第七話 街角パンツイッチョマン(後編)
>名乗りのポーズをとっているパンツイッチョマンを左横から見ているシルエット。伸ばした左腕の先の人差し指に、上から落ちてくる長方形。斜に指の上で止まると、神々の三角形よろしく、クルクルと回る長方形。右下に現れる「パンツイッチョマン」のロゴ。さあ、後半の始まりだ。
P1: いかにも、私はパンツイッチョマン。今夜はさしずめ、「入浴前の文明散策」と言ったところだな。
>……えっと、これは……おそらくNGテイクでしたね。本来、名乗る前に「入浴前の文明散策」と入れたかったのでしょうが、忘れていたみたいです。石鹸に気を取られていたからでしょうか? しかし、二人は生パンツイッチョマンが初めてで、名乗りの通例を知らないので、不自然には思っていないようです。
木下: えっ! 本物だ! ……あ、ちょっと撮っても良いですか? スマホ取ってくるんで。
>その場を離れようとする木下を、パンツイッチョマンが呼び止める。
P1: 待ちたまえ。 撮影前にちゃんと許可を取るのは良い心がけだ。しかし! 君は今、勤務中ではないのかね?
>パンツイッチョマンは構えを解くと、指の上でバランスを取っていた石鹸箱――クルクル回っていたのは、アイキャッチだけで、本物はほとんど動かさないようにバランスを取っていました――を撥ね上げて、逆の右の手の平で受け止めると、レジ台へと置く。続いて、隣に硬貨を並べる。どうやら、立てた人差し指以外の指で小銭を握っていたようだ。
P1: レジ袋はありだ。
木下: あ、はい。ありがとうございます。
>バーコードリーダーで石鹸箱のバーコードを読み取ると、ピッという電子音と共に価格がレジの液晶パネルに表示される。それでも木下は値段を読み上げようとする。そういうルールだからだが、本人の認識としては、もはやルールという感覚はなく、習慣だ。
木下: お値段は――
中年女性: ちょ、ちょ、ちょっとぉ!
>存在を無視された形になっていたクレーマーが割りこんだ。自然と、残る二人の動きが中断され、そちらへと視線が集まる。
中年女性: 何、普通に日常に戻ってるのよ、おかしいでしょ!
>クレーマーはパンツイッチョマンを指差していた。……まあ、この場面が図示され、「間違い探しゲーム」が始まったら、多くの人が同じ場所を指差すだろう。
木下: でも、「お客様には丁寧な対応」じゃないんスか?
中年女性: そ、それは……
>ここぞとばかり、嫌みったらしく言い返す木下。散々怒鳴り散らした手前、自分の言葉で攻められると単純に跳ね返せず、言葉を詰まらせるクレーマー。しかし、ここで素直に反省するくらいなら、コンビニ店員イジメを始めたりしない。
中年女性: そもそも、そいつはお客様なんかじゃないわ。変質者よ! 早く、通報しなさい。
>フロントラットスプレッド風の姿勢で話を聞いていたパンツイッチョマンが、小首を傾げる。
P1: はて、変質者? いずこに?
中年女性: アンタよ、アンタ!
>木下に何度も威圧していたように、肘から腕を垂直に伸ばし、手首を直角に曲げた先の人差し指をパンツイッチョマンへ向ける。指が揃っていれば、蛇拳の構えに似ているので、次にこの姿勢を取ったら、蛇拳風指差しと表現しよう。
P1: ふむ。では、通報先は?
中年女性: 警察に決まってるでしょ!
P1: 警察には、どう訴えるつもりかね?
中年女性: アンタ、バカじゃない?
>この言い方は、既に木下が何度も受けていた、彼女の口癖のようなものだった。相手に反省を促す効果より、苛立たせる効果の方がずっと大きい。同じ言葉でも言い方によって印象は変わるのだ。
中年女性: 露出狂だからに決まっているでしょ!
