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4 シーネ村にて2


 エリーナが指しているのは村の端の方だ。やはり村の外から迷い込んだんだろう。


「危ないから返して来なさい」


「いや!」


 なぜ子供は何でも拾って来るんだろうか。

 意味もなく蝉の抜け殻集めたり、石ころ拾ったり。


「ママもダメっていった!」


 当然だろう。だって狼なのだから。

 でも取り上げないでいるって事は危険はないのだろうか?


「危ないからだよ? エリーが怪我をしたらみんな悲しいんだ」


「やぁ……うぅ……」


「ハァハァハァわん! うぁん!」


 見た感じは大人しい。大きく尻尾なんか振ったりして愛嬌もあるな、意外と可愛いじゃないか。

 正直動物は好きだし……いかんいかん、不安の種は排除すべきだ。


「あ〜る〜!! おねがい〜。うぇええん」


「クゥ〜ン」


 真っ黒な狼がエリーナの涙をとペロペロ舐める。慰めてるつもりだろうか。賢いな、コイツ。


 ……全く、俺はどうしてもエリーナには甘くしてしまう。

 娘が出来たらダメなお父さんになってしまう典型的なタイプだろう。分かっていても止められない。

 奈々が隣に居てくれたら止めてくれるのかな。


「分かった、分かったから。母さんに聞いてくるから待ってて」


「ほんと!? ある!! だいすき!」


 にへへ〜っと破顔するエリーナ。屈託の無い天使の様な笑顔には荒んだ俺の心も癒される。


 俺はディーナにお願いをする為に家に戻る。正直断られる事は間違いないだろう。殆ど期待はしていない。


 3歳になった俺は自分の姿を知り、ディーナ似だと言う事が分かった。髪はシルバーにクリーム色を混ぜた様な暖かみを足した様な感じで、瞳は青色。イケメンとまでは言わないが、不細工でもなく、それなりって感じだ。

 因みにそばかすは無い。


「あら、アルディどうしたの?」


「ただいま、お母さん。実はお願いがあるんだ」


「あら、珍しい。どうしたの?」


「犬を飼いたいんだ」


「わんちゃん? いいじゃない! じゃあ、すぐお洗濯終わらせるから、直ぐにオルトさんに相談に行きましょう!」


 この村は人口200人程度の小さな村で、殆どの住民が農夫で、殆ど自給自足の生活をしている。

 こんな小さな村でも、国が税金を取る為に身分証を発行したり、不正な事が行われていないか監視する為、町役場の様な役割を果たす駐屯所が町外れにある様だ。会った事はないが、聞くところオルトさんとはそこの1番偉い人らしい。

 ついでに言うとアドルフはここに勤めているらしい。


 この村にペットショップはない。家畜用の豚や鶏を飼う人はいるが、基本的に動物を飼う習慣はこの村に無い。変わったものが欲しい時は外と連絡が取りやすい駐屯所に頼んで、仕入れて貰うのだ。


「お母さん、犬はもう居るんだ」


「まぁ! どんな子なの?」


 俺は玄関の扉を開けて外へ顔を覗かせる。


「エリー、入っておいで」


「あら、エリーナちゃんこんにちは」


「こんにちは!」


「うぁん!」


「あ、アルディ? もしかして犬って……」


 そうですよね。この世界の犬の概念は分からないけど、どう見てもこれは危険な動物だよね。


「お母さん、この子が僕の言ってた犬なんだ」


 言ってみるだけ言ってみたがやっぱりダメか。


「可愛いじゃない! もふもふだし、クリクリおめめ! それにこの立派な毛並み! とても犬には見えないわ! まだ赤ちゃんだし!」


 あれ? 思ってた反応と違う……

 それにこいつは犬じゃないもの、狼だもの。


「このこ、かってくれるの?」


「もちろん! 子供と一緒にわんちゃんを飼って、同じように成長していく。なんて事がして見たかったのよ〜」


 まじか。


「おぉ、エリーナちゃんじゃないか、こんにちは」


「あ! おじちゃんこんにちは」


 そこへタイミングよくアルフレドが帰ってきた。


「あら、あなた! 丁度いいところに帰って来たわね、見て? この子、今日から家で飼うことにしたから。良いわよね?」


 この家ではディーナの方が権力が上なのだ。ディーナの圧がすごい。


「ちょっ! っまてまて! ブラックドッグ!?」


 かなり驚いた様子だ。その証拠に一歩後ろへ跳びながら叫んでいる。兵士の癖とでも言うのだろうか。しかしこの場合、そんなに危険だと思うなら後ろへ飛ぶのではなく俺達を守るべきだだろう。お父さん。


