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69話:筋肉VS大地:演習という名の「処刑」


翌朝、魔法軍演習場。


観覧席の最前列には、不機嫌そうに立つルイス軍団長と、その横で一分の隙もなく控えるアレクシスの姿がありました。


アレクシスは、階下でパンプアップに励むディエスを、まるで珍しい害虫でも眺めるかのような冷ややかな目で見下ろしています。


「アレクシス。あのような、魔法の『ま』の字も知らぬ野蛮人が将校の地位にいること自体、我が軍の恥辱だと思わないか?」


「閣下、おっしゃる通りです。あれは魔法という高貴な秩序に混じった『不純物』。ジョエルが今ここで、その不純物を土に還してくれるでしょう」


アレクシスは微塵も揺らぎません。


彼にとってディエスは、規律を乱す「邪魔な駒」ではあっても、自分の知略や魔法の前に立ちはだかる「脅威」などとは到底思えなかったのです。


背後の影では、オカマのミスティが、厚塗りの化粧と青ひげを夕日に輝かせながら、楽しげに腰をくねらせていました。


「あらァ……。ジョエルちゃん、あんなに怒っちゃって。ディエスちゃん、今日こそひき肉になっちゃうんじゃないかしら?」


演習場の中央では、ジョエルが地面に拳を突き立て、魔力を大地に流し込んでいました。


対するディエスは、重戦車のような肩幅を揺らしながら、豪快に笑っています。


「バルカス大尉。……貴公のその弛んだ規律、この大地が正してやろう。魔法の重圧ちからを知るがいい!」


「ガハハ! 正すだと? ありがてぇ、ジョエル! あんたのような『ガチ勢』に、俺の筋肉をチェックしてもらえるなんて最高だ!」


ディエスが丸太のような剛腕を構えた瞬間、ジョエルの魔力が爆発しました。


「『大地のアギト』ッ!」


轟音と共に、ディエスの足元から巨大な土の壁が二枚、猛烈な勢いでせり上がりました。


左右から逃げ場を塞ぎ、数トンの質量でディエスをサンドイッチのように押し潰そうとする「土圧」。


「少尉! 逃げてください、物理的に潰されます!」


二日酔いの頭を押さえながらリナが叫びますが、ディエスは逃げるどころか、迫りくる土壁に向かって岩石を削り出したような大胸筋を突き出しました。


「ぬぉぉおおおおおッ!! いいぞ、この圧だ! まるで全身を巨大な万力で締め上げられてるみたいだぜ!」


メキメキ……! と、硬質な土が軋む音が響きます。


常人ならば一瞬で内臓が潰れるはずの土圧に対し、ディエスは鋼鉄の甲冑のごとき広背筋を膨らませ、真っ赤な顔で笑いながら、力ずくで壁を押し留めていました。


「な……ッ!? 大地の全圧力を、ただの『筋力』で耐えているだと!?」


ジョエルは驚愕しました。しかし、それを見下ろすアレクシスの瞳に、驚きはありません。


「(……ほう。ただの肉の塊かと思っていたが、多少の強度はあるようだな。だが、物理の限界を超えられない力に価値はない。ジョエル、そのまま圧し潰せ。魔法こそが万物を統べる絶対の理であることを、あの愚者に教えてやるがいい)」


アレクシスは退屈そうに指先の手袋を整え、ディエスが土の重圧に屈する瞬間を、確信を持って待ち構えていました。

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