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扉の魔法使い  作者: 黒金カズナ
第一部 あの空が、すべての始まりだった

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第一章 石

そよ風が首筋を心地よく撫でる中、俺は体を伸ばして木の下で休んでいた。


シュッ……


何の音だ?

片目を開け、草原を見渡した。


「何もない……」


「風よ、巡れ。何か邪魔するものがあれば知らせよ。」


足元に魔法陣が広がり、薄い風の壁が俺を中心に五メートルを囲むように展開した。

風のバリアを突き破る魔物はいない。


シュッ……


疲れ気味の目を開け、音の出処を探る。


ゴオオッ ドォンッ


爆発が見えた。強烈な風が押し寄せ、俺の風魔法をぶち壊す。両腕で顔をかばった。


「一体何の爆発だ?」


吹き飛ばされて地面に叩きつけられ、すぐさま地面に埋まった岩を掴み、両足を強く後ろへ蹴り出した。

周囲の草を焦がしながら、大きな煙が立ち上っているのが見えた。近づき、腰から水筒を取り出した。


「水よ、マナを捧げる。増えよ、渇きを求める者を潤せ。」


流れ出た水が青い魔法陣へと落ち、その量を増やしながら燃えた草へ溢れ出した。火を消しつつ、水は煙へと広がっていく。


「風よ、動け、視界を遮るものを払え。」


左手から緑の魔法陣が現れ、煙を押しやる風が吹き――

いや、まだ中から出てきている。


「まだ何かが燃えている。」


「水よ……」


さっきの水にマナを流そうとしたが、繋がらない……

「水が枯れた?」


水筒を取り出してもう一度注ぎ、同じ呪文を唱えた。水が煙の中へ流れ込み、かえって煙を濃くした。

水筒を傾けると、もう何も出てこない。


「飲み水がなくなって、まだ中で何かが燃えてる?」


足は既に背を向けていた。風が煙を運んで俺の方へ吹いてくる。


...…もし煙の中が純金だったら?


下唇を噛んで強く息を吐き、魔法陣に唾を吐いた。


「水よ、マナを捧げる――荒れ狂い、行く手を阻む全てを押し流せ!」


マナの半分を使い、唾の水の量を増やして周囲に溢れさせ、直接マナと共鳴させた。


「続けて、水よ、凍れ。」


呪文によってまだ勢いよく流れていた水が凍りつくが、すぐにまた溶け出す。


「凍れ!」

何度も繰り返した末に、ついに煙の中からもう氷は見えなくなり、後ろへ体を投げ出した。


「マナがほとんどなくなった……モンスターに遭ったら逃げるしかないな。」


マナの問題じゃない、魔物のコアを仕留めなかったのがもったいない。


足元に冷たさを感じ、すぐに立ち上がった。足の汗が凍っている。前方へと続く氷の線を辿った。


煙が薄れ、徐々に消えていく。現れたのは、表面に奇妙な孔が空いた丸い石が中央に置かれたクレーターだった。


「石?」


作った氷がその石の外側をしっかり覆っていた。石を取り出して氷を砕いた。


「思ったより軽いな。」

「よく見たら月みたいだ……」


手の中で回しながら分析する。

「ふむ……コレクターに売れそうだな。いくらになるか? 金貨二十〜三十枚くらいにはなりそう。」


街の方向へ歩き出したが、何かに足を引っかけた。


「あ……」


ゴツッ


草原の景色が土に変わった。

幸い、両手が顔を守ってくれた。


座り込んで、さっきの球が真っ二つに割れているのを見た。


「あああぁ……売ろうとしてたのに。」


すぐに駆け寄って割れた二つの石を持ち上げると……


「ん、これは? 何かおかしい。」


球の片側に輝くクリスタルがあった。触れようとした指が届く前に、クリスタルが光り――


「うわっ……クリスタルが勝手に動いてる。」


クリスタルが右手へ飛びかかってきた。手を引こうとしたが、それは激しく回転しながら食い込んでくる。後退しても、クリスタルは張り付いたまま俺の手を削り続けた。右手から血が溢れ、震えが走る。しびれが腕を伝い、耳が鳴った。


鬱陶しいことこの上ない。水魔法を出そうと唾を吐こうにも無駄だ。

右手は激しく震え、制御できない。


森へ向かって走り、一秒ごとに五メートル間隔で二つのポータルを開いた。水の流れる音が聞こえ、足を速めた。手を川へ突っ込み、血が全て流れ去るまで待つと、冷たさが右手の震えを止めた。