「ダメだ! これは危険な魔物だ! 犬なんかじゃない。今は子供で小さいが大人になると凶暴な魔犬となるんだ。いったい何処から拾ってきたんだ。直ぐに殺そう」


 見た瞬間は焦った様だが子供と見ると落ち着きを取り戻していくのが分かった。犬では無いだろう。と思っていたが……狼どころか魔物だったとはね。こんなに大人しいのに殺すと言われるとなんだか可哀想だ。


「やぁあぁ……ころさないで? かわい、そう、だよひっく」


「そ、そうよ? こんなに可愛いし、小さいんだし何もそこまで……」


 ディーナも魔物だと言われて驚いているのか少しきょどり気味だ。


 いずれ大人になって脅威になるといけないし、アドルフの気持ちを考えると仕方ないだろう。さっきは咄嗟の事だったが普通に考えれば当たり前の答えだろう。


 しかし……


「あ〜る〜うっうぁーーーん」


 もう。分かったよ。

 好きにしてくれ。なんとでもなれ。


「お父さん、この子はまだ子供だよ? 危険な動物だって子供の頃から育てれば懐くって聞いたことがあるし、しっかり愛情を注いで育てれば、きっと良い番犬になってくれるよ! それにこの子はとても大人しいし頭も良さそうだから頼りになってくれるらと思うんだ。僕やお父さんは違うけど、世の中にはテイマーって言う職業があるんだよね? テイマーさんか育てると従魔になって言う事を聞くんでしょ? 危ないどころか逆にお父さんがいない間家を守ってくれるよ!」


 テイマーがなんちゃらは駐屯所のおっさん達が「従魔とか居たらサボれるのになー」と愚痴をこぼしているのをたまたま聞いただけだ。詳しい事は知らない。

 それと動物が懐くとかは前世の普通の知識だ。


「むぅ……確かにそんな職業もあるがなぁ……お父さんにはテイムの経験が無いし、普通テイムと言えば専門の職業の人がする者でなぁ」


 そんな職業がある時点で簡単な事ではない事くらい分かる。


「でも、可能性はゼロでは無いよね?」


「確かにそうだが……」


 少しだけ目を瞑り考え込んだ後。


「全くお前と言う奴は……本当に3歳児か? 頭が良いにも程があるぞ。俺の子とは思えんな。仕方ない。初めての我儘だ、今回は特別に許してやる」


 よかった、これでエリーナを悲しませずに済む。思ったよりすんなり言ったな。

 ディベートとかは得意な方だったし、俺の人生も無駄ではなかったかな。


「え?」


 エリーナはどうやら状況に着いてこれていないようだ。まだ3歳じゃあ分からなくても無理はない。


「やったぁ! よかったね〜、アルディ! 本当にお利口さんね〜? さっすがアルディ!!」


 この場で一番嬉しそうなディーナ。


「ある! ありがとーーー!! ほんとにほんとにうれしい! だいすき!」


 ディーナが喜ぶ姿を見て理解したのか、遅れて喜び出すエリーナ。

 にへへ〜っと笑うエリーナ。こいつには敵わないな。


「しかしアルディ、よく聞け? 父さんもできる限りはやってみるが、お前もしっかり責任を持って育てるんだぞ? 男の約束だ」


「うん! 父さん、ありがとう」


 結構アドルフもちゃんとお父さんをしている。意外と頼れる男だ。


 こうして俺に家族が1人増えたのだった。因みにブラックドッグは見た目が黒いから【クロ】になった。本当にこんな単純な名前でいいのかとも思ったが、本人がこれで喜んでいるから問題ないだろう。





ーーーーーーーーーーーーーーー





 あれから2年。

 今ではアルフレドも含め、みんなからクロは可愛がられている。


 テイマーでもないアルフレドが、子供とは言え魔物を飼うことにご近所さんも不安に思っていた様だが……


「あら〜クロちゃん今日も逞しいわね〜! アルディくんこんにちは!」


「わん!」


「こんにちは」


 ご覧の通りだ。


 クロは挨拶を忘れない律儀な魔物である。

 アルディ君は後なんだな。クロがメインだとと分かりやすい人だ。


「はい、昨日余った鶏肉よ〜!」


「うー、うぁん!」


「いつもすみません」


「いいのよ! 料理する時に余ってしまうものだから、ほほほ」


 今ではオヤツを雨の日も風の日も毎日会いに来るくらい気に入ってるらしい。毎日毎日、肉が余るなんて明らかにわざとだろう。と言っても正直助かるのでいちいち突っ込まない。

 この村で動物の肉は高級品だ。


 他の町の事は分からないが、魔物の肉はかなり安価で出回っているものの動物の肉はそこそこに高級らしい。

 なにせ家畜以外動物の肉は取れないのだから。動物ではこの世界では生きていけないのだ。魔物に食われるから。


「今日もアルディくんとエリーナちゃんを守ってあげてね?」


「わん!」


 肉を与えて満足したおばさんは行ってしまった。最早日課だな。おばさん達にとってはクロに会いに散歩にもなるし、クロはこの村の健康を支えだしているのかも知れない。


 動物の肉をくれるのは、クロは魔物だから魔物の肉は共食いだとでも思っているんだろう。

 一言、言いたい。

 人間も動物なんですけど!?