P1: なるほど。貴方は勘違いをしているようだ。
>パンツイッチョマンが両腕を開く。
P1: 見ればわかるとおり、私はパンツをはいている。夜道であれば、闇に紛れてわかりづらいかも知れないが、照明の下ならはっきり見えるだろう。
>言われて、自然と視線を下げる中年女性。その視線は股間のあたりでピタリと止まる。――あ、カメラさんはそっちを撮らなくていいですよ。中年女性の顔だけでいいです。……そのまま、銀先生みたいに釘付けになったらどうしよう、と思っていましたが、幸い怒りが彼女を動かしてくれたようです。ちょっと頬を赤らめていますが、パンツイッチョマンを睨みます。
中年女性: パンツだけなのが問題なのよ!
P1: 本当にそうなのか? もし、そうなら海水浴場で歩いてる男性は軒並み通報対象だな。
中年女性: そんなわけないじゃない! あんた、バカなの? ここは海水浴場じゃないでしょ。
P1: では、海水浴場に境目などあるのか? ここからはパンツO.K.、ここからはパンツNGと書かれている掲示を、私はあいにく目にしたことはないが。
中年女性: そ、そんなのなくても、だいたいわかるでしょ!
P1: そうかな? 海水浴場近くの観光地では、町中でも水着姿の男女が歩いていることもあるが、あれも水着ゾーンとやらは指定されているのかな? いや、されていようがいまいが、パンツをはいていれば、警察が公然わいせつ罪で逮捕することはない!
>ビシリとクレーマーを指差して断言するパンツイッチョマン。しかし、現実問題として、かねてから何度も注意しているように、迷惑防止条例には引っかかる可能性があるので、視聴者の皆さんは注意して下さい。
中年女性: じゃ、め、迷惑よ! なんとか迷惑罪で排除されるべき存在よ、アンタは!
>お、言い方は乱れているが、迷惑防止条例について認識があるようですね。これにはどう出る? パンツイッチョマン。
P1: なるほど。この私がコンビニエンスストアの営業を妨害している、そういうのだな?
>あれ? 迷惑の方向性を違って捉えてしまいましたね。パンツイッチョマンは、突然、木下に向き直る。
P1: 私が、君の業務の妨げになったかね?
木下: い、いえ……
>まあ、直接聞かれたら文句言いにくい相手ですしね。
P1: それとも、言いがかりを付けてきて、別に営業妨害を掛けている人が居るのかな?
>その言葉に、木下はキッとクレーマーを睨みつける。
木下: はい、居ます!
>誰だとは限定していなかったが、本人に自覚があったので、クレーマーが怒鳴るように言い訳を始める。
中年女性: 私は、違うわよ! ……今までのはアドバイス。そう、アドバイスよ。むしろ、こっちがアドバイス料をいただきたいぐらいよ。
>この主張を受けて、木下はテニスの観客のように、視線をパンツイッチョマンへ無責任に向ける。他力本願の表情だ。
P1: なるほど、向上のための批判か。確かに、現代科学も相互批判の姿勢があってこそ、真実を探求してきた。
>「え?」と驚きの顔をする木下。我々はもう見慣れた感のあるパンツイッチョマンの投げっぱなし対応だが、木下からすると守ってくれると思ったのだろう。
P1: しかし、度を過ぎた批判は停滞を生む。貴方の言う批判とやらは、どうだったのかな?
>今回は珍しく自分で放り投げた発言を受け止めたパンツイッチョマン。木下もホッとして、そうだと言わんばかりに何度もガクガクと頷く。
P1: 貴方の主張するように、批判から技術向上が継承されているなら良し。しかし、その批判が過剰で、単に労働者の精神を消耗させ、そのトラウマから定職に就けない漂泊者を生み出していたなら、文明に対する害悪と呼べるな。
>また、パンツイッチョマン先生に対して挙手をして意見を述べる学生のような、木下。
木下: はいはい、既に俺が知っているだけで、三人の人が辞めてます。
>パンツイッチョマンは頷いた後、クレーマーに顔を向ける。
中年女性: し、知らないわよ。もし、何人か辞めていたとしても、私は関係ないわ。もし、関係あるとしても証明できるの?
