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捕獲

いろいろ考えましたが飛ばしました。オレ細カイノ苦手。

 降参する、参った、許してくれ。

翌朝、野人の住まう洞窟に向かったトーレルと老人が聞いたのは、ふざけた事を言って土下座をする野人の姿だった。呆気にとられる二人を置き去りにしたまま野人は土下座を続ける。

 

「セレナは、どうした?」


ようやく思考が追い付い巨漢は肝心のところを尋ねる。こちとら、こんな朝早くにやって来たのは、昨夜、弓使いの老人と考えた作戦を決行するため、

ではなく、野人に(さら)われたダークエルフの相棒を取り戻すためなのだ。そこのところが大丈夫ならば文句は大してない。

「酒を飲ンで洞窟ノ中で寝てイる」

野人の意外な返答から少し間をおいて、

「「はあっ!?」」

巨漢と老人の二十奏が針葉樹の間に木霊した。



「ふぁ、・・・うるさいぞ。朝から。・・・あ、トーレルおはよう」

「・・・ああ、おはよう。・・・いや、待て待て待て。」

こちらの気も知らずに、寝ぐせ知らずの銀髪を掻きながら現れたダークエルフの女にお前何やってんだよ、と文句の一つも言うべきなのかもしれない。

「セ、セレナ。お前、大丈夫か。野人に変なことされてないか?」

「大丈夫だ」

巨漢の心配の言葉も空振りに終わる。



「それよりも、話があるんだが。・・・野人(こいつ)を私達のの事務所で雇わないか?」

そう言って、セレナは気まぐれな猫のように微笑んだ。


 よしよし、上手くいっているようだと、霧崎九郎は下げた頭の下。巨漢達から見えない角度で顔を歪めてほくそ笑んだ。


これより作戦は第二段階に移行した。

第一段階はダークエルフのお姉さんの懐柔。そして第二段階は懐柔したお姉さんを使って男から無理やり許可を取る=霧崎、冒険者になる、だ。

巨漢からは好印象を引き出すのは難しそうだったので、身内に頼んでもらう。

さらに、セレナさんは女だ。

ここで、女のお願い>男の意志という、不滅の不等式が発動。

女のお願いに基本男は逆らえない。あのゴブリン師匠でさえ、雌ゴブリンにキメラの毛皮を私にちょうだい、という願いには敵わなかった。

おかげで、死ぬ思いをしたと師匠が語ったことを記憶している。


さあ、おれの異世界冒険譚はここから始まる!!