ゆっくりと手を引き抜く。クリスタルは非常に深く刺さっていた。


クリスタルの縁に親指を差し込んで引き出そうとしたが無理だった。手を回してみると、クリスタルが手の甲から突き出しているのが分かった。


畜生、手の甲まで貫通してやがる。


小刀を取り出し、自分の手を刺してクリスタルを取り出そうと考えた。


「引っこ抜いたら穴が開いて血がもっと出る。医者に行く方がいい。ヒール魔法ならこれより酷いのでも治せる。」


立ち上がり、地面にポータルを開いた。体の力を抜いて後ろへ倒れ込む。もう一つのポータルが十メートル上空で開く。


落ち、上のポータルから出てきた。周囲を見渡すと、東の方向に砦が見えた。


「よし、あそこだ。風よ、そっとの背に集まれ。」


背中から緑の魔法陣が現れ、風が体を包んで落下速度を和らげた。

風のバリアを張りながら森の中を歩いた。小型モンスターの奇襲を防ぐために。


あ……そうだ、忘れてた。


川に戻り、水筒を満たした。飲み水のためではなく。


「水よ、凍れ。」

水筒が固まった。それを右手で握りしめた。

少し楽になった。


***


しばらく歩くと、森の景色が消えて大きな砦が姿を現した。


「あの紋章……ジロ王国か。俺の冒険者カードは失効してるけど、多分入れるだろう、更新を頼める」


警備所の長い列へと向かった。

溶けかけた氷の入った水筒を腰に戻し、濡れた右手を回した。

右手がまた疼く。そっと揉んだ。


「次。」


もう俺の番か? 早いな


荷物を渡して別の衛兵のところへ向かった。衛兵は胸、腰、太ももをポンポンと叩いた。


「異常なし。」


衛兵はもう一人の衛兵に頷いた。

荷物を受け取り、砦の中へ踏み込んだ。この門からは商人より住民の方が多い。


(あ、そういや、ギルドの場所を聞くの忘れた)


衛兵の方へ振り返ると、足元の地面が雲の塊に変わった。


雲?


「空にいる?」


両手を上げてバランスを取ろうとしたが、落ちていない。足元の雲を踏みしめた。

硬い……これは普通の雲じゃない。


ザッキン ザッキン


頭を巡らせて音の出処を探すと、十数本の剣と大鎌が打ち合っているのが見えた。黒い影が、何十本もの剣に囲まれた白い存在を追い回している。


なぜ空で戦っている?


「おお……援軍が来てくれたか。」


女性の声が耳に入った。振り返ると、白髪で背に二本の剣を帯びた鬼の女が立っていた。

鬼が空に?


「おお、人間よ。名前は?」

「黒影キイル……」

「キル?」

「キイル」

「キル?」

「あー、キルでいいや……」


(俺の名前、そんなに難しいか? ただもう一個iが増えるだけなのに)


「ではキル、余の名は鬼ムス。あちらの狼人間が大ガミだ」


鬼ムスが後ろを指した。


放っておいたのに、まだ人間と呼ぶのか?

鬼ムス……鬼娘むすめから"め"を取った感じか? あまりにもそのままな名前、絶対本名じゃない。


鬼ムスの後ろの人物を見た。黒ずくめの服を着た狼人間で、その下には何枚かのカードが見えた。


「よろしく……で、状況はどうだ? なんで後ろであいつらが追いかけっこしてる?」


十本の剣が大鎌を持つ体を囲み、突こうとした。大鎌は素早く回転し、剣を四方に弾き飛ばした。


あれは悪魔か?


いや、違う……暗黒に憑かれた何かだ。


右手がまた疼いている。マナはまだかなり残っている。光魔法を一発とポータルをいくつか開くくらいはできるはずだ。


「ああ……白カミのことか?」

「カミは暗黒に憑かれたデスと戦っている。」


読みは正しかった、暗黒に憑かれた何かだ。


いや……待って。


デスって何だ? 概念としての死か、それとも死神か?


だが、もし神ならば――


なぜ暗黒に憑かれることができる?

はじめまして。

黒金カズナと申します。

今回の作品では、これまでとは少し違うジャンルに挑戦してみました。異世界転生ではないハイファンタジーです。

気に入っていただけたら、感想やコメントをいただけると嬉しいです。どんな一言でも励みになります。

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