最終話 ああああ、次なる戦いへ!
初完結です。
絶好の帰国日寄りだった。
「うーにゅ! 良い天気なの!」
「我が君!こちらですよ!」
「はいはい。まあそんな慌てんなって。急がなくても迎えの飛空艇は逃げたりしないからさ……もう少しのんびりとこの平和になったリッツァーニャの景色を堪能しながら歩こうぜ?」
小さな雲一つ無い完全青一色の晴天。
さらに言えばこれ以上ないまでに輝く太陽。
それこそ空は俺の独壇場と言わんばかりに国中の建物や、畑の農作物を照らしているという正直言うと熱さを覚えるくらいの眩しい好天だった。
「おお、待っていたぞ! 《ああああ》殿。いやあ、今日はなんとも清々しい程に美しい天気であるな! まるで天が君達三人の出発を祝福しているようではないか! ガッハッハッハッハ!」
……そうして。
そんな明るい空の下での俺達はというと、
「ありゃ、ブラストル王……本当に来てくれたんですか。別に俺達なんかの為にわざわざ王様自らが見送りに来る事なんか無かったのに……」
「ガッハッハッハ! 何をいまさら水臭い事を言っておるのだ!? この国を救った英雄を自ら見送らずして何が王か。それに受けた恩には相応以上の礼儀を払う。それこそ私の生き様なのだ!」
「あはは……じゃあお願いしましょうか」
「うにゅにゅ! やっぱり良い王様なの!」
「ふむ。この方もまた王に相応しい器だ」
今の会話通り。
異変を解決した俺達は出発。
さらに当初の目的の一つだった新たな仲間探しについても無事に完了し、今回はこの白銀の鎧モンスターである『アマーリア』を仲間に加えた。
よって用事を全て済ませた俺達は帰国。
異世界転移した俺にとっては始まりの国であり、既に立派な家も構えてあるロトシアの国へ戻るべく、このリッツァーニャの城門前にて護衛の兵士達一行およびブラストル王と話していたんだ。
「うーむ。しかし本当に良かったのか?」
「……良かったのかって、何を?」
「もちろん今回の褒美についてだ。君達は我が国を救ったのだから、遠慮せずに望むがまま大量の金銭を要求すればよいのに。それどころか何も褒美を望まんとは。本当に何も必要ないのか?」
すると王様は首を傾げて不思議そうに俺に尋ねる。
でも……その事に関しては前に言った通りだぜ。ブラストル王?
「ええ、ブラストル王。先日も言った通りです。俺達は元々この国を救う気で訪れたんですから。それにこれからの冒険にも欠かせない仲間も増えた事ですし、これ以上の成果は必要ないです」
「そうか……なるほど。しかし変わった人物だな、君は。スラリーナ君やそちらのアマーリア君が慕う理由が少し分かった気がするぞ。君は間違いなく伝説の魔物使いだ。いや……これからの事を言うときっと伝説になれるの方が正しいか? ガッハッハ!」
「あっはっは、持ち上げ過ぎですよ王様! こんな冴えない男一人にそんな言葉は重いです! ですが……一応前にもお伝えした通り――」
「ああ、分かっておる。私も恩人に借りを作りっぱなしは嫌だからな! もしも何か困った事があれば遠慮なく連絡を送るが良い! 私を含めた全兵士が《ああああ》殿の助けになるからな!」
そう。これで良かったんだ。
確かに傍から見れば報酬として大金を貰えるチャンスだったかもしれないが、俺にはまだまだロトシアの王様から貰った大量の金貨があるし、そこまで業突く張りになる必要もない。
それに……男としては一度こういう時くらい英雄らしくカッコつけたいしなっ!
「はい、ありがとうございますブラストル王。では……そろそろ俺達は回収地点に向かいます。それから預かった書状もかならずロトシアの王様に届けますのでご安心ください!」
「うむ! では任せたぞ!」
「はい。それではまた会いましょう!」
金よりも信頼。己の損得よりも人情。
金に厳しい転生前ならともかく、この不思議な異世界ぐらい漫画のヒーローみたいな存在になるのも別段悪い話じゃないからな! だったら思う存分にカッコつけてやるぜ!