そんな霧崎の淡い希望は、

「ごめん、無理だった」

一瞬で叩き壊された。

 いや、しかしセレナの話はまだ続きがあった。巨漢の剣士が言うには性格の方はセレナの紹介だから信用するが、剣の腕を見たいとのことだ。

要するに、俺と立ち会えということだ。

「・・・ヤりまス」

ややあって霧崎が応じる。

霧崎の返答は肯。もちろん巨漢の難癖付けで叩き斬られる可能性もある。なにせ、巨漢の腕は霧崎より数段上なのだ。

けれども、剣は霧崎の基盤だ。これをもとに生活を作って来た様なものだ。

だから、百万の言を用いるよりも一つの剣でしか、霧崎は誠意を示せない。


 息を吐き、体の芯を解す。刀の柄に手を掛けるだけで自然と覚悟が定まったのは日ごろの訓練のおかげに違いない。


「・・・来たか」

野生の獣が互いの殺気に同調するように、トーレルと霧崎はほとんど同時に剣を抜いていた。

くはあ、とトーレルは呼気を入れる。同時に、自分の認識が甘かったことを悟った。

これは、闘い(あそび)では無い。

野人の、大気を揺らす幻視すらみせる殺気。それでいて、体は自然体。

それは既に戦いだった。命を取りあうことを前提とした徹頭徹尾の殺し合いでしかありえなかった。

そんなことをトーレルが考えたのは、一刹那に満たない僅かな間で、雑魚相手なら相手は隙とも分からず逃すものに過ぎないかもしれない。

 しかしこれは魔剣級の戦いだ。

 気付けば、中段に構えた野人は間合いの内だった。それでも先を取られたことを、後悔している暇は無い。居付けば野人の刀に斬殺されしまう。

 無音で野人の小手切りが先行した。咄嗟に足捌きでかわすトーレルの返しよりも、続く二撃目はまだ野人の方が早い。溜めること無く跳ね上がってくる返しの刃は脇の下の動脈を狙う一手に変化。受けながらけ野人の腹を蹴りなんとか距離を離す。普段なら巨漢の蹴りは相手の肋骨を圧し折っていただろうが、野人の鮮やかな剣技に体が遅れて体重が乗らなかった。

 しかし、だ。

今はこれで十分。奇襲が敗れた今、万に一つも野人に勝ち目はない。



(止まらないな・・・あれは)

殺し合いに入った相棒と野人を眺めるセレナの唇から溜息が洩れる。いざと成ったら魔術を使いとめるつもりだが、果たして二人の剣速に間に合うものなのか。まあ、考えても仕方がない。

憂慮を止めて巨漢の相棒と来た老人との雑談に意識を変える。

 「そこの老人・・・て、お前は」

セレナの反応に老人は軽く頭を下げ、敬意を示した。

「はい、セレナ様お久しぶりです。ルークです。四十年ぶりぐらいですかな。しかしセレナ様は相変わらず美しい」

よせよせとセレナは老人の言葉をうっとおしそうに手で払う。

「それにしても、お前とこんな所で再開するとはなぁ。・・・弓の腕に衰えは無いか?」

「寄る年波には敵いません、だからこの村に隠居したのですよ」

ははは、と老人が可笑しそうに笑った。そこにはセレナの知る昔の勢いは無く、枯れ木を打ち鳴らすがごとき笑いが虚しく響いく。


「変わったな・・・」

「エルフは長命過ぎるんです」

言って老人は再び笑う。

そこにセレナの記憶の中の戦場で容赦なく敵を射殺す鷹の目をした微塵も存在せず、穏やかなともすれば呼吸すら怪しまれる様な老人が居るだけだった。

人によっては覇気の無い貌だと嗤うだろうが、しかしセレナは良い貌だと思う。それでこそセレナ達が『あの戦争』を戦った価値が在るといううものだ。

 それはともかく、

「ところで野人とトーレルの、どちらが勝つと思う?」お前のよい目なら見分けがつくだろう。私の見立てでは4:6と言う感じだが。

そうですな、と老人は首を傾げて、

「セレナ様の見立てでよいと思いますよ。単純な技量ならトーレル様が上ですしなぁ、と・・・」

「・・・おお」

二人の観客の予想を裏切り先を取ったのは野人だった。無造作とも思える足運びで巨漢の懐に飛び込んでいる。魔剣であるトーレルに並みの胆力でああは出来ない。続く籠手切りの一閃は、巨漢の受けにあはせ、鮮やかな尾を引いて脇の下を狙う斬り上げに変わる。受けと同時に行われた巨漢の蹴りで肌も触れ合う様な近場から、野人の体が後ろに飛ぶ。

「速過ぎて・・・と言うよりも目で見て処理できない攻防だな」

「はい、お二方。どちらも素晴らしい使い手ですな。眼福眼福・・・・・・見えませんが」

そうだな、とあまりの凄さにダークエルフと老人は同時に破顔する。

が、すぐに顔を引き締めた。直後最後の一合が終わる。セレナの魔術が間に合わない程の剣先はしかし、巨漢と野人両者の皮一枚で停止していた。

「ルーク、お前見えた?」

「はあ・・・ただどう動いたかは、分かりませなんだ」

で、どっちが早い?トーレル様です。あ、そう。ありがとう。

 まあ、別にこれは勝敗を競うものではない。

故に勝者は無し。けが人なし。いや、採用が決定した野人が勝者かも知れなかった。



あと2話位で新章です。

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