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扉の魔法使い  作者: 黒金カズナ
第一部 あの空が、すべての始まりだった

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第三章 魂

全身が震えた。視界が歪み、俺は膝をついて頭を抱えた。


死にかけた。


「そこまで驚くか? 人間ってほんと弱いわね。」


……弱い。そうだな、その通りだ。


ゆっくりと大ガミの方へ歩いた。

「大ガミ、さっきの時間巻き戻し——お前だよな?」


大ガミが頷く。足元には複数のカードが扇状に広がっていた。俺はもう一度大ガミを見た。


「神様って、自分の民を大切にしてるんだろ?」


「急にどうし——」


両肩を掴んで揺さぶった。


「だったらその愛情を行動で示してくれ、ここから出してくれ!!」


大ガミは俯いた。長い耳がしょんぼりと垂れる。俺はすぐに手を離した。


「うちだってそうしたいけど……デスがこのままだと、寿命より先に人間が全滅しか——」


突然、大ガミが俺を突き飛ばした。

振り返った瞬間——


大鎌が大ガミの腹を貫いていた。


「「大ガミ!!」」


大ガミがゆっくりとこちらを向いた。顔が白い。それでも、笑っていた。


「大丈夫よ、神はすぐには死なないから。」


大鎌が引き抜かれる。大ガミの体が崩れ落ちた。俺は歯を食いしばった。大鎌が回転し、俺へと振りかぶられる——


チィンッ。


「——絶対に許せね!!」


空気が焼けた。大鎌が二本の剣に挟まれる。鬼ムスの背中の筋肉が盛り上がり、体が赤く燃えた。

デスが大鎌を引く。鬼ムスが身体ごと回転させて斬りかかる。デスが上空へ離脱。鬼ムスは脚の筋肉を膨らませて跳躍し、宙を蹴って追いすがった。


俺はすぐ大ガミに這い寄った。傷口に粒子が集まり、穴を埋めようとしている。青白い顔がかすかに歪んだ。


「大ガミ、ごめん。」


「気にしないで……少し休めば戻るから。」


大ガミが何かを差し出した。手を広げると、藁人形が置かれた。


「命を司り、祝福を与える者よ。その滞りを移し、その痛みを移し、二度目の機会を与え、傷ついた魂を縛り、修復せよ。」


「ソールリンク」


体に変化はない。大ガミがゆっくりと目を閉じ始めた。


「一度だけ……キイル。」


……一度だけ。


俺は藁人形を強く握った。肩と腰に圧がかかる。


なるほど、そういうことか。


腰に藁人形を仕舞う。立ち上がり、散らばった青いカードを一枚拾って胸に当てた。強く息を吐く——

カードからマナが体へ流れ込んだ。


影が前方に集まり、大鎌が振るわれる。十本の剣が殺到し、デスを後退させる——

鬼ムスが背後から突進、左の剣を薙いだ。デスが上方へ逃げる。ポータルが待ち構えていた。出口を鬼ムスの足元へ——


大鎌が鬼ムスの剣を受け止める。無意味だった。


大鎌が弾き飛ばされ転がる。白カミの三本の剣がデスを押さえつけた。

俺はゆっくりと近づきながら左手を掲げた。


「光よ、浄化の名のもとに集い、歌え。踊れ——お前を嫌うものを迎えよ。」


重なり合う白い魔法陣が展開され、光がデスを照らした。


「ああああ——!!」


大鎌が黒い粒子に散り、デス本体へと吸い込まれていく。鬼ムスが両手で剣を握り直し、真下へ叩きつけた。


デス本体が大鎌で受けるが無駄だ。地面へ叩き落とされる。俺のポータルに小さく開き白カミの剣が入り、即座にデスの真上へ出口を展開した。


右手をデスの胴体へ押し込む。体が震えた。体内の暗黒が渦を巻き、俺の手へ吸い込まれていく。

左肩に鋭い痛み。大鎌がずぶずぶと押し込まれてくる。冷気が全身を締め上げた。大鎌が引かれ始める——左手は動かしていないのに、肩から引き千切られるような感覚。


「人間——」


「人間、無理をするな!!」


大ガミは俺のために犠牲になった。これくらいは返さなければ。

右手をデスの胸へさらに押し込む。


「ああ——!!」


魂が服を引き剥がされるように削れていく。呼吸が遅くなる。視界が白く滲んだ。右手の震えが増すほど、暗黒が吸い込まれていく。


大鎌が体から抜けた。それと同時に

——デスの暗黒が、最後の一粒まで消えた。


一瞬だけ素顔が見えた。ピンク色の髪の、女だった。


視界がぐるぐると回る。


意識が、落ちた。


***


目が開いた。体が鉛みたいに重い。首すら動かせない。


「夢も見なかった。あっという間に落ちてたな……」


「人間、目が覚めたか」


鬼ムスが覗き込んでいた。白髪がばさりと垂れて目に入る。口元に笑みがあった。


「大ガミは?」


鬼ムスの表情が変わった。目が細くなり、横を向く。


「大丈夫よ、元に戻るまで少し時間がかかるだけ。」


「鬼ムス、起こしてくれないか——」


胸ぐらを掴まれた。強引に引き起こされる。足が地面についているのに、感覚がない。

目の前で、大ガミが白いキツネの人間の膝の上で眠っていた。


「……あんたが白カミか。」


白カミがゆっくりと顔を上げた。頬に涙の跡が乾いていた。鬼ムスが俺を大ガミの横へ引きずり、人形でも座らせるみたいに足をまっすぐ伸ばした。


「あなたの状態は?」


「キイル。俺の名前はキイル、動けない。」


目の端で、さっき浄化したデスの姿を探した。


「デスはどこだ?」


「あたしが元の場所へ送り返した。大ガミを傷つけた後もあの顔を見ていたくなかった」


「大ガミが回復するまでどのくらいかかる?」


「三週間あれば十分なはずよ。デスの大鎌で削られた魂の量は、そこまで多くなかったから」


……神でも、魂は持っているんだな。


白カミが俺の腰から藁人形を取り出した。左肩の部分がほとんど千切れかけていた。


「鬼ムス、人間界へ行って藁を持ってきて」


「わかった」


鬼ムスが手を離した瞬間、視界が空に変わった。後頭部に圧がかかって、頭が急に傾いた。

彼女の足音が遠ざかる。目の端で追うと


——鬼ムスが下へ飛び降り、そのまま消えた。


見上げた空に、鬼ムスは戻ってこなかった。


この次元を出入りできるのは、神だけらしい。

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