第20話 ああああ、褒美をもらう
俺にとって異世界転移初のボス戦。
その名もダークマジシャンを退治した次の日。
「おお、よく来てくれた《ああああ》殿よ。昨日は本当に見事な働きぶりであったな。おかげで早朝より奴に脅かされていた村の人々からよく眠れたとの連絡が入っておる」
「ははは、それは良かったです」
俺とスラリーナは王様にまた招集されていた。
「しかし未だに嘘みたいじゃ。あれ程煮え湯を飲まされていたダークマジシャンがこうもあっさりと退治されるとはな。魔物使いさまさまじゃの」
「あっはっは……言い過ぎですよ王様」
思わずひきつった笑いが出てしまう。
ってか王様流石に持ち上げ過ぎだよ。
むしろそんなに褒められると恥ずかしいし手柄の殆どはこのスラリーナがガッツリ強くなってくれたからなんで……あんまり俺を称賛されても、
「わっはっはっ! そう謙遜する事もなかろう! お主とスラリーナちゃんは立派にワシの期待に応えて、此度の宝石強奪事件の解決に貢献してくれたではないか! なあ、皆もそう思うであろう?」
「「はい! 勿論ですとも我が王よ!」」
「「《ああああ》様、バンザーイ!」」
「我らが救世主様!」
「《ああああ》様に永遠の栄光あれ!」
なっ!? お願い! マジで止めて!?
恥ずかしいから止めてくれませんかっ!?
実際戦ったらスライムにも勝てないんだから、そんなにハードル上げないでくんないっ!?
「わっはっはっは! よーしよーし! では場もこれ以上無い程盛り上がったところで早速、本日其方を招集した内容についてなんじゃが……」
すると王様はそう言ってまるで英雄でも誕生したかの様に騒ぎ立てていた兵士達や貴族たちの声を一旦鎮めると、そのまま話題を切り替える。
(なんだろ……次の目的地でも教えてくるのかな。まあRPG的に考えるならそれがありがたいが)
「実は昨日話しておった、其方のダークマジシャン討伐についての褒美についてなんじゃが……」
ああ、なんだ。その事についてか。
王様ってばそんなの気にしなくていいのに。
転移した早々に貰った金貨1000枚の補助金だけでも助かってるんだから……別にいいのに。
「その、強力無比な魔王の配下を倒した《ああああ》殿やスラリーナちゃんの功績を鑑みればいささか不釣り合いかもしれんのだが……」
まあでも折角の王様の厚意だ。
わざわざ変な気を遣ってまで断り場の空気を悪くするよりも、ここは有難く頂戴しておこう。
「ええい、もうズバリ言おう。報酬は――」
さあ今度は一体何を頂けるのやら。
―― ―― ―― ―― ―― ――
結局。
「わーい! わーい!」
「こら、スラリーナ! 喜ぶ気持ちは分かるけどあんまりはしゃぎ過ぎるなって。危ないだろ?」
「はーい、マスター!」
俺は……とんでもない物を貰った。
「しかし本当に貰って良かったのか?」
「うにゅ? 良かったって……ご褒美の事?」
「ああ、俺の年齢からしたらわりと現実離れした褒美だったからさ。まだ実感が湧いてないんだ」
「うーん……そんなものなの?」
「まあな。俺のいた世界だとある種の夢や人生の目標にする人もいる位だからな。それをこうもあっさりと貰えるなんて思ってなかった」
それでその肝心な報酬と言うと――
「まあまあ、マスター! 何はともあれこうして私達のおうちを貰ったんだし喜ぼうよ! 王様のお話だと家具もそのままみたいだしさ!」
「そ……そうだな」
そう……なんと【家】だった。
まさかのマイホームを俺は貰ったんだ!
