第30話 ああああ、潜入する
俺はタルに空いた穴の隙間から見てた。
「おーい我々だ! リッツァーニャの者だ!」
「今回も約束通りに食材を持ってきたぞ!」
「さあ、早く恵みの石と交換してくれぇ!」
廃屋、古びた教会、風車小屋など。
俺はこの荷車に揺られる道中でそんな異世界感溢れる建造物の数々を目にし、たまに兵士達と会話も混ぜたりして目的地に着くのを待っていた。
「……そこで止まれ! ニンゲン!」
「俺達が行くまでそこから動くナ!」
「それと荷具から離れておくのダ!」
そして出発してから約2時間くらいか。
俺とスラリーナを乗せた荷車はついに到着。
「ひそひそ……《ああああ》様……連中が参りますので……物音や私語は禁止でお願いします」
「厳重では無いとはいえ……向こうも警戒は怠っていませんので……注意してくださいね」
「ああ、分かってるよ……だからスラリーナにも休憩の時に注意しておいたし……おかげでさっきからずっと無音状態だしな……大丈夫だ」
「了解致しました……それならば安心です」
「それではご武運をお祈りしています」
「ああ……俺達に任せろ」
こんなモンスター以外誰も近寄らない渓谷の果てにポツンとそびえ立ち、現在では魔王の配下デブーンが根城としている古城へと到着したんだ。
「おい! 何をコソコソしていル!?」
「とっとと荷物から離れろ! ニンゲン!」
「不審な行為は我々への宣戦布告だゾ!?」
「あ、ああ! そんな事は分かっている!」
「お前達の言う通り、今すぐ荷物から離れる!」
「だから約束通り恵みの石を渡してくれ!」
(って言っても……まだ潜入出来たわけじゃなくて肝心の荷物検査が残っているんだけどな)
そうだ、モンスター側だって馬鹿じゃない。
家に彼女や友人を入れるとはワケが違うんだ。
だから今もこうして、取引場所であるこの城と谷を繋ぐ大橋で待機させられているって話だ。
「よし! では今から石と食料の交換を行ウ」
「ただし何か怪しい行動を取れば決裂だゾ!」
「では、今からそちらに向かうからナ!」
おっ、そうこう言っている内に始まったか。
えっと……とりあえずこのタルの中から確認できる範囲での敵モンスター達の姿はっと……。
「動くなよ! 絶対に動くなヨ!?」
「馬鹿……それだと動けって命令になるゾ」
「ほらほら、ふざけてないで行くゾ」
うおおっ!?
まさかあのモンスターの姿って……うおぉ……うおおおおおおぉぉぉぉぉっ!
「ではこれより荷物検査を行うのダ」
「貴様らはそこで静かにしているのだゾ」
「質問があればこちらからするからナ」
おっと……いかんいかん。興奮を抑えないと。
だが、ここでついにファンタジー好きには堪らないこの系統……【動く鎧系モンスター】の登場ときたか! うーん、やっぱりカッコいいな!
「め、恵みの石は……」
「慌てるな。ここにちゃんとあル」
「安心しろ。流石に約束は違わン」
ああ……もうこのロボットみたいにガシャンガシャンって重たい音を立てて動いて来るのがもう堪んねぇぜ! やっぱ鎧は漢のロマンだなっ!
「では……検査前に聞こう。今回の食料の内訳を簡単に言うのだ。別に大雑把でも構わん。最後は我々デスアーマー達が確認するからナ」
「あっ、ああ……分かった、内訳を言おう」
ほお、コイツらデスアーマーって言うのか。
名前こそ安直だが、この紫色のトゲトゲした鎧姿だけで充分お釣りが来る。もし育成ゲームなら仲間にした時点でパーティー入り確定だぜ。
「えっと、まず先頭の荷車に積んでる物は見ての通りだ。オレンジ、バナナ、リンゴなどお前達の親分デブーンが好む果実を積んである。約束通り劣化させないように様に冷凍魔法をかけてな」
「ふむふむ……ではあの二番目の車は何ダ?」
「あれも見ての通り、肉関係の積み荷だ。牛、豚、鳥、他にも討伐して取れたモンスターの肉などを積んでいる。それてデカい壺に入っているのはどれも足が早い(腐りやすい)獣の肉ばかりだ」
「なるほど……確かにデブーン様は腐りかけの肉が好きだからナ。注文通りにしたという事カ」
「そうだ。だから狩りを依頼して持ってきた」
「ふむ。では……最後はこの荷車の確認ダ」
おっとと、俺がこのデスアーマーの姿に見惚れている間に検問はもう終盤か。さてと……ラストは俺達の乗っているこの荷車の確認さえ済めば無事にデブーン城へ潜入出来るってワケなんだが、
「うむ? なんだか随分と箱やタルが積んであるようだが……中身はなんダ? ちゃんと食料なんだろうナ? もし異物が混入してたラ――」
「「「っ!?」」」
(くっ……流石に敵さんも勘ぐってくるか)
確かに前二つの荷車と違ってこの三番目だけは箱詰めの物が多いからな……前二つの審査に集中させて警戒を削ごうとしていたが有能な奴だ。
(だが、それも予想の範疇だ! いけ!)
