溢れ出す気持ち
藍春ハルタside〜
「な……タカト、どう思う?」
「どうって?」
三葉さんが帰ったあと、俺達は部屋に戻った。
そして俺はタカトにひとつ問いかけた。
「カノンが、別人なことについて、」
「……そのことだけど」
そう言って、タカトはすっとその場に立ち上がった。
「沢城は、お前に嫌われてるって思ってるんじゃないのか?」
「!!」
「その理由はよくわからねぇけど、とにかく……」
どうして、俺が嫌ってるって?
俺がカノンを嫌うわけないじゃないか。
むしろ俺が嫌われてるみたいなもんだろ?
俺は完全に自分の世界に入り、その後のタカトの言葉に耳を貸すことができなかった。
───バタンッ
「!は、ハルタっ」
「タカト、俺……行ってくる!」
気づけば思いきり部屋の扉を開けていて、
タカトに向かって大声でそう叫んだ。
初めは驚いていたタカトだったけど、俺の真剣な顔を見たのか、笑顔で頷いた。
.
行かないと、
行って、素直に伝えないと、
また、会えなくなる気がして、
「はあ、はあっ……」
俺は息切れしながら、カノンの家の前にたどり着く。
やっぱり、昔と変わってなかった……
何年ぶりだろう、カノンの家に来たのは。
俺が転校したあの日から見ることのなかったその家は、ずっとカノンが過ごしてきた跡をしっかりと残していた。
確か、あそこがカノンの部屋で、よく遊んでたんだっけ……
思わず昔を懐かしむように、俺は家を見上げて以前よく遊んでいた2階の部屋へと目線を移した。
───と、その時
ちょうど見ていたその部屋の窓がゆっくりとあいた。
そこから見えたのは、儚い瞳で窓から顔を覗かせるカノン。
視線は俺と交わっていなくて、ただぼーっとしているように見える。
「……っカノン!!」
「……!」
思わず声を出して呼んだその名前に、反応したのはやっぱり俺が見ていたカノンで、
「どうしてここに?」とでもいうような表情で、少し慌ててる様子だった。
だけど、次の瞬間カノンは窓を閉めようと、窓の取っ手に手をかけた。
閉められる?
そしたら、もう
話せなくなる……?
その窓が閉まったら、俺の気持ちが一生カノンに届かなくなってしまいそうで、
急に、怖くなった。
俺は、暗くなりかけた空を見つめて大きく息を吸った。
「嫌ってなんか、ないから……!」
「え、」
その後のことなんて、何も考えていなかった。
ただ、今何か言わなければ……そうとしか思わずに、頭にふと出てきた言葉を並べ叫んだ。
その言葉は、俺が思ってたよりもずっと、ずっと何倍も……カノンの心の奥に響いていたなんて知らずに、
.
「俺っ、カノンに謝りたいことがあったんだ……」
「……」
俺は外から、カノンは窓から、傍から見ればなんとも不思議な光景ではあったが、そんなこと俺は全然気にならなかった。
カノンは黙り込んで何も言わないけど、俺は口を開いて続けた、
「ひとつは、何も言わずに勝手に転校したこと」
そう、俺は早くあのいじめから開放されたくて、転校できるのに舞い上がり、1番お別れを言わなければいけない人に何も言わなかった。
「もうひとつは……」
そこまで言って、俺は小さく息を呑んだ。
ほんとに、言ってもいいのか?
ここで……
俺は拳をぎゅっと握り締めて、覚悟を決めて息を吸った。
「俺が、カノンのこと好きだったこと!!」
「!!!!」
カノンは、俺のことが嫌いだったんだって、態度を見たらわかる。
それが、昔からだったのか、高校に入ってからだったのかは、わからないけど、
でも俺は、カノンのことが嫌いだなんて思ってない!
その誤解だけは解いておきたくて、俺は迷惑も承知で、人の家の前で大声で叫んだのだ。
「嫌いだよな、俺こと……でも俺は、好きだった!ずっと、ずっと前から…」
「………っ」
抑えられなくなって、好きだって言葉が溢れ出す。
俺を守っていてくれた時から、いつかは俺がって思い続けてきた。
俺が変われたのだってカノンのおかげだし、
そもそも、俺を変えてくれたのはカノンだ。
カノンと出会ってなかったら、俺は今頃……変わらず臆病で弱虫な男になっていたであろう。
カノンは一体、どんな気持ちでこの話を聞いている?
俺は気になってカノンの言葉を少し待ってみる、
すると…
「…………き」
わずかに聞こえた、カノンの声。
遠くだから、聞き取るにはとても困難な声の大きさであった。
もう一度聞こうと耳を澄ました瞬間、カノンの大きな声が聞こえた。
その声は、震えていて、その言葉を発した本人は、すごく泣きそうな顔をしていた──
.
「……ウソつき…!」