>対立する意見。パンツイッチョマンはどちらに着くのか? やはり、店員側だろうか?
P1: そのあたりを警察に相談してみるのかね?
>また微妙に他へと判断を委ねようとする、パンツイッチョマン。しかし、その無責任な対応に、ゴクリと唾を呑むクレーマー。警察が来ると、自分がしつこいクレーマーとして訴えられる危険性について認識させられたようだ。
P1: 反論しにくい相手に一方的に批判するのは、ストレス解消になるかもしれない。しかし、老婆心ながら付け加えると、嫌われるリスクがあるぞ。批判相手からだけでなく、端で見ている者からもな。
中年女性: お、大きなお世話よ!
>クレーマーが怒った。それはそうだ。パンツイッチョマンの発言は、言い換えると「みっともないぞ」という指摘だ。半裸の男にそう言われたら「お前が言うな」と思ってしまうのが、むしろ普通だ。
中年女性: ちょっと、アナタ。それを取りなさい!
>クレーマーが木下の後ろの棚を指差した。木下は指し示された物が何かわかったが、従うのは躊躇った。すると、クレーマーはカウンターの中へと入りこみ、木下を押しのけるようにして、目当ての物を掴み取る。
中年女性: これでも食らいなさい、変質者!
>クレーマーが手にし、パンツイッチョマンに投げつけたのは防犯用カラーボール。防犯用と言われているが、使用した時にはもう防犯の役目は果たさない。防犯としての効果は、存在を示す事で犯行を躊躇させる抑止力としての効果だ。使ってからは、犯人を特定させる効果を持つ。ボールを当てられた相手は、ボールが壊れて中から飛び散らかる塗料によって、目印されるのだ。
P1: イッチョマン・コイル!
次回予告の声の人(以後、「説」と表す): 説明しよう! イッチョマン・コイルとは、両足の位置はそのまま、主に上半身を捩って、相手の攻撃を回避する技だ!
>……えーと、はい。解説ありがとうございます。……まあ、裏で「後半からは次回予告以外でも協力するからよろしくね」と言われてましたが、解説係だったんですね。これは、本編終了後の語句説明がなくなった影響でしょう。……えーと、本編に戻りますね。
>クレーマーが逆上してカラーボールを投げる少し前、同じコンビニエンスストアに別の客が入ってきていた。パンツイッチョマンと同じく裏口から入ってきたその二十代の男性は、スマホゲームをしながら歩いており、ながら歩きをしている人共通の前方不注意状態だった。だから、数歩進むとぶち当たる場所に半裸の男が立っているのは見えていなかった。
P1: イッチョマン・コイル!
>えーと、二回言ったのではなく、リプレイですよ。……この声を聞いた時、ながら歩きの男は初めて顔を上げて、肌色多過ぎな光景に驚いた。だから、当然、パンツイッチョマンが身を捩って避けた、防犯用カラーボールが自分に向けて飛んでいたのは見えていなかった。そして、その不注意がもたらす結果は――あれ? 防犯用カラーボールが消えてしまいましたね。この新たに現れた若者がとばっちりを受けるというコントチックな展開になるかと思ったのですが……
P1: ……リリース!
説: 説明しよう! イッチョマン・コイルから派生する技、イッチョマン・コイル・リリースは、イッチョマン・コイルによって蓄えられた捻れエネルギーを、逆回転に解放する技なのだ!
>あ、はい。……あ、ちょっと! ストップ! 解説さんが解説しているようで、できていなかったので、私からも時間をコマ送りにして説明しますね。えーと、まず、クレーマーが防犯用カラーボールを投げたところから始めましょうか。……はい、ここですね。これに対して、パンツイッチョマンが体を捻って避ける、と。
P1: イッチョマン・コイル!