ベキィッ! バキィッ!
「なっ!?」
「貴様ら! 何を勝手な事ヲ!?」
「俺達の許可無しに荷物を開け――」
「……見ての通りだ。木箱はトマトやキャベツなどの野菜の詰め合わせ、タルはブドウ酒などを入れた酒ダルとなっている。そしてこの他の箱も同様に野菜、タルには酒が詰まっている」
「お……おお」
「「そうカ……」」」
先手必勝。
敵が念入りに調べる前に自分達で暴露する。
捨て身だが、こうして自らの手で中身を公開して納得のいく説明を混ぜればいくら敵さんと言えどもその警戒意識を薄めざるを得まいっ!
「う、うむ……確かにブドウ酒や野菜の青臭い匂いもしているナ。分かった、良いだろう」
よしっ! 偽装作戦は見事に成功だな!
ならば後は物音を立てないように――
「グゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
はひっ!?
「「「うんんっ!?」」」
「おい……ニンゲン……今の音は何ダ?」
「い……今のはだな……そ、その……」
ま、まさか今の音って……。
「何かいびきの様な音が聞こえたゾ!?」
「しかも野菜箱の方から聞こえた気がしたゾ!」
「中に誰か入っているんじゃないのカ!?」
(も、もしかしてスラリーナさん寝てる!?)
「ぐぅぐぅ、すやすや……むにゃむにゃ」
ああ、ダメだ! やっぱり寝てやがるっ!
隣の箱だから寝息が直に伝ってきやがる!
どうりでさっきから喋らなかったワケだ!
だって寝てるもん! 夢の世界にいるもん!
「おい! 貴様ら、これはどういう事ダ!」
「もし誤解ならば納得のいく説明をしロ!」
「やはり箱の中は全部開けるしか――」
うわあ……ヤベェよヤベェよ。
女子のいびき一つで大ピンチだよ。
作戦が全部水泡になっちまったよ!
「ひそひそ……《ああああ》様……こんな時はどうすれば……このままでは確認という事で全ての箱やタルが奴らに開けられてしまいます……」
するとデスアーマー達に詰問されている兵士の隙を見て、傍にいた兵士が俺に声をかけてくる。
くそう! こうなったら苦し紛れもいいとこだがこの手段でどうにか悪あがきするしかねぇ!
「ひそひそ……イヌの泣き声って言え」
「い……イヌですか!?」
「ああそうだ。別にネコでもいいけど……とにかくごまかせ。何かの動物の鳴き声って事でな。どっかから忍び込んだって事でごまかすんだ」
「は……はい。分かりました」
自分でも正直意味不明な提案だが、ひとまず何かの生物が箱の中に入り込んだって事で騙すしかねぇ! だから伝達は頼むぜ兵士さんよっ!
「ま……待ってくれ! ち、違う……今の声はきっと」
「「……きっと?」」
「何だというんダ?」
よし! 言ってやれ兵士さん!
堂々と嘘をついてやるんだ!!
アンタなら絶対に出来るぜ!!
「ネ……ネヌだ! きっと野生のネヌが城の倉庫に紛れ込んでいてうっかり箱に入ったに違いない! だから――」
「なに? ネヌだと?」
アンタ伝達ヘタクソかっ!?
なにネヌって!? ネコとイヌの融合体!?
慌て過ぎて意味不明な解答になってんぞっ!
(ああ……もうダメだ。後はこのまま――)
「なんだ……ただのネヌだったカ」
……うん?
あれ……今コイツらはなんと?
「ったくニンゲンめ……驚かせやがって」
「よかろう。では約束通り石と食料を交換ダ」
「そして、また石を回収に行くからナ」
「「あっ、ああ……分かった」」
えっ……待って! ネヌでオッケーなの!?
お前らそれでいいの!? スルーなの!?
ってか、逆にネヌって一体なにっ!?
「ではこれで交換は終わりだ。俺達は城に戻った後にネヌをネヌネヌせねばならないからナ」
動詞!?
「よし……全員引き上げるゾ」
「了解。そうかネヌだったのカ」
「ああ、これまた珍しい事もあるもんダ」
ねぇ、お願いだから教えてっ!
誰かネヌについて教えてぇぇ!
ここまで読んでくださりありがとうございます。
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それではまた次話にてお会いしましょう。それでは。