「よし! ではガルシア兵士長。頼む!」
「はっ! 了解致しましたブラストル王! では……同志たちよ! 今一度この我らが生まれ育ち愛するリッツァーニャ国を救ってくださった英雄様の誕生。そして此度の出立について英雄様御一行を拍手でお送りしようぞっ!」
「「「うおおおおおおおおおおおお!!」」」
「「英雄様! バンザイ!」」
「「スラリーナ様。そしてアーマリア様!」」
「「貴方方のご活躍に今一度感謝を!」」
パチパチパチパチパチパチパチパチ!
パチパチパチパチパチパチパチパチ!
(やれやれ……にしても凄い見送りだな)
「「《ああああ》様、御一行バンザーイ!」」
「「その旅路に神の祝福があらんことを!」」
「「もし窮地に陥る事があれば、たとえ地の果てであろうとも絶対に我々が駆けつけますので!」」
「えへへ! 私達ってば人気者なの!」
「これも我が君の人徳ですね」
「あははは……よしてくれ。改めてそう言われると割と恥ずかしいからさ。さあ、それよりも早く馬車に乗って目的に急ぐぞっ!」
と……まあこうして。
俺達は拍手喝采で賑やかに見送られる中、足先を待ち合わせ場所へと変えた。
この地に足を付けちょうど一週間目となるこの日。約束の飛空艇が降下する地点を目指しつつ、俺達は恵みを取り戻したこの素晴らしき国リッツァーニャの景色を見ながら離れる事にしたんだった。
―― ―― ―― ―― ―― ――
しっかし……。
「うにゅんうにゅん♪」
「スラリーナ殿は随分と楽しそうだな」
「うん! だって久しぶりに私達のお家へ戻れるんだもん! それに……これからはアマーリアも一緒に住む場所になるから余計に楽しみなの!」
「はははは、なるほど。我が君の住居は今から帰るロトシア国にあるのか」
「うん! それに、きっとこれからはアマーリアも私達と一緒のお家に住めるだろうから、それも込みで色々とワクワクしていたのっ!」
「そうだな……もし我が君の許可があれば私も厄介になりたいところだ。多少融通が利かなくて不器用な所も目立つかもだが」
こうしてアマーリアが引く馬車に揺られながら、そう彼女達が楽しそうに会話を交わす姿を見ていると……ふと、これまでの記憶が蘇ってくる。
(今、思い返せば意味不明の連続だったな)
まずは転移前。
クソゲーを起動した直後だ。
全ての始まりはあの【名前入力】から始まり、俺が悪ふざけでこの《ああああ》という名前を入力してしまったのが発端で、それからは命名神様の逆鱗に触れてしまい、大切な《赤羽 暁斗》という自分の名前を奪われた挙句この異世界送り。
(それで……それからも――)
そして転移後も休む間も無くイベント。
目を覚まして王様に謁見したと思えば、モンスターともまともに戦えない最弱体質だった【魔物使い】の能力を滅茶苦茶称えられ、未だに使いきれていない程の資金援助を受けたんだったな。
「ふふ~ん。そんなの気にしなくても大丈夫! だって私のマスターは誰だって受け入れる優しい心の持ち主なんだから。アマーリアも家に住めるに違いないの! ねっ? マスター!」
「それは本当ですか。我が君?」
「ああ、勿論だ。今やお前も立派なウチのパーティーの一員だ。だから好きなだけ俺達の家で厄介になると良い。真面目なお前が好みそうな修行場もあるから活用してくれ」
「はは、ありがたき言葉です! 我が君!」
それで……そこから優しくて可愛いスライムであるこのスラリーナと出会って、本格的に俺の魔物使いとしての冒険がスタートしたんだったな。
(まったく。転移直後はどうなるかと思ったが、どうにかここまで順調に冒険を進められて良かったぜ。まあ……認めたくはないがあのクソ命名神様の案内のおかげもあるかも――)
「やっほー! 暁斗君、元気かい!?」
「うおおおおお!? な、なんだ!? いきなり空から我が君の名を呼ぶ声が……って確かそのお声は先刻お見受けした――」
「うにゅにゅ。あのムカつく声は――」
うおっほ……言ってる間にマジで神様出てきた。
丁度この思い返していたタイミングに本当に出てくるとは……狙ったのか、それとも偶然暇つぶしで出てきたのか。どちらにせよ面倒臭いな。
「はいはい。今行きますよ~神様」