>あ、この声は入るんだ。……まあ、いいや。で、ここ! 重要です。当倍速で見ただけだと、ボールを避けているだけに見えますが、パンツイッチョマン、投げられた防犯用カラーボールを掴んでいますね。これ、動きを見て気づいたんですが、もし投げられた防犯用カラーボールをそのまま受け止めていたら、その手の中で壊れていたかもしれなかったんですね。それを受け流す方向への反時計回りの回転運動に変えつつ、カラーボールを手に収めたことで衝撃なく受け止められた、と。これで、最初の向かい合う形では時計の九時方向に伸びていた左腕は、ネジを巻いた状態では四時方向へと伸びています。角度でいえば百五十度分の蓄積ですね。それが……はい、続きお願いします。
P1: ……リリース!
> はい。バネや振り子がそうであるように、パンツイッチョマンの左腕も、時計回りに逆回転し、最初の九時方向で止まらず、勢いが付いて十二時方向まで動いています。その際、手から離される防犯用カラーボール。えー、今は空中で止まっていますが、もうこの後どうなるかは視聴者の皆さんもおわかりですね。では、再動お願いします。
♯ ブチャッ!
>熟れたトマトが潰れるような音を立てて、クレーマーの胸に当たり、オレンジの塗料をぶちまける防犯用カラーボール。
中年女性: キャッ! プッ、ペッペッ……な、な、なんなのよ!
>閉じていた目を開けた後、抗議の声を上げるクレーマー。まるで汚れを落とすかのように両手を振るが、もちろんそんな程度で落ちては、防犯用カラーボールの使命は果たせないので、大して効果は出ていない。
木下: フフッ。
>思わず笑ってしまった木下は、クレーマーからギロリと睨まれて慌てて下を向いた。しかし、下を向いても先程目にした顔は脳裏に浮かんだ。睨んできたその顔も顎のあたりは変色しており、笑える絵だった。
P1: すまないな。つい、反射的に投げ返してしまった。
>言葉とは裏腹に、パンツイッチョマンの声に悪びれた感じはない。というか、この人の声はいつも妙な熱っぽさはあるが、感情がどうなのかはわかりにくい。
中年女性: あ、アナタねぇ!
>これまで、変質者扱いしていた分、怖がっている様子を少しはあった態度が、今は怒りからその怖さは感じられなくなっていた。
P1: いやはや、不可抗力と言うか、……因果応報と言うか。
>あ、これ、やっぱりわざとでしたね。パンツイッチョマンは声色から感情が判断しづらい点もありますが、バイザー型サングラスで目が確認できないのもわかりにくい要素なんですね。しかし、今は、何となくサングラスの奥の目が光っているような威圧感があった。先制攻撃をした者が反撃を食らってもしようがない、という主張だろう。
木下: あ、はい。俺見てました。正当防衛です。
>木下が手を挙げて、パンツイッチョマンの肩を持つ。また、クレーマーから睨まれるが、今度は下を向かず、笑いを堪える。結果、クレーマーの怒りの矛先がそちらにも向く。
中年女性: な、何よ、アナタ。失礼ね!
木下: あ、すいません。でも……鏡、持ってきましょうか?
>暗に笑われるような格好をしていると示唆されると、クレーマーは急にばつの悪い顔になった。人を批判する立場の者はそれなりの格好をしていないと体面を保てないらしい。いわば心の鎧が剥げた状態なのだろう。少なくとも、この中年女性にとっては、服装は大事らしい。
中年女性: 正当防衛なんかじゃないわよ。か、過剰防衛よ!
P1: ならば、警察を呼んで確かめてもらうかね?
>パンツイッチョマンが人差し指を立てた。天井を指し示した形なのだが、そこには特に何もない。
P1: 先程のやり取りも、それ以前に繰り広げられていた問答も全て記憶されているはずだ。
>なるほど。クレーマーからパンツイッチョマンを見ると、パンツイッチョマンの指先には天井近くに設置されている防犯カメラがピタリとはまる。恐ろしいことに、パンツイッチョマンは防犯カメラの位置が何処にあるか、いちいち確かめなくてもわかるようです。……いや、良く考えてみたら、こんな格好をしている人だからこそ、詳しいのかも知れませんね。
中年女性: そ、それは……。
>やっていた行為の公正さに自信がないのか、クレーマーがオドオドする。
P1: 警察を呼ぶ、呼ばない。いずれにせよ、早く汚れを落とさないと、染みとなる可能性は高くなっていきそうだが。
中年女性: くっ……。
>汚れてしまった胸元に視線を落とすクレーマー。私からすると、もう手遅れだと思うが、被害者からすると一縷の望みにすがりたいのだろう。
P1: ちなみに、警察はその汚れを気遣って早く用件を済ましてくれたりはしないと思うぞ。
中年女性: お、覚えていなさいよ!
