第三話 不安定な南国娘!?(前編)
ナレーター (以下、「>」と表わす)>閑静な住宅街、と言ってもお金持ちの邸宅が並ぶ、絵になる通りではなく、「それって庭と言える? まあ、庭だよね、一応」という感じの家が並ぶ、よくある通りだ。なお、上記の感想は、実際に家を買うという一大事に遭遇していない若者が抱く感想であって、何十年というローンを背負う立派な大人からすると、小さくとも我が城、なので卑屈になる必要はない。
>と、日本の住宅事情を憂いている間に、一人の女性がカメラの前を通り過ぎてしまった。二十歳前後のその女性は、ファンシーでキュートなパイレーツファッションで身を包んでいた。「何だよ、それ!」と思われる視聴者の方もおられるかもしれないが、簡単に示すなら、そうなるので仕方ない。
>オシャレには色んな要素があるが、重要な二軸として、流行とこだわりがある。流行は時代が決めるものであり、こだわりは個人が決めるものだ。この女性のこだわりは、頭に巻いている紅いバンダナだった。見る人が見れば、そのアイテムのために全身がコーディネイトされていると気づくであろう。……いずれにせよ、総体としては、ファンシーキュートパイレーツで揺るがない。
>海賊風というのは、彼女の肌の色も適合していた。よく日に焼けたような褐色の肌の持ち主だったのだ。さらに、観察すると、もう一点彼女に特徴的な所があった。イヤホンを片側にしか付けていなかったのだ。……え? ワイヤレスイヤホンを一つなくしたから? それはワイヤレスイヤホンあるあるだが、そうではない。ちゃんと彼女はワンセット揃えて持っていた。 ……え? 自分がよく物を失くす性質だと知っているから、もう一つはリザーブ運用? ……そういう手は悪くないと思いますが、今回は違います。彼女が両耳を塞がなかった理由は――おや? 早速その時が来たようです。
>ファンシーキュートパイレーツの彼女は、足を止めると、小首を傾けた。その耳に、女性の悲鳴が届いたのだ。しかし、本気で助けを呼ぶ悲鳴ではなく、驚いて漏れた声レベルだったので、近くに居た人もしっかり聞こえていなかった。実際、声を上げた女性の側に住んでいながらも、屋内で洗い物をしたり掃除機を掛けていたりした人は気に留めなかった。ノートパソコンを触っていたが、冷却ファンの轟音が鳴り響いて煩かった人も気づかなかった。この程度の悲鳴だったので、屋外とはいえ、違う通りにいた通りに居て、悲鳴を拾えたファンシーキュートパイレーツちゃんは耳が良かった。しかし、彼女であっても何処から聞こえたのか、良くわかっていなかった。付けていたイヤホンを外し、右に左に耳を傾けるが、もう続く悲鳴は聞こえてこない。聞こえた時の記憶を思い出し、方向を定めようとしたが、それもできなかった。片耳にしか届かなかったので、立体的に認識できていなかったからだ。この経験のせいで、彼女はこれ以降、道を歩く際に音楽を聴くことは諦めることになるのだが、今は未だそれについて詳しく示す必要はない。
ファンシーキュートパイレーツ(以下、FCPと表記): あれって、悲鳴……よね。
>そう自問した後、ファンシーキュートパイレーツちゃんは、軽く駆け出すと、交差点に出ては辺りを見回して、こちらだと思う方に進み始める。人通りはない。離れた通りでは車が通っているのが見えるが、こちらには入って来なかった。よくわからないまま、二つ交差点を過ぎたあたりで、ファンシーキュートパイレーツちゃんは諦め始めた。片耳とはいえ、ある程度は悲鳴が聞こえた方向はわかっていた。だからそちらへ進みたいのだが、家があっては真っ直ぐ進めない。道に沿って移動するしかないのだ。そして、分かれ道は希望どおりに伸びていない。おまけに、道も真っ直ぐ東西南北に従って区切られていないので、すぐに自分がどっちの方向へ行っているのか、わからなくなったのだ。断っておくが、ファンシーキュートパイレーツちゃんは決して、自他共に認める方向音痴ではなかった。しかし、ひっそりと胸に秘めるほどは、方向感覚に自信がなかった。つまり、有りか無しかの二分をせざるを得ないなら、ファンシーキュートパイレーツちゃんは、やっぱり、無し側の方向音痴だった。