だが……まあ、しょうがねぇ。
対応すんのは面倒だけど迎えの時刻に遅れる訳にもいかないし、とっとと荷車の中から命神様の声がした外へ早く飛び出して話すとしよう。
「久し振りだな神様。アマーリアが仲間になってから無沙汰だったけど、どうしたんだ? また借金取りにでも追われていたのか。それとも彼女を【娘化】させる仲間玉でも持って来て――」
俺はそう悪態を突きつつ冗談を交え馬車外。
アマーリアが止めたのか馬の足が止まって勢いを失った荷車から降り、空を見上げるようにして神様の髭もじゃヅラを拝むべく外へ出た。
すると――
「違う違う! 残念だけど今回もそんなふざけている場合じゃないんだ! それより現在進行形で色々ととんでもない事が起こってて。それで」
珍しく随分と慌てた様子だった。
いつもは何処か余裕のある態度の神様だが、今回に限ってはいつにもなく取り乱し、俺に早口で語りかけてくる。ったく今度は何があって――
「実は君達の帰ろうとしているロトシアが魔王直属の大悪魔に襲撃されそうなんだ! これまでの魔王配下のヘンテコな魔物とは比べ物にならない超ヤベェ奴が出現する事が発覚したんだよ!」
「な……なにっ!?」
大悪魔の襲撃だとっ!?
それもまさかのロトシア!?
俺達にとって思い出深い始まりの国にっ!?
「と、とにかく! この緊急事態を君に伝えたかったんだ! だから可能な限り道中の戦闘に時間をかけず、今そっち向かっている飛空艇に乗り損ねないようにするんだよ! いいね! じゃあ私は新しい襲撃情報が入り次第連絡するから!」
「あっ、おい! 神様待って――」
「じゃあね! 暁斗君……それからスラリーナちゃん達も! みんな、また機会があれば会おう! それじゃあこの接続を切るよ! バイバイ!」
「…………………………」
……質問をする暇は無かった。
ハッキリ言って真面目と言う言葉が世界一似合わない神様だったが、今回ばかりは真剣そうな顔をして俺達にそうキッチリと緊急の報告を告げると、無駄話せずあっという間に消えたんだった。
まあ何か意味深な言葉にも聞こえたが……。
「ま、我が君」
「マスター……どうするの?」
「あはは……決まってるだろ?」
だが……そうだな!
まだ何も終わってないもんな!
まだ俺達は二体のボスしか倒していない。
歴戦の兵風晒して、ここまでの旅路を思い出したりしてたが……。
(そうだ……俺達の冒険はまだまだ始まったばかりなんだ!)
だから俺はこの心強い仲間と共にこれからもっと多くのモンスター達と戦って、もっと強くなってこの広い異世界を巡らないといけないよな!
「飛空艇の合流地点に急ぐぞ! 二人共!」
「うにゅ! マスターの命令のままに!」
「ふむ! 我が君のままに!」
けれども!!
この異世界を攻略する男の名前は既に決まっている!
そう……そいつの名はっ!
「オッケー! それじゃあ急いで回収地点に行くぜっ! そしてそれまでの戦闘命令は【ガンガン命令させろ】だ。妨害してくる悪いモンスターは片っ端からやっつけていくんだ! いいな!」
「「了解!」」
この俺、伝説の魔物使い《ああああ》だ!
だから必ずこの俺が異世界を攻略して、あの神様から名前を取り返してやるんだぜええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!
To be continued……?
ユーザの皆々様。
ここまで読んでくださり誠にありがとうございました。
最終話の展開としてはまさに某少年誌のテンプレの如く【俺達の冒険はこれからだエンド】となりましたが、一旦これにて《ああああ》達の冒険は幕引きとなります。
なお細かい情報は【活動報告】に纏めさせていただきますが。もし本作品の【この先登場予定だった仲間】や【没ネタ】が見たいという方は感想等に書いていただければ、何らかの形で投稿したいと思います(*´ω`*)
それでは……最後のご挨拶にもう一つテンプレっぽい文章を。
ご愛読ありがとうございました!!
黒まめちこの次回作。および現在連載中の【レオナルドのよろず屋】にご期待下さい!!
最新話の《103話》は本日の1時頃に更新予定です!!