過去にとある冒険者ギルドが本部代わりに使っていたって言う古いお屋敷がそっくりそのまま俺の家へと化ける形になったってわけなんだ。
(両親共働きの実家暮らしで、脛を齧る気満々の俺にすれば考えた事も無かったな)
正直、俺にとって家はクソゲーを味わう環境。
両親の帰りが遅い時とかでも自炊はそれなりにしてたし、自宅から出て何処かで独り暮らしをしようなんて考えた事などこれまで一度無かった。
(それが……今度は自分の家か……そっか)
だからこそ、それがこの違和感の原因だ。
システム的にホテルに近い宿ならまだしも、親元を離れての生活に現実離れした感触を覚えたんだろう。まあ異世界の時点で今更な話だが……。
「えへへ、おうち! おうち! 私達のおうち! マスターのおかげでこの人間みたいな姿になってから寝る場所が宿に変わったりしたけど、やっぱりゆったり出来る住み家は欲しいもんね!」
「あ、ああ。そうだな……」
いや……むしろそれよりもだ。
一番の問題はもう一つのコレについてだ。
「うにゅ? どうしたのマスター?」
そうだ。男、赤羽 暁斗よ。
もう一つ大切な事があっただろう?
そんな脛かじりクソゲー三昧生活よりも、
「………………………………」
「マスター? ねぇ、マスターってば!」
「あっ、うん!? ど、どうした?」
「もおぉ……マスターってばなんで私の方を見て固まっていたの? 私の顔に何か付いてた?」
「あ、いや……それはだな。あはは」
そうだ、人生初めての女子との同居だぞ。
冴えないクソ童貞だった俺にとって女子との同居などイケメンのリア充が描く理想郷、アヴァロンに過ぎなかったんだが現状は最早180°反対。
「むむう! おかしなマスターなんだから!」
「はっはっは……いやあ悪い悪い」
今、俺の隣には可愛いモンスター娘がいる。
スタイル良くて可愛い。明るい笑顔が可愛い。少し幼げな話し方が可愛い。プルプルして可愛い。さらに強くて可愛いと可愛い尽くしの子がな。
(それが一つ屋根の下ときたもんだから……ついついラブコメとかで見る様なエロい妄想を――)
「うにゅ? マスター?」
って……ダメダメ! 抑えろ、俺の煩悩!
この子に手を出すというのは紳士と到底許される行為じゃない。あくまで俺と彼女はこの異世界を攻略していく為の仲間なんだ。
(そうだ、冷静になれ俺。劣情に任せて彼女にエロ行為を働けばそれで終わりだ。それこそ絆もへったくれも無くなっちまう。だから抑えろ。ここは主として余裕持って――)
「ふう……いや何でもない。悪かったな」
「えへへ! いいよ私気にしないから! でも本当にこれからはずっとマスターと一つ屋根の下かあ……ますます仲間らしくなってきたねっ!」
あっ、ごめんなさい。やっぱ嘘です。
やっぱり色々エッチな事したいです!
そのプルプルした体にダイブしたいっ!
もしくは頭を撫でまわしてあげたいっ!
「あっそうだ! 面白い事思いついたの!」
「うん? 面白い事?」
おおっと、いかんいかん。つい欲望が。
とにかく平常心……平常心っと。
「マスター、屋敷までかけっこしようよ! それで勝った方が相手の命令を何でも一つ聞くの!」
ほぉ、屋敷までかけっこか。悪くないな。
運動で気を紛らわせてしまえばこのムラムラもきっと何処かに消え失せているだろうしな。
(それに別にやましい命令とか……断じてエロい命令とか考えてないしっ! 決してスラリーナにセクハラしようなんて思ってもないしなっ!)
「どうするの? マスター?」
よし! ならば決まりだな。
是非ともお互い良い汗を流そうじゃないか。
大人げない事抜きで楽しく競争しようぜ!
「オッケー。じゃあ合図は任せたぞ」
「うん! それじゃあ、よーい……」
あっ……そうだ。
ちなみにこの勝負の勝敗だが――
「ドォンッ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「にゅにゅっ!? マ、マスター!?」
「うおおおおおおおおおお! 負けんっ! 俺は絶対に負けない! じっちゃんの名に懸けて! この勝負だけはぁ! 心臓が破裂してでもぉ! 俺が絶対に勝あああつ!」
「ま、待ってよ! マスタァァァァァァァ!」
余裕で俺が勝ったので滅茶苦茶ナデナデしました。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
これで第一章は完結となります。