FCP: もう、どっちがどっちか、わからないじゃない。
>愚痴りながら、念の為、次の交差点に行くと、運良く犯人を見つけた。スプリングコートの男と、それと揉み合っている男、そして、そこから少し離れて、怯えた表情で男たちを見つめる若い女性。普通、一目見ただけで状況はなかなか掴めないものだが、今回は違った。ファンシーキュートパイレーツちゃんは確信した。いや、彼女でなくとも、多くの人が一目見ただけで同じ結論に至っただろう。〝アイツが犯人に違いない〟と。ファンシーキュートパイレーツちゃんが睨んだ先にいるのは、スプリングコートを着ていない方の男。その男はほとんど全裸だった。身に着けているのは、黒いバイザーと同じく黒いボクサータイプのパンツ。そう、その男は紛れもなくパンツイッチョマンその人だったが――あ、本人の名乗りがある前に、呼んじゃった……まあ、いいか。もろバレですもんね。――初めて見た人は彼を変質者だと思っても仕方ない。実際、正常者とは言えないので、変質者という分類も間違ってはいない。だが、こんな番組をもう三話まで進めてしまった視聴者の方なら、どちらが本当の痴漢かわかるだろう。……いや、良く考えたら、お触り等しなくとも、いわゆる正義の味方であろうとも、あんな格好をしている限り、痴漢という定義の檻の中からパンツイッチョマンは逃れられないのかもしれない。皆さんは三話目になって、もう慣れているかもしれないが、良く考えれば、いや、良く考えなくとも、あの姿は歩くセクハラそのものだ。
>そう考えると、やっぱりファンシーキュートパイレーツちゃんは悪くなかった。これから、視聴者の方にとっては苛立たしい誤解が続くかと予想されるが、やむを得ぬ事だとファンシーキュートパイレーツちゃんへの同情の目をもって見守って欲しい。
FCP: 見つけたわよ! 変態!
>この呼び掛けにギョッとしたのは、スプリングコートの男だった。パンツイッチョマンはむしろ、声を掛けられた方へ視線をチラリとむけただけで、すぐに腕を捕まえている相手に向き直る。変態という自覚がないからだ。しかし、ファンシーキュートパイレーツちゃんは、この差に違和感を覚えなかった。先入観の方が勝っていたからだ。そう思いこむと、パンツイッチョマンの態度は不遜に映り、腹が立つ。
FCP: もう! こうなったら徹底的に懲らしめてやるんだから!
>ファンシーキュートパイレーツちゃんが駆け出すと、驚くほどの加速を見せた。たちまち、二人の男がいる場所に至ると、すぐに止まれなかったので、たたらを踏んだ後、姿勢を整えてから右のゲンコツを彼女が犯人と思う相手にぶつける。……つもりだったが、相手は首を傾けただけで、それを避けた。掠めるほど近さだが、外れは外れ。というか、これはもう見切りだ。視聴者の方々なら、パンツイッチョマンにそうそう攻撃は当たらないだろうと思っているでしょうが、ファンシーキュートパイレーツちゃんは避けられると思っていなかった。彼女は驚いたが、その驚きを解消しないまま、コンマ五秒後には、左手の拳で再度相手の顔を狙う。が、これも体を傾けられて躱された。しかし、続くサイドキックで腹部を狙うと、相手はこれを後ろへ跳び退いて距離を空けた。これで、掴まれていた腕を離されたスプリングコートの男は、ファンシーキュートパイレーツちゃんへ自由になった片手を上げる。
スプリングコートの男: 助かったぜ。
>そのまま、走り出しそうになるのを、パンツイッチョマンが止める。
パンツイッチョマン(以下、P1と表記。): 待て!
