どちらが正答?
「カノン……!だよね?」
息切れしながらカノンの元へと駆け寄る。
その様子を見ていた弥永くんも、少し心配そうにこちらへと歩み寄ってきた。
「ココナ……」
「!!」
───カノン、泣いてたの?
そう思わざるを得ない位に、カノンの目は赤かった。
「どうしよう、私……」
「……カノ、」
あ、そうだ──
私はちら、と隣を見た。
そこにはしっかりと弥永くんがいて、何も言わないけど心配してくれてるのはすごくよくわかった。
……弥永くんは、知ってるのかな。
カノンの過去のことを、
「弥永くん、」
「何?」
「ごめん、ココナと2人で話したいから」
「……あぁ、わかった」
カノンが冷たい言葉を言い放つ。
だけど、こんな態度取るのは仕方ないんだよね…?
こうするしか、ないんだもんね…?
私はゆっくり立ち去って行く弥永くんの後ろ姿を、じっと見ていた。
「ごめん、せっかく2人きりだったのに…」
「そ、そんな!全然いいよそんなことっ…それより、私はカノンが心配だよ、」
ぎゅ、とカノンの両手を自身の両手で握り締める。
すると、照れくさそうにカノンが笑った。
「何があったの……勉強教えに行ってたんじゃ、」
「うん、それが…」
今にも泣き出しそうな顔で話してくれたカノンの手を、私はずっと握り締めたまま話を聞いていた。
.
「それって…」
話が終わり、私にはいくつもの疑問が浮かび上がった。
まず、どうしてカノンのこの完璧な人格を昔のカノンと重ねることができたのか。
そして、どういう風の吹き回しで、カノンのことを嫌いじゃなくなったのか。
あと……
「……」
カノンは何も言わなかった。
いや、言えなかったんだと思う。
私にはカノンの気持ちがわかるわけじゃないけど、
大事な友達にこんな顔をさせた藍春くんを許せない、そう心で呟いた。
「カノンっ」
「え……」
「荷物、藍春くんの家なんだよね?」
それだけ確認して、私は足を踏み出す。
「私、取りに行ってくるよ」
「で、でも、ココナ……」
「大丈夫だよ?私、方向音痴だけど、家までの道のり…ちゃんと把握して行くから」
違うよね、
カノンが心配してるのはきっと、私が方向音痴なことじゃなくて、
私が藍春くんに会って、何か変なことを言わないか、だよね?
それくらい、なんとなく私にだってわかるよ。
大丈夫、返してもらうだけだから──
.
そうして、カノンを家まで送ってあげてから、私は藍春くんの家まで走って行った。
空を見上げると、夕焼けが少し暗くなりつつあった。
───ピーンポーン
インターホンを押すと、そこから出てきたのは予想もしなかった相手。
「み、弥永……くん?」
「…さっきぶりだな」
そっか、そうだよね。
藍春くんと1番仲のいい友達は、弥永くんだから、こうやって友達の家にいることは普通のことなんだよね?
「……えと、何しに?」
「うん、あの、カノンの荷物…」
思ってもみなかった弥永くんの登場に、私は少々焦りながら取りに来たことを説明した。
「そう……だってよ、ハルタ」
「あ…藍春くん」
弥永くんの真後ろには藍春くんがいて、気まずそうに視線を横に流している。
「これだろ?カノンの荷物」
そう言いながら、用意していたようにさっと差し出す藍春くん。
「あ、これ……ありがとう」
控えめに微笑んで、荷物を受け取り軽く会釈をする。
よし、用事は済んだ。
早く、一刻も早くここから立ち去ろう。
じゃないと、私──
「あのさ、三葉…さん」
「…えと、何??」
藍春くんが呼び止めるために使った私の名字は、きっと弥永くんが教えたのだろう。
だって私、藍春くんと面と向かって話すのは初めてなんだ。
「その、カノン……何か言ってた?」
「え、」
「いやっ、失礼なのは十分承知で聞いてるんだけど…その、すごく心配で」
ほんとに申し訳なさそうに聞いてくるから、私としても言っていいものかと少し迷ってしまった。
だけど、同情なんてしてない。
ただ、抑えきれなくなった自分の感情を出させないようにするのに精一杯で、
───だけど、
「藍春くんは、どうしてカノンに近づいたの?」
「それってどういう…」
「女の子の心を散々傷つけておいて……今更近づいてくるなんて、何考えてるの…?」
そうだよ、嫌いなんでしょ?
カノンのこと。
それなのに、
「過去のことなんて忘れて、1からやり直そうって心に決めたカノンの気持ちなんて、わからないからそんなことが言えるんだよ……!」
そこまで言い切って気がついた。
私今……ものすごくひどいこと言ってる?
気づけば私の頬には一筋の涙が伝っていた。
「…わからないよ」
「!!」
「正直、転校した後カノンに何があったのかなんて、わからない」
小さな声で言葉を呟き、瞳に涙を滲ませていく藍春くんを見ていて、先程まで暴走していた私の心は落ち着いた。
「でも、俺は転校した後もずっと、カノンのことを気にかけてたし、」
ほんとに、カノンのことが嫌いだったの?
今の藍春くんを見ていると、昔からずっと好きだったって言ってるように見えて、
「…………忘れられなかったんだ」
きゅうっと、胸の奥が締め付けられるように傷んだ。
もしかしたら、カノンの勘違いかもしれないって思う自分がいる。
「じゃあ……あのメールは、」
そう、私の中で疑問視されたもう一つの謎。
カノンが出ていってから藍春くんが送った、1件のメール。
そこには、『ごめん、俺何か嫌われるようなことした……?』と書いてあったんだ。
ねえ、カノン?
自分を嫌ってる相手が、嫌われてないかを心配してメールまで送るなんて、
おかしいと思わない……?