>わかいやすい捨て台詞を吐いて、コンビニエンスストアをそそくさと立ち去るクレーマー。その後ろ姿をニヤけた笑みで見送る木下。
木下: いやあ、スッキリしました。ありがとうございます。あのオバサンにはずっと手を焼いていたんですよ。
P1: うむ。だが、それでも一線を越えるまでは客だ。次に会った時に、節度を守っていれば、ちゃんと客として接するべきだな。
>この答えは期待していなかったらしい。木下の顔が曇る。
木下: まあ、そりゃあそうですけど……でも、もう恥ずかしくて来られないのなら一番いいですね。
>パンツイッチョマンはその意見には応じず、石鹸箱の横に手を置き、人差し指でトントンとレジ台を叩く。
P1: 会計が途中だったが、次に待っている人もいるのではないかな?
>パンツイッチョマンが振り向き、途中からコンビニに入って来ていた男は思わず視線をスマホへ落とすことで、目が合うのを避けた。スマホの画面では、驚いてから放置状態になっていたバトルが敗北したという結果が表示されていた。彼にとっては、それは痛い現実ではあったが、「そんな場合ではないだろう」という心の声が落胆や苛立ちから彼の意識を遠ざけていた。すぐに、UFOをはっきりと目撃した人のように、「この現場を撮らなくては」という考えが浮かんだが、そのためには今のスマホゲームを中断しなくてはいけなかった事が、彼の行動を妨げる。理論上はマルチアプリとして、カメラアプリを起動することはできるのだが、あまり性能のよろしくないスマホだったので、重いアプリの複数起動は最新のものが優先され、先に起動していたアプリが落ちる可能性が高かったのだ。そうなると、現在のバトルに至った過程そのものが吹っ飛んでしまう。今なら、半課金アイテムを消費することで再戦は可能だ。そう迷っている間に、パンツイッチョマンはお釣りを受け取り、もらってレジ袋にそれを放り込むと、堂々と今度は正面出入り口の方から出て行く。その状況に至って、ようやくスマホの男はゲームの事を諦めて、カメラをパンツイッチョマンに向けたが、外に出て自動扉の向こう側にいる、ピンボケでぼんやりと映る半裸の姿を捕らえることしかできなかった。後で、冷静になった彼は、その画像を見直し、「俺はハダカのおっさんを撮って何やっているんだろ」とバカバカしくなり、それを消去した。さらに後になって、パンツイッチョマンの噂が広まり、仲間内でも話題になった時に「俺も会ったことがあるぜ」と自慢したが、証拠写真を削除してしまったことを悔やむことになる。なお、そのパンツイッチョマンとの遭遇時、自分が何を買いに来たのかは驚きで忘れてしまい、結局何も買わずに帰っている。
>木下は、若い男性客がパンツイッチョマンにスマホを向けているのを見て、「あ、俺も!」と思って、スマホを従業員控室に取りに戻ったが、スマホを手に取る前に手遅れだと気付いて、諦めて戻ってきた。もし、スマホを向けていたら、それが証拠動画として防犯カメラに残ってしまい、後から勤務態度について問題視されていたところだったので、ある意味、木下は助かった。だが、その防犯カメラに残っていたパンツイッチョマンの動画は、後にモニターで一旦再生させたものをスマホ動画で撮影し、しかもそれが結果的にウェブに流れる事態に至ったので、やはり問題のあるアルバイト店員ではあった。
>コンビニエンスストアの外では、パンツイッチョマンが立ち去った時にたまたま二人の会社員が立ち寄ろうとしていたところだった。この二人は互いに知り合いでもなかったが、同じ電車に乗り、このコンビニまで帰る方角は一緒だったので、同じタイミングでの訪問となったのだった。深夜に場違いな、というか昼間でも市街地では場違いな肌色全開の姿を見た二人は、まず「何かの間違いか?」と感じた。まあ、ある意味、色々間違っている気がするので、その考えは正しいと言える。しかし、彼らが自分の認識を確かめようとする前に、パンツイッチョマンはレジ袋を片腕に下げて走り去ってしまった。見えなくなると、あまりの非現実感に錯覚だったのかな、と感じてしまう。そこで二人は目が合ったが、「今、ハダカの男、居たよね?」と確認をする前に、その発言が変だと気付き、その質問をする自分も変だと思われるかもしれない、と防衛線を張り、結局、何も言わず、もやもやした気持ちでコンビニエンスストアに入った。
木下: いらっしゃいませー!