>スプリングコートの襟を掴もうとしたその手を、ファンシーキュートパイレーツちゃんが掴む。
FCP: これなら、もう躱せないよね。
>ファンシーキュートパイレーツちゃんが、ニヤリと笑ってから顔面へ放つ左拳を、確かにパンツイッチョマンは避けなかった。避けようにも、捕まれている腕を引っ張られるので、避けきれないのだ。だが、みすみすパンチを浴びるパンツイッチョマンではない。ファンシーキュートパイレーツちゃんのパンチは、途中で平手に逸らされる。その勢いを利用され、ファンシーキュートパイレーツちゃんがクルリと回転させられると、掴んでいた腕も放してしまう。すぐさま態勢を整えるファンシーキュートパイレーツちゃん。パンツイッチョマンは、ちらりとスプリングコートの男が去った方向に顔を向けたが、ファンシーキュートパイレーツちゃんへ向き直る。無視できる相手ではないと認識したからだ。
FCP: っもう! 本気で行くからね!
>有言実行。勢いよく飛びかかるファンシーキュートパイレーツちゃん。攻撃は変わらずのワンツーコンボだったが、踏み込みもパンチのスピードも上がっていた。しかし、二連のパンチは悉く、平手にいなされる。三発目のサイドキックは、先ほどと違う足で繰り出したが、大したフェイントにもならず、これも背中方向へ回転して避けられた。直後にファンシーキュートパイレーツちゃんはよろめく。片足立ちになった姿勢で、腰を押されたからだ。押しは強くなかったが、バランスを崩して、危うくファンシーキュートパイレーツちゃんは転ぶところだったが、なんとか持ち堪える。
P1: 君はどうやら誤解をしているようだな。
>説得を試み始めたパンツイッチョマンだったが、この言葉はファンシーキュートパイレーツちゃんの神経を逆なでした。彼女の脳裏に、高校時代電車の中で受けた痴漢被害の記憶が蘇る。
痴漢会社員: 誤解だ! 触ったんじゃない。たまたま当たっただけだ。
>気が強く、正義感も強かったファンシーキュートパイレーツ女子高生は……あれ、当時は学生服だからパイレーツっぽくはないな。……まあ、いいや。ともかく彼女は、電車の中で胸を触ろうとした男を捕まえて、駅員に突き出した。腹が立ったのは、痴漢本人だけでなく、周囲の態度だ。男たちは迷惑そうな顔をしていた。近くにいた女にも腹が立っていた。痴漢被害を見ていながら、自分ではないなら関係ないと言わんばかりに、見て見ないふりをしたからだ。
FCP: あんたたち痴漢はいつも言い訳ばっかり。全ての女性が見て見ぬふりをするとは限らないんだからね!
>いきり立つファンシーキュートパイレーツちゃんに、ようやく事態の展開に気持ちが追い着いてきた被害女性が「あ、あの……」と声を掛けてくる。が、ファンシーキュートパイレーツちゃんの耳にか細い声は届かない。それどころか、パンツイッチョマンの向こう側に立っている彼女の姿すら、視界に入っているはずなのに、認識できていなかった。
FCP: 死なないよう手加減してはあげるけど、それ以外はどうなっても知らないんだから!
>ファンシーキュートパイレーツちゃんが、バンダナを掴むと、それをかなぐり捨てる。押さえられた前髪の隙間から、あり得ない物が映る。彼女の額には、親指の爪くらいの大きさの――え? 親指の爪の大きさは人によって違う? じゃあ、えーと長辺が二センチくらいの縦長の結晶らしきものが、埋め込まれている、と言うべきなのか、生えていると言うべきなのか。ともかく、普通の人には見られない異物がそこにあった。しかし、それは詳しく見ようとする前に隠されてしまう。ファンシーキュートパイレーツちゃんが、拳を握った両腕を額の前で交差させてしまったからだ。
FCP:出るか出ないかぁ、わからない――
>ファンシーキュートパイレーツちゃんは、クロスさせていた腕を勢いよく下ろし、振り子のように腰の後ろまでスイングさせる。同時に、片膝を曲げ、胸を、というか、頭を前に突き出す。
FCP: ――ビーィィム!!