 エリーナも毎日の様に来てはクロと遊びたがる。

 エリーナは元々クロが来る前から毎日来てたけどね。

 ここまでクロが人気者になるのは、ペット自体が珍しいからだろう。つまり安全だと分かれば人気者になるのは必然だ。


 駐屯所の兵士やアドルフ達があれから色々調べてくれたみたいだ。

 犬系の魔物は総じて頭が良いらしく、中でも狼種は頭一つ抜けて賢いそうだ。

 ブラックドッグはその見た目からなのか、呪われている為、人間は触れただけで死んでしまう。と言う都市伝説みたいなものが存在するらしいが眉唾物と言っていた。


 もしそんな伝説が事実だとしたら、この辺りのご近所さんは今頃全滅だ。村を壊滅させるなんてごめんだ。魔王ルート一直線になってしまう。

 3歳で村1つ壊滅させた。なんて言ったら魔王としては箔がついたりするのだろうか?


 とまぁ、そんなクロも2年前までは3歳児のエリーナでも片手で抱ける程クロは小さかったが、前世の世界でいうとドーベルマン並みにでかい。実際は狼なのでドーベルマンより肉付きがいい。

 犬は2年で大体成犬になると言うし、これくらいで成長もとまってくれないといいが……これ以上大きくなると家で飼えなくなってしまう。魔物なのでどこまで成長するのか分からない所が不安だ。


 取り敢えずこれで成犬になったと仮定して、クロは以前にも増して頭が良くなった。動物なんか比べ物にならない。言葉も完全に理解し、最近では戦闘を想定してクロと模擬戦をしている程だ。

 なかなか経験を積んだ中堅冒険者でも1人では戦わず逃走を測ると言われるブラックドッグ。


 遊び半分のアドルフに手も足も出ない俺がクロに勝てるわけなく、普通なら瞬殺だろう。しかし戦闘として成り立っている。これは明らかに手加減を知っているという事だ。

 まさに天才犬。ならぬ天才狼だ。


 因みに模擬戦で使っているのは村に落ちてる木の枝だったりする。


 今もまた俺の張った罠……と言っても土に水たまり作っただけだが……を軽く避けられた。


「アル? また、たたかいゴッコ?」


 今日もエリーナがやってきた。エリーナももう5歳だ。

 日に日に成長し、どんどん美少女度が増していく。美少女の成長を間近で見守るのもなかなか良いものだ。これからどんな大人になって行くのだろうかと、今から楽しみだ。

 なんか変質者の様だがそう言う意味では無い。うん。


「そうだよ」


 取り敢えずゴッコという事にしてある。勿論俺は本気でやってる。模擬戦の中でも魔法は全力だ。とは言え、俺の魔法なんて目くらまし程度でしか無い。

 模擬戦以外でも魔力が尽きるまでの魔法の訓練は怠っていない。


「ねえ、おさんぽ! おさんぽいこう?」


「そうだね、お散歩にいこうか。クロもお散歩行きたいだろう?」


「わん!」


「やったぁ!」


 やはり魔物とは言え狼、犬の仲間だ。散歩は結構好きなようで喜ぶ。それにクロは頭がいいし、そこらの中堅冒険者なんかより強い。

 俺やエリーナの親もクロが一緒の時は、村の中なら歩き回っても許されるようになっている。だからエリーナもクロが居ないと1人で街にはいけないのだ。


 昔、エリーナはクロを拾った時勝手に村の外の近くまで行った事でかなり叱られたようで、今ではすっかり外出には厳しくなっている。


 俺もクロが居てくれるから村を散策できるし、嫌いじゃない。先程の肉の物価などもこのお陰で知る事ができた。

 少しずつ、と言ってもやはり新しい知識は大きい。


 村の人から聞いた話だが、10歳になると半大人として認められ、ステータス測定をしてステータスプレートが付与される事になっているらしい。

 純粋に楽しみだ。


 これで同年代の中で俺がどれくらいのレベルなのかが分かるし、神からもらったスキルがなんなのか分かるからだ。


 「こ、このステータスは! ありえない!」なんてね。


 ファンタジーといえば冒険者だよね。俺のステータスがあらわになったら。

 「君は冒険者になるしか無い!」なんて言われたりしてね。


 この時の俺は自分の事やこれからの事を何も知らなかった……




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