第31話 ああああ、運ばれる
……城内の様子は屋敷に近かった。
「おっ、お疲れさん。デブーン様へ報告カ?」
「まあな、ところであのお方は何処ニ?」
「ああ、先程から外から戻ってきて部屋だゾ」
「くそ……やっぱ部屋に行かねぇと駄目カ」
運んできたリッツァーニャの兵士に変わり、鎧型モンスターのデスアーマー達が荷車を引く間。
俺はまだ酒ダルの中に潜みつつ、空いてる穴の隙間からこうして城の様子を色々観察していた。
「しっかし……相変わらず凄い量だナ」
「まったくだ、運ぶ身にもなってほしいゼ」
「だが、こんだけ大量の食材があっても本気になればペロリと食っちまうんだから。マジでデブーン様の胃袋の巨大さには呆れちまうよナ……」
「はっはっは……それ言えてるぜ。じゃあナ」
そしてそう呑気に同種の鎧モンスター達と会話しつつ運ぶデスアーマー達を他所に、俺が入城してすぐに理解したこの城の特徴は大きさだ。
「おーい! 手伝ってくレ!」
「はいはい! 今助けてやるゾ!」
「いつも思うが、部屋を跨ぐのも疲れるナ」
「よし! いっせーのでで開けるゾ!」
言ってみればその全てが超ジャンボサイズ。
馬鹿でかい廊下、馬鹿高い天井、馬鹿でかいシャンデリア、馬鹿でかい空間、馬鹿でかい時計と目に入る全てがデカく……そしてその極めつけといえば、この空間を区分けする巨大な扉だ。
「「「いくぞ……いっせー!」」」
「「「のーでっ! っト!」」」
「「ンググ、なんで扉一つ開けんのにこんナ」」
「「文句言うナ。破壊されるよりマシだロ?」」
この城門とかと間違えそうなクソデカ扉こそ利用する人物がどれ程デカいかを見事に表してやがる……多分推定でも4メートルはあるか。
「さあ、もうひと踏ん張りだ。運ぶゾ」
「「「ぜぇぜぇ……ホント嫌になるゼ」」」
(うーん……だとしたらどう戦えばいいか。前回のダークマジシャンの場合は少なくとも人間サイズだったから、スラリーナの灼熱で圧勝したが……巨体の敵には一体どれ程のダメージが――)
「おうおう、今回の運搬班はお前らなのカ」
「ああ、そうさ。ホントにひでぇ貧乏くじだゼ」
「まあまあそうブーたれんなって。頑張れよ。ああ、そうそう分かってると思うがこの先気を付けろよ。多少荷物を溢しても後にするんだゾ」
「ああ……分かってるヨ……くそったれ」
おっと、扉を開けてまた荷車が動きだしたか。
ってか……聞いてる感じだとデスアーマーも結構大変そうだな……さっきから出会う仲間達に溢してんの愚痴ばっかじゃねぇか。
「おーい! お前らギックリ腰になんなヨ!」
「この前も三階の奴がガッツリ痛めてたゾ!」
「「「くそ……だったら代わってくレ!」」」
「「「俺達はもう既にヘトヘトなんだヨ!」」」
「へっへっへ……それは嫌だネ」
「まあ、決まった以上頑張るこっタ」
「なんならそのまま次の納品の時モ――」
「「「うるせぇ! リンゴぶつけるゾ!」」」
「「「次は絶対に仮病使ってやるからナ!」」」
(……………………………………)
うおっと……いけねぇいけねぇ。
つい学生のノリで飛び出しそうになった。
ってか、敵地なのになんで和んでんだ……。
(しっかりしろ俺……いくらフレンドリーで楽しそうにしていても相手は敵側のモンスターだぞ。つい会話の輪に交じりたくなっても我慢――)
「さあ……皆いよいよ最上階だ、全員気合い入れろ。油断したらペシャンコになるからな!」
「「「「了解!」」」」
うん? なんだ?
妙に意気込んだ声が聞こえたが……。
それにペシャンコって一体何を――
「じゃあ! 一斉に息を合わせテ」
「いっせーのーでッ!」
「「「そう……れっとッ!」」」
ガタンッッッ!
ガタガタガタンッッ!
うおっぷっっ!? 今度はなんだ!?
なんかタルごと転げ落ちそうになったぞ!
いや……それよりもこの揺れ方って――
「「「よいしょ……よいショ」」」
「「ゆっくりだ……ゆっくり押せヨ」」
「いいか。上がり終えるまで気を抜くな! ミスったら一週間はベッドの上から動けんゾ!」
「「ひいぃぃぃッ!?」」
「「お、おっかねぇゾ!」」」
ああ、やっぱり階段だったか。
しかしまあ……敵さんも本当に大変だな。
こんな重たい荷車を三台も運ぶなんて――
「うにゅ? うにゅううう……にゅう?」
あれ、なんだ。今のエロ可愛い声は?
まるで少女が起きた的な……あっ、そっか。
「ふわああああ……よく寝たの……」
あら、スラリーナさんってば今頃起きたのね。
君のいびきのおかげで先程はとんでもない目に遭いましたよ。本当にありがとうございました。
「にゅにゅ? ひそひそ……ねぇマスター」
「うん? 寝起き早々どうした?」
「デブーンのお城……まだなの?」
あの、スラリーナさんすいません。
もうとっくに目的地に到着しています。
貴方が寝息立てていた間にガッツリ乗りこんで、今はボスの元に運ばれてる最中なんですが……。
「「「よいしょ! よいしょっ!」」」
「おっ……おお、お疲れさん。大丈夫カ?」
「ゼェゼェ……なんとかな。少なくともスクラップになった仲間はいないみたいだぜ……しかし本当になんでこの階だけ昇降装置ねぇんだ……毎回毎回食料運ぶのも一苦労だゼ」
「まあまあ、そう愚痴るなって。我らが愛しの兵士長様が毎日デブーン様に交渉しているらしいしさ。大人しく待っとけヨ」
「そうだな……あの人は俺達の事を優先的に考えてくれる人だからな。オッケー、じゃあひとまずデブーン様に伝えてくれ。いつも通り今月分の運ばれてきた食料の確認をしてほしいってナ」
「はいよ。了解したゼ!」
よしよし……まあとにかくだ。
なんか兵士長とかいう聞き慣れないモンスター名も出てきたが、とりあえずはバレずにこの最上階へとやってこれた事だし、俺達が次に戦うべき大ボス【デブーン】の顔を拝む事にしようかな!