>ファンシーキュートパイレーツちゃんの額に位置する小さな水晶が煌めき、迸る光の奔流!
FCP: キャッ! ホントに出ちゃった。
>ファンシーキュートパイレーツちゃんは、両手の指先をクロスさせて、自分の口元を覆う。驚くべきは、光線の威力。すぐに止めてしまったのに、向かいにある住宅の石塀に直径二十センチほどの穴が空いていた。……あれ? こんな事をしていいの?――いや、そんな事より、我らがパンツイッチョマンはどうなったのか!? 石の壁に穴を穿つ威力だ。通常の人であれば体に風穴が空いていただろう。もしそうなったとしても、恐ろしい絵になるので描写はできないのでモザイクを掛けるしかないのだが、幸いモザイク処理が必要な対象はなかった。
FCP: あれ?
>パンツイッチョマンの姿が見えない事実に、ファンシーキュートパイレーツちゃんも気付き、辺りを見回す。カメラが動くと、パンツイッチョマンの姿はすぐ見つかった。なんせ肌色全開だ。やたらと目立つ。
P1: 大丈夫か?
>パンツイッチョマンは、地面に転がっていた。その体の上には、痴漢被害に遭っていた女性を抱き抱えていた。パンツイッチョマンは半身を起こすと、隣に未だ呆然としている女性を座らせる。地面に座らせるなんて汚らしいと思うかもしれないが、そんな事を言っている場合じゃない。女性が、パンツイッチョマンの問いに答えられないでいると、パンツイッチョマンは立ち上がる。
FCP: な、なかなかやるわね。私の「出るか出ないかわからないビーム」を避けるなんて。でも、あれは私がビックリして止めちゃったからで、アンタが逃げた方向へ薙いでいたら――
>ファンシーキュートパイレーツちゃんが言い訳がましく言っているのをまるで聞いていないかのように、パンツイッチョマンは、ツカツカと彼女へ歩を詰める。あ、裸足だから、ペタペタと歩を詰める。その堂々とした態度に、ファンシーキュートパイレーツちゃんが戸惑っていると、すぐ側までに来たパンツイッチョマンが、ファンシーキュートパイレーツちゃんの頬を平手で打つ。
♯パチン!
※注釈1 ♯は効果音の描写として使われます。
FCP: 痛っ!
>ファンシーキュートパイレーツちゃんが、抗議の目でパンツイッチョマンを見上げるが、その前に、怒りの滲んだ言葉が降ってくる。
P1: 危ないだろう! 彼女に当たることを想定していなかったのか?
>パンツイッチョマンが、手振りでへたり込んでいる女性を示す。そちらへファンシーキュートパイレーツちゃんが視線を向けるが、すぐにふて腐れた顔でパンツイッチョマンを見上げる。
FCP: アンタが避けなかったら――
P1: 状況を確認できていなかった事実から目を逸らすな! あの威力なら、当たり所によっては、彼女の首が飛んでいたぞ!
>これに最もギョッとしたのは、へたり込んでいる女性だった。目を見開いて、パンツイッチョマンを見上げ、そこで彼女は新たな事実を目にする。パンツイッチョマンの背中は擦り傷だらけだったのだ。光線を避け、地面に倒れ込む際、巻き込まれないよう女性に抱きついたが、着地時にはパンツイッチョマンは背中を下にしていた。素肌なので、アスファルトに高速で擦りつけられたら、それは傷だらけになるのは当たり前だ。
>ファンシーキュートパイレーツちゃんも、具体的に惨状を描写され、顔を青くしていた。実は、彼女自身、手加減をしていたつもりだったが、予想以上の威力に驚いていた。それは強敵を前にしての興奮状態にあるブースト効果だったが、実戦経験が皆無だったファンシーキュートパイレーツちゃんは、そういった揺らぎが生ずるのはまるで想定外だった。もちろん、未経験の戦士である彼女に、一般人の巻き添えというトラブルも全く想像できていなかった。だから、この時点で、ファンシーキュートパイレーツちゃんは頬の痛みは甘んじて受けるべきだと思っていた。変態といえども、自分が人殺しになるのを止めてくれた恩人でもあったからだ。
FCP: ご、ごめんなさい。
>自然と謝罪の言葉が転がり出た。
P1: 謝る相手は私ではないだろう?