>深夜のコンビニには合わない、快活な挨拶が二人を迎えた。「こんなバイト、辞めてやる」と決心したはずの木下は、この日の貴重な体験から、「面白い経験もあるかもな」と辞職を一旦留まることになる。でも、結局、半年後にはやっぱりコンビニバイトは辞めてしまう。それまでに、彼がパンツイッチョマンに再会することはなかった。
>と、まあ、日常生活にふらりとパンツイッチョマンが現れることが、ちらほらと発生するようになっていた。また別のある日には、原動機付自転車を用いた引ったくり事件が発生し、犯人がその場を逃走しようとした時、脇道からぬっと腕が伸び――
P1: イッチョマン・クロスライン!
説: 解説しよう! イッチョマン・クロスラインは、パンツイッチョマンが片腕を伸ばしたところに、相手が飛び込んで来る、待ち技だ。
>えーと、まあ、そうですが……視聴者の方は真似しないでくださいね。パンツイッチョマンだから、原付に乗った人とぶつかっても腕を痛めずに済むのでしょうが、普通の人だと部分的に轢かれたのと同じダメージを受けますからね。あと、技を仕掛けた方だけではなく――
P1: エンド・スラップ!
説: 説明しよう! イッチョマン・クロスライン・エンド・スラップとは、イッチョマン・クロスラインで吹き飛んだ相手が、そのまま倒れて後頭部を地面に打ち付ける前に、頭を叩き、体の向きを反転させ、前面から着地させる、一種のフォロー技だ。
>はい、ありがとうございます。というわけで、このひったくり犯は、地面に突っ伏した形で捕らえられます。どのみちフルフェイスヘルムを被っていたので、後頭部から落ちても致命傷は負わなかったのかもしれませんが、まあ、前面から落ちたところでフェイスガードが破損し、鼻血を出すなどのケガをします。原付の方は、一旦ウイリー状態になった後、暴走し、近所の家屋の塀の外に並べられた植木鉢を幾つか壊した状態で倒れます。パンツイッチョマンは、引ったくりをされた女性と、大きな音が出てきたことで外に出て着てきた近隣住民に引ったくり犯を任せた後、またその場を去ります。引ったくり犯に負わせた怪我、および壊れてしまった植木鉢についての責任は、話し合いをしないまま立ち去ったので、「あれって、たぶん、良い人なんだよね?」と疑問形の感想を周囲に残すことになった。
>って、コンビニの事件もこうやって説明すれば、千文字に至ることなく伝えられるんですよねえ。……ええ、知っていますよ。でも、そんなあっさりした『文明の〇〇 パンツイッチョマン』を観たいですか? こってり味じゃないともう満足できないですよね? なので、今後もやっぱりこってり味でお届けするつもりです。
==次回予告==
人々の 夢の象徴、其はアイドル
アイドルへ 恋しさ募って あり余り
暴発事件が 発生す
パンツイッチョマン! アイドルの操を守れるか?
次回 「第八話 夢にだってある現実」
パンツを洗って 待っときな!




