2.会社をクビになった俺は、動画投稿を始める
真部は二日続けて魔物解体の仕事に来ていた。
準備室の扉を開ける。
昨日と同じ現場監督の青年がいた。
「……お疲れ様です」
「真部さん! お疲れ様です!」
真部は青年に一礼して、荷物を置く。
二日目なのに、もうずっとやっていたみたいだ。
解体用のエプロンに手袋をつけ、冷蔵庫みたいな解体室に入った。
昨日と同じように、ホーンラビットが並べられている。
鑑定スキルで見える線の通りに、無心で包丁を入れていく。
昨日よりも早く・丁寧に解体できている気がする。
真部は気が付かないうちに、にっこりと笑っていた。
♦︎
数時間後。
現場監督の青年が、解体報酬額を真部に伝えにきた。
「今日は六匹捌いていただきました。金額は合計一万四千円でどうでしょうか?」
「ありがとうございます。それでお願いします」
今日は昨日よりも、一匹多く捌いた。
一匹あたりの解体額も、昨日より増えた。
「いや、本当に真部さんすごいっすよ」
現場監督の青年が話しかけてくる。
「普通はもうちょっと経験積んだ人にだけ紹介するんですけど、別のモンスターの解体をやらないですか?」
「別のモンスターですか?」
「そっちの方が難しいんですけど、うまくいけば単価高くなります」
もっと稼げるのか。
ありかもしれない。
「では、ちょっと次回行ってみます」
「では、場所などを書いた資料お渡ししますね!」
真部は考え込んだ。
「あの……こっちの現場は大丈夫ですか?」
「ああ、確かにちょっと困りますけど、それ以上に優秀な人にはどんどん稼いで定着してもらわないと困るので」
青年が困ったように笑った。
「だから、どんどん稼いでください。それで魔物解体の仕事を続けてください」
「……ありがとう。今度、なんか奢るよ」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
青年が手を振って断ろうとする。
「いや、こんなに稼がせてもらいましたし、それにさらに稼げるチャンスまでくれた」
真部はポツリと言った。
「稼げたら、一回飲みに行きましょう。奢ります」
「……じゃあ、今度行きましょう」
青年がにっこりと笑った。
青年と連絡先を交換する。
その日、真部は帰りに缶ビールと焼き鳥を買った。
ねぎまがやけに美味かった。
♦︎
次の日、真部は休むことにした。
青年が紹介してくれた現場に連絡すると、次の火曜日から来てくれとのことだった。
今日は金曜日。
まだ日がある。
今日は何しようか。
ぼーっと酒を飲みながらショート動画をスワイプし続ける。
こんな風にショート動画を見るのはいつ以来だろうか。
最近はダンジョン攻略配信が流行っているらしい。
少し前に会った姪っ子が話していた。
真部自身は攻略配信系の動画を、今まであまり見た事なかった。
しかし、ショート動画を見てみると、切り抜きが流れてくることに気がついた。
俊敏に動く巨大なモンスター。そしてそれに対峙する冒険者たち。
派手な魔法に、素早い剣技。
確かにエンタメとしておもろいなあ。そう思っていた。
そうして二時間ほどショート動画を見ていて、一つのことに気がついた。
あれ、研ぎの動画なくね?
それに魔物解体の動画も。
調べてみても、大したものがなかった。
……もしかしてチャンスか?
金も入ったし、暇だしやってみるか。
思い立ったら吉日。
百均に行くことにする。
家から十五分ほど歩いて、駅前にある百均に入る。
店内をゆっくりと歩くと三脚を見つけた。
買おうとレジに向かって歩いていると、包丁を見つけた。
百均なのに、二千円。謎の価格設定で、安くはない。
少し迷って、手に取る。
そのまま両方買った。
家に戻る。
年季の入った丸机の上に、三脚を置いてスマホを設置する。
缶ビールを開け、一口飲む。
最近のスマホは自動でフォーカスなどをやってくれるらしい。
撮影スタートだ。
照れ臭いが、カメラに向かって話してみる。
「え〜研師のおっさんです。今日は百均の包丁を研いでみたいと思います」
チャンネル名は《研師のおっさん》にした。
「じゃあ研いで行きます〜」
そうしてしばらく研ぐ。ひたすら研ぐ。
砥石を何回か変え、角度を調整しながら研いでいく。
「こんなもんかな」
刃先にできた金属のまくれ――返りを取る。
「よし。じゃあ試し切りをしていきます」
その時、気がついた。
「何を切ればいいんだろう……」
普段切らないものが動画でウケるかなと思ったが、思いつかない。
一口ビールを飲む。
アルコールが染み渡る。
「あ、これだ」
その瞬間、閃いた。
台所に真部は向かう。
あった。
一つのまな板を持って、元の場所に戻る。
「じゃあ、今日はDランクの魔物であるプレートクラブの素材で出来たまな板を切っていきたいと思います」
プレートクラブのまな板は、傷つかないまな板として有名だった。
広く流通していて、プラスチックと並ぶ選択肢になっている。
スキルを発動させる。
やはり、切るべき箇所が見える。
刃を当てる。
ゆっくりと角度を調整していると、吸い付くような感覚を感じた。
ここだ。
ゆっくりと刃を引くように入れる。
刃を引き終わると、まな板は真っ二つになっていた。
「はい、上手に研げました!」
顔は映っていないが、カメラに向かってにっこりする。
締めのセリフも撮れた。
撮影終了ボタンを押す。
「ふ〜疲れた」
あとは AI になげて動画編集をしてもらうだけだ。
最近は AI による動画編集で、素人でも簡単にそれっぽい動画が作れるようになっている。
「便利な時代になったな〜」
そうして AI が生成した動画を、動画投稿サイトに早速上げてみる。
ぽち。
心臓がバクバクと鳴っている。
「どれくらい見られるかな……」
そうして十分ほど待ったが、再生数は0のままだった。
「……まあ素人だし、こんなもんだよな」
スマホの電源を落とす。
「そう人生うまくいかないか。疲れたし、今日はもう寝よ」
そう言って、真部は寝る準備を始めた。
真部が布団に入って寝息を立てた頃。
公開前審査がやっと終わった真部の初動画は、世界に向かって公開されていた。