>さらに説明を聞かなくとも、ファンシーキュートパイレーツちゃんはその相手がわかった。へたり込んでいる女性へ向くと、頭を下げる。ただし、気まずいので、下げる角度は浅い。対する、へたり込んでいる女性は、ものすごい眼差しでファンシーキュートパイレーツちゃんを見上げていた。口を開いて何か言おうとしていたが、怒りの余り言葉が出てこない。その状態でアワアワしていると、パンツイッチョマンが近付いてきた。
P1: 大丈夫か?
>再度の問いに、今度はへたり込んでいた女性も、パンツイッチョマンの顔を見上げて、応じる。
痴漢被害の女性: は、はい。大丈夫です。
>女性が差し出された手を掴み立ち上がったところで、パンツイッチョマンが小さく首を横に振った。
P1: これは馬鹿な質問をしたな。君が負ったのは肉体的な傷ではなく、心の傷だ。それは、今、自覚できるものではなかろう。
痴漢被害の女性: あ、いいえ。大丈夫です。それより、パ、パ……
>恥じらう女性の意図をパンツイッチョマンが汲み取る。
P1: パンツイッチョマンだ。
痴漢被害の女性: は、はい。……パ、パンツ……
>見守るパンツイッチョマン。呼び掛けたい意図は読んでも、恥じらう乙女心はわかっていないぞ。仕方なく、女性の方が恥じらいのラインを踏み越える。
痴漢被害の女性: パンツイッチョマンさんの方こそ、お背中が……。
P1: ああ。これはかすり傷だ。問題ない。
>ファンシーキュートパイレーツちゃんも、背中を向けられたことで、その痛々しい擦過傷には気付いていた。間接的にその傷を負わせた者として、気まずくて声が掛けられない。
P1: 私はこれから、間に合わないと思うが、あの男を追う。君は、警察に被害届を出したまえ。一人が不安なら、彼女に付いて来てもらいなさい。そそっかしいが、正義の心は本物だ。護衛としても申し分もないだろう。
>話を突然振られて、身なりを整え出すファンシーキュートパイレーツちゃん。しかし、変わらず、彼女へ向ける痴漢被害女性の眼差しは厳しい。
痴漢被害の女性: あの女ですか?
>眼差しどころか発言も否定的だ。信用ならないという気持ちがありありと出ている。しかし、パンツイッチョマンは、マイペースで話を続ける。
P1: 改めて、痴漢被害にあった直後に抱きついてしまって済まなかった。これで、男性不信のトラウマが残ってしま――
痴漢被害の女性: い、いえいえ、全然! むしろ、命を救っていただき、ありがとうございました。
>ここで、ようやく、薄々そうではないかと思い直し始めていたファンシーキュートパイレーツちゃんが、確信を得た。
FCP: 痴漢って、その人じゃなくて、さっき逃げた男の方だったの?
>これに、痴漢被害の女性がキレた。
痴漢被害の女性: 見ればわかるでしょ! 邪魔ばっかりして!
FCP: 見れば、って……。
>負い目があるから黙ってしまったが、ファンシーキュートパイレーツちゃんの言いたいことはわかる。見ればわかるのは、むしろ半裸の変態の方だ。憎しみの視線は未だ続いていたが、それを断ち切ったのはまたもマイペースのパンツイッチョマンだった。
P1: そうだ。念の為、また痴漢被害に遭った時の為に、簡単な練習をしておこうか。痴漢をする連中は、往々にして気の小さい者だと聞く。だから、被害に遭った時に、しっかりと声を出す事で、それ以上の被害を防げると思われる。
>パンツイッチョマンに話し掛けられると、痴漢被害に遭った女性の怒りは霧散する。素直に、パンツイッチョマンの言葉に耳を傾けて頷く。
P1: これから、私が、君の肩を触るから、「止めて、痴漢よ」とでも叫んでみなさい。
痴漢被害の女性:はい。
P1: では、触るぞ。
痴漢被害の女性:や、止めてください。
>声は小さい。
P1: よし、そうだ。次は、もう少し大きな声で。「痴漢」という言葉を付けると、周囲の協力も得られやすいぞ。
痴漢被害の女性: はい。……止めて、痴漢よ!
