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第22話 ああああ、温かくなる


 ……まるでスパイにでもなった気分だった。


【こんにちは! 指輪のおばさん!】


【あらあら、スラリーナちゃんこんにちは! 王様から聞いたわよ、なんでもあのダークマジシャンを倒した……って、あら? スラリーナちゃんってばいつの間に私達の言葉を話せて――】


【えへへ。マスターのおかげで沢山お話している間に覚えたんだ。きっと強くなっていく内に賢くなった影響だと思うの。それにおばさん以外にも私が話せるようになった事知ってる人いるよ】


【あらあらそうだったの。モンスターの成長って凄いのね。ほんの少し前まではピィピィって鳴き声だけで全然言葉が分からなかったのに……】


 こうして蛇の様に姿を隠し、建物の影から聞き耳を立てて俺はスラリーナの動向を伺っていた。

 今は自由に城下町を出歩く彼女の周りに悪い(おとこ)が付き纏っていない事を祈って、


【えへへ、偉いでしょ!】

【ええ! それじゃあご褒美におばさん得意のなでなでをしてあげるわね! それぇっ!】

【わーいわーい!】


 だが、しかし。


「おい、小型神様ミリマリオン様。怪しい男の気配なんて微塵も感じられないんだが……」


 あんなに和気藹々とした喜びに満ちた光景。

 まさに平和と言う言葉を体現化したような絵面を見ている限り、彼女が何か俺に後ろめたい事をしているようにはどうも思えないんだが……。


「もお、馬鹿だね君は。そう簡単に表面上で判断しようとするからこういう事態になるんだよ。ほら、文句言ってる暇あったら聞き耳立てて! 私の勘だときっと今にも彼女はボロを出すよ」


「へぇへぇ。分かりましたよ」


 ったく、仕事サボって呑気に人の肩に乗ってる奴が何言ってんだか。どうせ何も起きやしねぇよ。何度も言うが彼女はそんな悪い娘じゃ――


【それじゃあ。また今度ね、おばさん】


【あら? 何か用事があるのかしら?】


【うん、とっても大切な約束があるの! じゃあね! また今度お話しようね、おばさん!】


【あらあら、走って躓かないようにね!】


【はーいっ!】



 うん? 大切な……約束?

 何だ。俺もそんなの聞いてないぞ。

 一体……スラリーナは何を――



「こらっ、暁斗君何をボサッとしてんのさ。早くスラリーナちゃんを追跡するよ! 勘ぐってる暇あるならとっとと足を動かして追って追って!」


「あっ……ああ。分かったよ」


 くそ、彼女がやましい事をしているなんて未だに信じられないが……確かに真実は確かめたい。

 単に城下町を巡って遊んでるなら御の字なんだが……もしも何かあるなら極論それでも良い。


 その身に危険が及ぶような事に首を突っ込んでいないのであれば、そんな彼女の行動を受け入れてやるのもマスターの立派な務めだしな。


「さあさあ、面白くなってきたよ! ここからがきっと急展開になる気がするよ! 暁斗君、キチンと覚悟して彼女の行動を追うんだよっ!」


「そんな笑えない冗談はやめてくれよ」


 だから俺はそのまま物陰から物陰へ移動。

 時には裏路地も通ったりして彼女を追っていった。



 ―― ―― ―― ―― ―― ――



【はい、コーヒーお待たせしました!】

【おお、ありがとさん。おっとそうだ。ミルクと砂糖も貰っていいかな? 最近甘い物が――】


 ……喫茶店だった。


【はい、こちらご注文のサンドイッチです!】

【おお、これこれ。これを食わないと昼の農作業に力が入んねぇんだよな。いただきまーす!】


 俺と神様がスラリーナを追っていた後にたどり着いたのは城下町でも大人気の大きい喫茶店。

 外見としてはレンガ造りの古風な店で昼時という事もあってか多くの客が入っている……だが、


「おい神様……あれって」

「うーん……多分だけど――」


 だが! 今はそんな客入りの点は重要じゃない。

 肝心なのは俺達が現在目撃しているこの光景。

 この店外から覗き込む窓奥に映る()()



【お客様! いらっしゃいませなの!】



「あのメイド姿の子って……まさか」

「うん! やっぱりスラリーナちゃんだね!」


 そう、なんと驚くべき事にっ!


