第29話 ああああ、作戦を提案する
「ですから、私は何度も言いますが――」
「いや、流石にその手は無いでしょう」
「ならば何か代案でもあるのですかな?」
東の渓谷にポツンとそびえているという古城。
そこがデブーンの根城であり、月に一度の食料と奪われた国宝の恵みの石との交換はその城と渓谷を繋いでいる巨大な橋の上で行われるらしい。
「だから爆薬を使って橋を――」
「いやそんな事をしても無駄ですよ」
「リッキー氏の言う通りだ。それは難しい」
そして今。
俺とスラリーナは王様からそんな数少ない敵の情報を得た後にてこの会議室へ移動。
内容は勿論デブーンを撃退できないかという課題だったが……見ての通り会議は難航していた。
「では食べ物に毒を混ぜるというのは……」
「非理論的ですね。相手は魔王より凄まじい力を与えられたモンスターなんですよ? 毒の一つや二つでどうにかなるとは僕には思えませんね」
「そもそもこんなギリギリの苦しい状況でようやく育った食べ物に毒を混ぜるなど……国民が丹精込めた作物を何だと思っているんですかな?」
「なんだと貴様! もう一回言ってみろ!」
「ええ、何度でも言ってあげますよ! 毒如きで魔王配下の魔物は倒せないと言ったんです!」
「まあまあ二人共落ち着け。怒っても議論は前へは進まない。それよりもやはりここはこの国の全兵士を投入して玉砕覚悟で乗りこむしか……」
「「すいません、それは却下で頼みます」」
「そこは意見が合うのか!?」
橋の爆破。毒混入。全兵士突入。
他にも色んなアイデアが飛び交ってはいたが……結果は見ての通りどれも決定には至らない。
「くそ……ならばどうしろというのだ」
「王の意見を賜りますか?」
「馬鹿者、王は疲れておるのだ。民草の気苦労は全て自分の責任だと毎日愚痴を溢しておられるのだぞ。それにこんな時こそ我々の出番だろう」
「ですが、まだ一つも名案が出ていないではないですか。どれもこれも否定ばっかりで……だからデブーンにここまで好きにされたんですよ?」
「なんだと……新参者の若造が偉そうに……」
「我々はお前が生まれる前。先代の王の時代からこの国を支えてきたのだぞ? それを何と?」
うわあ……しかも何かギスギスし始めたし。
頂点が一人とはいっても、それに従う人間は一枚岩じゃないって事がよく分かる図だな……。
「古参だろうが新参だろうが現状はこのザマです。ですから過去にすがって威張ってる暇が――」
「「貴様! 言わせておけば!」」
「止めろ! 大切な会議中だぞ!」
「「くそう! 離せっ!」」
だあああ! もおっ!
どいつもこいつもうるせぇな!
だったら俺が提案してやろうか!?
「それじゃあさ。いっそのこと誰かが食料の中に紛れ込んでさ。そのまま城に潜入してデブーンの弱点を探るってのが良いんじゃないのか? 例えば酒ダルとか木箱の中に隠れとけば、後は敵さんが勝手に城に入れてくれるんだろ?」
「「…………うんっ?」」
「「えっ…………」」
「「……はいっ?」」
はっ……し、しまった。
雰囲気に耐えられずについ口走っちまった。
おかげで全員目を丸くして俺を見やがる。
「「「……………………」」」
「「「……………………」」」
「あっ……いや……その」
おっふ……今にも馬鹿にしてるのかと怒られそうな雰囲気だ。冗談とはいえこんな真剣な場所で素人がおかしな提案を言うもんじゃなかった。
「「《ああああ》様……今なんと……」」
「「貴方様は……今なんと仰いましたか?」」
「えっと、だから大量の食物を持っていくなら……その時渡す荷物の中に潜入員を入れた箱を一つや二つくらい紛れさせればって話なんだが……」
ほらな、見事に地雷を踏んじまった。
早速みんな怪訝そうな顔して詰め寄ってきやがる。まるで面接でNGワードでも言っちまったような気分だ……さてどうしよ――
「「「貴方様は天才かっ!?」」」
「…………はいっ?」
えっ?