>声は大きくなったが、叫び声というほどはない。
P1: ふむ。もう少し感情を込めた方が声は出るかもしれないな。……被害を受けた時は困惑し、怖かっただろうが、時間が経つと怒りが湧いてこないかな? 怒りは臆病を打ち払う有力なツールだ。
痴漢被害の女性: 怒り……。
>彼女の目にメラメラと怒りの炎が燃え上がる。その怒りは、痴漢加害者へというより、側で知らないふりをしようと視線を逸らした娘に向けられていた。ファンシーキュートパイレーツちゃんも、目を合わせていないのに、怒りの眼差しがチリチリと肌を焼くのを感じていた。余計にそちらに顔を向けられない。
P1: よし、では行くぞ。
痴漢被害の女性: 止めて、痴漢!!
>大きな声が住宅街に響き渡った。パンツイッチョマンは、にっこり笑うと、女性の肩に置いた手をポンポンと叩く。
P1: その意気だ。痴漢に負けるなよ。
痴漢被害の女性: はい!
>傷だらけの背を向けて、走り去るパンツイッチョマン。それを見つめ、痴漢被害の女性が頭を下げようとした時、近くの住宅の扉が開く。顔を出したのは、老人男性だ。
老人男性: 痴漢?
>向かい側の家の二階の窓も開き、老人女性が顔を出した。
老人女性: あら、神田さん。痴漢って?
老人男性: そこの女の子がされたのかな?
老人女性: あ、あっち! 裸の男が走って逃げて行くよ。
老人男性:何?
>靴も履かず、玄関から飛び出してくる老人男性。走り去るパンツイッチョマンの姿を見る。
老人男性:こらー! 痴漢! 待てぇ!
痴漢被害の女性: あ、そ、その人は……
>抗議の声はまたしても小さく戻っていた。彼女は改めて気付いたのだ。あの格好は痴漢と呼ばれても仕方がない、と言う事実に。近所に住んでいる人たちが次々と「何事か?」と現れつつあった。パンツイッチョマンは、格好と自覚に問題はあったが、助けを呼べば周りが応えてくれる事象が事実である認識は正しかった。
FCP: ほら、やっぱり。みんな勘違いするでしょ? それが普通……
>ファンシーキュートパイレーツちゃんは言いかけていた言葉が尻すぼみになった。痴漢被害の女性から、またも鋭い目つきで睨まれたからだ。刃物があれば四回は刺されているに違いないという敵意と鋭さだった。
FCP: じゃ、じゃあ、私も、本物の痴漢を追い掛けようっかなー。
>じりじりと現場から逃げだそうとするファンシーキュートパイレーツちゃんに、痴漢被害の女性が怒号を浴びせる。
痴漢被害の女性: 当たり前でしょ。とっとと行きなさいよ!!
>その言葉に背中を押されるように、と言うか、お尻を鞭打たれるように、ファンシーキュートパイレーツちゃんも、急いでその場を立ち去った。
>ファンシーキュートパイレーツちゃんの走り去る姿が丸く残るように画面が黒く塗りつぶされる。やがて、丸く残ったスポットも埋まり、黒一色となった画面の上半分に一つずつ浮かんでいく「PANTS」の文字。それに応じて、流れる音声。
電子音声: パ・ン・ツ
FCP: イッチョマン?
#シャキーーン
>ファンシーキュートパイレーツちゃんの驚いているような声と効果音と共に、画面下半分に横からカットインしてくる「ICCHOMAN」の文字。
>おっと、ここで前半終了だ。パンツイッチョマンのポージングもテーマ曲もなかったし、ファンシーキュートパイレーツちゃんも仮名のままだが、大丈夫なのか? 後半が盛りだくさんになると、とても半分量では収まらないぞ。 危うし、第三話!




