1. 会社をクビになった俺は、底辺職の魔物解体屋になった
新連載です。よろしくお願いします。
「真部、すまない。理解してくれると嬉しい」
人事部に呼び出され、会議室に行くと、上司の三島が険しい顔をしていた。
一通の書類を差し出される。
解雇通知。
契約を打ち切ると端的に書かれていたその書類は、やけに空白が多かった。
「……三島部長、ドラグノヴァで働いて二十年になります。研師として貢献してきたつもりだったのですが」
「すまない。上からのコストカット命令なんだ」
世界にダンジョンが出現して数十年。
民間人にもダンジョンが開放されると冒険者という職業ができた。
そして冒険者をまとめるクランが相次いで設立されていくと共に、冒険者を支える裏方の仕事も増えていった。
研師は、そんな裏方の仕事の一つだった。
真部の腕は良くもなければ悪くもない。
換えのきく人材だった。
「生活はどうすれば?」
「……本当にすまない」
三島も嫌がらせで言っているわけではなさそうだと、真部は思った。
「では、必要書類はここに全てある。持って帰って記入して、明日提出してくれ」
そう言って三島は部屋から出ていった。
ばたりと扉が閉じた。
♦︎
四十代、しかも持っているスキルが「鑑定」だけ。
再就職は本当に難しかった。
「すみません」
「またのご縁に」
「採用枠が」
断りの文句は、何度目だろうか。
築五十年のボロボロのアパートの1K。
月の光が差し込む中、発泡酒を真部は流し込んだ。
もう貯金もほとんどない。
来月どうやって家賃を払おうか。
郵便ポストに入っていたチラシをまとめていると、ふと一枚のチラシが目に入った。
■魔物解体スタッフ募集!
■討伐モンスターの解体・加工業務
■未経験歓迎、探索資格不要、日払い可
魔物解体は、臭くて汚くてきつい3Kの仕事で有名だ。
でも働くことができるなら、それが一番。
真部は応募することに決めた。
♦︎
一週間後。
「じゃあ真部さん、よろしくお願いします」
「はい」
冷蔵庫のようなキンキンに冷えた部屋の中で、真部はエプロンと手袋をつけていた。
ホーンラビットの死体が何体か積まれていた。
目の前には、現場監督の若い男性が立っている。
「じゃあチュートリアル動画の通りに解体してください。出来によって、真部さんの報酬額が変わるんでよろしくお願いします」
「わかりました」
男性はぺこりとお辞儀をして、部屋から出ていった。
解体用に渡された解体包丁を見る。
つい研師の時の癖で鑑定スキルを発動させた。
――――――――――――――――――――
解体包丁
状態:切れ味が極めて悪い
――――――――――――――――――――
……流石に研いだ方が良さそうだ。
砥石を探し、三十分ほど研ぐ。
慣れ親しんだ、吸い付くような感覚を感じる。
再び鑑定して、状態が少し良くなったのを確認する。
よし。これならやらないよりもマシになった。
ホーンラビットの死体を一体、目の前に持ってくる。
茶色い毛並みの、額にツノがついているウサギ型のモンスターだ。
癖で鑑定を発動する。
名前が表示された。
普通ならそれだけのはずだった。
「なんだこれ?」
チュートリアル動画で見た、解体の際に包丁を入れるべき場所が光っていた。
こんなの聞いたことない。
スキルが進化した? 戦闘経験もないのに、今更?
頭の中は疑問でいっぱいだった。
「まあ、考えても無駄だし、やるしかないか」
とりあえず、光の線の通りに包丁を入れてみることにする。
包丁を当て、力を入れようとした瞬間。
——研ぎと一緒だ。
なんとなくそう感じた。
刃の角度を変えながら、肉の感触を確かめる。
砥石と武器をうまく重ね合わせた時の、あの感覚を感じた。
ここだ。
すっと包丁を引く。あまり力は必要なかった。
すぐにホーンラビットが、きれいな開きになった。
一時間後。
一体目の解体が終わった。
解体報酬は状態にもよるが、基本千円くらいと聞いている。
報酬が楽しみだ。
そう思いながら、次のホーンラビットの死体に取り掛かる。
真部は自分でも気がつかないうちに、笑みを浮かべていた。
♦︎
「真部さん、終わりました?」
現場監督の男性に声をかけられて、真部はハッと我に返った。
気がつくと、筋肉が疲労でプルプルしていた。
「え! そんなにできたんですか!? 魔物解体は初めてですよね」
「はい、初めてです」
男性が、解体した部位をまじまじと見る。
「うわあ、すごいなあ。才能ありますよ!」
——才能。四十年以上生きてきて、初めて言われたかもしれない。
「……ありがとうございます」
なんだか照れ臭かった。
「本当に助かります! では査定しますね」
そう言って、解体した魔物の肉を持っていく。
疲れたなあ。今日はビールがうまそうだ。
そんなことを考えながら、部屋から出て着替える。
待合室で待っていると、男性がニコニコしながら来た。
通常の五千円を超えただろうか。
「報酬額ですが、解体いただいた五体とも状態が良いので、合計一万円でどうでしょうか?」
「……こんなにいいんですか?」
「はい、検査担当が、肉の断面も綺麗で驚いていました。真部さん、本当に優秀ですね。これからも是非よろしくお願いします」
一万円札を震える手で受け取る。
五時間ほどで一万円。
今までの給料と比べれば、破格だった。
何十時間も残業して、深夜の緊急クエストがあれば呼び出される生活だったのに、手取りは二十万円を切っていたのだ。
それがこんな簡単に。
帰り道の途中、真部はいつもの発泡酒ではなく、コンビニで缶ビールを買うことにした。
それを手に、足早に家に帰る。
「あ〜疲れた」
プシュ。缶を開けると、泡が勢いよく出てきた。
慌てて飲み込む。
「うまい……!」
飲み込んだビールは、いつもと違った麦の芳醇な香りがした。




