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第48話 分散備蓄の始まり
一か所に集めた米は道が塞がればないのと同じだった。
地震の後、米が要る。水が、薪が要る。
屋敷の蔵に、蓄えはあった。
だが、蔵が一つだった。
蔵が潰れれば終わり。火が回れば終わり。道が塞がれば目の前にあっても届かない。
「あること」と「使えること」は違う。
米は、蔵にある。揺れた夜にそれが使えるか。
「米を、散らす」
私は、命じた。
一つの大蔵ではなく、町のあちこちの小さな拠点へ、米と、水と、薪を分けて置く。一つが潰れても残りがある。一つへの道が塞がれても別の拠点へ回れる。
囲い込みたいと斉昭が言った。御三家の蓄えを塀の外へ散らすのか。狙われる。盗まれる。管理が緩む。
「散らさねば、使えぬ」
狙われぬよう目立たせず。腐らぬよう入れ替え。どこに何がいくつあるか。帳面につけた。
帳面が命だった。
帳面さえあれば、散らした米は見つかる。
ふと、思った。
もし、この帳面がいつか失われたら。
散らした米の在処だけが、町のあちこちに残る。誰もそれが何のための物か知らなくなる。
後の世の者は、それをなんと呼ぶだろう。
水戸家の隠し財。烈公の埋めた金。
ありもしない、宝の話になるのかもしれない。
私は帳面を固く閉じた。
米を、散らした。
散らした米の在処を、帳面が覚えている。
帳面さえなくさなければ。




