葉を他人に言わせる兵器。言葉を操る道具よ」


悪魔らしい。支配と掌握、それだけを求める。


「三つ目は?」


「知らない。いつも使う前に壊してたから」


……こいつは只の泥棒じゃない。悪魔から闇の兵器を二つも盗み出すとは、大したものだ。

ポータルが開いた。出口は俺の正面——火球が飛び出して草原に火をつけた。

手を離して振り返る。衛兵の姿はまだない。王国内に透視の使い手でもいるのか、位置を割り出されている。


「きゃあああ!!」


炎が迫る。女の顔のすぐ手前まで。


「外して! お願い、外して!!」

女が叫んで泣いた。


俺は立ち上がり、歩き出した。ズボンが引っ張られる。見下ろすと、女が噛み付いていた。


「お、置いていかないで……手伝う、絶対手伝うから……お願い、置いていかないで」


涙が止まらなかった。

……役に立つ情報をくれた。働きは十分だ。

枷の支柱を持ち上げてジロ王国と逆方向にポータルを開いた。泣き声を背に、枷を外してやった。哀れだった。


「行け。悪魔と兵器は俺が片づける。炎にも当たってないのに泣くな」


「ひっく……死ぬかと思った……」

涙を手の甲で拭いながら、女は背後から俺の服を掴んだ。


「まだ何だ。連れて行かないぞ」

嗚咽が続く。


「な、なんでそんなに一人で平気なの……相手は悪魔よ」


横目で見て、息をついた。

「強いとは思ってない。ただ、あいつらに長く生きていてほしくないだけだ」

手を払って歩き出した。


「それって、あなたが勇者の——」

「風よ、薙げ」


風魔法を横へ放った。女がとっさに跳んでかわす。背後の木が根ごと倒れた。


「もう一度その言葉を口にしたら、次は胴と首を分けてやる。覚えておけ」


血が頬を伝った。女は震える指でそれに触れ、荒い息をついたまま、小さな瞳で俺を見つめた。

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