第十一章 移住
アンを部屋に運び、フェオは俺の部屋に連れてきた。二人に毛布をかけて、廊下に出た。
「先ほど船の浄化をされた方ですか?」
扉を閉めると、大柄な男が立っていた。
「あなたは?」
男の横を通り過ぎた。
「礁岩村の村長です。お礼を伝えに参りました。」
俺が廊下を歩くと、村長もついてくる。椅子に座った。
「それで、報酬は?」
村長が笑った。
「では前置きは省きます。ただその前に——」
「長居するつもりはない。用件を言ってくれ、さっさと片付ける。チケット三枚で足りるか、多すぎるか?」
村長が首を振り、隣に腰を下ろした。
「成功すれば、そんなもので済まない話です。」
「ふむ。」
腕を組み、一定のリズムで足を踏んだ。
「クロコ型魔物の大規模な移動が予想されています。それが起きれば明日の航行も完全に止まります。」
そこまで急いで帰りたいわけでもないが……魔物の移動はやっかいだ。アンが誤ってバイソンを刺激したのも、群れが移動中だったからかもしれない。
「質問、駆除か、移動か。」
「正直に言えばクロコたちはこの村を守る盾にもなっているので……でも移動って、どうやって? 数が——。」
「移動ね、わかった。」
「ちょっと待て、どうやって——」
宿を出た。湖の輪郭に沿って歩き、クロコたちが移動ルートに使いそうな川筋を探した。
陸路も使えるか……この湖、何十キロある? 十数キロはありそうだ。
首の後ろを手で撫で、素早く傾けた。
バキッ。
久しぶりだ、碌に体を動かしていない。ポケットからマナリングを取り出して嵌めた。青い輝きがすぐに消えた。
「一本目、即終了。」
同じことを繰り返した。四本目が空になった。
「最後の一本。」
嵌めると、青い輝きが欠けない。
よし、準備完了。
前方に、クロコの群れが休んでいた。群れの間をさりげなく歩き抜け、大きな岩の上に座った。まっすぐ前を見た。
指で小さな輪を作り、右目に当てた。左目を閉じる。
「光よ、我が目に反射し、迷える者に道を示せ。壁に当たれば戻れ」
指の魔法陣が目に移行し、光の線が一直線に走った。
この魔法は距離を測るためのもの——光が水面を貫けば、目に白が満ちて燃える。
白が頭を塗り潰した。右目が焼けた。すぐに左目を開けた——右目はもう見えない。煙が漏れている。
水が流れた。泣いているわけじゃない。
生物的な反応だ。
十七キロ先に水がある。川か、まだ湖か分からないが、十分だ。
「土よ、立ち上がれ。逃げようとするものを囲め」
土の壁が湖と陸地から湧き上がり、モンスターたちを囲んだ。壁の端に大きなポータルを開き、マナを頭部に集中させながら十七キロ先に出口を展開した。
「雷よ、咆哮しろ」
左手を向けると、雷が荒れ狂いながら飛び出した——破壊ではなく、音でクロコを走らせるために。
ポータルに飛び込むクロコが増えるにつれ、マナが削られていく。この規模が一斉に通過すると、頭が少し揺れる。
嘘だ、かなりくらくらする。
視界が暗くなり、体が後ろへ倒れた。
***
「情けないな~」
自分の声だ……
どういう意味だ? 幻覚魔法の中にいるのか。
ゆっくりと目を開けた。天井が見えた。右目を瞬かせると——見えた。もう治っている。ゆっくりと起き上がり、右手を回した。爪の跡も消えていた。
ベッドを出て廊下へ出ると、足が思うように進まない。
軽すぎる。体がふらついた。
「あっ……先輩」
「キイル先輩」
「アン、フェオ。俺いつから宿にいる?」
壁にもたれて腕を組み、まだ言うことを聞かない体を支えた。
「湖の端で倒れているところを見つけられて、運ばれてきたんです」
「先輩、右目が燃えてましたよ……何があったんですか?」
ああ、反射光魔法を使ったからか。
右目を拭うと、熱くない。距離測定の魔法を使った後はいつも焼けた感覚が残るはずなのに。
普段はこの魔法を使った後に医者に行く。
「距離を測るために光魔法を使った。代償で目が燃えて一時的に見えなくなる。でも治せる……お前たち、医者を呼んだか?」
「呼んでないです。私がヒール魔法を使いました」
「お前、ヒール魔法使えるのか?」
「使えますよ、今は基本魔法の必修になってますし」
ヒール魔法が必修?
「詠唱の書に書かれたヒールの呪文を覚えたのか?」
「違います、ロウヒールです」
ロウヒール?
「というか先輩、なんであんな危険な魔法で距離を測ったんですか」
「遠すぎたから。光で測れば早い」
アンが小さくため息をついて、肩をぽんと叩いた。哀れむような目で俺を見た。
「先輩……今は短縮魔法で距離測定できますよ」
俺はアンの手を肩から払った。
「便利な魔法が嫌いなわけじゃない。使えないんだ」
「短縮魔法が使えない人間なんていないですよ、先輩」
嘲る気はゼロだと分かる言い方だった。それでも、なぜかむかついた。