てん、さい?
「そうだ! その手があったか!」
「流石は《ああああ》殿です! 素晴らしい!」
「やはり伝説の魔物使いと言うだけはある!」
「うう……そうか……まだそんな手が……」
えっ? えっ? どういう事!?
なんでそんな尊敬の眼差しを向けるの!?
なんで大袈裟に涙流している人いるの!?
「では……皆の者、異議は無いな」
「「ええ! その手で行きましょう」」
「「我々も賛成以外にあり得ません!」」
「うむ! では満場一致で決定だな! そしてこれからは天才の《ああああ》様が出された【潜入案】についての議論に移るとしようではないか!」
「「「賛成!」」」
しかもまさかの決定!?
アンタ達本当にそれでいいのっ!?
ぽっと出の俺の意見で大丈夫なの!?
「しかし……問題は潜入員を誰にするかだな」
「そうですね。仮に潜入出来たとしてもそこは完全に敵地。潜入員の数が少数である以上、戦闘になれば数の暴力に晒され勝ち目はありません」
「ふむ……なるほど」
ま、まあ……話が前進したならこれでいっか。
いつの間にかギスギスも上手く治まって一致団結したみたいだし、また様子を見る事にしよう。
「それに一番の問題ですが…………」
「うむ? どうしたのだ?」
「この際だ。ハッキリ言ってくれ」
「もしも……こちらの潜入がバレた際、その潜入員が我々の国の兵士だった場合。デブーン達は即座にこのリッツァーニャへ向けて侵攻して報復行為を取る事でしょう。そうなれば一瞬でこの国は壊滅。更なる闇へ落ちていく事になるでしょう」
「た……確かにそれは言えているな」
「だが他国に協力要請を出している暇はない」
「いや、それ以前に要請に応じるかどうか」
ありゃ、また議論が渦の中に入っちまった。
うーん……やっぱり愚策だったかな。
「ふむ、何処かにこの国の者ではなく――」
「それで大群の敵とも戦える能力で――」
「なおかつ少数で行動可能な部隊と――」
「そんな都合の良い人物などいるわけ――」
あははは……そうだよな。
そんなまるで狙ったかのようなご都合展開に合った奴らがここにいるわけ……って、うん?
「「おや? その条件だと……もしや」」
「えっと……他国からの使者で――」
「それで灼熱の息で多少は無双でき――」
「それでいて少数パーティーといえば――」
「ま、まさか……そんな事って――」
「………………へっ?」
あ、あれ? 皆さんどうしたんですか?
なんで一斉に俺とスラリーナを見て――
―― ―― ―― ―― ―― ――
「止めろぉぉぉぉぉ! 出せぇぇぇぇ!」
「《ああああ》様、誠に遺憾ではございますが……もうこれは決まった事なのです。貴方とスラリーナ様が潜入しデブーンの弱点を探る。この案が可決された以上、我々リッツァーニャ国の民は貴方方二人に全てを託す結論に至った次第です」
畜生! あんな提案出すんじゃなかった!
おかげさんで俺はタルの中、スラリーナは野菜の箱に偽装した空箱に放り込まれちまったっ!
「《ああああ》様、分かってください。お二人以上に適役な人材がいなかったんです。ですからどうかここは一つ我が国の未来を思って――」
はいはい! 分かりましたよ!
行きますよ、行きゃあいいんでしょ!
ってか思ってたよりタルって狭いな!
「ねぇねぇ、マスター、マスター」
「なんだ、どうしたんだスラリーナ?」
「何だかワクワクするね! 私楽しみなの!」
アトラクションか何かと勘違いしてるっ!?