【おお、スラリーナちゃん! また来たよ!】

【相変わらず綺麗だね。娘に欲しい位だ!】

【スライムって人型になるとこんなに可愛かったんだな……俺も魔物使いになりたいな……】


【もお……二人共変な事言わないの! それじゃあ三名様ならあっちのテーブルへどうぞなの!】


 スラリーナは()()()()()()()()()()()んだ。

 いかにも秋葉原とかにいそうなフリフリの給仕服エプロンを着て働いていたんだ!

 だから怪しい男と会っていたとか何か騒動に巻き込まれてるとか……そんなのでは断じてなく、


【スラリーナちゃん! こっち注文お願い!】

【はーい、今行きますなの!】

【スラリーナちゃん、次はこっち頼むよ!】

【分かったの! 少し待ってて】


 むしろそれどころか満面の笑みでの働きぶり。

 外から見ている俺達ですら、思わずニッコリと返してしまいたくなる程にスラリーナは真面目に給仕姿で客の注文を聞いていたんだった……。


「なんで……俺に黙ってたんだろ」

「さあ? 何か借金とか作ったんじゃない?」

「おいおい、アンタじゃないんだから……」


 まあ、だがなんやかんやでここまで来たんだ。

 王様から貰った金がまだ有り余ってんのになんで働いているのか程度は一応聞こう。



「いやー、食った食った。さあて仕事――」



 よし。今出てきたあのオッサンにしよう。



「なあなあ、アンタ。少しだけ時間いいか?」


「おや。これはこれは《ああああ》様ではないですか。一体どうされたのですかな? もしかしてスラリーナちゃんの事が気になって来られ――」


「まあな。実はそれについてなんだが……」


 それで俺は早速、男性に色々尋ねてみた。

 率直に何故スラリーナがここで働いているのか、何か理由があるのかなど、店内で働く彼女の目に入らないように出口から離れた場所で聞いた。


「他にも、例えば過去に店の主人に何か迷惑をかけたとか、どんな小さな事でもいいんだ。その、少し気になったもんだから……あはははは――」



「おや、もしやご存知なかったのですかな? てっきりマスターである貴方様は知っているものと……あのバイトは貴方様の為なんですよ」



 ……へっ?

 俺の為……だって?



「なんでも、聞いた話によるとスラリーナちゃんは我々人間に少しでも馴染めるようにするため。そして()()()()()()()()()()で、《ああああ》様。()()()()()()()()()()()()で彼女はああして昼から夕方まで給仕として働いているんですよ」



「な……ななな…………」

「あらあ。スラリーナちゃんってば……」

「まさか、アイツがそんな事を……」



 うっそだろ……。

 スラリーナの奴、俺の知らない所でそんなサプライズを用意してたのかよ……。


(ああ何だろう……温かい。スゲェ心があったけぇよ)


 まさにマスター冥利に尽きるってこの事か。

 ああ……なんか目頭も熱いぜ! 畜生!


「あは、あはははは。そっか俺の為に……」


 ったく……誰だよ……。

 騙された俺も間抜けだがこんなにマスター思いの彼女を疑る様なきっかけ作ったのは、


「うんうん……何とも感動出来るエピソードだ。エロゲーとかだったらついついクイックセーブしたくなる展開だよねぇ……うんうん、わたくし命名神マリオン、心より感動致しましたっ!」


 ああそうだ。コイツが諸悪の根源だった。

 まるで他人事ひとごとの如く涙流してるこの虫ケラみたいに肩に乗ってやがるクソ神様だ。



「それにここだけの話、店の主人の話ですとね。元が真面目でさらにモンスターの美少女という事で客も倍増して店も大繁盛らしいですよ! だからスラリーナちゃんには辞めて欲しくないって言うのがあの主人の本音らしいです!」



 ………………………………。



「いやあ、ですが本当に優しい子ですね。元がスライムだったとはいえ、つい我が子のように応援したくなりますよ。それにマスターである《ああああ》様もそう思うで…………って、あれ?」


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